生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

つばさをなくした天使(その2)

2008-08-03 15:40:51 | 童話

「エル、早くさがしにいっておいで!」
カミルがさけびました。
「次に池をかきまぜるときまでにもどってこないと、お前の羽はなくなってしまうからね」
「わかった。すぐもどるから」
エルはあわててスティックの飛んでいった方へ降りていきました。
(池の中に落ちたんじゃないから、すぐみつかるさ)

エルは、あちこち飛び回ってさがしました。でも、スティックは見つかりません。
「変だなあ。あれは光っているから目立つはずなんだけど……。」
エルは、歩いてさがすことにしました。エルの姿は人間には見えません。池のまわりには、大勢の病人がいました。目が見えず、つえをついている人。はうように歩いている人。毛布にくるまって寝ている人。ぐったりとした子どもを抱いた母親。
みんな悲しみに満ちた目をして、じっと池の水面を見ていました。
(色んな人がいるんだな)
エルは地上に降りてみて、はじめて気づきました。

「天使さん。何さがしているの?」
突然、後ろから声をかけられました。おどろいてふり返ると、エルより少し背の高い少年が立っていました。
「君、ぼくのこと見えるの?」
エルがたずねると、少年はにっこり笑ってうなずきました。
「それじゃあ、スティックも見えるよね。池をかきまぜるスティックを落としちゃったんだ」
「それは大変。一緒にさがしてあげるよ」
「ありがとう。助かるよ」
エルと少年は、歩き回ってあちこちさがしました。でも、スティックは見つかりません。
 
3ナタブさん

日がかたむきうす暗くなりはじめると、少年がいいました。
「今日はもうあきらめて明日にしよう。明日になれば、きっと見つかるよ。ぼくの寝場所で休むといい」
エルはしかたなくうなずいて、少年の後についていきました。

少年は途中で物売りからパンを買うと、横になっている男の人のところへ持っていきました。
「ナタブさん、具合はどう? 今日はめずらしくやわらかいパンが手に入ったよ」
少年はパンを小さくちぎると、ナタブさんの口へ持っていきました。
「今日は食べたくない……」
ナタブさんは、やっと聞き取れるほどの声でささやきました。
「だめだよ。少しでも食べなくちゃ。」
「今日は女の人が池に入って病気が治ったらしい……」
「この次はぼくがきっと、ナタブさんを池に入れるよ。」
「足の悪いお前じゃとうてい無理さ。」
「ぼくの足、治ったんだよ」
少年はナタブさんの前でぴょんぴょん飛びはねました。
「お前、どうして治ったんだ?」
「うん……。自然に治ったんだよ。だから、ナタブさんをおぶって池に入れられる。さあ、食べて元気だしてよ」
「ありがとうよ、シャミル。」
ナタブさんは涙をためて、パンを口に入れました。

「シャミルだって! 君、天使のシャミルなのかい?」
エルは叫びました。
少年はちょっとうなずいて片目を閉じると、ナタブさんに水を飲ませました。

つづく

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