アブソリュート・エゴ・レビュー

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男はつらいよ 寅次郎恋愛塾

2015-03-16 22:49:02 | 映画
『男はつらいよ 寅次郎恋愛塾』 山田洋次監督   ☆☆

 通して観るのは初めての『寅次郎恋愛塾』。評判があまり良くないのでこれまで手を出さなかったのだが、やはりダメだった。『男はつらいよ』シリーズにもこんなハズレがあるんだなあ、というのが正直な感想。

 マドンナ・樋口可南子と平田満はいい。と思う。ショートカットの樋口可南子は清潔感に溢れて瑞々しいし、若い頃の平田満にはナイーブな魅力がある。彼はイモ顔だが、声がいいのである。ただし、司法試験を目指す苦学生という設定は良いとして、全然役柄を膨らませる脚本になっていない。扱いが明らかにおざなりだ。仮にもつかこうへい事務所の花形役者である、もうちょっと使いようがあったはずだ。

 あらすじはこんな感じ。寅は旅先の五島列島で知り合ったおばあさんの家に滞在するが、おばあさんは急に具体が悪くなって死んでしまう。クリスチャンであるおばあさんの葬儀が教会で執り行われ、そこに東京に住む孫娘の若菜(樋口可南子)がやってくる。東京に戻った寅は若菜と会い、おばあさんの最後の夜の話を聞かせる。当然ながら若菜に惚れた寅はちょくちょく若菜のアパートに遊びに行くようになるが、同じアパートの一階に住んでいる苦学生の坂田(平田満)はそれが気になって仕方がない。ある時暇つぶしに坂田の部屋に上がりこんだ寅は若菜の写真を見つけ、後日若菜とさくらの前でそれを茶化しつつ話題にする。ところが、どうも若菜の方もまんざらでもない様子。おまけにさくらに、人を好きになる気持ちをからかうなんてお兄ちゃんらしくないと叱られた寅は反省し、坂田と若菜の間を取り持とうとする。寅に言われた通りに若菜とデートをした坂田は彼女の部屋に招待されるが、そこで勉強疲れが出て居眠りをしてしまう…。

 冒頭の五島列島の風情は良い。寅が臨終間近のおばあちゃんに何かと話しかける場面も悪くない。また、若菜もおばあちゃんもクリスチャンという設定なので教会が映ったり賛美歌を歌う場面があり、清らかなムードが漂うが、ストーリーにはあまり生かされていない。舞台が東京に移ってからはもう全然ダメで、印象的なギャグもセリフもまったくといっていいほどない。部屋を外から覗いている寅を見つけて坂田がギョッとする場面がまあまあ面白い程度だ。

 とどめは終盤のドタバタ。若菜に嫌われたと思った坂田は自殺するために故郷・秋田の山に登り、それを止めようと若菜と寅と坂田の大学の教授(松村達雄)が追いかけてくる。このドタバタ劇はまったく面白くない上にテンポも悪く、盛り上がりもなく、ただダラダラと映画を引き延ばしているだけだ。まるでとってつけたようで、なぜこんな展開にしたのか理解に苦しむ。これのせいで恒例の寅が旅立つ場面もなく、何のメリハリもないままエピローグにつながる。エピローグでは、これも恒例の寅からのハガキがない。ついでに言うと、姥捨て山を題材にした冒頭の夢の場面もつまらない。

 残念ながら駄作だ。シリーズを完全制覇したい人以外観る価値はないと思う。



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