アブソリュート・エゴ・レビュー

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黒い画集 ある遭難

2013-04-23 21:54:36 | 映画
『黒い画集 ある遭難』 杉江敏男監督   ☆☆

 松本清張で「黒い画集」シリーズとして映画化されているのは『あるサラリーマンの証言』『寒流』とこの『ある遭難』の三つだが、『ある遭難』は原作から推して内容が見劣りするような気がしたのと、評判もあまり良くないのでこれまで手を出さなかった。今回やっぱり気になるのでDVDを買ってしまったが、予想通り三作の中では一番話に膨らみがなく、物足りない。

 ただし、決して面白くないわけではない。基本的に原作に忠実な映画化である。ある銀行員(児玉清)が山で遭難し、死亡する。彼は銀行の上司(伊藤久哉)、同僚と三人で山に登ったのだが、山登り初心者の同僚が無事だったにもかかわらず、経験者の彼だけが死ぬ。彼の妹(香川京子)はそこに不審の念を抱く。次に、生き残った同僚が社内報に書いた文章に沿って遭難の経緯が詳細に描かれる。前の日わざわざ寝台車を取って充分休んだこと、それなのに彼だけなぜか疲れていたこと、山登りの途中でも疲労が甚だしかったこと、何度も休憩したこと、途中で天候が崩れたこと、霧が出て道を間違ったこと、彼を疲労を見かねて上司が荷物を肩代わりしたこと、などなど。

 これを見る限り、特に不自然なところはない。同僚と上司がグルになって嘘をついていない限り、彼の死は不可抗力のように思える。上司も同僚も同じ状況にいたわけだし、なるべく彼を助けようと努力している。

 次に妹が上司に面会を申し込み、弟の遭難現場に花を添えてやりたいから、登山が趣味の自分のいとこ(土屋嘉男)を現場まで連れていってもらえないだろうか、と頼む。上司は承諾し、今度はこの二人で、同じルートを登っていく…。

 最初に「一見そう見える」遭難の経緯を見せ、次に同じコースを歩いて謎解き、という構成は悪くない。それに遭難の経緯に作為の入り込む余地がないように見えるので、どういう裏があるのか、という興味はなかなか惹きつける。慇懃無礼に上司に絡んでいく土屋嘉男も良い。

 ただやはり、ほとんどが登山のシーンばかりという変化の乏しさに加え、謎解き部分が弱いのが致命的だ。それまでそれなりに興味を惹き付けてきたのに、「え、これだけ?」というところでもう終わってしまうのである。結末もあっけない。前半はなかなか悪くない感じだったのが、後半急に失速する感じだ。香川京子は出演者の中では一番の大物でポスターにも大きく映っているくせに、実質はチョイ役で、ほとんど出てこない。おまけに最後の独白はかなりマヌケで、ずっこけそうになった。あれで映画を締めるのはちょっと無理があるんじゃないか。

 土屋嘉男の役柄は悪くなかったので、もっともっとコロンボみたいにねちっこく絡みつかせ、微に入り細に入り突っ込ませて緊迫した心理劇にしたら、もっと面白くなったんじゃないだろうか。


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