くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「君と過ごす季節 秋から冬」飛鳥井千砂ほか

2014-01-17 07:19:53 | 文芸・エンターテイメント
 穂高明さんの短編が読みたくて借りて、後半三編読んだらその後気が済んでしまったのか半月ほっておいてしまいました。返さなければ。
 読んだ順にいきましょう。まずは穂高さんの「大寒」。大学生の堅一は畳屋を継ぐかどうかなんとなく迷っています。そこに突然戻ってきた姉。優柔不断タイプの義兄と喧嘩したのか……。堅一は久しぶりに寒中禊に出ることになっており、商店街の人々といろいろやり取りをします。姉に憧れていたらしい八百屋の息子や、自分の父親が、幼い頃に比べて変化したことに気づいていく。しっとりとしたいい短編です。
 「長町商店街」って、太白区長町でしょうか。地名だけかな? 
 続いて飛鳥井千砂「小寒」。わたしの誕生日近辺です。美容師の藍子が、旦那さんの実家を訪ねる話。手づくりの揚げ物を、レンジだと表面がべたっとするからとオーブンで温めるのが印象的でした。(おいおい)
 そして、この作品集の中でいちばんおもしろかったのが、蜂飼耳「冬至」です! レトロな雰囲気といい、背景がよく見えない一人称といい、独特。でも、非常に印象的。
「町のはずれに柚子屋敷と呼ばれている一廓がある」で始まり、その地名について教えてくれた「但馬さん」と交流する「私」の姿が淡々と語られます。「私」はやがて売られることが決まっている。柚子屋敷でとれたという柚子を買って但馬さんの家を訪ねると、彼はうどんを作っていたからと、ごちそうしてくれます。
 このうどんがおいしそうなのも、魅力ですよー。柚子を絞ってね。
 あとは冒頭から読んだのですが、内田春菊のは「春から夏」にも似たような話がありましたよね。同僚が粘着質で迷惑、という話です。まあ、もともと自分と合わない人を攻撃する作品が多いので、どこかで読んだような気がするのかもしれません。
 平松洋子、小説も書くとは意外でした。丸い氷を作る、という話なんですが、いつものエッセイより読みやすくて。とはいえ、エッセイも一冊しか読んでないんですが。
 柚木麻子の、いつまでも芦屋でお金持ちのお嬢さんでいたい希和子の話も、こういう人はいるだろうと感じさせられました。
 初読み小野寺史宜。ひたすらひたすら散歩する話。でも、結構読ませます。
 ここで少しまた中断してしまい、次に読んだのは小川糸の「霜降」でした。わたし「食堂かたつむり」が好きになれなくて、小川糸を避けていたと思うんです。でも、これは結構よかった。
 事故で電車が止まり、こんな日に携帯電話を忘れたさな子は、貸してくれた斎藤龍馬と親しくなります。名前の縁もあって(坂本龍馬と千葉道場の娘ですね)、急速に仲を深めた二人ですが、龍馬は亡くなってしまう。彼が帰省したときに豊島の美術館で心音を録音したことを思い出して、さな子は彼の郷里を訪ねます。
 年子の弟(しかも同級生。たまにいますけどね)武蔵と会い、余りにも似ているので心が揺れます。さな子は、それまで心に秘めていた苦しみを彼に告げ、翌日実家のうどん屋を訪ねる約束をします。
 別れ際、兄についで父親も病気で亡くなったばかりだと武蔵は語ります。
 あざといなー。わたしが小川糸を好きになれないのは、大衆が受け入れやすい感動の演出だと思うんです。いい話です。なんとなくしこりは残ってしまうけど。
 武蔵に連れられて、同級生のやっている居酒屋に行くんですが、この田中くんの料理はうまそうです。茄子の揚げ出し、おくらときのこと山芋をあわせたの(ほんのり梅味)、ワカメの酢の物(アワビと茗荷も)、すだちを絞ったシラスと大根のお浸し……と書いてあるけど、大根ってお浸しにする? 葉のこと? 悩みます。
 その後続けて東直子。等身大の二歳児の人形を可愛がるオールドミス(死語?)の話。東さんは短歌とショートストーリーを読んだことがありますが、こういう話を書かれるとは。驚きです。
 前に戻って、山崎ナオコーラ。初読み。こういう作風なんですかね。
 小説って、描写だと思うんです。でも、これは説明というかあらすじというか。おとぎ話のような感じ。そのくせディテールはあるのです。アイドルだったマミちゃんが、コンビニ店員だった人と結婚した思い出を、駆け足で話している。あっという間に読めます。
 やっぱり初読みの東山彰良。すみません、よくわかりませんでした。わかりやすいことが、必ずしもいいことだとは思いませんが、わたしには読みにくかった。
 最後に、小澤征良。
 よかったです。すみません、今までお嬢さん育ちの方という印象が強くて、それほどアピールするものを感じていませんでした。撤回します。その育ちのよさが、非常にいい具合に出ています。真実を知った主人公の決断が全てでしょうね。
 とにかくバラエティーに富んだ作家陣に驚きます。ポプラ社、いいラインナップを組みましたね。