土佐昌樹氏から彼の最近の著『韓国社会の周縁を見つめて』が送られてきた。彼とはずいぶん無沙汰である。80年代に韓国で私の読書会にたまに参加し、調査旅行もしたことを思い出す。そして彼は珍島で一年間調査をしたと知らされた。その後いくつかの研究成果をいただいたが、本書は韓国社会をよく「見つめて」いる本である。この本を読み始めてから思考と文章の洗練さに驚いた。過疎な農村において労働者や花嫁として韓国に移住してくる外国人たちの現状を見て考え韓国社会の問題を鋭く観察し著者自身を問い直しつつ、文章は続いている。視線を離せないままに「あとがき」にいたる。なるほど編集者と議論を重ねたという本であることが分かる。
電子化により紙の本の出版が難しい時代であるが、出版の質を変えることなっていると言える。多くの本は年代記、資料の羅列のようなものであり、今では電子的に検索が簡単にわかるようなものを出している。特に「・・・史」類がそうであろう。考え方はなく、ただ事実を並べた本が多い。考え絞った本が少ない。紙出版が生き残るためにはこのように思索を込めた自分の考えを書くことである。留守電に堀まどかの「『二重国籍』詩人 野口米次郎」(名古屋大学出版会)がサントリー文化賞芸術・文化部門を受賞したという。先日本欄で書評を書いたことがある。合わせて一読を勧める。