6年間というのは大分トリニータの監督として最長の在籍期間であり、さらに大分トリニータが常識的なクラブに生まれ変わってからは同一カテゴリーに連続3年留まったというのも最長。それがJ1なわけだからいかに片野坂さんの手腕が素晴らしかったかということ。
監督自身は初年度である2016年のJ3優勝が一番嬉しかったと言っていたけど、確かにこの年は結果しか求められていなかったと言っても過言ではないし、片野坂さんのスタイルが結果を最短距離で追い求めるものではないだけに葛藤もあったと思う。監督デビューの年に求められるものが重すぎるし本当に見事に応えてくれたと思う。優勝と昇格を決めたアウェイ鳥取戦は試合終盤から雨が降り出してきたので、これしか片野坂さんの写真が残っていないくて残念。
個人的には6年間の中で最も楽しくて嬉しかったのは2018年のシーズンだ。昇格したことはもちろんなんだけど、それよりも攻撃的に次々とゴールを決めていくというチームスタイルがこんなにもワクワクするものなのかというのを初めて知ったかもしれない。大分トリニータの歴史上守備的に輝いたチームはいくつかあってそれがけっこう好きだと思っていた。大分のカラーにも合っていると思っていたんだけど、攻撃的であるということがこんなにも魅力的だということを知らなかっただけだったのかもしれないということをこの年に気付かされた。警戒して守備に専念してくるチームには手を焼くこともあったけど、真っ向からぶつかってくるチーム相手に容赦なくゴールを重ねていった痛快なシーズンは忘れられない。
始まる前は恐いなという思いもあったけど、J1初年度の躍進はある程度は想定通りだったと思う。うちに限らず、またカテゴリーを問わず、芯を作ってステップアップするチームはその先でもうまくいくという傾向は間違いなく日本のサッカーにはあると感じていて心配だった選手層の薄さすらもあっさりとカバーしてしまった。特に序盤のまだ相手チームが我々に対して「昇格チーム相手だから...」というある種のマウントとも取れる発言があるうちは返り討ちにしてやるのが楽しくて仕方なかった。まあ気温の上昇とともにそんなこと一切言われなくなったけどね。
J1の2年度目は試行錯誤の年だったと思う。J1に留まり続けることが出来るクラブを目指して特に攻撃面での試行錯誤が続いた。ただ結果的にはこれが翌年まで響いて致命傷になった感は否めないけど、ただ目指した方向性は理解出来るものだったから仕方ないとは思う。片野坂さんが次に行くクラブではこんなことを考える必要はないと思うから、もっと純粋に試合に集中出来る環境だと思う。
さすがに今年はほとんど沈んだ表情しか残っていない。当然と言えば当然だけど、だから降格決定以降に意図的とも思えるくらいにハジけたり、いつも以上に情熱的なアクションを見せてくれたのは我々サポーターへの配慮だったのかなとも思った。
たまにはこんなシーンもあったけど、6年間を通して本当にクリーンな指揮官だった。片野坂さんから発せられる「相手へのリスペクト」といった一見陳腐に思える言葉もそれがキレイごとではないことは片野坂さん自身の行動を見ていればすぐに分かった。見ていて気持ちがいい、サッカーに集中出来る、そしてカードトラブルもほとんどない、結果的にそのスタンスがチームの強化にも繋がることが分かっていたんだろうなと改めて思う。
人格者であり、戦術家であり、スカウトであり、ともに戦う同志であった片野坂さん。今は思い出せないけど、もっとたくさんの顔があったと思う。なかなかこんな指揮官には巡りあえるものではないと思う。
降格は残念だったけど、天皇杯での大冒険は最後にともに良い思い出作りが出来て本当に良かったと思う。この記憶は今後ずっと忘れることはないと思う。
プロスポーツの監督という職業は本当にシビアだと思う。今シーズンの最大の目標はJ1残留であって天皇杯優勝ではないわけだから、あまり美談に仕立て上げて送り出すのはちょっと違うと個人的には思っている。ただここで片野坂さんももう一つ上のレベルを目指し、我々も新しい指揮官とともに次のクラブとチームを作り上げていくにはこのタイミングでのお別れで良かったと思う。クラブというのは存続する限りは終わりのない物語のようなものであり、「片野坂知宏」という一つの章が終っただけのこと。もしかするとこれから先に、ラスボスとして我々の前に片野坂さんが立ちはだかる章があるかもしれないし、「片野坂知宏、再び」の章があるかもしれない。でも今はそれが分からないから面白いわけだし、別れが美しいのだと思う。
片さん、6年間本当にありがとう!目指せ代表監督、楽しみに待っています!!