アブソリュート・エゴ・レビュー

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ジャンゴ 繋がれざる者

2014-05-23 08:19:14 | 映画
『ジャンゴ 繋がれざる者』 クエンティン・タランティーノ監督   ☆☆☆☆

 DVDで再見。面白い。タランティーノ作品としては傑作『パルプ・フィクション』にこそ及ばないものの、かなり上位に来ると思う。個人的には『イングロリアス・バスターズ』より好きだ。

 今回はウェスタンである。それも、奴隷制度が題材。奴隷だった黒人ジャンゴがドイツ人賞金稼ぎの相棒となり、売られていった奴隷妻ブルムヒルダを白人の農園主から奪い返すというストーリー。これはもう鉄板である。奴隷として虐げられる黒人たち、黒人を人間扱いしない白人たち、という問答無用の勧善懲悪シチュエーションを得て、タランティーノ十八番の容赦ない「復讐譚」が炸裂する。後半ジャンゴが戦うキャンディ農場一派は別にブルムヒルダをさらった犯人ではないので直接の復讐ではないが、もうこの映画の中でジャンゴが白人達をぶち殺す行為のすべてが「奴隷制度」という残虐行為に対する復讐なのであり、そういう意味で本作には甘美なる復讐の快感が満ち溢れている。

 そしてもちろん、タランティーノはこれをけれんみたっぷりに、あざとく、えげつなく盛り上げていく。奴隷制度というシリアスでデリケートな題材に臆することはまったくない。社会派っぽい問題提起や「考えさせる」アプローチなど一切なし、完全なエンタメに徹してしまう。しかも、例によってB級テイスト満載だ。ガンファイト場面は過剰なまでに血みどろだし、ジャンゴの反撃はえげつないほどの二倍返し三倍返しである。

 本編の主人公は「自由な黒人」にして早撃ちガンマンのジャンゴ(ジェイミー・フォックス)だが、彼のパートナーであるドイツ人賞金稼ぎのドクター・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の存在感と重要性はジャンゴ以上で、彼こそが本作のキーパーソンである。ジャンゴを買い取って自由にし、自分のパートナーにし、ジャンゴのメンターになるという意味だけでなく、白人はすべて黒人を家畜として扱うこの映画の中において、彼は唯一黒人を白人と同じ人間として見る白人であり、つまり映画を観ている我々と(おそらく)同じ、そしてこの映画を作っているタランティーノ監督と同じ目線を持つキャラクターである。この映画は復讐譚なので、必然的に虐げられる側に身を置くジャンゴが主人公になるが、実はこの映画の「正義」を体現しているのはジャンゴではなくドクター・シュルツである。ドクター・シュルツがいるからこそ、これが私怨のみの復讐劇ではなく勧善懲悪の映画として成立する。そして観客は気持ちよく、ジャンゴとドクター・シュルツの暴れっぷりに喝采を送ることができる。

 加えて、『イングロリアス・バスターズ』でも強烈な存在感を放っていたクリストフ・ヴァルツの軽快かつ精妙な演技は、もはやおいしいところをすべて持っていった感がある。ジェイミー・フォックスもがんばっているが、クリストフ・ヴァルツと比べると深みに欠け、平面的だ。

 さて、この映画は冒頭から序盤にかけてがもっとも面白い。タイトルバックは鎖に繋がれて歩かされる奴隷たち、馬に乗ってそれを監督する白人の奴隷商二人。そこに出現する馬車に乗った外国人の歯医者、ドクター・シュルツ。彼はある賞金首の顔を知っているジャンゴを買いたいと馬鹿丁寧に申し出るが、二人の奴隷商は無礼な態度でそれを無視、銃を突きつけて「失せろ」と怒鳴る。「そうですか」言うと同時にドクター・シュルツの銃が火を吹く。一人の脳髄が飛び散り一人は馬の下敷きになって絶叫する。とんでもない早撃ちで観客の度肝を抜く。そしてドクター・シュルツは律儀に金を払い、証明書を受け取ってジャンゴを引き取る。馬の下敷きになっていた男は、黒人奴隷たちに命乞いをしながら撃ち殺される。

 次のエピソードもいい。テキサスのある町にやってきたドクターとジャンゴ。馬に乗る自由な黒人を見たことがない町の連中は仰天し、保安官を呼んでくる。保安官が偉そうな態度で二人に町を出て行けと命令すると、ドクターは無言の早撃ちで保安官を射殺する。ビビッて「逃げなくていいのか?」と聞くジャンゴに、ドクターは余裕綽綽で「ビールでも飲め」。次に連邦保安官と警官隊がやってきて二人を包囲するが……。

 この顛末はこれから観る人のために書かないでおくが、痛快度100パーセントのエピソードである。この冒頭二つのエピソードの面白さは最高で、この先の展開に期待が高まること必至である。

 こうして前半は二人の賞金稼ぎとしての仕事っぷりが描かれ、後半はジャンゴの妻ブルムヒルダの奪回作戦となる。彼女が農園「キャンディランド」に買われたことを突き止めた二人は、農園主のカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)に交渉しようとするが、ストレートに行くと足元を見られると考え、マンディンゴ・ファイターの売買業者のふりをしてキャンディに近づく。作戦は図に当たり、二人はキャンディの屋敷に招待される。しかし屋敷には奴隷頭のスティーヴン(サミュエル・L・ジャクソン)がいて、ブルムヒルダとジャンゴの様子に疑惑を抱くのだった……。

 キャンディランド篇になると前半の快調なペースはスローダウンするかわりに、ディカプリオやジャクソンという魅力的な演者を加えてじっくり見せる。黒人を人として扱わない残酷さ、傲慢さ、そして貴族的な気取りがミックスされたディカプリオの怪演、そして黒人ながら誰よりも黒人を蔑視するというサミュエル・L・ジャクソンの不気味かつコミカルな演技は見ごたえ充分だ。ここではドクター・シュルツの芝居が控えめになっていることもあり、特にディカプリオの存在感が強烈。彼が黒人の頭蓋骨を前にして長々と喋り、怒りを露わにする場面は迫力満点である。

 終盤は一大ガンファイトへと突入し、盛大に血しぶきが上がるが、突入の流れはもうちょっと工夫があっても良かったんじゃないかと思う。なんといっても、ドクター・シュルツをあそこで死なせてしまうのは惜しい。しかもあんなにあっさりと。せめてもう少し見せ場を準備して欲しかった。ただし、一旦捕まってピンチとなるジャンゴの巻き返しの機転はちゃんと伏線が生かされていて気持ちよかったし、一方的に圧勝する最後の展開もいい。最後のサミュエル・L・ジャクソンの絶叫は大爆笑。気持ちよすぎである。

 そういうわけで、B級テイスト満載のタランティーン流ウェスタンはサービス精神に溢れ、アクも強いが茶目っ気もたっぷりだ。奴隷制というテーマをここまでエンタメに徹して描いた大胆不敵さにも賛辞を呈したい。



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