アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

人生スイッチ

2017-03-30 23:38:13 | 映画
『人生スイッチ』 ダミアン・ジフロン監督   ☆☆☆★

 アルゼンチンのオムニバス映画を、日本版DVDで鑑賞。私は英語以外の言語の映画は英語字幕を読むのが面倒なので、最近はなるべく(値段と相談しつつ)日本のソフトを買うようにしているが、これはわざわざ日本版を購入する価値があったかどうかちょっと微妙、だけどまあいいか、ぐらいの印象である。オムニバムといっても同じ監督の短篇映画の集合体で、プロローグも入れると六篇の作品で構成されている。どれも何かのきっかけで一線を越えてしまった、つまりキレてしまった人々の話である。それぞれの話は大体、次のような感じである。

 プロローグ「おかえし」:飛行機に乗り合わせた見知らぬ人々が、なぜか全員同じ男の知り合いであることが判明する。元カレだったり、教え子だったり、患者だったり。これは一体どういうことなのか? 人々が不審に思った瞬間、思いもよらぬプランが始動した…。

 第一話「おもてなし」:深夜のダイナーに一人のイヤな客がやってくる。男はウェイトレスの一家を破滅させた、憎んでも憎みきれない男だった。それを聞いたコックのおばさんはウェイトレスに真顔で「ネズミ殺しの毒を入れて食わせちまえばいい」と告げる。「そんなことできない!」と拒むウェイトレスだったが…。

 第二話「エンスト」:ひと気のない田舎のハイウェイを新車で走るスーツの男。いやがらせをするかのようなトロいトラックを追い越し、「このカッペがよ!」と罵倒して走り去る。ところがタイヤがパンクし、車を止めてタイヤ交換しているところへ、例のトラックが追いついてくる。「オーケー、さっきは悪かった。水に流そう」が、トラックの運転手は恐るべき報復行為を開始した…。

 第三話「ヒーローになるために」:ビル爆破作業に従事する一人の男が、娘のバースデイ・ケーキをピックアップしている間に車をレッカー移動される。駐車禁止の表示がなかったと抗議するが相手にされず、罰金を払って車を取り戻す。家に帰ると誕生パーティーは終わっており、妻が離婚を切り出す。翌日、駐車違反のチケットを持って陸軍局に行き、再び抗議するが嘲笑われ、逆上して暴れる。逮捕され、会社はクビに。職探しの面接に行くが会ってもらえず、怒りながら出てくるとまたもや車がレッカー移動されていた…。

 第四話「愚息」:富豪の息子がひき逃げ事件を起こし、泣きながら帰宅する。事件はニュースで報道され、犯人が分かるのも時間の問題。富豪と弁護士は相談し、庭師に身代わりになってくれと頼む。引き受けてくれたら50万ドル払おう、君が一生かかっても稼げない額だ。ところがやってきた刑事はそれを信じない。やむなく、富豪は百万ドル払って刑事を買収。すると弁護士も百万ドル払えと言い出し、庭師は別荘もつけてくれと言う。富豪の忍耐は限界に達し…。

 第五話「Happy Wedding」:盛大な結婚披露宴。新郎が親しげに話す美女に気づいた新婦は、あるケータイの番号に電話をかける。するとそれを取ったのはその美女だった。新婦はそれが新郎の浮気相手であることを知り、泣きながら会場を飛び出す。それを追う新郎。ビルの屋上にたどり着いた新婦は、そこでタバコを吸っていた料理人に慰められ、衝動的に彼にキスをする…。

 個人的には第三話と第四話が面白かった。第三話で災難続きの主人公を演じるのは、『瞳の奥の秘密』で主演だったリカルド・ダリンである。やはりコミカルな演技もうまい人だった。この話は、車をレッカー移動されたことがある人なら誰だってバリバリ共感できるに違いない。不幸の連鎖と我慢が限界に達するまでの紆余曲折が楽しいし、ラストもユーモラスで、かつ救いがあるのがいい。

 第四話のひき逃げの話は、極限状況での人間のエゴと欲がぶつかり合い、そして逆ギレと交渉の応酬が非常にスリリング。途中まではギリギリ我慢しているが、ちょっとしたきっかけでブチ切れ、「も、わし、どーでもええけんね」と開き直ってしまう親父が実におかしい。

 他の話は個人的にはイマイチ感があり、たとえば第一話と第二話はシチュエーションは面白いものの、展開が直接的な暴力になってしまうところが面白くない。刺激とグロはたっぷりあるけれども、底が浅い。第五話もまあまあだが、花嫁がプッツンしてからはグチャグチャな状況が延々続き、間延びしてしまっているように感じた。やはりこの手の映画は玉突きゲームのように、連鎖反応的に事態が転がっていくというスリルが欲しい。あと、プロローグも悪くなかった。これは他のエピソードと違ってキレた本人が画面に出て来ない趣向だ(画面の外にはちゃんと存在する)。最初は不可解なミステリ風に始まり、一体どういうことかと思わせておいて、実は…とオチがつく。

 バラエティに富んでいるので、ちょっと暴力過多でグロいシーンがあることを気にしなければ楽しいオムニバムだと思う。ただエンタメに徹した姿勢は悪くないが、アイデアとプロット頼みの話ばかりなので、全体に小粒感は否めない。



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