アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

青い野を歩く

2010-07-23 20:58:47 | 
『青い野を歩く』 クレア・キーガン   ☆☆☆

 これも5月に日本で買って来た本。作者はアイルランドの女流作家で、本書は第二短篇集ということである。作風は大雑把に言わせてもらえばアリステア・マクラウドの路線である。自然の中で生きる人々。哀しい過去。静謐、後悔、痛み、祈り。アンソニー・ドーアの『シェル・コレクター』にも似た感じがある。それにしても、自然の中で生きる人々を描く短篇ってなんでいつも沈痛なんだろう。自然の中で生きる人々を題材にポップでオフビートな作品を書く作家というのがいてもいいと思うが。

 ただしマクラウドよりもう少しロマンティックで感傷的だと思う。マクラウドの作品にみなぎる荘厳さ、凄みみたいなものには多分欠けている。文章は短く、簡潔。ストイックだ。タイトルのせいかも知れないが、この人の作品には確かに青みがかっている感じがある。比較的長い作品もあるが、プロットは非常にシンプル。『別れの贈りもの』『長く苦しい死』『褐色の馬』あたりは情景を切り取ってフレーミングした短篇、というにふさわしい。

 幻想的な作風とはいえないが、最後の『クイックン・ツリーの夜』は主人公である女性が不思議な方法で人々の病気を治したり、神の如き占い師が出てきたりする。深刻なガルシア・マルケスという趣きだ。別に深刻、沈痛でもいいのだが、個人的には以下のようなやりとりが苦手である。

「俺は恋をしたことがないんだ。俺にはジョゼフィーンしかいないんだ」
「心が粉々になりそうな話ね」
 スタックは彼女を見つめた。「あんたの心は、もう粉々じゃないか」
(『クイックン・ツリーの夜』より引用)

 私の感覚では、上のような会話はユーモラスな文脈の中でないと成立しづらい。マジメにやられるとちょっときつい。が、これは好みというものかも知れない。帯の引用によれば、小池昌代は「放心した。すばらしい小説だ」と絶賛している。私の守備範囲からはちょっと外れるが、マクラウドとかその手の作家を好む方はいけるんじゃないだろうか。


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