崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

「オモニ(母親)」

2014年04月05日 05時34分28秒 | エッセイ
 400数十ページの博士論文が届いた。神戸大学,澤野美智子氏の博論である。韓国での乳がん患者を通して「オモニ(母親)」のイメージを実証的に調査をして分析したものである。乳がん患者が集まって寝泊まりして治療を受けているところで澤野氏自身も共に雑魚寝をしたり参与観察した苦労話が綴られている。10年ほど前、神戸大学で集中講義をした時に長く話したことを思い出す。その後彼女は韓国木浦へ、そしてソウル大学で修士論文、そして今度は神戸大学での博士論文に至った道のりは長かった。彼女はフェースブックに「ファイナル、口頭試問がなんとか終わりました~。審査委員の先生方から、激しいボディーブロー(論文の内容に関する質問)を何発も食らわせていただきました。KOさせられるような攻撃を受けてもそこで倒れたら負けなので、なんかもう這いながらネコパンチで応戦してた感じ。審査委員の先生の1人が後から「あれで泣かなかったのは偉い」とおっしゃっていたそうな。まぁ、この業界にいると、打たれ強くもなりますわな(笑)。ご多忙の中ご臨席くださった皆様、どうもありがとうございました。」と書いている。
 私の知人のある韓国の教授夫人の話であるが、子供たちに学者になることを強く勧めたというので、その訳を聞くと、彼女曰く、夫をみていると自由な時間が多く、別に苦労するようなこともない「楽な職業だ」と言った。私は学者の生き方は決して平坦ではないと言った。会社員は勤務時間以外に自由時間があるが、学者は24時間が新しいものへ向けてのアイディアを探し、集中して追求する戦いがある。もちろん会社員でも創意をもって大きい発明をした人もいるが、一般的には与えられた「お仕事」「労働」であろう。学者の道は質の高いものへ挑戦する荊克の道、狭路を歩く孤独な時間が長い。澤野美智子氏はその訓練を通過して出発したのである。心から賛辞を送りたい。