アブソリュート・エゴ・レビュー

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配達されない三通の手紙

2011-05-07 20:28:11 | 映画
『配達されない三通の手紙』 野村芳太郎監督   ☆☆☆★

 野村芳太郎監督の映画が観たくなって、日本版DVDで鑑賞。

 本当は野村芳太郎+松本清張の、あのじっとり湿った陰気な情緒を味わいたかったのだが、有名どころは大体観てしまったので、ダークホース的なものを期待して本作に手をのばしてみたのである。これは何と、原作エラリイ・クイーンである。『災厄の町』の翻案なのだ。『災厄の町』は大昔に読んだが内容はほとんど覚えていない。なんだか暗くて悲しい話だったことはうっすら記憶に残っている。

 観終わった感想を言うと、ムードは完全に「火曜サスペンス劇場」である。ただし豪華キャストであるには違いない。佐分利信、栗原小巻、松坂慶子、小川真由美、神崎愛、竹下景子、片岡孝夫、渡瀬恒彦、小沢栄太郎。なぜここに加藤嘉がいないのか、と言いたくなるほどだ。音楽も芥川也寸志で、切なく甘美な劇伴を堪能できる。物語はもちろん、野村監督の十八番であるところの愛の悲劇。部分部分の雰囲気は決して悪くない。傑作になっても良かったはずだが、いかんせんメロドラマ色が濃くなり過ぎた。これが「火サス」豪華版になってしまった第一の原因である。

 第二の原因は構成にある。これは主演カップル、紀子(栗原小巻)と藤村(片岡孝夫)の過去が重要な意味を持つ話なのだが、映画はこれを時系列で追っていくため、前半のプロローグ部分が長い。藤村に逃げられた紀子が心の病になり、藤村が戻ってきてよりが戻り、父親が反対し、けれど押し切って結婚し、新婚旅行に行き…と続いていく。肝心の手紙発見までが長いのである。おまけに駆け足でちょこちょこ場面を転換し進んでいくので印象が散漫だ。完全に後のドラマを盛り上げるための前ふり、説明になってしまっている。これだったら、たとえばいきなり豪勢な結婚式で幸せそうな二人をまず見せてから、過去のいきさつを誰からの口から(たとえば長女の麗子)語らせる、というようなやり方でも良かったのではと思ってしまう。

 それにこのプロローグ部分に限らず、全体にシークエンスが説明的だ。状況を説明する必要があるので入れた、という印象を受ける場面が多い。こういうのが多いと映画全体が安っぽくなる。

 ただ謎解きの部分、終盤の畳み掛けるような展開はさすがにスリリングで、見ごたえがある。それまでぐっとこらえてきた伏線が一気に回収され、また豪華キャスト投入の効果がついに現れて迫力を増す。特に栗原小巻入魂の乱心演技、佐分利信の重厚が効いている。検事役の渡瀬恒彦も、前半は影が薄いが後半になってどんどんいい味を出してくる。次女の婚約者だというから曲者の役かと思ったら、非常にまともな役である。かっこいい。もっと活躍して欲しかった。

 あとちょい役だが、蟹江敬三の刑事がいい。この人はほんのちょっとの出番でも、とても人間くさい印象を残すなあ。好きな役者さんである。

 もう一人のキーパーソンはもちろん松坂慶子で、公開当時は彼女のヌードが売り物の一つだったらしい。彼女が胸を隠して正面を向いているポスターを見たことがある。シャワーシーンがあって、オールヌードで後姿が見える。まあ個人的には、それほど色っぽいとは思わない。

 それと後半にちょっとだけ竹下景子が出てくるが、まだ若くてすごくチャーミングだ。やっぱり竹下景子はいい。

 ところで三女役の神埼愛とアメリカから来た青年が観客の案内役となるが、あの二人はあそこまで事件が進展するまで警察に何も言わないのはどうしてなのか。手紙のことや藤村が金に困っていたことなどすべて知っていながら、渡瀬恒彦が捜査を始めても何も言わない。こういうドラマでは肝心なことを大した理由もなく関係者が隠しているというのが多いが、ご都合主義的で好きじゃない。大体、あそこで二人が知っていることを渡瀬恒彦に告げていたら、松坂慶子は死なずにすんだかも知れないのである。

 しかし神崎愛のジョギング・シーンが二回出てくるが、あれもサービス・カットなのだろうか。


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