くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「□緒(ひしょ)の鳥」小野不由美

2013-07-04 21:44:48 | ファンタジー
 「不」の下に「一」が入って(「胚」の右側ですね)いるんですが、わたしのスマートフォンでは出てきません。「□緒の鳥」(新潮文庫)、「十二国記」、十二年ぶりの新刊です。ネットで発売を知り、慌てて買いに走りました。いやー、嬉しい。待っていたかいがあるというものです。
 短編が四作入っています。うち二編は書き下ろし。結構働くベテラン男性の物語だったので、月日の流れのようなものを感じます。
 「十二国記」の本編は、どちらかといえば若者の物語ですよね。慶王中嶋陽子にしても泰麒にしても高校生だったし。今回は、「風信」の視点がうら若き蓮花という娘ではありますが、小野さんがスポットをあてているのは戦乱の世の中でも暦を作る仕事を全うしようとする男たち。
 新王即位のために鳥に仕立てた的を射落とす儀式を行うことになった陶工。様々な苦悩から仕事に意義を見いだせなくなった彼が立ち直るアイデアが、非常に美麗です。この新王というのは陽子のことなんですが、儀式のことで礼をいう真摯さがよかった。
 さらに、「風信」も陽子が即位する前後の物語なんですって。愛読者はすごいですね。なにしろ読んだのが八年も前なので、わたしは細かいことはすっかり忘れています。女を国から追い出そうとした女王、ということで慶だとすぐにわかるんだそうです。
 さらには、「玄英宮」という言葉から「青条の蘭」が雁国だとわかるそうなんです。うー、わたしもその隣ページの「柳へ向かう国境」からそうかな、とは思ったんですが、この国が尚隆の国だってことは抜け落ちていました。皆さんアニメも見ていらしたのでしょうか。わたしが鈍いだけ? 
 それから、柳国の法曹と死刑の是非について書かれた「落照の獄」。なかなか読み切れませんが、死刑執行に関わるドキュメンタリーを読んでいたので(時間がなくて休止しています……)、なんだか考えさせられます。
 極悪非道の男。死をもって償わせるしかないのか。途中で官たちがディベートみたいな役割分担をしているのも興味深いと思います。
 正直をいえば、本編の大きな流れを解決してほしいという思いはあります。でも、やっぱり生きている人たち、意義のために働く人たち、のことを描く作品もこのシリーズには必要なのかな、と思いました。
 早く決着をつけてほしいとも思うし、もっとたくさん読みたいという気持ちもあります。
 長編の刊行が楽しみです。