アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ヒミズ

2012-08-24 22:33:06 | 映画
『ヒミズ』 園子温監督   ☆☆☆

 『恋の罪』に続いてレンタルDVDで観賞。『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』よりいいという評判を聞いて期待して観たが、それほど良いとは思えなかった。正直いって『恋の罪』の方がまだ面白かったぐらいである。原作の評判も高いみたいだが、原作を読んだことはない。だから「あの原作をどう料理したか」なんていう見方は一切できない。

 まず登場人物たちのキャラが異常でわざとらしいのはこれまで以上で、特にヒロインである茶沢(二階堂ふみ)は相当イタい。この茶沢と主人公の住田(染谷将太)が五七五遊びと称してひっぱたき合いをしたり、川に突き落としあいをしたりする。それから茶沢の両親は家の中に処刑台(首吊り)を建設中で、これが完成したら死んでくれと娘に頼んでいる。ああ、なんてかわいそうな茶沢……って思えるかアホ。

 前半は「普通」に生きることが目標の住田少年のボート屋に茶沢が来たり、住み着いているホームレスたちとの交流が描かれ、その一方で住田の両親も(茶沢家と同じく)とんでもないということが、例によって極端に描かれる。後半は、父親を殺して、もうこれで普通の人生を送れなくなったと絶望した住田が包丁持って町を歩き回り、悪人を殺そうとする。すると町には通り魔がうようよいて、殺伐とした事件が次々と起こるが、住田少年は結局悪人を殺すことができず、更に絶望して家に帰る。すると茶沢が自首するよう勧め、自分と結婚して人生をやり直そうと説得する。

 本作の特徴は、とにかく登場人物たちが激情的に振舞うことである。彼らはひっきりなしに叫び、わめき、泣く。主演二人の演技が賞賛されているようで、私もこの若い二人の熱演には努力賞をあげたい気持ちになるが、はっきり言ってやり過ぎである。過ぎたるは及ばざるが如し。しかしこれは俳優ではなく、演出している監督の責任である。極端で刺激的なもの、それから上滑りするセリフを盛り込みたがる園監督の悪癖はますます健在で、登場人物はみんな殺すだの死ぬだの連発し、茶沢は住田に「わたしたち愛し合ってるんだから」なんてマジメに言ったりする。

 ちなみに、アマゾンのレビューなどには時々「父親殺しの映画」なんてことが書かれているが、そりゃまあ父親を殺すのだから父親殺しには違いないだろうが、この映画の場合、単に父親が最低の厄介者だから殺しただけである。あれが隣のおじさんだったら「隣のおじさん殺し」になっていた。ぐらいのもんで、エディプス・コンプレックスとは何の関係もないし、普遍的な「父親殺し」テーマとは無縁である。

 なぜこれで評判がいいのか不思議なのだが、もしかすると、映画に頻繁にインサートされている311後の悲惨な光景によって、日本に住んでいる人が観ると特別な感慨を覚えるのだろうか。あるいは、この叫んだりわめいたりする激情的芝居が「圧倒的」と評価されているのか。後者だとすると、感情表現は解放より抑制の方が重要と考える私には理解しがたい話だ。この映画の演出態度は、カウリスマキやブレッソンとは正反対である。

 それとも、あの「住田がんばれ!」を連呼するラストシーンがいいのか。まあ一見感動的なラストだけれども、どうもとってつけたように感じるのは私だけか。それまでの話とイマイチかみ合わないがそこだけ観ると感動的、という一種の力技による感動的結末。これはひょっとして、『さや侍』と一緒なのではないか。


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