
『終わりの街の終わり』 ケヴィン・ブロックマイヤー ☆☆☆★
最近注目されているらしい若手アメリカ人作家の長編小説を読了。この人はケリー・リンクやエイミー・ベンダーなどと同じく今アメリカで多いアンリアリズム系、解説の小川隆氏によればニュー・ウェーブ・ファビュリストと呼ばれる作家の一人らしい。確かに小説の感触が良く似ている。本書のアイデアはかなりSF的で、ネビュラ賞にノミネートされたらしい。人類が滅亡する話なのでSFと言っても差し支えないだろうが、たとえば人類を滅亡させる新型ウィルスの説明などほとんどないところが従来のSFと異なり、やはりファビュリスト=寓話作家たるゆえんだ。もっともらしい科学的説明などに興味がないのである。
とりあえず設定が非常に面白い。面白いだけでなく、美しい。人は死んだら死者の街に行ってそこで暮らす。これら「生ける死者」たちは、生者の世界で誰かが記憶してくれている限りそこで暮らすことができる。しかし記憶している人が誰もいなくなった時、彼らはその街からも消えてしまう。これは死者にも二種類あるというアフリカ社会の死生観にもとづいているという。そしてこの世界観の中に、この作者は新型ウィルスによる人類滅亡というSF的イベントを放り込む。生きているのは南極のシェルターに取り残されたローラだけ。そして死者の街に暮らすのはローラの記憶に存在する人々だけ…。
物語は死者の街と南極のローラの間を行ったり来たりして進む。死者の街ではたくさんの登場人物が群像劇的に描かれ、物語の要となる人物は特に存在しない。そういう意味では断片的エピソードの連なりといっていい。では南極のローラが主人公かというと、必ずしもそうじゃない。重要な人物には違いないが、あまり大したことをしないのである。シェルターからペンギン研究の基地に移動するぐらいだ。この小説からは主人公が不在であるという印象を受ける。本書に否定的な書評の大半がキャラクターの弱さをあげているらしいが、確かにそれはうなずける。ただし解説の小川隆氏は、それを匿名性をもった普通の人間を描く手法として肯定的に捕らえている。
私はというと、やはり冒頭が一番面白かった。死者の街にやってくる色んな死者のエピソードをテンポ良く羅列した部分である。スピード感があり、濃密で、ユーモラスでもあり、ケリー・リンクやエイミー・ベンダー、あるいはエリック・マコーマックの短篇のような軽やかな味がある(マコーマックみたいにグロテスクじゃないけれども)。そして前述したようにそこで紹介される世界観がポエティックで魅力的だ。その後、物語は時間をかけて淡々とフェード・アウトしていくような印象を受ける。この世界の中で過す人々の心象風景があれこれと描かれる。主人公は不在、ローラも大勢の中の一人に過ぎない。行動より回想がメインだ。そのまま静かな諦念とともに物語は終わっていく。
これはもともと短篇だったらしいが、確かにそんな感じがする。ひょっとしたら短篇のままの方が良かったんじゃないだろうか。
最近注目されているらしい若手アメリカ人作家の長編小説を読了。この人はケリー・リンクやエイミー・ベンダーなどと同じく今アメリカで多いアンリアリズム系、解説の小川隆氏によればニュー・ウェーブ・ファビュリストと呼ばれる作家の一人らしい。確かに小説の感触が良く似ている。本書のアイデアはかなりSF的で、ネビュラ賞にノミネートされたらしい。人類が滅亡する話なのでSFと言っても差し支えないだろうが、たとえば人類を滅亡させる新型ウィルスの説明などほとんどないところが従来のSFと異なり、やはりファビュリスト=寓話作家たるゆえんだ。もっともらしい科学的説明などに興味がないのである。
とりあえず設定が非常に面白い。面白いだけでなく、美しい。人は死んだら死者の街に行ってそこで暮らす。これら「生ける死者」たちは、生者の世界で誰かが記憶してくれている限りそこで暮らすことができる。しかし記憶している人が誰もいなくなった時、彼らはその街からも消えてしまう。これは死者にも二種類あるというアフリカ社会の死生観にもとづいているという。そしてこの世界観の中に、この作者は新型ウィルスによる人類滅亡というSF的イベントを放り込む。生きているのは南極のシェルターに取り残されたローラだけ。そして死者の街に暮らすのはローラの記憶に存在する人々だけ…。
物語は死者の街と南極のローラの間を行ったり来たりして進む。死者の街ではたくさんの登場人物が群像劇的に描かれ、物語の要となる人物は特に存在しない。そういう意味では断片的エピソードの連なりといっていい。では南極のローラが主人公かというと、必ずしもそうじゃない。重要な人物には違いないが、あまり大したことをしないのである。シェルターからペンギン研究の基地に移動するぐらいだ。この小説からは主人公が不在であるという印象を受ける。本書に否定的な書評の大半がキャラクターの弱さをあげているらしいが、確かにそれはうなずける。ただし解説の小川隆氏は、それを匿名性をもった普通の人間を描く手法として肯定的に捕らえている。
私はというと、やはり冒頭が一番面白かった。死者の街にやってくる色んな死者のエピソードをテンポ良く羅列した部分である。スピード感があり、濃密で、ユーモラスでもあり、ケリー・リンクやエイミー・ベンダー、あるいはエリック・マコーマックの短篇のような軽やかな味がある(マコーマックみたいにグロテスクじゃないけれども)。そして前述したようにそこで紹介される世界観がポエティックで魅力的だ。その後、物語は時間をかけて淡々とフェード・アウトしていくような印象を受ける。この世界の中で過す人々の心象風景があれこれと描かれる。主人公は不在、ローラも大勢の中の一人に過ぎない。行動より回想がメインだ。そのまま静かな諦念とともに物語は終わっていく。
これはもともと短篇だったらしいが、確かにそんな感じがする。ひょっとしたら短篇のままの方が良かったんじゃないだろうか。
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