生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

神さまのアトリエ(その1)

2008-06-16 13:01:19 | 童話

最近わたしは、ヤングアダルト(12歳~18歳)向けの小説や童話を書いています。わたしの精神年齢が14歳ぐらいなので、大人向けの小説はどう逆立ちしても書けません。
今日は今年2月に書いた童話を掲載します。
不登校になった少女が主人公の作品「神さまのアトリエ」は原稿用紙11枚の作品です。3回に分けて連載しますので、感想など聞かせていただけると嬉しいです。


神さまのアトリエ

「またこたつでゴロゴロしている。」
お母さんが掃除機をかけながら文句をいっている。
美鈴は、こたつに深く体を入れて両手で耳をふさいだ。
「なんにもしないで、一日家にいるんだから……。夕飯ぐらい作ってくれたらいいのに」

耳をふさいでもお母さんのかん高い声が聞こえてくる。バタバタと動き回るお母さんの足音が伝わってきて胃が痛くなる。

お母さんは高校の教師だ。毎朝5時に起きて、てきぱきと掃除、洗濯、夕飯の下ごしらえをして仕事に出かけていく。家でも学校でも明るくはつらつしている。
(お母さんは、何であんなに元気なんだろう……。それにくらべてわたしは……)

中学1年の美鈴は、9月から半年近く学校を休んでいる。とくべつないじめがあったわけではない。友達がいないわけではない。
かぜをこじらせて1週間学校を休んだ。久しぶりに学校へ行ったら、いつも一緒に行動していた親友の百合恵が、音楽室にいくとき別の友達と先にいってしまった。
「あ、先にいってゴメン。美鈴のこと、忘れてた」
百合恵は美鈴をみて、きまり悪そうに頭をかいた。

百合恵の言葉を聞いたら、学校へいく気力がなくなってしまった。百合恵は悪くない。意地悪で先にいったのではない。でも、1週間休んだだけで忘れられてしまう自分って何だろう? と思うと、体が石のように重くなった。

美鈴は、毎朝きがえて学校にいこうとする。朝ご飯を食べて出かけようとすると、決まってお腹が痛くなる。今日は吐き気までして、トイレで吐いてしまった。トイレから出ると、こたつにもぐりこんで、そのまま出られなくなった。
「3時になったら洗濯物とりこんでおいてね」
お母さんはむりやり美鈴を学校にいかせるようなことはしない。でも、学校へいかない美鈴に対してイライラしているのがわかる。
朝食の食器がこたつの上に置いたままになっているのをみて、片づけながらつぶやいた。

「まったく役立たずなんだから」
お母さんは流しにガチャリと食器を置くと、せかせかと出かけていった。
しばらくして美鈴は起き上がった。こたつから出てのろのろと自分の部屋にいき、コートをはおった。

美鈴は、重い体を引きずるように、しばらくぶりで外に出た。
『忘れてた』という百合恵の言葉と『役立たず』というお母さんの言葉が頭の中でグルグル回っている。
(自分はいったい何者なんだろう? 学校では、いてもいなくてもいい存在。家ではお荷物的存在……。何のために生きているんだろう?)
そんなことを考えながら街を歩いた。
(自分のことを誰も知らない街へいってみたい)
           

       つづく


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