アブソリュート・エゴ・レビュー

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座頭市兇状旅

2010-12-21 19:46:16 | 映画
『座頭市兇状旅』 田中徳三監督   ☆☆☆★

 座頭市シリーズ四作目。まだまだ初期だ。この頃の座頭市はやっぱりエエね。

 ただし難を言えば、ちょっと詰め込み過ぎのきらいがあるかな。前作の『新・座頭市物語』はこじんまりした話だったが、どっちかというとああいうタイプの話の方が好みだ。登場人物やサブプロットは少なめの方が掘り下げられるし、情感が広がる空間が感じられて心地いいのである。が、まあ本作も、良く言えばにぎやかなストーリーではある。

 冒頭から、市が相撲大会に出て相手を投げまくる。すでにサービス精神旺盛な物語の予感がする。市は賞金目当てに襲ってきた若いチンピラを斬り、その老母に金を届けてやる。いつもながら律儀な奴。そしてその宿場で騒ぎに巻き込まれる。注目ポイントは、まず宿場を仕切る一家の二代目佐吉と旅籠の娘のぶの悲恋。のぶの養父は昔ヤクザで、佐吉からシノギを奪回しようと策をめぐらせている。それから佐吉の花会にわらわらと集まってくる親分衆。その中の一人は、やっぱり佐吉を祝うふりをしてはめてやろうと画策している。加えてそこに参入する三十郎そっくりの凄腕の浪人。加えて浪人が連れている情婦は、第一作『座頭市物語』のヒロインおたね。

 盛りだくさんだ。中でも注目はやはり再登場のおたねだろう。かつてのヒロインがおちぶれて市の前に再登場する。市にだけは会いたくなかった、と言い、辛さをまぎらわせるために自ら浪人に抱かれる。最後に市と浪人の決闘の前には、あんたと一生別れるつもりはない、だから死なれては困る、と浪人にすがりつく。うまく使えばもっともっと盛り上がったと思われるが、残念ながら活かしきれていない。単なるにぎやかしの一つになってしまっている。名作『座頭市物語』のヒロインを汚れ役として使う贅沢を許されたのだから、もっとしっかり活かして欲しかった。

 それから浪人の棚倉は、実は市を罠にはめようとしたのはおたねだ、とショッキングなことを言い残して死ぬが、これもよく分からない。おたねは市と棚倉の斬りあいを止めようとして斬られているのだ。辻褄が合わない。嘘だということがバレバレである。市の「おたねさんはきれいな人だあ!」という叫びを痛ましくするには、本当におたねがやったのでは、と観客に思わせる曖昧性が必要なはずだが、うまく噛みあっていない。それにいきなりおたねを斬る棚倉も、唐突で意味が分からない。

 クライマックスはわらわらとヤクザどもが集まってきて盛り上がるが、市を結構窮地に陥れていた鉄砲はどこへ行った? いつの間にかいなくなっている。それから「ロミオとジュリエット」こと佐吉とのぶは結局結ばれるらしいが、あの臆病者の佐吉と一緒になっておのぶが幸せになれるとはとても思えないぞ。さんざん卑怯なマネをしておいて、最後にいきなり改心されてもなあ。

 お約束の居合い切りシーンは花会で出てくるが、これがメチャメチャ鮮やかで素晴らしい。棚倉と居合い勝負になり、まず棚倉がとっくりの首をまっぷたつ。迫力ある居合いだ。次に市はヤクザが持っているとっくりにサイコロをはじいて入れ、それを居合いで真っ二つにする。この時市の仕込みは目にも止まらぬスピードで縦に回転するが、いやもう本当にお見事である。座頭市ファン必見。もちろん、とっくりとサイコロが両方とも二つに割れ、市の勝ち。

 ところでこの棚倉、途中で市の腕を斬って流血させるし、最後は市の仕込みを折ってしまう。相当な強敵である。が、その風貌、態度、セリフ、口調、全部あの三十郎のコピーである。似ているどころじゃなく、もはやモノマネと言ってもいい。これにはがっくり来た。どうせ本家にはかなわないし、安っぽく見えてしまう。それなりにオリジナルな浪人像を作ってくれた方がはるかに良かった。おたねと組み合わせてちょっといい感じの二人にしてくれれば、話はもっと盛り上がっただろうに。それが残念だ。


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