アブソリュート・エゴ・レビュー

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放浪記

2013-10-18 22:04:14 | 映画
『放浪記』 成瀬巳喜男監督   ☆☆☆

 成瀬監督の『放浪記』をDVDで再見。これは『浮雲』と同じ原作者・林芙美子の私小説の映画化で、林芙美子の一代記である。森光子のロングラン公演で知っている人も多いだろう。名作の誉れ高い映画だが、私はそこまで良いとは思わない。一度観てピンと来ず、再挑戦したがやっぱり同じだった。

 行商夫婦の娘として生まれたふみ子は貧乏しながら詩や小説を書き、女給をし、文人連中とつきあい、しょうもない男に何度も騙され、そんなこんなの末に「放浪記」という傑作をものにして作家として認められる。ざっというとこんな話で、見所はいくつかあるけれどもまずふみ子の男運の悪さとそれに伴う苦労、なんとしても貧乏から這い上がってやるどんなことをしても生き抜いてやるというふみ子のバイタリティ、そしてふみ子を演じた高峰秀子のブサイクっぷり。こんなところだろうか。

 いやもう、これがあの高峰秀子かと驚くほどのブサイクっぷりである。最初出てきた時はさほどとも思わないが、だんだんブサイクに見えてくる。原因はやっぱりあの猫背に仏頂面だが、あのアカンベーをする顔が特にブサイクで、酒場で踊る場面ではそのブサイク顔を連発するものだから、初めて見た時は唖然とした記憶がある。あの高峰秀子がよくまあここまでやったものだ。それにしても女は顔のつくりがきれいでも、表情しだいでここまでブサイクになるんだなあ、というような変なところに感心したりした。

 男で苦労するところなんかももう、うんざりするようなリアリティで、特に文人連中なんてものはナルシスティックでプライドばかり高く、それでいてすぐ他人に甘えて八つ当たりをするような性癖の輩が多いようで、仲谷昇と宝田明がそういう文人像をいやらしくいやらしく演じている。ふみ子はどうも面食いらしく、そういう男にすぐ騙されてしまうのである。一方でふみ子を慕って尽くしてくれる加東大介のような男もいるのだが、ルックス重視のふみ子には見向きもされない。

 という風に苦労しながら、傷つきながら、といって自分も純情可憐ではなくどっちかというと図太くしたたかに生き抜いていくよ、という女の生涯の物語である。苦手なパターンだ。もともとメロドラマ志向のある成瀬監督、『浮雲』のように、骨格はメロドラマでも丁寧なディテールと複雑なニュアンスで情感を膨らませてメロドラマを超えてしまう、というのが真骨頂と私は考えているが、この作品ではその域にまで至らず、結局辛く苦しい女の苦労話になってしまっている。大変な人生だったんだね、という感想ぐらいしか出てこない。もちろんそういう映画もあっていいし、大勢の人にアピールもするのだろうが、私は物足りない。高峰秀子の女優魂に☆三つ。



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