くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「推理日記」佐野洋

2010-12-23 07:33:59 | 書評・ブックガイド
佐野洋「推理日記」一冊めを発見! 古本屋価格四百円でした。潮出版なんですね。
日記の連載を始める前に他誌でやった「ミステリー我如是閑」なども収録されていて、佐野さんがどういうきっかけでミステリー時評を書くようになったかもわかります。
しかし、この本に載っている作品、懐かしいを通り越している! もう入手できないんではないかと思うような。
わたしが読んだことのある作品はというと、「アルキメデスは手を汚さない」くらいしかない(笑)。しかも、赤川次郎が「幽霊列車」でデビューしたことに触れて、有望新人だと言っている!
わたしが中学生のとき、彼がすでに流行作家だったことを思うと、不思議な感じです。タイムスリップしたみたい? 言葉って、こうして閉じ込めておくことができるんだなーと、しみじみしました。
読んだことがないからといって、この本がつまらないということはありません。佐野さんの小説についての考えが、初期ゆえにダイレクトに書かれていて興味深いです。
視点や状況設定からのアンフェアではないかという問題。旧知の作家との作品についての会話。
中でも印象的だったのは、友人作家がホテルでカンヅメになって原稿を書いている場面を目撃して、前号も読み返さず、人物設定表も手元に置かず、よくもすらすら書けるものだと感心する部分です。わたしはかえって、佐野さんが作品世界を自分のインナーワールドに生かしていないのかと驚きました。
小説を構成するとき、登場人物の暮らしや他愛のないことって、自然に頭の中に浮かんでくるもののようにわたしは感じるのですが。たとえその場面を実際のストーリー展開には活かさないにしても、そういう部分がないとキャラクターは動かない。
これは、佐野さんがトリックや動機に主眼をおく作家だからでしょうか。人物はミステリーの味が伝わればそれでいいのかな。AさんBさんではあんまりだから設定しているだけ?
仮名という話題でいえば、地方都市や警察の設定をどうするかという話題もありました。実在の警察署を使うと、悪徳警官ものは書きづらい。架空の町にすると、どのような規模でどのような地裁があるのかを説明しなければならない。そんなネーミングに関わる話題を、生島治郎さんたちと熱心に語らっています。
そして、佐野さんは西村京太郎氏をものすごく評価していて、あふれるような物語とスピーディーな展開に拍手を送っています。でも、物語を構築する根本の部分にミスがあり、ある受賞を逸したようでした。トラベルミステリー以外の作品はもう書かないのかしら。初期の評判のいい作品群、気になります。
あとは「瀬峰次郎の犯罪」(だったかな)という短編が気になるのですが、でもどう考えても読めそうにないですからねー。
同じ本屋でもう一冊「推理日記」の前の方の巻を買ったので、そちらも楽しみですー。