アブソリュート・エゴ・レビュー

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亡国のイージス

2006-01-25 20:31:54 | 映画
『亡国のイージス』 阪本順治監督   ☆☆☆★

 日本のレンタルビデオ屋さんで借りてきて鑑賞。日本の皆さんはとっくに観ていて「今ごろ何言ってんの?」的な映画なんだろうが、海外に住んでいるとこんなもんである。さて、原作の重厚さは失われてしまってダイハード的アクション映画になっていたが、まあまあじゃないだろうか。『ローレライ』より良かったと思う。あの気持ち悪いCGの空と海がなかっただけでも。

 重厚長大な原作をコンパクトにするため、説明が極力省かれている。反乱の動機、宮津副長の息子が死んだ経緯、その真相、如月の過去、ヨンファの目的、グッソーという兵器の詳細、その他もろもろ。かなり不親切と言っていい。そのためアクション映画としてはすっきりした。反面、色んな動機がはっきりしないためドラマ性は薄く感じられる。とはいえ、原作通りに色んな背景を説明していくとゴチャゴチャしたダイジェスト的な映画になってしまっただろうから、仕方がないと思う。長い原作を映画化するのは難しい。設定がややこし過ぎるのである。アクション映画というのはシンプルな設定に限る、というのが私の持論だ。『ダイハード』、『ターミネーター』、『エイリアン』、こういう傑作の設定はとにかくシンプルである。

 物語の構造はやはり、同じ福井晴敏の『終戦のローレライ』と良く似ている。反乱の動機は主に息子をなくした副長の私怨だが、それについてくる連中がいるというところでやっぱり憂国のイデオロギーが関係してくる。「この国は俺たちと一緒に一度滅んだ方がいいんだ」というセリフもあったし、副長の息子が書いたという論文「亡国のイージス」もそうだ。そういうイデオロギーを背負って反乱を起こすいそかぜに立ち向かう仙石は「理屈はもういい! 間違ってる!」と叫ぶ。これは『終戦のローレライ』の浅倉理論と征人の対立とまったく同じ構図である。悪役を単純に私利私欲だけのどうしようもない奴にせず、こういう風にイデオロギーをからめてくるのが福井晴敏ドラマの特色だろうか。そういうところはハリウッド映画と一味違う。

 ところでヨンファは北朝鮮の工作員なわけだが、映画では一度も「北朝鮮」という国名が出てこない。これは出すと問題になるのだろうか。北朝鮮から抗議を受けるとか? ついでに中国、韓国からもまた謝罪を要求されるとか?

 中井貴一の工作員の非情な感じがなかなか良かったが、最期があっけなかった。仙石と互角の戦いをしてたらまずいんじゃないか。やはり、仙石が絶体絶命になるくらいじゃないと。あの女工作員もわりと凄みがあった。あと、吉田栄作が出ていたので驚いた。
 


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