アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

冒険者たち

2014-10-18 13:42:27 | 映画
『冒険者たち』 ロベール・アンリコ監督   ☆☆☆☆★

 『さらぼ友よ』『サムライ』のアラン・ドロンつながりで、『冒険者たち』の日本版DVDを再見。ローラン(リノ・ヴァンチュラ)、マヌー(アラン・ドロン)、レティシア(ジョアンナ・シムカス)という三人の男女が自由に生きようと力いっぱい羽ばたき、やがて現実に傷ついて滅びていく美しくも哀しい映画である。より高く飛ぼうとしたがゆえに翼をもがれ海に墜落していくイカロスを思わせる、楽園からの追放譚。主人公三人は必ずしも若者とはいえないけれども、どんな青春映画より青春映画らしい、甘酸っぱさ満点のフランス映画である。

 ローランは地上最速のレーシングカーを夢見、マヌーは大空を飛行機で駆け巡ることを夢見、そしてレティシアは海に浮かぶ家で愛する人と一緒に暮らすことを夢見る。ローランとマヌーのところにレティシアが現れた時から、お祭りのような日々が始まる。無軌道で奔放な三人の、つかの間の楽園の日々。夢を追っては失敗し、失敗してはまた新しい夢を見る三人はやがて一攫千金をもくろんでコンゴの海へと赴く。海に沈んだ金貨の引き上げというロマンを追い、ついに夢がかなった三人だったが、その瞬間から、苦く残酷な現実の復讐が始まる…。

 笑われるかも知れないが、私はこの映画を『傷だらけの天使』だと思う。もちろん、ショーケンと水谷豊のあの伝説的な青春ドラマのことである。ローランとマヌーのどっちかショーケンでどっちが水谷豊みたいなことではなく、夢見る男二人と女一人のトライアングル、お祭り騒ぎの日々、やがて訪れる悲劇と苦い覚醒、という物語のフォーマットと醸し出す情感があまりにもよく似ているのだ。『傷だらけの天使』に若い女性のレギュラーはいなかったが、ゲスト女優が都度都度そのポジションを担当していた。彼女たちはオサムやアキラと束の間の夢の時間を過ごし、自由と幸福を味わい、やがて若さゆえの現実認識の甘さから悲劇的に死んでいく、という役割を担っていた。この映画でもまったく同じだ。

 私の中では、オサムとアキラが死んだ娘のために山の上に十字架を立てるシーンと、ローランとマヌーがレティシアを水葬にするシーンとが重なる。ローラン、マヌー、レティシアの三人が船の上で土人の格好をしてふざけたり水をかけ合ったりするシーンも同じだ。もし若い頃のショーケンと水谷豊と坂口良子でこの物語を撮れば、『傷だらけの天使』そのまんまになると思う。

 映画の前半は陽気で楽しく進んでいくが、コンゴの海における幸福な馬鹿騒ぎの日々の終焉とともに、悲哀と幻想の色を強めていく。レティシアの水葬後、ローランとマヌーは彼女の親戚を訪ね、遺産を渡す。ローランは海の上に浮かぶ要塞を買い取り、そこをホテルにするという夢のような計画を話す。そこで暮らすことがレティシアの夢だった。しかしそこにも、金貨を追う犯罪組織の手が伸びてくる。そして最後の銃撃戦。城の上で撃たれ、死んでいく美しきアラン・ドロン。夢の終わり。真っ青な海の真ん中に浮かぶ、儚い蜃気楼のように現実離れした白い要塞の城は、この映画を象徴するビジュアルとして完璧である。

 洒落た音楽もこの映画によく似合っている。口笛のメロディは甘酸っぱくノスタルジックだし、レティシアを水葬にするシーンのスキャットは哀愁をたたえて甘美だ。ただこの映画を観ると、会社なんか辞めてやりたいことをやる人生、ロマンと冒険とを無心に追いかける人生を送りたくなるので、それだけご注意下さい。



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2 コメント

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フランス青春映画 (sagano)
2014-11-16 21:58:30
この映画評に惹かれまして又又鑑賞しました。私は、この映画を絶賛してます。監督。そして原作者がまたかなりハードな人物、これも素敵。
青春、ロマン、冒険、夢、
人生あっという間に過ぎ去ります。歳を経ても心のどこかにあの初々しさや華やかさを持っていたいものですね。
美しきアラン・ドロンではありますが、フランス女性がそうであるように私も、リノ・ヴァンチュラのほうが・・


(真っ青な海の上に浮かぶ儚い蜃気楼のように現実離れした白い要塞の城は、この映画を象徴するビジュアルとして完璧である。)本当にすばらしい表現!、
素晴らしい映像でした。

で、前の(人魚の襲撃)の海洋奇憚集、悪夢関係の本
忽然と消えたまま、、??(笑)



  
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Unknown (ego_dance)
2014-11-18 12:22:28
私も時々無性に見たくなる映画です。そして見ると、私も今の生活をすべて投げ捨てて遠い海にでも行きたくなります。危険ですね。
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