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TPP交渉中止を求め市民、国会議員らが提訴

2015-05-19 21:38:14 | 農業・農政
TPP 交渉中止求め提訴 山田元農相ら(日本農業新聞)

日本のTPP交渉への参加の中止を求めて、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」の1063名が原告となって東京地裁に提訴した。原告には山田正彦・元農相、山本太郎参院議員ら国会議員も加わっている。

なお、当ブログ管理人もこの訴訟に原告のひとりとして参加している。訴訟に当たって提出した「陳述書」の内容を以下、ご紹介する。

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 私は、鉄道ファンとして、これまで、鉄道を初めとする公共交通機関の安全問題に重大な関心を持ってきました。とりわけ、2005年のJR福知山線脱線事故では、原因調査などを通じて、速度照査型自動列車停止装置(ATS)の不備などの実態が見えてきました。

 公共交通機関で安全性が確保されるためには、各国政府がその国の公共交通の発展の歴史、投入されている技術の水準や内容などの実情に応じて、その国にふさわしい適切な安全基準や規制を確立し、適切に実施する必要があります。例えば、ATSの作動方式や条件などは、国ごとにそれぞれ異なります。

 ところが、TPP参加によりISD条項が適用されるようになった場合、このような各国の実情に応じた安全規制までが、多国籍企業により「非関税貿易障壁である」として訴えられる恐れがあります。公共交通に関する安全規制も、国際間で合意を得た最小限のものしか実施できなくなります。

 このような事態になった場合、TPP加盟各国では、社会の実情に合わない安全基準の下で、公共交通機関の事故が続発し、安心・安全な社会が根こそぎ崩壊することになるでしょう。

 私は、このような理由から、日本のTPP参加に強く反対を表明します。

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TPP交渉参加・締結を阻止しよう~札幌で山田正彦さん報告会開催

2015-02-07 21:00:53 | 農業・農政
(以下の文章は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に発表した内容をそのまま掲載しています。)

「TPP(環太平洋経済連携協定)交渉差止・違憲訴訟」を準備中の山田正彦さん(弁護士、民主党政権時代の農水相)によるTPP交渉の現状についての報告会が1月29日、札幌市内で開催され、約20人が集まりました。少し遅くなりましたが、以下報告します。

 ●山田正彦弁護士の報告内容

 半年間、膠着状態だったTPP交渉は、ここに来て急に動き出した。首席交渉官会合は「次が最後」と言われており、一気に決まる可能性がある。決まるとしたらシンガポール(での首席交渉官会合)になるだろうか。

 米国内の状況を言えば、共和党など右派陣営ほどTPPに反対で、その理由は「関税は引き下げではなくゼロでなければならない」というもの(つまり、より原理主義的な自由貿易体制を、という意味)。年齢層で言えば若手議員ほど反対している。米国民は7割がTPP反対で、かつてNAFTA(北米自由貿易協定)を締結後、多くの米国人が失業、賃金は43年前の水準にまで戻ってしまった経験で懲りている。米国以外に目を向けると、カナダ、マレーシアは交渉から抜けたがっている。

 TPPはこの3~4月が山場。米国では連邦議会が貿易協定の締結権限を持っており、オバマ大統領がTPPを締結するには大統領に貿易協定締結の権限を授権する法案を成立させなければならないが、3~4月まで法案を成立させられなければ、米国は大統領選モードに入り、TPPどころではなくなる。3~4月を乗り越えるなら締結阻止の展望が開ける。

 もし日本がTPPを締結したらどうなるか。それには、かつてのレモンの輸入自由化の時に何が起きたか思い出してみればいい。レモンは自由化前には、広島や瀬戸内海地域では広く作られる地場産業だった。当時の国産レモンの価格は1個50円。ところが自由化後、(米国の大手資本の)サンキストが入り、レモンを1個10円で売るようになった。国内のレモン産業が壊滅に追い込まれたタイミングを見て、サンキストはレモンを1個100円に値上げ、ぼろ儲けした。米国の農業資本はこのような怖ろしいことをする。

 レーガン政権当時の農務長官は「食糧はミサイルと同じだ」と発言した。これはとりわけ食糧自給率の低い日本には決定的な影響を持つ。米韓FTAを締結した韓国の農業はメチャクチャになった。EUは遺伝子組み換え食品を決して域内の市民には食べさせない。一方、米国の遺伝子組み換え食品が多く流通するメキシコは今、米国を上回るほどの肥満大国になった。肥満と遺伝子組み換え食品との関係は明らかではないが、影響がないとも言い切れない。

 現在、TPP反対運動の中心だった農協グループは、安倍政権に農協改革を仕掛けられ、TPP反対運動でまったく動けない。安倍政権成立後、日本医師会も自民支持に戻ってしまい動かなくなった。国民にまったく経過が知らされないまま進む秘密交渉は知る権利を定めた憲法21条に違反する。

 ●報告を受けて

 サンキストが日本のレモン産業を壊滅させた後に値上げをした話は衝撃でした。グローバル資本主義、新自由主義の恐ろしさを示しています。TPP反対派の「急先鋒」である鈴木宣弘東大教授は、TPP交渉は聖域(重要5品目)死守の国会決議すら風前の灯火で、国民向けに「踏みとどまった感」を演出しつつ際限ない譲歩が求められているのが現状だと指摘しています。北海道内では牛肉関税の大幅引き下げ、米国産米の輸入枠拡大などの報道が続いており、重大局面を迎えていることは間違いありません。

 昨年秋以降、農協改革が急浮上した裏にTPPがあるに違いない、と私はにらんでいましたが、山田さんの話を聞いてやはりそうだったかと思いました。農協グループの中でも、これまでTPP反対運動の「司令塔」となってきた全中(全国農業協同組合中央会)を狙い撃ちするような改革案が政府側から出てきた背景を、TPPなくして説明することはできません。そこに安倍政権の「抵抗勢力つぶし」の狙いがあることは、はっきりと指摘しておく必要があります。

 日本国憲法21条は集会、結社、言論、出版及び表現の自由、検閲の禁止とともに通信の秘密を侵してはならないと定めた条文であり、国民の知る権利について直接言及した条文ではありませんが、弁護士でもある山田さんがそのことを知らないはずはありません。国民の知る権利を保障するための根拠として、この条文を使いたいという山田さんなりの積極的な憲法解釈として受け止めました。国民の立場に即したこのような「解釈」はよいことだと思います。

 その上で、山田さんは、「日本は三権分立国家。国民は裁判で司法の判断を仰ぐことができる。TPP交渉差止・違憲訴訟を提起し、北海道だけで1万人の原告を集める集団訴訟にしたい」と意気込みを見せました。TPP交渉が山場を迎える3月に合わせて、北海道でキャンドルデモをやりたいとの方針も示しました。

 これを受け、会場参加者、ツイキャス中継視聴者を交えて議論。集団的自衛権関連法制に反対して1月に国会周辺で行われた「女の平和キャンペーン」に倣ったテーマカラーによるアピール、札幌市営地下鉄に通じる地下歩道での集会開催、北海道新聞の記事や意見広告でアピールする、「フラッシュモブ」(不特定多数の集団による踊りなどによるアピール行動)を行う、などのアイデアが出されました。

 事務局からは、「TPP反対運動が農家だけの運動と捉えられるのでは前進はないし、そのようにはしたくない。もっと国民のいろいろな階層にTPPの影響を訴えなければならない。そのために、国民生活のあらゆる領域に影響があることをもっと示していく必要がある」との発言もありました。この日の報告は、元農水相という山田さんの経歴もあり、話の内容が農業分野に偏ることはある程度やむを得ませんが、TPPは単に農業分野のみならず、労働分野、医療分野、著作権などの知的所有権、中国やベトナムとの関係では国有企業「改革」(という名の解体、民営化)に至るまで様々な影響があります。企業が「非関税貿易障壁」に関して相手国政府を訴えることのできる「ISD条項」が発動すれば、各国政府による市民のための規制措置そのものが無意味となってしまいます。国民を守るための「遺伝子組み換え食品の禁止」や食品表示の適正化、私がライフワークとして取り組んでいる公共交通の安全規制までが「非関税障壁」として撤廃を迫られるという恐るべき未来が待ち受けているのです。

 会場には、労働組合の支援もなくひとりでブラック企業との労働裁判を闘った若い女性も参加していました。この女性は「裁判は普通の人にはなじみのない場所だけれども、自分の意見を法廷で堂々と主張するうちに楽しみに変わった」として、多くの人に訴訟参加を呼びかけました。一方、スーツ姿のサラリーマンとおぼしき男性からは、「連合がTPPをどのように考えているのか見えない」との質問も出ました。連合本体はTPP推進という体たらくで、山田さんからその旨の発言がありましたが、加盟組織の中には、食品産業の労働者で作る「フード連合」(日本食品関連産業労働組合総連合会)のように明確にTPPに反対し、運動方針に明記しているところもあります(参考:TPPに対するフード連合の考え方)。その旨は私から補足として説明しておきました。

 会場からは「こんなことで世の中が変わるのか」と訴訟に懐疑的な意見も出ました。山田さんは「ひとりでも本気になれば社会は変わる。あなただって本気になれば、キャンドルデモに10人誘うことはできるはずだ」と答えました。山田さんは政治家、閣僚より運動家のほうが向いていると思います。

 TPP交渉差止・違憲訴訟の会では、これから訴状を作成し、提訴の準備に入ります。訴状は、農家の訴え、食の安全、医療問題を「3本柱」とすることが山田さんから明らかにされましたが、TPP交渉の山場が1ヶ月後に訪れるという中で、これから訴状作成という現状からは「準備の遅れ」の感は否めません。これから山場に向けて提訴を急ぐ必要があります。現在、原告参加を表明した人は700人程度です。訴訟の会による準備作業を後押しする意味でも、もっともっと多くの市民の訴訟参加が必要です。

 なお、私、黒鉄好はこの集会において「原告参加」を表明しました。これから委任状の作成、陳述書の提出もできることならしたいと思います。私の拙い知識で陳述書に書けるのは公共交通の安全規制がISD条項で撤廃されかねないということの他は、若干の知識がある農業分野程度になると思います。しかし、会場で宣言した以上「有言実行」あるのみです。もっともっと多くの方にこの訴訟に加わっていただくよう、私からもお願いします。

 原告募集は「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」で行っています。原告には誰でもなれます。訴訟の会への加入はひとり2千円です。

 (文責:黒鉄好)

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【転載】安倍政権のTPP交渉参加表明に関する「STOP TPP!!官邸前アクション」の抗議声明

2013-03-16 22:31:30 | 農業・農政
すでに報道されているとおり、安倍政権は、大半の国民の意思と自民党の公約に反し、TPP交渉への参加を一方的に表明した。これに対する「STOP TPP!!官邸前アクション」の抗議声明をご紹介する。

----------------------(以下転載)----------------------

<安倍首相のTPP交渉参加表明に最大の怒りをもって抗議する>

 2013年3月15日午後6時、安倍首相は記者会見にて「TPP交渉参加」を表明しました。多くの国民の反対・不安の声を裏切り、説明責任もまったく十分に果たされていない中での参加表明です。何よりも、先の総選挙における「TPP参加のための6項目」という公約を、自民党は裏切りました。つまり、それを信じて自民党議員に投票した有権者をだましたのです。

 交渉に遅れて参加する国が圧倒的に不利な条件を飲まなければ交渉に参加できないことは、交渉参加国の間でも明らかな事実であり、日本政府もそれを把握しているはずです。にもかかわらず、安倍首相と自民党政権は、日本にとって侮辱的であり、不平等・不正義である条件を受け入れ、国を売り渡してもいいと判断したのです。

 以下、私たちはすべての力を振り絞って猛抗議します。

1.アメリカや日本の多国籍大企業の利益のために、国民のいのちとくらし、雇用も地域も犠牲にするTPPへの参加は、絶対に許されるものではない。

2.安倍首相の参加表明は、幾重にも国民を愚弄している。そもそも公約したことを「公約ではない」と言い逃れ、影響試算を示して国民的な論議に付すと言いながら、参加表明後に影響試算を示すなど、国民を馬鹿にするにもほどがある。

3.私たちは、今回の参加表明に当たっては、まだまだ国民に公表されていない日米の「合意」などが存在していると確信している。私たちはこのような非民主的で反国民的な行為を許すわけにはいかない。

4.私たちは、TPPの危険性を国民と共有できるようさらに運動を広げるとともに、参加表明に至ったさまざまな非民主的な行為の暴露、さらには参議院選挙での国民的な審判も通して、安倍首相の参加表明を撤回させることをめざす。

2013年3月15日
STOP TPP!! 官邸前アクション

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【管理人よりお知らせ】3月15日(金)、STOP! TPP! 官邸前アクションにご参加ください

2013-03-13 23:48:31 | 農業・農政
管理人よりお知らせです。

安倍政権が、自民党の公約を破り、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加へと大きく梶を切ろうとしています。TPPは農業の他、医療、雇用など国民生活に密接に関わるすべての分野で原則として規制を撤廃し、自由化を行おうとするもので、国民の安全・安心を守るために合理的な規制まで「自由競争に反する」として全面的撤廃を迫られるおそれがあります。

こうした中で、2012年夏に始まった「STOP! TPP! 官邸前アクション」が15日、経産省前で行われます。当日は金曜日であり、官邸前での首都圏反原発連合による抗議行動とあわせ、反原発、反TPPの直接行動が合流する面白い展開になりそうです。この機会にTPP反対を訴えたい方は、ぜひ経産省前にお越しください。

詳細は、「STOP! TPP! 官邸前アクション」サイトをご覧ください。


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日本社会を滅亡に導くTPP~菅直人よ、ふざけるのもいい加減にせよ!

2011-02-25 22:34:26 | 農業・農政
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 菅内閣は、昨年11月、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加に向け協議を始めるとの方針を閣議決定した。10月の菅首相の参加表明からわずか1ヶ月あまりでのスピード決定である。

 内閣改造では、TPPに積極的でなかった大畠章宏経産相を推進派の海江田万里に交代させ、菅首相は「平成の開国」などと異様にはしゃぎ回っている。

 しかし、TPPは経済界をぼろ儲けさせる「究極的自由貿易システム」として日本農業ばかりでなく、農村の生活と文化、さらには雇用も破壊する危険きわまりないものだ。

 ●TPPとはなにか?

 TPPは、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国が2006年に発足させた環太平洋地域のEPA(経済連携協定)の一種である。その後、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、拡大してきた。原則として全ての品目について関税を撤廃し、例外なく自由化に移行させる。他の貿易協定が重要品目については高関税を認めるなどの例外を含んでいるのに対し、TPPはそうした例外を一切認めない点に大きな違いがある。

 この時期になってTPPが浮上してきた背景には、WTO(世界貿易機関)の失敗がある。1995年に発足したWTOは、自由貿易によって損失を被る発展途上国の猛反発を受け、13年間の協議は決裂を繰り返した。そして、ついに2008年7月、最後の交渉といわれたドーハ・ラウンドも決裂、解体した。

 この失敗を打開し、よりいっそうの新自由主義を推し進めるため、経済界が持ち出してきたのがTPPなのだ。

 ●自給率は14%、失業者340万人

 TPP参加となった場合、最も深刻な影響を受けるのが農業である。現在、「重要品目」として自由化の例外となっている米は、700%を超える関税によって内外価格差を埋める措置がとられており、なんとか自給体制を維持している。農水省の試算によれば、TPP参加で食糧自給率(カロリーベース)は現在の40%から14%に低下。関連産業を含めた実質GDPは1・6%(7・9兆円)、雇用は340万人も減少する。

 それだけではない。この試算には、数字には現れない環境保全や保水などによる水害防止、地域社会の維持といった農業の「多面的機能」の価値は含まれていないのだ。こうした多面的機能は年間8兆円にもなる(日本学術会議による2001年の試算)。TPPはこうした多面的機能をも崩壊させる。雇用喪失もさらに大きなものになるかもしれない。

 農水省のこの試算発表に慌てた経済界の忠犬・経産省は、なんとかこれを否定するため「TPP参加でGDPは0.65%、3兆2000億円押し上げる」という試算を発表した。しかし、林業の前例を見れば、1955年時点で94.5%あった日本の木材自給率は、1964年に輸入が自由化されて以降、急激な低下が始まり、2004年には18.4%に低下した(林野庁「木材需給表」による)。日本がTPPに参加するなら、農業と食糧は木材と同じ運命をたどるに違いない。

●食糧危機前に自由化の愚

 世界的な干ばつにより20ヶ国が穀物輸出を禁止するなど深刻な不作に見舞われた2008年、小麦、トウモロコシなどの穀物が高騰し、日本でも小麦製品の値上げなどの大きな影響が出た。近年の環境破壊の進行に伴う異常気象のため、食糧危機の危険は以前よりも増大している。世界的食糧危機に適切に対処するには、各国が地理的・気候的条件に最も適した農産物をできる限り自給することが大切だ。

 日本のTPP参加はこれと全く逆の結果をもたらす。世界の食糧需給がひっ迫しているときに、日本の農業を解体させながら食糧危機と自給率低下が同時進行する。現在でも世界で約10億人が栄養不足に直面しているが、TPPは食料の収奪を強める先進国・多国籍資本によって、発展途上国の女性や子どもたちの飢餓を加速させるだろう。

 菅政権がTPP参加を打ち出した直後、2010年10月に内閣府が実施した「食糧供給に関する世論調査」によれば、「将来の食料輸入に不安がある」86%、「食糧自給率を高めるべきだ」91%という結果が示されている。菅政権のTPP参加は、こうした圧倒的民意を踏みにじるものだ。

 結局、TPPは政府によるあらゆる産業保護政策を撤廃させることで、弱肉強食の新自由主義を隅々まで貫徹させる「自由貿易協定の最終的形態」というべきものだ。

 農業に限らず、この協定が発効すれば、グローバル企業は安い原材料と人件費を求めて海外に移転し、いっそう多くの利益を得るようになる。先進国ではいっそうの失業と賃下げ、発展途上国においては環境破壊と先進国資本による経済的植民地化が推し進められ、労働者や社会的弱者は破滅の底に突き落とされる。

●一方的なマスコミ報道

 新自由主義を推し進めようとする政府・経済界の意を受けた商業メディアは、TPP参加に世論誘導するため、一方的な報道を繰り返している。「TPPに参加しないと日本は世界の孤児になる」などと恫喝し、国民を際限のない自由競争原理に従わせようとしているのだ。

 多くの商業メディアは、参加者が800人に過ぎない経済界主催のTPP推進の集会(2010年11月1日)は大々的に報道する一方、全国農業協同組合中央会(全中)と全国農業者農政運動組織連盟(全国農政連)が主催し、TPP反対を決議した全国集会(2010年10月19日)には、参加者が1000人だったにもかかわらず一言も触れなかった。経済界の利益のためならなりふり構わない、呆れた「偏向報道」といえるが、これには、TPPの真実が暴かれることに対する経済界の恐れも反映されている。

●燃え上がる反対

 メディアの一方的偏向報道とTPP推進キャンペーンにもかかわらず、TPP反対の声は急速に拡大している。2010年10月19日の全中、全国農政連主催の集会では「自由化と食料安全保障の両立は不可能だ」「TPP参加を検討すること自体が許せない」などと激しい反発の声が相次いだ。全中は、茂木守・会長名で「TPP交渉への参加には反対であり、絶対に認めることはできない。断固反対していく」とする談話を発表。11月10日、全中と全国漁業協同組合連合会(全漁連)が共催した集会は、農業者たちが会場の日比谷野音を埋め尽くした。

 全国の都道府県・政令指定都市66の議会のうち、46議会がすでにTPPに関する意見書を議決した。そのうち、北海道、沖縄県など14が反対、秋田県、神奈川県など32が「慎重な対応」を求めるもので、合計で7割に上る。和歌山県議会の意見書は、「1次産業は壊滅的ダメージを受け、関連産業は衰退し、地域経済は崩壊する」と指摘している。

 2011年1月18日、農水省が行った市町村長との意見交換では、TPP参加反対一色となった。水沼猛・北海道別海町長は、1次産業だけでなく、地域の商業や観光、建設業などもTPPに反対していることを報告した。加藤秀光・群馬県昭和村長は「TPP参加は、(農業を地域産業とする)村の将来ビジョンを根本から覆す」と反対姿勢を強調した。

 全国農業会議所は、TPP参加反対を訴える1000万人署名に2月から取り組むと発表した。

●途上国の市民と手を取り合って

 チュニジアのベンアリ政権崩壊に端を発した中東のドミノ革命はエジプトに波及し、1981年以来、30年続いたムバラク政権をなぎ倒した。商業メディアのほとんどは、一連の独裁体制崩壊の原因を「フェースブック革命」などとネットの普及に求めようとしている。もちろんそれもひとつの要素には違いないが、中東政変の背景には食料価格の高騰があることを指摘しておかなければならない。

 昨年11月頃から始まった食糧高騰によって、途上国の市民を中心に生活は苦しさを増す一方だった。そんな中、2010年末にチュニジアで若者の焼身自殺事件が起きた。チュニジアでは若者に職がなく、その若者も、野菜や果物を街頭で売り、1日わずか500円程度の収入を得てなんとかぎりぎりの生活をしていた。しかし、この若者の露店が無許可営業だったことから、警官が商売に必要な機材を押収し、「返してほしければ賄賂をよこせ」と要求したため、怒った若者がこの警官の目の前で自分の身体に火をつけたのだ。

 結局、この焼身自殺がネットを通じて市民の知るところとなり大規模な反政府デモに発展。ベンアリ大統領一家は国外に逃亡し政権は崩壊したが、こんな若者からさえ賄賂をむしり取るような政権は倒れて当然だろう。

 「日本農業新聞」も次のように報じている――『穀物をはじめとした世界の食料需給動向が、再び緊迫感を強めている。シカゴ穀物相場は、食料危機が叫ばれた2008年以来の高値水準に達した。国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、世界の食料価格は08年水準をさらに上回り、2カ月連続で過去最高を更新した。世界の食料需給は高騰前の05年以前とは大きく変化し、逼迫(ひっぱく)、価格高止まりの様相を色濃くしている実態を直視しなければならない』(2011年2月9日付論説)。

 このような事態を迎えているときに、TPP参加を検討するよう指示した菅首相、「GDPの1.5%しかない農業のために他の98.5%が犠牲になっている」と発言した前原外相は、冗談抜きで一度病院に行った方がいいのではないか。

 元内閣府大臣政務官を務めた田村耕太郎氏は、最近の食料高騰について、米国FRB(連邦準備制度理事会;日本銀行に相当)が大量のドル紙幣を増刷してばらまいたため、余った投機マネーが食料に流れ込んだことが原因だと指摘する(日経ビジネスオンライン)。いま日本がなすべきことは、食料高騰に苦しめられている途上国の市民と手を取り合って、食料に流れ込んでいる投機マネーを規制し、食料品取引に秩序を取り戻すことだ。

●時代錯誤の経産省と経団連は博物館へ

 TPPに反対する闘いは、農業を「産業」とし、ビジネス=儲けの道具としか捉えてこなかった農政を民主化する闘いでもある。農業は有史以来、文化として地域社会と結びつき、健康で文化的な社会生活のあり方を規定してきた。人間が人間らしく生きるための社会基盤として、もう一度農業を国民の手に取り戻すことが必要である。

 時代の役目を終えたグローバリズムにしがみつくことでしか生きることができない経産省、経団連、自民党、民主党、みんなの党などの始末に困る粗大ゴミは、まとめて博物館にでも展示しておけばいい。

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食糧危機再び?~こんな時にTPP参加を熱望する最低の菅「無能政権」

2011-02-13 21:57:03 | 農業・農政
食料高騰再び/世界の実態を直視せよ(日本農業新聞論説)

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 穀物をはじめとした世界の食料需給動向が、再び緊迫感を強めている。シカゴ穀物相場は、食料危機が叫ばれた2008年以来の高値水準に達した。国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、世界の食料価格は08年水準をさらに上回り、2カ月連続で過去最高を更新した。世界の食料需給は高騰前の05年以前とは大きく変化し、逼迫(ひっぱく)、価格高止まりの様相を色濃くしている実態を直視しなければならない。

 食料価格高騰は、ロシアやオーストラリア西部の干ばつ、米国の大雨など、世界各地で起きた異常気象によるものが大きい。米国ではトウモロコシの収穫量が予想を下回り、年間の需要量に対する期末在庫量の比率(在庫率)は、過去2番目に低い水準になる見通しだ。

 シカゴ相場は昨年11月以降急騰。12月には、小麦が1ブッシェル(約27キロ)7ドル台後半、トウモロコシは同(約25キロ)6ドル前半、大豆は同(27キロ)13ドル超に達した。05年に比べると、小麦は2.5倍、トウモロコシは3倍、大豆は2倍の水準だ。2月に入っても高騰は続き、小麦は8ドル半ば、トウモロコシは6ドル後半、大豆は14ドルを突破した。

 この水準は今年の北半球での作柄が見通せる6月ごろまで続くとの見方が強い。仮に、今年も異常気象の影響を受ければ、さらに相場が上昇する可能性もある。先高感が強まれば投機資金がさらに流入し、価格を押し上げることも想定される。また、為替レートが08年当時のように1ドル100円を超える水準になれば、6割を輸入に頼る日本国内の食料品が値上がりし、国民生活に大きな影響を及ぼすことは必至だ。FAOが毎月発表する世界食料価格指数(02~04年を100)を見ると、昨年12月は215と、ついに08年6月の214の水準を超え、統計を取り始めた1990年以来の最高を更新。今年1月は231となり、2カ月連続で過去最高を更新した。

 食料価格の高騰は、チュニジア、エジプトなどの中東、北アフリカ各地で起きている市民デモや暴動が一因との見方も強い。ロシア産小麦が禁輸で手に入らなくなり、価格が高い米国産を買わざるを得ない状況にある。食料の高騰で、政治に対する国民の不満が一挙に噴出しているのだ。

 食料自給率が低く、経済がかつての勢いを失いつつある日本にとっても、この状況は対岸の火事では決してない。穀物自給率(07年)は28%で、世界177カ国・地域中124位。1億人以上の人口を抱える国で、50%を切っている国は日本以外にない。昨年3月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画は、食料自給率目標50%を明記した。この目標を早期に実現し、国内生産を基本にした食料の安定確保を推進すべきだ。不安定感を増す世界的な食料需給情勢の中で、食料自給は政策的な重みをさらに増している。
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高騰する食料価格がついに2008年の水準を超えた。2008年といえば、燃料高騰と食料高騰のダブルパンチに見舞われ、国内では飼料価格の高騰に悲鳴を上げた畜産農家の廃業や、燃料高騰に怒った漁業者の「一斉休漁闘争」が起こった年だ。世界的な異常気象が背景にあるとはいえ、その水準さえ超えたというのだから、まさに異常事態である。

食料価格の高騰を「世界的な異常気象が原因」のひとことで片付け、物事の本質を見ようとしない(というより、支配層にとって都合が悪いので隠している)商業マスコミの報道にだまされてはならない。なぜならこの食糧高騰は一過性の現象ではなく、構造的なものだからだ。

2008年夏、レギュラーガソリンが1リットル180円に高騰し、小麦の価格も高騰してパンやパスタなどの価格が相次いで引き上げられた「悪夢の夏」をご記憶の方は多いだろう。この悪夢の夏が終わった直後にリーマン・ショックが訪れ、金融バブルが崩壊したのは決して偶然ではない。なぜなら両者はつながっているからだ。

安倍政権時代に内閣府大臣政務官を務めた田村耕太郎氏が、「FRB(米国連邦準備制度理事会)が大量に増刷してばらまいたドルが世界の商品市場に向かい、食糧価格を引き上げた」という興味深い論考を行っている(日経ビジネス)。田村氏は自民党と民主党を渡り歩くなど、政治的には評価に値する人物とは思わないが、この論考での指摘はきわめて的確である。

アメリカは強大な軍事力で戦後世界に君臨してきたが、一方ではベトナム戦争による大量のドル垂れ流しが原因でブレトン=ウッズ体制(金本位制)が崩壊するなど、戦争のたびに高い代償を支払ってきた。ベトナム戦争が終わって以降、イラク戦争までの間、アメリカ経済が小康状態を保っていられたのは大戦争を起こさなかったからである。アメリカは今回、アフガニスタン・イラクでの戦争によって再び高い代償を要求されている。この2つの戦争によって再びドルの大量垂れ流しが始まったことが、ドルの信認を大きく低下させ、基軸通貨を揺さぶっている。行き場がなく、さまよえるドルが投機先として向かった先が燃料、そして食料だった。2008年の燃料・食料のダブル高騰はこうした事態によって引き起こされたと見るべきである。だからこそ、この金融バブルが崩壊して燃料・食料の高騰が一段落した2008年秋に、リーマン・ショックが起きたのである。

こうして金融バブルは崩壊したが、アフガニスタン・イラク戦争によるドルの大量垂れ流しという現実がそれによって改善されたわけではなく、危機は依然として続いている。このところの食料の高騰は、迫り来る再度の危機の明らかな前兆である。これに、年明けからの中東ドミノ革命が追い打ちをかける。目ざとい投機筋はこの危機さえ利用して、石油でひと儲け企んでいるだろう。これから先、恐るべき燃料高騰が再び世界を襲うことは間違いない。

繰り返しておくが、これは構造的危機であり、異常気象による一過性の現象などでは決してない。こういう世界情勢の中、菅政権はTPPに参加して、生き馬の目を抜く投機の世界にのこのこと出て行こうとしている。ポリシーも物事の本質を見る目もない政権に、この世界的危機の時代の舵取りを任せるわけにはいかない。やはり菅政権には明日といわず、今日にでも退陣してもらうしかない。

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「残飯おせち」騒動から見えてきたグルーポンの強欲

2011-01-25 22:46:38 | 農業・農政
(この記事は、当ブログ管理人がインターネットサイト向けに執筆した原稿をそのまま掲載しています。)

 2011年は正月早々、ネット販売による「残飯おせち料理」騒動で始まった。すでに経過をご存じの方も多いと思われるが、横浜市の株式会社「外食文化研究所」が経営する「バードカフェ」製「謹製おせち」が見本と全く違うものだった上、遅配となり騒動に陥ったのである。実際に届いたおせち料理は見本からは想像もできない貧相なもので、インターネット上では「残飯」という酷評さえ見受けられた。遅配のほうも酷く、1月3日になってようやく届いたという例もあったようだ。

 抗議が殺到した同社は年明けから自主休業に追い込まれた。同社のホームページはお詫びの文章とともに「食材不足と人員不足」「発送伝票が重複」「人員不足による対応の遅れ」などが原因とする見苦しい言い訳が掲載されている。さすがにこの貧相な内容では責任を持って販売できないとして、発売中止を求める声も社内で上がったようだが、水口憲治社長が「トップ判断」で販売を強行したというのが真相のようだ。

 もちろん、このような事態を招いた原因がバードカフェとその運営企業「外食文化研究所」にあることは間違いなく、また食材不足、人員不足とみずから認める混乱状態にありながら、不完全なまま出荷強行の判断をした水口社長にあることは疑いがない。だが、今回の騒動を通じて見えてきたもうひとつの問題がある。ネットによるクーポン割引販売サイト「グルーポン」を巡る問題である。

●「ネット史上最速」の急成長の陰で

 グルーポンは、米国で2008年にアンドリュー・メイソンCEO(最高経営責任者)が始めたサービスである。飲食店が一定の割引を適用することを条件に顧客を募集、一定数の顧客が集まったら成約となり割引料金で飲食サービスが提供される。「最少催行人員○名」とチラシに記載して、その人数が集まったら割引ツアーが成立、実施に移されるという旅行業界のパックツアーと似た仕組みで、割引サービスとしてはインターネットを使っていること以外、特に目新しいものではない。日本では2010年秋頃から注目され始め、あっという間に「ネット史上最速」の急成長を果たした。

 この不況とデフレの時代、急成長する「ビジネス」の背景には必ず何かがあるはずだ。そう思って新年からいろいろ調べていると、グルーポンの驚くべき実態が見えてきた。手数料率が半端ではなく、なんと「基本50%」なのだ。

 例えばある飲食店で定価10,000円のコース料理があるとしよう。この料理に顧客を100人集めることを条件として、半額の5,000円で割引クーポンを売り出す。100人集まったら初めて契約が成立となり、生産に入る。グルーポンに納める販売手数料として半額を支払うので、1個売れるごとに飲食店に落ちる金額は2,500円となる。

 この時点で、飲食店に落ちる金額は定価の25%にまで減少したことになる。飲食業界では、一般的に原材料費(食材の仕入れ費)が販売定価の3割といわれており、これでは原材料費もまかなえない。おそらくグルーポンに参加している飲食店のほとんどが赤字だろう。50%引きなんて極端だと思うなかれ。グルーポンのサイトを見ると、実際には66%引き、72%引きなどというもっと極端な値引き商品が並んでいる。72%引きで販売した売り上げの半分をグルーポンに持って行かれたら14%しか残らない。

 このような状態になってまで飲食店がグルーポンに参加する理由は何か。識者は、(1)広告費の代わり(広告は打っても空振りのときも多いが、グルーポンだと確実に売れ、食材が残らないだけ効率的)、(2)稼働率を上げるため(空席を抱えるより価格を下げても席を埋めたい)・・・等々をその理由として挙げている。

 だが、安売りが始まったら客が殺到して価格を元に戻したら急に閑古鳥、という牛丼業界などの「勝者なき消耗戦」を見ていると、とてもうまくいくとは思えない。安売りクーポンがあるときだけ客が殺到して、平常価格に戻ると見向きもされなくなるデフレ地獄に陥り、結果として「名ばかり店長」に代表される飲食業界の「ブラック化」だけが一層進行する、という未来が待っていることは容易に想像できる。

 ●呆れるほどの強欲

 「残飯おせち騒動」では、バードカフェと外食文化研究所に抗議が殺到したのは当然としても、内容をチェックせずに販売していたグルーポンにも抗議が殺到した。正月明けになり、グルーポンはおせち騒動の再発防止策を発表したが、その内容が商品の事前チェックの導入とお客様相談ダイヤルの開設というのだから、サービス業が聞いて呆れる。本来ならその程度のことは事業を開始する前に解決しておかなければならないものだ。

 そもそも、グルーポンのようなサービスは、意地悪な表現をするなら「単なる場所貸し」に過ぎない。知名度がなくて集客に苦労している飲食店と、安い店を探している消費者とをマッチングさせるため、ネット空間を提供するただの場所貸しである。グルーポンがみずからを単なる場所貸しだと認識して謙虚な姿勢で事業を行うなら、手数料率はせいぜい数%~1割程度とすべきだし、逆にみずからをネットで飲食の提供を行う総合サービス業と認識するなら、ある程度高い手数料を許容される代わりに苦情対応などの社会的責任もきちんと果たすべきだろう。「手数料は半分寄越せ、でもウチはサービス業でもないただの場所貸しだから、買った商品に苦情があるときは出品したお店に言ってね」では厚かましいにも程があるし、こんなあこぎなビジネスをしているのだから、ネット史上最速の急成長もするに決まっている。

 「本家」である米国グルーポンのメイソンCEO自身、「利他的な目的で存在するサイトや商品が成功した例はほとんどない」という驚くべき発言をしている。メイソン氏は、自分が欲しいと思うサイトや商品がなかったから自分が作ったら、そこからヒットが生まれることが多いのであって、自分自身の利便性を考える姿勢こそヒットの源泉なのだという意味でこのような発言をしたらしいが、手数料率50%というグルーポンの強欲さと残飯おせち騒動の事実を知った後でメイソン氏の発言を聞いても、もはや私はそれを額面通りに受け取ることはできない。そこには「自分さえ儲かれば他人がどうなろうと知ったことではない」「どんな卑怯な手、汚い手を使っても勝った者が正しいのだ」という、いかにも小泉、竹中的腐臭がプンプンと漂うのだ。

 このような強欲なサービスは長続きしないだろう。グルーポンが、いずれもっと穏健で謙虚な同種のサービスに取って代わられることは間違いない。

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諫早湾干拓事業訴訟で原告勝訴~今こそ美しいムツゴロウの海の再生を!

2010-12-15 22:54:48 | 農業・農政
諫干 国が上告断念 首相表明 開門調査へ(西日本新聞) - goo ニュース

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 菅直人首相は15日、国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門をめぐり5年間の常時開放を命じた福岡高裁判決について、「高裁の判断は大変重いものがある」として上告を断念すると表明した。16日に鹿野道彦農相と筒井信隆農林水産副大臣らが長崎県を訪れ、中村法道知事や干拓地の営農者らに伝える。判決が確定することになり、農水省は2012年度にも5年間の開門調査を始める方向で検討に入った。17日に正式に決定する。 

 菅首相は15日、官邸で鹿野農相や法相を兼ねる仙谷由人官房長官と協議し政府としての対応を決めた。終了後、菅首相は記者団に「ギロチンと言われたあの工事の時以来、私なりの知見を持っていたので、総合的に判断して上告しないという最終判断をした」と述べ、農水省などの上告方針を覆し「政治決断」したことを強調した。

 高裁判決後、農水省は「法的義務として5年間の常時開放は受け入れられない」として上告する一方、1年以上の開門調査を実施する方針を固め、官邸側と協議。野党時代から同事業の推進に反対してきた菅首相は、農水省の上告方針を受け入れず、上告見送りを模索。首相の強い意向を受け、鹿野農相が上告断念を受け入れた。

 地元の長崎県では、調整池の水を農業用水に利用する干拓地の営農者や、水害などの防災機能の低下を心配する市民などが開門調査に反対しており、政府方針への反発は必至。同事業の管理者は長崎県に移行しており、県側が強硬に拒めば、開門調査実施は困難とみられる。

 農水省は11年度予算の概算要求で開門調査の準備経費4億円を計上。実施中の環境影響評価(環境アセスメント)の中間報告が出る来年5月以降に本格的な準備を進める。「常時開放」の具体的な開門方法は高裁判決や環境アセスメントを踏まえ検討する。

=2010/12/15付 西日本新聞夕刊=
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(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 国営諫早湾干拓事業によって諫早湾の潮受け堤防排水門が締め切られ、有明海の生態系が大きく変化し、漁業に大被害を受けたとして、諫早湾沿岸の漁民らが国に排水門の開門などを求めた諫早湾干拓事業訴訟で、2010年12月6日、2審の福岡高裁は原告勝訴とした1審・佐賀地裁判決を支持し、国に5年間排水門を開門するよう命ずる判決を言い渡した。1審に続く原告勝訴の判決だ。

 この判決について、政府は上告断念を表明。期限までに上告しなかったことによって、福岡高裁判決が確定することになった。これにより、諫早湾干拓事業は完全に息の根を止められるだろう。唯一、干拓地に多くの農民が入植している長崎県だけが排水門の開門に強く反対しているが、判決が国の勝訴ならばともかく、敗訴とあっては高裁判決と国の両方に一地方自治体が抵抗し続けることは困難だ。

 ムツゴロウの住む豊かな有明海への「ギロチン刑執行」と言われたあの衝撃的な潮受け堤防の閉め切りから10年以上の歳月が流れ、干拓地では野菜作りなどの農業もようやく始まった。それだけに、この諫早湾干拓事業は「進むも地獄、退くも地獄」の状況になりつつある。上告断念によって国が事業を中止した場合、今度は干拓地で営農している農家から訴訟を起こされることになりかねない。

 だが、いろいろな事情を総合的に判断した結果、それでもやはり筆者は諫早湾干拓事業を失敗と認め、ここで退くべきだと考える。

 諫早湾に限らず、日本で過去に執行され、あるいは執行が計画された干拓事業は、すべて旧農業基本法による農業の「選択的拡大」路線に基づいた大規模化を主な動機としていた。日本で最初の干拓事業だった秋田県大潟村(八郎潟)では大規模化が成功し、大潟村だけで年間約85万トンのコメを生産している。現在の日本の年間コメ生産量が800万トン程度だから、大潟村だけで全国のコメの1割を生産していることになる。

 農水省と日本の経済界が作りたかったのは、大潟村のようなモデル農村なのだろう。日本のコメ農業がみんな大潟村のような「最小限のコストで最大限の生産」ができるようになれば、安心して貿易自由化を推し進めることができるからである。国土の7割を山林が占め、山が海にへばりつくようにせり出している地形のため平野部が極端に少ない日本でアメリカのような大規模効率化経営を実現するには干拓しかないことを、関係者はよく知っていた。

 だが結局、大潟村に続く「モデル農村」の試みはどこでも成功しなかった。島根県の宍道湖・中海干拓事業は、生態系破壊を恐れる県民の反対で事業に入ることさえできないまま中止された。諫早湾でも、有明海を殺す干拓への反対は予想以上に大きく、地方自治体レベルでも、有明海沿岸各県のうち推進は長崎だけ。福岡、佐賀は明確に反対、熊本も中立もしくは反対という状況だった。

 諫早湾干拓事業を暗転させたのは、環境保護を求める世論のかつてない高まりである。干拓は海の生態系を変化させずにはおかないからだ。八郎潟にしても、環境保護という考え自体が存在しなかった時代だからこそ成功できたといえよう。歴史に「もしも」は禁物だが、八郎潟もあと20年遅かったら、環境保護の世論に押されて事業は成功しなかったに違いない。

 2010年12月15日付け日本農業新聞論説は、干拓農民の声を重視する立場から開門反対を訴えている。いつもは日本農業新聞の論説を筆者は肯定的に捉えることが多いが、今回の論説には同意できない。「太陽光発電を使った環境重視の農業」は確かに結構なことなのだが、有明海を殺し、ムツゴロウの死骸の上に成り立つ「環境重視の農業」にどれほどの意味があるのだろうか。

 農業では森を見る前に1本1本の木を見ることが大切なことももちろんあるが、一部でなく全体を見て判断しなければならないことも多い。今回の問題はまさに全体を見て判断すべきものである。農業は同じような条件の農地が他の場所にあれば、移転して耕作を続けることができるが、漁業は海を移転させることはできないのだから、代替地に移って続けるという選択肢はあり得ないのである。

 有明海で海の幸に感謝して生きる漁民たちと、干拓地で自然に感謝しながら環境重視型農業を営む農民たち。どちらがより尊いとか、尊くないなどという比較はできないし、すべきでもない。だが、前述したようなそれぞれの特性(漁業は移転できないが、農業はできる)を考えれば、ここは干拓農民たちが譲らなければならないと筆者は考える。

 当たり前のことだが、干拓農民たちにも生活がある。今回の高裁判決が確定すれば、干拓農民たちは緒に就いたばかりの新しい農業が安定軌道に乗るいとまもないまま移転を強いられることになる。ここには国がしっかりと代替農地を手当てするとともに損害を補償すべきであることは言うまでもない。

 日本では、1985年まで耕作放棄地の面積はほぼ一定だったが、その後急速に増え始め、2005年には、ほぼ埼玉県の面積に匹敵する38.6万ヘクタールもの耕作放棄地が生まれている。耕作放棄地になると農地は荒れ、農業が本来持っていた多面的機能(災害防止、地域社会の維持といった機能)をも失う。これだけたくさんの耕作放棄地を生み出しながら、有明海の自然を破壊してまで新たな農地を人工的に作る政策が正しいのかという疑問は当然、提起されるべきだろう。点在する耕作放棄地を集積できるような法制度の整備を進め、耕作放棄地を解消してゆく政策の中に新規就農対策をリンクさせていくことが、いま求められている農政のあるべき姿といえる。今回の敗訴を機に、日本の農業と農政は改めてこの基本に戻るときである。

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未来の産業、工場野菜

2010-11-29 21:51:39 | 農業・農政
「未来野菜」産地は工場 エコで手軽、価格も安定(産経新聞)

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 施設内で効率的に野菜を栽培する植物工場が注目を集めている。店内で栽培した野菜を提供する“店産店消”の店も登場。栽培の手軽さから異業種の参入も増えているという。肥料や水などの資源を無駄なく使え、環境に配慮した「未来の産業」として期待が高まっている。(油原聡子)

 ◆店内で栽培、提供

 今春オープンしたイタリア料理店「ラ・ベファーナ汐留店」(東京)。店の中央に小型の植物工場が設置されている。高さ約2・3メートルのケース内には、幅約5・3メートル、奥行き70センチの棚が5段重ねられ、レタスなど4種類の葉物野菜が蛍光灯の光の下、水耕栽培されている。レタスの成長速度は露地栽培の3分の1の約30日。主な作業は週に1回程度、水を替えるだけという手軽さだ。店で使う半分を無農薬で栽培、毎朝約60株を収穫している。1年で2万株収穫可能だという。

 店内で栽培したレタスを使ったサラダを食べた千葉県柏市の男性会社員(31)は「工場で野菜を作るなんて未来のイメージ。柔らかい食感ですね」と満足げだ。マネジャーの大島力也さん(44)は「10月に野菜が高騰したとき、レタスの値段が3倍から4倍に上がったが、店で作っていたから影響は少なかった」と話す。光熱費などはかかるが「通年で見れば畑の無農薬野菜よりやや高いくらいでは」。

 植物工場に詳しい千葉大学の池田英男客員教授(62)=施設園芸学=は「生育環境をすべて制御するのが植物工場。少ない資源で効率よく生産でき、環境への負荷が少ない」と説明する。太陽光を使わずに完全人工制御する「完全人工光型」と、天候によって照明や室温制御も行う「太陽光利用型」があり、人工光の利用は日本が世界的にも進んでいるという。

 土壌を使わない水耕栽培が一般的で基本的には無農薬。葉物が中心で、汚れがほとんどないため捨てる部分も少ない。肥料を効率的に吸収させることが可能で、水も循環利用できる。

 ◆異業種も参入

 課題は採算性だ。施設建設費や運営費などがかかり、露地栽培より割高になることが多い。ただ、年間を通して安定供給できるため、「天候に左右されず、計画的に仕入れが行える」(飲食チェーン担当者)というメリットも。野菜が高騰すると工場野菜の方が安くなることもある。

 農林水産省によると、工場野菜が比較的多いレタスでも市場流通は1%に満たないという。しかし、新規事業や雇用の確保を求め、企業の参入も進んでいる。山梨県の運送会社「山梨通運」は今春から、社員の再雇用対策として、植物工場を始めた。担当者は「マニュアルがあるので失敗はない」と話す。

 矢野経済研究所(東京)によると、植物工場の平成20年度の新規工場建設市場の実績は16億8千万円だが、32年度には129億円の規模に拡大すると予測している。
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この「野菜工場」がどこまで伸びるか現時点では不明だが、かなり期待できることは確かだろう。去年や今年のような異常気象が今後も常態化するようであれば、工場野菜のほうが安い状態が固定化する可能性もある。

この生産方式の利点は記事にもあるとおり安定性だが、一方、デメリットは施設整備費や運転コスト(燃料費など)、輸送費などである。消費地から遠ければ、それだけ輸送費がかさみ、価格に跳ね返る。既存の参入者の多くが企業で、他業種からの参入が多いのも、元々あった遊休施設(空き工場など)を転用したため、初期投資が安くついたからだろう。外食産業などが、自分たちで消費する野菜を安定供給したくて参入するケースも目立っている。これなら「店産店消」とまではいかなくても、店の近くに工場を設けて輸送コストを最小限に抑えられる。

露地物の野菜を生産する農家の多くは高齢化しており、今後、引退が相次いでいく。農地も持たず、父母が農業者でなかった若い人たちが農地も持たずに身ひとつで参入してくるケースも増えるだろう。そのとき、畜産や果樹・花きのような「施設利用型農業」のひとつとして野菜生産を担う新規参入者が出てくることは容易に想像できる。そうした人たちに、施設での野菜生産を選択してもらえるように、今から制度的枠組みを整えておくことが必要だと思う。

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戸別所得補償制度元年 それでも続く米価崩壊~私たちはどうすれば?

2010-11-25 22:29:28 | 農業・農政
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 自民党から民主党に政権が交代した2009年は自民党政権が編成した予算の大幅な組み替えができないまま暮れ、今年、2010年こそ民主党政権の予算編成元年となった。子ども手当と並ぶ民主党政権の目玉政策は、コメ農家に対する戸別所得補償制度であった。そのモデル対策が実施され、戸別所得補償制度元年となった2010年を振り返り、猫の目のようにクルクルと移り変わった農政の進むべき方向を再検証してみたい。

●戸別所得補償制度の概要

 民主党政権が導入した戸別所得補償制度は、農林水産省の説明によれば、米のモデル事業(2010年度限り、2011年度からはモデル事業を本格実施に転換)と自給率向上事業の2つの政策から成る。モデル事業は、需給調整(いわゆる減反)に参加しているコメ農家に対して主食用米の作付け面積10アール当たり15,000円を直接支払により交付して、水田農業を担う農家の経営安定を図る事業である。自給率向上事業は、大半を輸入に頼る麦、大豆などや米粉用米、飼料用米といった自給率向上のポイントとなる作物の生産を行う農家に対して、主食用米を作った場合と同じ水準の所得が得られるよう、作物に応じた金額を直接支払により交付する事業である。

 とはいえ、自給率向上事業は、名称こそ違うものの、供給過剰基調が続くコメの生産を抑え、余った水田で米粉用米や資料用米、麦や大豆などの転作作物を作らせるという意味において、自民党政権下で2009年から本格的に始まった水田フル活用事業(水田最大活用推進緊急対策)と酷似しており、その延長線上に位置づけられる政策と見てよい。

 ただ、大きな違いがひとつある。自民党政権下での減反が主として米価維持政策であったのに対し、戸別所得補償制度の一環としての自給率向上事業は、農家への直接支払であることだ。水田フル活用政策は、あくまでも自民党政権が旧来から行ってきた減反の延長線上にあった。主食用米の生産量を政策的に抑えることによって供給を減らし、米価を維持しようとする。そのため、減反に参加する一部農家の努力によって主食用米の供給が減った結果、米価が維持され、その効果は減反に参加しない農家にも及ぶことになった。つまり、減反に協力する正直者が馬鹿を見るという側面があり、公平感という意味で無視できないものがあった。

 これに対し、戸別所得補償制度による直接支払は、減反に参加した農家だけを対象とするようにした結果、不公平感が解消することになった。これは、減反に実効性を持たせるという意味では、大きな前進といえるものだ。

●初年度から予算不足の危機

 しかし、結論から言うと、戸別所得補償制度はモデル対策が試行的に実施された2010年度から早くも大きなほころびを見せた。その要因は、農政側の制度設計がきわめて大ざっぱなものであったことのほか、110年に一度の猛暑という人知ではいかんともしがたい不可抗力の側面もあった。また、後述するコメの特殊性も背景にある。

 制度設計の問題とは、直接支払額を「標準的な生産コスト」と「標準的な販売価格」を基に面積単位の全国統一単価としたことである。これは、経営努力により生産コストを削減している農家の取り組みを一切評価しないことにつながる。

 また、品種の違いを考慮せず統一単価としたことは、高品種のコメ(つまり、高く売れるコメ)を生産している東北・北陸などの米どころほど、設定した単価では足りないということを意味する。こうした米どころの地方では、戸別所得補償制度の内容が周知されるにつれ「支払額が足りなくなるのではないか」と噂され始めた。しかも、そのような声は2010年の田植えが始まる前からすでに顕在化していたのである。

 しかし、制度のほころびは、農家が危惧していたのとは全く異なる方面からやってきた。110年に一度という、近代農業が経験したことのない異常な猛暑である。

 気象庁によれば、今年の猛暑は1898年の統計開始以来最悪となるもので、特に8月は、沖縄・奄美を除く全地域で平年の平均気温を2度以上上回った。真夏日(最高気温30度以上)は西日本のほぼ全域で9月末まで続いた。熱中症だけで400人を超える死者が出たことはまだ記憶に新しい。

 この猛暑は、2010年産米における1等米比率の極端な低下となって現れた。10月20日、農水省が発表した2010年産米の検査結果によれば、最も品質の良い1等米は64.4%。過去5年間では2008年産の77.5%をはるかに下回り、1999年(63.0%)以来11年ぶりの低水準となった。1等米比率を低下させた大きな要因は胴割れ(米粒の中央に横線のような亀裂が入ること)と呼ばれる高温障害にあった。

 この結果、2010年産米の1俵(60kg)当たり価格は、過去最低を記録した2009年産米よりもさらに2,000円程度下落すると見込まれる。農水省は、その年に生産されたコメの販売価格が過去3年の標準販売価格を下回った場合に上乗せ支給する「変動部分」の算定に入っているが、1等米比率の低下幅が大きすぎ、早くも予算不足となる懸念が出ている。

●根本原因は日本人のコメ離れ

 米価は、食糧管理制度が解体させられた20年ほど前から右肩下がりで低下を続けている。大半が農業生産法人でなく個人農である日本では、米価はイコール農家の所得であり、農水省も農家も、そして自民党も減反によってなんとか米価下落を食い止めようと努めてきた。しかし、減反を上回るスピードでコメ消費の減少が進み、生産を減らしても減らしても余るという状況は今日なお続いている。

 1920~30年代には、日本の人口は8000万人と現在の3分の2であったにもかかわらず、年間1600万トンものコメを消費してきた。現在は、当時と比べ人口は4000万人も増えたのに、日本の年間コメ消費量は800万トンに過ぎない。1990年頃と比べても、当時の年間コメ消費量は1000万トン前後だったから、20年で2割も低下したことになる。極端な日照不足と長雨により、作況指数が戦後最悪の75を記録、「100年に一度」「祖父母も経験したことのないほどの大冷害」といわれ、外国産米の緊急輸入に追い込まれた1993年のコメ生産量はおよそ780万トンに落ち込んだが、20年後の今日、この大冷害の年の生産量でも足りるほどコメ消費は減少してしまったのだ。

 こんな状況だから、減反してもしてもコメが余り、米価が下落を続けていくのもうなずける。もはや日本人のコメ離れ、コメ消費の減少は、農政と農家の努力でどうにかなるレベルを超えてしまっている。

●コメの価格特殊性

 米価低落の背景に日本人のコメ離れがあるとしても、価格低下の幅があまりに大きすぎるのではないかという疑問は多くの読者が抱いているかもしれない。20年間で2割消費量が減少したとしても、1年では1%の減少に過ぎないのに対し、2010年産米は60kg当たり2,000円も下がり、11,000円となる見通しだというのである。仮に見通し通り下落すれば、13,000円のうちの2,000円は15%にも相当する。1等米比率の低下と年間1%の消費量の減少だけでは、15%もの極端な米価下落を説明できない。

 実は、米価は過去にも生産量のわずかな増減の割に大きく変動してきた。その背景には、コメが自給作物として、基本的に生産した国で消費され、国際貿易市場に出回る量がきわめて少ないという事情がある。国際貿易市場で取引されるコメの量は、生産量の3~5%程度といわれる。生産量の20~25%が輸出を想定して生産される大豆や小麦とはそもそも前提が全然違うのである。世界のコメ生産量は概ね年間5億トンと言われているから、国際貿易市場に出回るのはわずか1500万~2500万トンに過ぎない。

 この事実は、大量にコメを消費する日本のような国で、前述した93年のような大凶作が起きたとき、国際市場から不足したコメを買い付けるのがきわめて困難であるということを意味している。実際、日本が259万トンものコメを緊急輸入した93年には、わずか半年で1トン当たり235ドルだった取引価格が500ドルを超えるまでに高騰した。日本が輸入した量は、国際貿易市場に出回る量からすれば最大でも5分の1に過ぎないにもかかわらず、価格は2倍以上に跳ね上がったのである。

 生産量の変化に敏感なのは国内市場も同様で、93年の大凶作の直後、94年2月には60kg当たり60,000円を超える価格が付いた地域もあった。

 国際貿易市場に出回る量が少なく価格変動幅が大きいコメのような作物は、一攫千金を狙った投機筋が暗躍する場にもなり得る。日本国民の主食であるコメが、常にこうしたリスクにさらされている事実は、ほとんど知られていない。

●ミニアム・アクセス米の輸入は直ちに中止せよ

 世界各国のコメ生産が国内自給を前提として行われ、凶作により国際市場からコメを買い付けたい国があっても、出回る量が極端に少ないという状況の中で、日本は1995年のガット・ウルグアイラウンド農業合意により、必要もないミニマム・アクセス米(MA米)を毎年輸入するよう約束させられた。MA米の多くは主食用米として出回らないまま、政府の食料倉庫に眠るか、加工用米に転用されている。その加工用米の需要も、前述した水田フル活用や、自給率向上事業による転作米に今後は取って代わられるだろう。その一方で、コメを主食としながら経済的に貧しい発展途上国(その多くがアジア地域である)は、日本のMA米輸入によりさらに取引量が少なくなった国際市場で満足なコメ買い付けもできず、災害による大規模な凶作のたびに食糧不足に苦しんでいる。

 こんな愚かな農政を日本はいったいいつまで続けるつもりなのか。多くの識者が指摘しているように、ウルグアイラウンド協定のいかなる条項も日本にMA米の輸入義務など課してはいない。すべては日本の自主的な政策として行われてきた無駄な輸入に過ぎない。

 世界的に農産物が過剰基調にあるという認識の下で作られた農産物の貿易自由化という枠組みそのものが、今や全くの時代遅れとなった。世界人口は60億人に近づいており、その1割を超える9億が飢餓に直面している。今こそ日本は、途上国に災いだけをもたらす不要なMA米輸入などやめ、発展途上国のためにも、世界のコメ需給緩和に努めなければならない。

●今後の課題-価格維持政策か所得補償か

 本稿筆者は、かつて戸別所得補償制度は日本の農業を救わないが、生命維持装置としてその死をいくぶん先に延ばすことはできると指摘した。高齢化した個人農にできるだけ長く水田にとどまってもらう上で所得補償が一定の効果を発揮することは疑いないが、結局彼ら彼女らがリタイアすればその先はないという意味であり、筆者の戸別所得補償制度への態度はあくまでも「消極的容認」に過ぎない。

 戸別所得補償制度について、モデル事業もまだ終わっていない現段階で評価を下すのは早すぎることは承知しているものの、初年度に早くも顕在化したいくつかの問題を巡って、今後のコメ政策が価格維持政策中心であるべきか、所得補償中心であるべきかについて述べておくことは必要である。それは、長く日本を支配してきた自民党政権が前者を基本としてきたのに対し、2009年に政権を奪取した民主党が後者へと政策を一変させたことに見られるように、民主・自民両党の農業政策の鋭い(けれども、ほとんど唯一の)対決点ともなっている。

 減反や余剰米の政府買い上げといった価格維持政策は、すでに述べたように、減反に参加している一部農家の努力によって米価が維持され、その成果が減反に参加しない農家にも及ぶという意味で不公平感が出ることが問題である。一方、わずかな収穫量の増減が大幅な価格の変動につながることが多いコメの場合には、農家所得を金銭(直接補償)で調整するよりも、コメの市場への供給量で調整するほうが安く済む場合が多く、財政負担という点で優れた方式である。所得補償はその逆で、公平である反面、収穫量の増減がわずかである割には多額の財政負担を強いられる場合が多いというのが欠点である。

 結局のところ、どちらを選ぶかは農業を国民経済と国民生活の中でどのように位置づけるかによって決まるといえよう。コメは主食なのだから国民全体で支えるべきだという観点に立つなら、税金で所得補償を行うことは立派な農家支援策といえる。一方、コメ生産の維持はあくまで受益者=消費者の負担であるべきだと考えるなら、価格維持政策がその中心になるだろう。ただ、主食であるコメへの関わり方は濃淡があるとしても、日本国民のほとんどが毎日1回はコメを食べているに違いないから、コメに関する限り、受益者負担か税負担かというのはそれほど大きな問題にはならないのではないだろうか。

 2010年の戸別所得補償制度元年におけるモデル事業は、こうした事実を浮き彫りにし、再検討する機会を農政関係者に教えてくれただけでも有意義な経験だったといえそうだ。

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