アブソリュート・エゴ・レビュー

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ニウロマンティック

2017-03-18 22:19:10 | 音楽
『ニウロマンティック』 高橋幸宏   ☆☆☆☆☆

 高橋幸宏の『ニウロマンティック』、1981年発表。YMOの『BGM』と同じ年である。「ロマン神経症」との副題がついており、「ニウロマンティック」がニュー・ロマンティックとニューロティック=神経症的な、をかけた造語であることは言うまでもない。アルバムジャケットもそうだが、サウンドも『BGM』と非常によく似ており、双生児的なアルバムといっていいだろう。

 キラキラでもピコピコでもなく、くぐもった感じの重たいシンセサイザーの音。強迫的に切り込んでくるようなリズム。ニューウェイヴの影響を強く受けた、暗いテクノである。順番に曲を見てみたい。一曲目「ガラス」は、このアルバム全体のイメージを決定づける名曲だ。暗く、重厚で、憂鬱なロマンティシズムの具現化であるところのポップソング。音はノイジーなシンセサイザーがマイナーコードを鳴らし、その上で高橋幸宏の声が物憂げに響く。そして幸宏が叩くドラムは神経質でとんがっていて、まるでナイフを突き立てるが如き鋭角的な音だ。『BGM』の一曲目「BALLET」によく似ているが、個人的には「ガラス」の方が気に入っている。後半に入っているサックスの音が、YMOにはない、濡れた情緒を醸し出している。

 ゆったりしたテンポの細野晴臣作曲「大いなる希望」のあと、今度は急き立てるようなテンポが小気味よい「コネクション」では高橋幸宏のポップセンスが光る。曲の展開がとてもクールで、電子音の使い方もお洒落だ。四曲目「神経質な赤いバラ」は、いかにもYMOっぽいエキゾチックなメロディとノイジーなシンセ音が印象的なインストゥルメンタル。これもかっこいい曲だ。サビのメロディが、ちょっと『BGM』に入っている細野晴臣の名曲「MASS」を思わせる。

 「非・凡」は個人的にはそれほど面白くないヴォーカル曲だが、わりとハードなギター・ソロが入っているのが新鮮だ。弾いているのは大村憲司あたりだろうか。「ドリップ・ドライ・アイズ」は哀愁漂うメロディが印象的な曲で、いかにも高橋幸宏らしい甘美さが匂い立つ。なかなか良い。そして坂本龍一作曲のヘヴィーな「カーテン」。さすがにコード進行が一味違い、凝っている。アレンジにも品の良さを感じる。次はテンポがどことなく「ライディーン」を思わせる「チャージ」。インストゥルメンタルで、シーケンサーを使ったブリッジ部分がいかにもテクノだ。そしてラスト、マイナーコードからメジャーコードへの展開が美しいヴォーカル曲「予感」で、このアルバムは締めくくられる。

 それぞれいい曲が揃っているが、このアルバムはやはり全体に立ち込める暗いロマンティシズムの香りを胸いっぱいに吸い込み、クラクラと陶酔するのが正しい鑑賞態度だろう。それぐらい濃厚な統一感がある。また、当時の先鋭的な音ではあるけれども、そこはやはりYMO内でもポップセンス随一の高橋幸宏氏の作品だけあって、適度な甘さとエレガンスがYMO的な前衛性を和らげている。



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