崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

無声映画「進軍」

2014年04月08日 05時38分28秒 | エッセイ
 1930年製作の無声映画「進軍」を鑑賞した。オーケストラの演奏が無声映像で始まる無声映画、時代錯誤の感が強かった。異様な感がする。蝶ネクタイで楽譜を見ながら指揮するコンダクター、華麗な西洋文化とトーキーのない時代が噛み合ってないような滑稽な光景が142分続く。ストーリーは田舎の青年が(鈴木傳明)美女の田中絹代に出会う。青年は竹で飛行機を作りそれを飛ばしていたが、本当のパイロットとなり、戦場で活躍する。陸軍と海軍の協力を得て、飛行機が飛ぶ映像や基地での訓練、宣戦布告をしてからの30分間の戦闘シーンがリアルである。
 満州事変の直前、1937年の日中戦争や太平洋戦争には関係のない戦争映画であり、本当に1930年の映画であるか疑いながら見続けた。無声映画であることは主に弁士用のものと思われる字幕がある。一人息子を出兵させた両親の悲しみ。婚約者と離れがたい航空兵、さらに戦場での悲惨な戦死とか負傷などの場面をみると戦時中の宣伝映画とは異なる。むしろ戦後の反戦映画とも思われる。同じく田中絹代が主演している「陸軍」とは全く違う反戦映画である。「戦前」「戦中」「戦後」という三に時代区分をするなら戦前と戦後が「平和」ということで共通することになり、結局「戦争と平和」の二項対立的になる。この映画を戦中期を越えて、「戦前」と「戦後」をつなげて分析しようと思う。