崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

敗北と挑戦

2012年04月06日 05時21分06秒 | エッセイ
 年度代わりといえば事務的に思う人が多いが、「新年度」の意味は深い。それは人生の質の変化が伴うからである。大学の新入生には学科を選ぶ、試験に応じ、合格と不合格がある。また就佸の時、何度かは「残念ながら…」の不採用の通知を受けた方も多いはずである。教員たちは各種研究費(たとえば科研)に挑戦して採択された人、不採択の人も多い。下関には直木賞と芥川賞の受賞の古川薫氏と田中慎弥氏の二人がおられ、座談を読んでみると候補に数回上がって落ちた経験の話がある。賞に対して人生をかけているような自分が嫌になった時に受賞されたようである。
 大正時代に東京帝国大学の教官鳥居龍蔵氏が不採択で自費で調査に行く時の不満を書いたものを読んで、私が引用したことがある。人生の中には様々なものに挑戦することがあるが、その挑戦と敗北は生き方の全てではない。他人に評価されるか否かは別であるはずである。スポーツでいえば体の能力発揮と練習が大事である。不合格、不採択の人々は再挑戦すべきであるが、それ自体を目標にしない方がよい。韓国には科挙試験や高等文官試験などに人生をかけて失敗し一生敗北感で不幸に生きた人が多かった。そのような人を数人知っている。賞や宝くじとはそんなに関係なく、人生そのものが大事である。