くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「考証要集」大森洋平

2014-01-11 14:48:43 | 芸術・芸能・スポーツ
 「セイタカアワダチソウ
 これは明治末期の渡来植物で、盛んに見られるようになったのは戦後である。進駐軍の物質に種が紛れ込んでいたらしい。時代劇のロケでは見つけ次第引っこ抜くこと」
 この記述を読んで迷わず買いました。「考証要集」(文春文庫)。著者の大森洋平さんはNHKの時代考証を引き受けている方で、この本も局内の資料をもとに文庫化したそうです。
 わたくし、日々日本語の固有名詞が乱れていることを憂えているのです。出張先で事務所の先生が「二十よん節気」、感想文の審査会で「二十よんの瞳」、アンサンブルコンテストで「よん重奏」……。愕然。
 この本にも「四合(しごう)」をはじめ、いくつか曖昧な表現についての話題があります。思った以上に、言葉として表明に表れにくい部分を、時代劇は大切にしているのだと思いました。
 これまで同じような主旨の本はいくらか読んだのですが、この本は五十音順の辞書形式で、どうすればできるだけその時代の風俗に近づけるのかを目的としているので読みやすい。
 普段わたしたちが使っている言葉も、江戸時代にはなかったという場合が多々あります。
 例えば、「目からウロコ」。これは聖書を語源としているため、翻訳が出回るようにならなければ一般的には使われなかったそうです。こんなセリフを言うならば「隠れキリシタン」であると。ははは、こういうユーモアが好きです。
 このタイトルにしても、「往生要集」のもじりですよね。源信のことがお好きのような表記もありました。
 これと平行して、「姫は三十一」を読んでいたんですが、取り合わせがよくなかった。考証を無視する表記に、がっかりして中断。中でも、静湖姫が「松浦静湖です」と名乗るのが、嫌でしょうがない。この時代、女子には苗字をつける習慣がないのです。(「細川ガラシャ」の項をお読みください)
 さらに「ハトに餌を与えないでください」の立て札が多いことから、未来の人はハトは嫌われた鳥だと思うかもしれない、「史実はほんの一例」なのだから、なんていうので、ユーモアのつもりなんでしょうけど、わたしには合いませんでした。
 時代劇は、当時の世相からはずいぶん違っている。考え方も当時と今は異なっている。時代の風俗を借りて現代人の生き方を反映したドラマなのだというイメージをもっていました。でも、そういうなかにも、できるだけ当時に近いものを造ろうという姿勢は、感心させられます。
 サブタイトルは「秘伝! NHK時代考証資料」。江戸っ子が鍋物を囲んでいたら、それは大きなミスだそうですよ。