アブソリュート・エゴ・レビュー

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Spilt Milk

2008-10-09 22:47:08 | 音楽
『Spilt Milk』 Jellyfish   ☆☆☆★

 ジェリーフィッシュのセカンド・アルバム。この人達はアルバム二枚しか残さなかったので、ラスト・アルバムということになる。

 ファーストでもポップおたくっぷりを遺憾なく発揮していたジェリーフィッシュだが、このセカンドではその凝り性とひねくれぶりにますます磨きがかかっていて、この手の音楽に目がない人々にはたまらないシロモノとなっている。冒頭の「Hush」は童話っぽいキュートな曲に凝りまくりのコーラスという必殺のコンビネーションで、掴みは充分。そこから急転直下元気溌剌の「Joining A Fan Club」に突入し、キャッチーなメロディを分厚いクイーン風コーラスで聴かせる。「Sebrina, Paste And Plato」は10ccみたいにヴォーカルがころころ変わる演劇的な曲で、「New Mistake」はスーパートランプみたいなキーボードが入ったポップ・マニエストロ本領発揮の曲。

 コーラス・ワークは明らかにファーストより進化していて、ギターはよりハードになっている。「All Is Forgiven」はマイブラを意識したような轟音ギターがフィーチャーされていて、他とは異質な曲だ。そんなわけでファーストと比べると音が濃密で、アルバム全体通して聴くとちょっと息苦しい。私はこの人たちのメロディやコーラスやアレンジは大好きなのだが、難を言えばドラムの音が苦手だ。ヴォーカルがドラムも叩いているのだが、何だかドタバタした重たい音である。基本的に濃密なアレンジをする人達なので、リズム・セクションにもっとキレが欲しい。

 ちなみに私はジェリーフィッシュ解散前のギグをニューヨークのクラブで観たが、それはそれは見事なギグだった。メンバー4人だけの演奏なのに、どの曲もアルバムで聴くよりライブの方が良いのである。これだけ凝った曲をやっていてそう思わせるバンドは珍しい。特にコーラスが素晴らしかった。4人が4人とも歌えるのが大きい。あの「Sebrina, Paste And Plato」、「The Ghost At Number One」の複雑なコーラスを見事に再現していた。「The King Is Half Undressed」の中間部に分厚いアカペラがあるが、あれも完全再現である。ロック・バンドであれほど見事なコーラスをライブで披露できるバンドは稀だと思う。ヴォーカルのアンディは立ってドラムを叩きながら歌っていたが、あれもカッコ良かった。後ろにもう一人ドラムがいるというパターンは多いが、彼の場合自分だけなのである。歌いながらしっかりオカズも入れていた。ロジャーはキーボードとギターをとっかえひっかえしてバラエティ豊かなサウンド作りに貢献していた。スタジオ・アルバムを聴いているとキッチュな音作りもあってそう思えないが、実はかなりしっかりした演奏力を持つバンドだったのである。


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