アブソリュート・エゴ・レビュー

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喜劇 男は愛嬌

2012-06-15 23:21:25 | 映画
『喜劇 男は愛嬌』 森崎東監督   ☆☆☆

 これは『男はつらいよ』シリーズ第三作『フーテンの寅』の森崎監督が、渥美清を使ってそれと同年に撮った映画である。共演者には佐藤蛾次郎や太宰久雄など「寅さん」チームの面々も含まれていて、ヒロインは賠償千恵子の妹・倍賞美津子。姉が演じる可憐で清楚なさくらと違って、妹の美津子が演じる春子は冒頭シーンでいきなりブラジャー丸出しで着替えたり、入浴シーンがあったり、なかなか豪快だ。しかも自分のことを「おれ」である。この猥雑なバイタリティがそのまま「男はつらいよ」シリーズとの持ち味の違いだ。

 このバイタリティは、ダンプが長屋に突っ込む場面などで分かるように破壊的な要素を含んでいて、そんな中で陽性に破壊的な男を演じる渥美清には、確かに「寅さん」とは違うアナーキーな魅力がある。寅次郎は滑稽な空回りと絶対に縁が切れないが、本作の「オケラの五郎」はなんだかんだ言って男前なのである。五郎がこともなげに「春子はおれに惚れてる」と言う時、観客はそれを信じる(もし同じセリフを寅次郎が言ったら、観客は笑うだろう)。当然ながら渥美清の演技やセリフ回しは達者で、ファンなら充分愉しめる。

 が、渥美清以外のキャラクターや芝居、そしてストーリーは、基本的に昔風のドタバタ喜劇であって、さほどの面白みはない。寺尾聰演ずる真面目な青年がずっこけたりとんちんかんな歌を歌ったり、あるいは財津一郎が風呂が入って裸で歌っている時に春子がドアをあけたりと、そんなベタなドタバタが連発される。趣味の問題かも知れないが、私はあまり笑えなかった。吉本新喜劇と大差ないノリだ。ただ、作家のふりして実は結婚詐欺師の財津一郎は悪くなかった。

 ストーリーは、長屋に住めなくなった春子一家のため、オケラの五郎が春子に金持ちの結婚相手を見つけて持参金をいただこうとする話である。春子は鑑別所帰りだが美人で気立てもいい、簡単な仕事だと大口叩いたものの、事業家(宍戸錠)、作家(財津一郎)、大家(田中邦衛)など次々とトライするがうまくいかない。一方で、春子を好きな五郎の弟・民夫(寺尾聰)はやきもきして何とか縁談を妨害しようとし、同時に春子を更生させようとするが、これもまたうまくいかない。さて、春子は一体どうなるのか……。

 渥美清の芝居だけで満足できる人向けの映画だ。それもバイタリティ、アナーキーなドタバタ性が強調されていて、繊細さは「男はつらいよ」シリーズに劣る。寅次郎というキャラクターは、渥美清と山田洋次の感性の結婚から生まれてきたということが良く分かる。


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2 コメント

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失礼ですが (酒乱童子)
2012-06-16 22:09:51
倍賞美津子は智恵子の妹ではないんですか?
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Unknown (ego_dance)
2012-06-17 00:40:59
妹でした。失礼。
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