アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

The Man Who Wasn't There

2011-05-15 14:05:04 | 映画
『The Man Who Wasn't There』 Joel Coen監督   ☆☆☆★

 コーエン兄弟の『The Man Who Wasn't There』をDVDで再見。邦題は『バーバー』。まあ確かに、バーバーの方が分かりやすい。主人公はビリー・ボブ・ソーントン演じる床屋である。

 前にも書いたが、私は『ファーゴ』の方が面白かった。確かに本作の方がスタイリッシュだが、ストーリーは弱い。途中まではいい感じなのだが、終盤に失速する。

 時は1949年、カリフォルニア。エド(ビリー・ボブ・ソーントン)は義兄が経営する床屋で働く理髪師である。ペラペラ良く喋る義兄に対して寡黙、かつヘビースモーカー。いつもくわえタバコで眉間に皺を寄せている。ある時客が話した「ドライクリーニング」とやらに投資しようと思いつき、一万ドルを得るために妻の会社のボス=不倫相手をゆする。うまいこと金をせしめて投資したと思ったら、ゆすった相手から夜中に呼び出され、なりゆきで格闘になったあげく殺してしまう。翌日刑事がやってくる。観念してついていこうとすると、刑事がもじもじしながら言う。「悪いニュースだ。奥さんが殺人容疑で逮捕された」ボー然とするエド。こうして、無実の妻を救おうとする彼のオフビートな孤軍奮闘が始まった…。

 とにかくスタイリッシュな映像だ。まず、わざとモノクロ。そして主人公は床屋のくせに雰囲気はボギー。無口、いつもくわえタバコ、帽子を斜めにかぶる。とにかくどの場面でも、無意味なまでにハードボイルドな雰囲気がムンムン。ナレーションでエドの独白が入るが、冒頭に義兄のおしゃべりっぷりを紹介した後「おれか? おれは無口なタイプだ」とビシっと決める。ハードボイルドな床屋だ。すでに笑える。本作のビリー・ボブ・ソーントンは実にいい味を出している。

 エドは妻の濡れ衣を晴らそうと腕利きの弁護士を呼ぶが、この弁護士がまたおかしい。別にコミカルなわけではないが、微妙におかしい。このあたりのセンスはコーエン兄弟ならではで、そういう意味では非常にコーエン兄弟らしいフィルムだ。このやたら食欲旺盛な弁護士はまったく真相に関心がない。とにかくどうやって勝つかだけが彼の関心事で、だからエドが「殺したのはおれなんだ」と告白しても、オーケー、じゃ動機はなんだ、いかんいかん、そのストーリーはうまくないといって却下してしまう。

 ネタバレにならないようにその先は書かないが、この「自分の身代わりに殺人罪で逮捕された妻を救おうとする床屋」シチュエーションはやがて終了する。終盤はピアノを弾く少女(スカーレット・ヨハンソン)のエピソードからブラックな展開になるが、この終盤のプロット交代が構成として弱いこと、そして終盤のいかにも「皮肉な」展開があからさまで人工的なこと、ついでに言うと底が浅く皮相的であること、が私の不満である。実際、一度観たあと、途中まではよく覚えていたが、最後どうなったかはほとんど忘れていた。

 しかしまあ、このスタイリッシュさとビリー・ボブ・ソーントンのえも言われぬ存在感だけで、コーエン・フィルムのファンなら見る価値はあるだろう。


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