エルが、イエスさまの横顔をじっと見つめていると、イエスさまの目から一粒の涙がぽとりと落ちました。
(ぼくのせいだ。ぼくのことを悲しんで泣いているんだ)
エルは、今まで自分のしてきたことを思い出しました。人間をばかにして、からかったこと。数え切れないほどのいたずらをしたこと。そしてシャミルのことを思うと……胸がはりさけそうになりました。
(スティックをかくされて、ぼくはシャミルのことをずっとうらんでいた。でも、あれは本当にシャミルが悪かったんだろうか……。
シャミルは、自分の足よりナタブさんの病気を治したかった。ナタブブさんを助けるためにしたことだったんだ。ぼくは、自分のことしか考えていなかった。つばさを下さいなんていえないよ。天に帰る資格なんてぼくにはない……)
エルの目からも涙がこぼれ落ちました。エルは坂を降りてふもとの草の上に倒れこみ、そのまま眠ってしまいました。
11ゴルゴダの丘
次の日、さわがしい人々の声でエルは目をさましました。
「十字架につけろ!」
「十字架だ!」
声は、エルサレムの町から聞こえてきます。エルは、胸さわぎがして町へ急ぎました。
「とうとうイエスは、十字架刑か。」
「当たり前よ。自分のことを、神の子なんていうからさ」
「もし、本当に神の子なら、おもしろいことが起こるかもしれないぜ」
「そうだな、見にいくか」
街角で、男達が話しています。
(イエスさまが、十字架につけられるって? うそだ、そんなことがあるはずない)
エルは、男たちの後についていきました。ゴルゴダの丘を息をきらしながら上っていくと、突然後ろから声をかけられました。
「エルじゃないか! 元気だったかい?」
ふり帰ると、シャミルが足を引きずって上ってきています。
「シャミル、あの時はごめん。絶交だなんていったけど、ぼく……」
エルは、言葉につまってうつむきました。
「ぼくの方こそごめんよ。ぼくのせいで君は、つばさをなくしてしまったんだもの」
「シャミル、どうして足を引きずっているの? スティックは?」
「スティックは、ベテスダにいる足の悪いおばあさんにあげてきた。あんなに悪いことをしてしまったぼくに、使うことはできないよ。ぼくは、一生足を引きずって生きる。ぼくが、君にしたことを忘れないために……」
シャミルは、つらそうに言いました。エルはたまらなくなって、シャミルの手をしっかりにぎりました。
「ところで、シャミル。イエスさまが十字架につけられたっていう人がいるけれど、うそだろう?」
「悲しいけれど本当のことだよ、エル。」
「本当のこと? イエスさまが十字架に!」
エルは、丘を一気にかけ上がりました。見上げると、丘の上に三本の十字架が立っていて、その真ん中にイエスさまがつけられていました。
つづく