アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Deja Vu

2015-11-25 23:47:00 | 音楽
『Deja Vu』 CSN&Y   ☆☆☆☆☆

 クロスビー・スティルス・ナッシュ & ヤングの『Deja Vu』は1970年のリリース。今更言うまでもなく、ウッドストックの時代を象徴する名盤である。四人組としてのデビュー・アルバムはこれになるが、ヤング抜きのクロスビー・スティルス & ナッシュでは前年に『クロスビー・スティルス & ナッシュ』を発表しており、当然ながら本作はこのアルバムの発展形となっている。

 私の年代の日本人では、映画『小さな恋のメロディ』で初めてCSN&Yの音楽に触れたという人が多いのではないかと思う。あの映画のラスト、一番盛り上がるクライマックスで軽やかに流れるCSN&Yの「Teach Your Children」は本当に素晴らしかった。この映画で主に劇伴を担当していたのはビージーズなのだが、ラストだけはなぜかCSN&Yのこの曲だったのである。甘く華やかなビージーズの楽曲と比べると、CSN&Yのこの曲はハーモニーから何から渋めだが、この曲が持つなんとも言えない暖かさが映画の余韻を大きく膨らませていたことを覚えている。

 そして、その「Teach Your Children」が収録されている『Deja Vu』を私が聴いたのはずっと後になってからだったが、他の曲の雰囲気が全然違うことに驚いた。「Teach Your Children」と似た雰囲気の曲は同じグラハム・ナッシュの「Our House」ぐらいで、他は曲想から演奏から似ても似つかないのである。実はこれこそがCSN&Yの特徴で、このバンドはそれぞれ独自の音楽性を持った四人がたまたま寄り集まって一緒にやっているだけという、要するにソロの集合体なのである。だから誰がイニシアティヴをとるかでまったく違った曲になる。

 それでも三人組による前作『クロスビー・スティルス & ナッシュ』ではまだ三人のハーモニーを聴かせる姿勢が顕著だったが、このアルバムではもはや一人一人の個性が強烈に出ている。ハーモニー主体のフォーク調の曲もあれば、ソロ・ヴォーカルを聴かせるロック調の曲もある。「Teach Your Children」のようなハートウォーミングな曲もあれば、シリアスでヘヴィーな曲もある。実に多彩だ。バラエティに富んでいる。

 しかも、そのバラエティに富んだ楽曲の数々がどれも「本物」なのである。CSN&Yの本領といえばこの曲だけれども、それだけじゃつまらないので他の曲では変化をつけてみました、というようなバラエティの豊かさではない。曲によってさまざまな音楽性が顔を出し、その本気度においてどれもが完璧に拮抗している。その一方で、当然ながらCSN&Yとしての一体感を見せつける絶妙のハーモニーも聴かせる。ソロの集合体でもあり、統合されたバンドでもあるという強みだ。

 CSN&Yのハーモニーについてはもはや説明不要で、声質からフィーリングまで、ここまで調和した美しいハーモニーを聞かせるロック・バンドは他にない。個々のソロ・ヴォーカルを聴くとちゃんとそれぞれ違う個性があるのだが、ハーモニーを聴くと同一人物が多重録音で作り上げたのかと思うほど調和して聴こえるのである。そもそもこの四人の声は不思議なほど相性が良く、ちょっとハスキーなところとか、金属的ではなくちょっとくぐもった感触とか、声のDNAが共通している感じがする。

 そしてもう一つこのアルバムが見事なのは、曲の構成である。四人の絶妙のハーモニーを聴かせる曲、あるいはソロの個性を聴かせる曲、それらが実に巧妙に配置されていてリスナーを飽きさせない。たとえば四人のハーモニーで聴かせる渋い「Carry On」で幕を開け、続く「Teach Your Children」で心温まる感動を与えたかと思うと、次の「Almost Cut My Hair」では重厚かつシリアスなクロスビーの絶唱を聴かせる。ニール・ヤングの沁みるバラード「Helpless」のあとには、ロックっぽい「Woodstock」が来る。このように、このアルバムにおいてはソロの集合体であり統合されたバンドでもあるというCSN&Yの変幻自在性が、最大限に生かされている。

 当時、それぞれ創造力のピークにあったであろう四人の曲がどれも傑作であることは言うまでもない。アコースティックとエレクトリックのバランスの良さ、フォークの枯れた味わいとロックの熱さが同居するこのアルバムは、ウェストコースト・ロックの懐の深さを見せつける名作というにふさわしい。

 


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