生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

神さまのアトリエ(その2)

2008-06-17 10:36:46 | 童話

 ふとそう思って土浦駅に向かった。サイフは持ってきていない。コートのポケットに200円入っていた。一駅分の片道切符しか買えない。 
先のことは何も考えずに190円の切符を買って、ちょうどホームにすべりこむようにしてやってきた下り電車に乗った。
電車の中は暖房がきいていてポカポカあたたかい。久しぶりに歩いたので、疲れからうとうと眠ってしまった。

 ガタンと電車が止まって、あわてて降りた。駅の名をみると「亜鳥絵」と書いてある。
(あとりえ? 常磐線にそんな駅あったっけ……。) 
ちょっとのつもりだったけど、ずいぶん寝てしまったのだろうか。切符は一駅分だから、このまま上り電車でもどろうかと思った。

 ホームから改札の向こうをみると、大きな白い門がみえた。石を積み重ねてできている門で、木の扉は少し開いていた。中世ヨーロッパの城の門みたいだ。
門にひかれて改札へいくと、自動改札でもないのに駅員が誰もいない。というか、ホームにも駅にも誰ひとりいないのだ。

 改札を出ると、高さが10メートルぐらいありそうな門がドーンと目の前にそびえていた。少し開いている扉のすきまから中をのぞくと、建物も何もなく、ただ広い雪の原がひろがっていた。

(ここはどこなの? 福島まで来てしまったのだろうか……)
 美鈴が門の前でたたずんでいると、頭の上から子供の声がした。
「早く中に入って」
 見上げると、門の上に少年がすわっていた。少年の背中には天使のような羽根が2枚ついている。美鈴は、コスチュームを着ているのだと思った。

「あぶないよ、そんなところにのぼっちゃ」
 美鈴がいったとき、少年は羽を広げてふわっと目の前に降りてきた。
「えっ、その羽根本物? きみは天使なの?」
「そうだよ、ぼく天使のリエル。きみは、美鈴ちゃんだね」
 天使はなぜか美鈴の名前を知っていた。
「さがしものをしているんだ。ドロップ落ちてなかった?」
「ドロップって飴?」
「ちがうよ。これくらいの丸いお皿みたいなものだよ」
 リエルは両手の指でコースターくらいの大きさの丸を作ってみせた。
「お皿? さあ、みなかったけど……」
「ああ、困ったなあ。ひとつ足りないんだよ。ドロップがないとせっかくの絵が完成しないんだ」

「リエルは絵を描いているの?」
「ぼくじゃないけどね。すごくすてきな絵なんだ。みてほしいな」
 リエルは門の扉を大きく開けると、美鈴の手をぐいっとひっぱった。体は小さいのにすごい力だ。

 リムにひっぱられて門をくぐると、真っ白な世界で、美鈴はまぶしくて何度もまばたきをした。足元に雪の感触がしないのでかがんでさわってみると、白いものは冷たくない。布のような感じだ。

「これ、キャンバスなんだよ。上からみないとわからないんだ。とんでいこう」
 リエルは美鈴の腕をつかんで羽ばたいた。美鈴の体は風船のように軽くなり、宙に浮いた。

             つづく

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