くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「百瀬、こっちを向いて。」中田永一

2009-05-05 05:16:25 | 文芸・エンターテイメント
いいよこれ。おすすめ。
ちょっと少女まんがちっくなリリシズムがありますね。作者は男性なのに(ある有名作家の別名義だそう)よくぞここまで乙女心全開の物語が書けるものです。あっぱれ。
帯には藤井フミヤ、市川拓司、北上次郎が推薦を寄せています。北上氏はともかく、前二者好みの物語なの? しかも二人とも「恋」とストレートに書いているけど、それでいいの? この本、恋愛小説なんでしょうか。あ、ダ・ヴィンチの「恋愛小説部門第6位」とも書いてある。でも、わたしには「ただの」恋愛小説には思えなかったのです。
そりゃあ、主人公が誰かを好きになってあれこれ悩む場面はありますよ。でも、二人が「付き合う」とかそんなことを書いているのではないと思うのです。
中田永一「百瀬、こっちを向いて。」(祥伝社)。表題作からいきましょう。この見事なエンディング! でも、この話の主眼がそればかりではないことは、一読したらわかるはず。ヒロインは百瀬ではなく神林先輩でしょう。そして、幼い日に「僕」を助けてくれたヒーローが、実は打算的な一面をもち、そのことを自分でも気づいている。彼に縛られていた「僕」が、少し離れていく物語でもあると思うのです。
恋が介在してもしなくても、百瀬は彼に近いところにいて今も会うのを待っているというのもいいですよね。
続く「なみうちぎわ」は、少年の目から見ると恐ろしく苦しい物語です。だって、自分がいちばん信じられる人を自分のために失ってしまうかもしれないんだよ……。成長して分別がついていくうちに、どのくらい後悔してきたかと思うと、今囲碁部の後輩に意識されていることなんて小さい小さい。

「キャベツ畑に彼の声」は、ミステリタッチの一編。読者のミスリードを誘う部分もあるし、先生の目から見ると、どうしてこの子に秘密がばれたのかという謎もある。作品の中に別な物語があり、それはメタフィクション的で、しかも主人公が「なみうちぎわ」を読んでいるらしい描写も。
わたしがいちばん好きなのは「小梅が通る」。正統派の少女まんがだわ! しかし美醜をひっくり返しているところが新しいと思うのです。普通、ぱっとしない女の子が美人の友人にコンプレックスを感じるものですが、この子は自分が美人であることから世の中を信じられずにいる。
彼女が学校の中で生きていくためには、「顔」を隠すしかないのですね。やっとできた友達を失いたくない。そんな気持ちがよく出ています。「小梅」よりも「柚木」を選ぶという言葉は、ただの告白以上のものをもっていると思うのです。
恋愛小説の顔をしたただならぬ小説。是非ご一読を。


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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-08-24 22:32:53
こんばんは。
キャベツは美味しいですね。食べるのが大好きです。頑張って下さい。今日の朝は、「虎に翼」の第21週を見ました。
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