アブソリュート・エゴ・レビュー

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刑事コロンボ 権力の墓穴

2005-07-04 02:18:29 | 刑事コロンボ
『刑事コロンボ 権力の墓穴』 ☆☆☆☆

 コロンボの上司が犯人である。上司の権限を最大限に悪用し、コロンボの捜査を邪魔しようとする。殺人のやり方もなかなか凝っていて、最初はロス警察次長ヘルプリンの友人が妻を殺害、その偽装工作をヘルプリンが引き受ける。なんておせっかいな奴なんだと思って見ていると、今度はヘルプリンが妻を殺し、その偽装工作を無理やり友人にやらせる。強制的な協調体制である。

 本作はなかなか出来が良い。何が良いかというと、まずコロンボの調査が細かく、推理のポイントが多い。最初の殺人の枕の下のガウンから始まって、クローゼットの取っ手の指紋、電話の指紋、愛人からの電話に出なかった件、ヘルプリン宅と被害者宅の位置関係、等。第二の殺人では服のかぎ裂き、乾いているバスタブとタオル、肺の石鹸水、等。これらを踏まえてコロンボが偽装ではないかとヘルプリンに報告すると、ヘルプリンは動揺しつつも、「これは盗賊の仕業だ。いいからその線で捜査しろ」と、むちゃくちゃ強引に捜査の方向を捻じ曲げようとする。

 その上司としての職権濫用がいかにも傲慢で横暴なため、ラストの詰めに格別な爽快感がある。決め手は例によってトラップなのだが、ヘルプリンはコロンボに騙されて、コロンボが準備した部屋を泥棒の部屋と思い込み、泥棒に罪をなするつけるために盗品である宝石を隠す。自信満々で家宅捜索に向かうヘルプリンに、コロンボの淡々とした謎解きが始まる。「しかし、それは不可能なんです」「奥さんは、風呂でなくなられたんです」
 この説明がまたロジカルで、徐々に追い詰めていく感じが良く出ていていい。コロンボシリーズには「え?それだけ?」と思ってしまうラストも多々あるが、本作の謎解きは丁寧でロジカルで、とても出来が良い。さて、激しく動揺しつつももう後へは引けない、最後まで強引にごまかそうとするヘルプリン。そこにコロンボの静かな声が突き刺さる。「次長。あなたが奥さん殺したんです」「何を言い出すんだ、コロンボ!」(英語で聞くと、ここでヘルプリンは「お前はたった今バッジをなくしたぞ」=「お前はクビだ」と言っている)
 ちょうど偽装用の宝石が見つかり、元気を取り戻すヘルプリン。「じゃあこれをどう説明する!」
 あっさり切り返すコロンボ。「説明カンタンです。あなたがコールドウェルの家から持ち出して、アーティーに罪を着せるために今日ここへ置いたんです」
 これがまたカッコイイ。その後、この部屋が泥棒の部屋ではないという説明をし、力尽きたヘルプリンを逮捕する。

 上司という立場の人間を犯人にすることによって、ラストの力関係の逆転がいつも以上に鮮やかだ。必殺シリーズで中村主水が悪徳上司を切り殺す時の快感に通じるものがある。



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