アブソリュート・エゴ・レビュー

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飛べ! フェニックス

2013-04-19 00:22:05 | 映画
『飛べ! フェニックス』 ロバート・アルドリッチ監督   ☆☆☆☆

 アルドリッチ監督の映画を観たのは多分初めてだと思う。あまり有名じゃないがスルメのように味わい深い映画を各界の第一人者が紹介する、という趣向の『スルメ映画館』という本で紹介されていたのだが、確かにタイトルをこれまで聞いたことがなく、しかもかなり面白かった。

 女は一人も出てこない、非常に男くさいというかおっさんくさい映画で、しかも砂漠に不時着する飛行機ということで汗くさくもある。とにかく暑苦しい。話の内容も暑苦しく、要するにムサい男たちが砂漠で生延びようとして怒鳴りあったりいがみあったり協力したりしてドタバタあがく。極限状況の中で一人また一人と死んでいく。もちろん、最終的には協力しあうにしても、いがみ合いの方が映画の大部分を占めるのは言うまでもない。この映画の面白さとはそういう面白さであり、お洒落とかスローライフとか求める人にはまったく向かない。が、そういう面白さに目がない人には相当な愉悦を保証してくれる映画だ。

 とにかく、ヘンな奴らが揃っている。砂漠に不時着するのはオイル・カンパニーの輸送機だが、それぞれの都合で色んな奴が乗り合わせている。軍人、頭がおかしいオヤジ、クールな知性派ドイツ人、何かといえばふざけてゲラゲラ笑ううざい奴、臆病者、心配性のおじさん、などなど。状況を仕切ろうと努力する熟練パイロットを老境に片足突っ込んだジェームス・スチュアートが演じているが、珍しく怒りっぽい頑固者の役で、ぶつかり合う人間関係をますますヒートアップさせる役割を果たしている。

 不時着後、すぐに救援が来ると思っていると全然来ず、こりゃあかんかも知れん、とみんなが思い出してから本格的にドラマが始動する。軍人は歩いて救援ポイントまで行こうと主張し、そんな無茶なというパイロットと衝突する。そこに頭のおかしいオヤジが絡んできて話をややこしくする。一方、知性派ドイツ人は「壊れた飛行機から小さい飛行機を作って脱出しよう」とぶったまげた提案をし、「お前はアホか!」というパイロットと激突。しかしドイツ人一歩も譲らず、「おれは飛行機のデザイナーだ!」と言い返す。

 他にもアラブ人のキャラバンが通りかかったり、臆病者が仮病を使って上司である軍人と対立したり、と色んなことが起きるが、メインとなるのはこのドイツ人の「壊れた飛行機から小さい飛行機を作ろう」プロジェクトである。そんなことができるわけがない、というパイロットに対し、他の連中から「でも何もしないと死ぬだけだ」「みんなに希望を与えないといけない」という声も上がり、プロジェクトは始動する。名づけて、「飛べ! フェニックス号」プロジェクト。フェニックス号とは小さい飛行機の名前である。

 さて、極限状況はだんだん厳しくなり、人が死に、水がなくなってくる。男たちの顔も暑さにやられて火ぶくれができたり皮がむけたりして、非常に見苦しくなってくる。その見苦しい男たちがエゴ剥き出しにして怒鳴りあうのを見ているこっちもなんだかいたたまれなくなるが、これが面白くもあるというのが映画の不思議なところだ。特にドイツ人とパイロットの対立が激化していくが、何度か出てくるこの二人の議論の場面は緊迫していて見ごたえがある。「Now, wait a minite!(おい、ちょっと待て!)」を口癖のように連発するジェームス・スチュアートはなんとかドイツ人デザイナーのプランの欠陥を指摘しようとするが、ドイツ人はことごとく回答を準備しており、あらゆるツッコミを論破してみせる。この合理主義の権化のようなドイツ人も相当すごいキャラである。

 が、何と言っても一番すごいのは、もうすぐフェニックス号が完成するという間際になって発覚する、ドイツ人デザイナーに関するある驚愕の新事実だ。この期に及んでそう来るかという、この映画の製作者たちの作家魂を思い知らされる。それにしてもこのドイツ人、人間的には色々と問題はあるかも知れないが、自分の仕事と能力に対する誇りと誠実さは見事だ。どれだけ他人から罵倒されようと嘲られようと、敢然と自分の信じるところを主張し、そしてそれを実践する努力を絶対に怠らない。これは尊敬せざるを得ない。

 さて、こうして男たちの意地と信念がぶつかり合った果てに、ついにフェニックス号始動の日がやってくる。もうこれが駄目なら全員死ぬしかない。本当にこのトンデモなアイデアは実を結ぶのか? 興を殺がないようこれ以上は書かないが、とりあえず盛り上がることだけは間違いないと言っておきましょう。

 この映画の面白さを支えているのが俳優たちの個性のぶつかり合いであることは言うまでもない。中心人物であるドイツ人デザイナーのハーディ・クリューガーと、パイロットのジェームス・スチュアートはもちろんのこと、脇役一人一人に至るまで実に生き生きしている。個人的にはジェームス・スチュアートを補佐するモランが良かった。人がよくて、大抵は短気なジェームス・スチュアートとドイツ人の調停役を務めるが、自分自身は意志が弱くてアル中というコンプレックスを持っている。このプロジェクトの遂行にとって、あまり目立たないけれども彼の貢献は大きい。それから、ろくでもない奴ばかりの中で唯一本当にイイ奴だった、あの医者が途中で死んでしまったのは悲しかった。実際のところ、最後まで残った顔ぶれを見てみるとろくでもない奴ばかりだ。

 とまあ、こんな映画である。暑苦しい極限状況の中で激しくぶつかり合う、男たちの意地と誇り。最近なかなかお目にかかれない、骨太なドラマではないだろうか。



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