『僕と僕の母様』 目次
第 1 回・第 2 回・第 3 回・第 4回・第 5 回・第 6 回・第 7回・第 8 回・第 9 回・第10回
第11回・第12回・第13回・第14回・第15回・第16回・第17回・第18回・第19回・第20回
第21回・第22回・第23回・第24回・第25回・第26回・第27回・第28回・第29回・第30回
第31回・第32回・第33回・第34回・第35回・第36回・第37回・第38回・第39回・第40回
第41回・第42回・第43回・第44回・第45回・第46回・第47回・第48回・第49回・第50回
第51回・第52回・第53回・第54回・第55回・第56回・第57回・第58回・第59回・第60回
第61回・第62回・第63回・第64回・第65回・第66回・第67回・第68回・第69回・第70回
第71回・第72回・第73回・第74回・第75回・第76回・第77回・第78回・第79回・第80回
第81回・第82回・第83回・第84回・第85回・第86回・第87回・第88回・第89回・第90回
第91回・第92回・第93回・第94回・第95回・第96回・第97回・第98回・第99回・第100回
第101回・第102回・第103回・第104回・第105回・第106回・第107回・第108回・第109回・第110回
第111回・第112回・第113回・第114回・第115回・第116回・第117回・第118回・第119回・第120回
第121回・第122回・第123回・第124回・第125回・第126回・第127回・第128回・第129回・第130回
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以降は カテゴリ 又は 最近記事より お入り下さるようお願い致します。
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僕と僕の母様 第155・最終回
母様と帰りの電車に乗っている時に 順平からメールが入った。
『卒業式終わったんだろう? みんなで先生を 殴りに行ったか?』
『行くわけないだろう。 それより そっちはどうなのさ』
『昨日、追認合格したから 明日一人で 卒業式だってさ』
『よかったじゃん、卒業できて』 このメールのやりとりを 母様が見ていて
「明日、病院に行く前に 行ってあげれば?」 そう言ってきた。
「そのつもりだったけど、切符代がもったいないから 止めとく」 とっくに定期が切れていて 今日も母様に 切符を買って貰っていたのだ。
「一人で可哀相に」 それなら切符代を くださいよ。
「そう言えば ブラスバンドが 演奏してたわね、上手じゃない」
「ああ、大分上手くなってたみたいだね」
「それだけ?」 何なの?
「それだけだよ」 他に何か?
「ふーん」 何が聞きたいんだ?
その日の夜夕飯が終わって 母様がおもむろに 袋を僕に手渡した。
「卒業おめでとう。 あ、でもこれは卒業のおめでとうじゃなくて お母さんの 大学進学の夢を 叶えてくれたから そのお礼。 でも半分ね。 今は半分の夢を 叶えてくれたんだから。 残りの半分は 四年で卒業してくれたら お母さんの 長い間待った夢を 陵也が叶えてくれた って言う事で その時に改めて ありがとうだわ。 だから今日は 半分ありがとうのお礼」 第一希望を 落としたことが 今でも心に 引っかかっているから 返事に困ってしまう。
とにかく 袋から中のものを 取り出した。 何なんだろう 固い箱に 入っているようだ。 包装紙を開けてみると 中にはお揃いの万年筆とシャーペンが 入っていた。 それも二本とも結構重い。
「大学生なんだし 万年筆ぐらい 持ってないとね」 思いもしなかった。 僕は無言だ。
「陵也も以前 万年筆が欲しいって 言ってたじゃない。 気に入らない?」 無言の僕に反応して 母様が聞いてきた。
「うん、欲しかった」 まるで棒読みで 呆然状態に近い顔で そう答えた。
「何? じゃあ、デザインが 気に入らないわけ? 細すぎた? 太いのはなー・・・お母さんが あんまり好きじゃないから 細いのにしたんだけど」 黒に近い紺色のようだが 殆ど黒。 そこに 分かるか分からないかくらいの 同じような色で 模様とも言えない 模様が入っている。
「これくらいがよかった」 まだボーっとして 目の前に持ち上げて見ている。
「じゃ、何なの? 色がイヤなわけ?」 少し時間をおいて やっと我に返った。
「違うよ。 あんまりにも 予想をしてなかった展開だから ビックリしてただけ。 ありがとう」 お礼を言うのすら 忘れていた。
「気に入った?」 心配そうに僕を見ている。
「うん」 そう言って 何か書いてみようと 初めて持つ自分の万年筆の先を 新聞の上に置いてみた。
「あ、ダメよ そのままじゃ書けないわよ。 インクを入れなきゃ。 袋の中に 小さな包装紙が まだあるでしょ」 インク? 袋の中を見てみると 確かにまだ何かあった。
「これ?」 それを取り出して 母様に渡すと 包装紙を開けて 中からインクとやらを出して
「いい? こうやって ここを開けて このインクを差し込むの。 それからやっと書けるわけだけど すぐにインクが 出てこないから イライラして 無理に書こうとすると 先が痛むからね」 万年筆とやらは 少し時間がかかるようだ。
「はい、もう書けるわよ。 あんまり長い間使わなかったら インクが固まって また書けなくなるけど 水なんかで先を濡らすと 書けるからね」 その説明を受けながら 新聞の端に クルクルと円を 描くように 螺旋を書いていった。
「気に入った ありがとう」 もう一度そう言った。
今日一晩寝て起きると 明日から入院だ。 そして手術。
正太には 手術のことを 言ってあるが 順平には言っていない。 それに正太にも 来ないでいいからと 伝えてある。
手術跡のギブスをしたまま 四月からは大学生としての 僕が始まる。
いったいどういう風に 僕がなっていくのか 想像もつかない。
取りあえず 母様が引いた 幾つかの路線の内の一つを 自分で選んだんだから その線路の上を 歩いていくのだろう。
母様は「高校生じゃないんだから 自由にやりなさい。 毎日家に帰ってくる必要も ないわよ」 と言うが この先この母様を 僕はどう理解していくのだろうか。
とにかく
頑張れ僕!
完
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『昨日、追認合格したから 明日一人で 卒業式だってさ』
『よかったじゃん、卒業できて』 このメールのやりとりを 母様が見ていて
「明日、病院に行く前に 行ってあげれば?」 そう言ってきた。
「そのつもりだったけど、切符代がもったいないから 止めとく」 とっくに定期が切れていて 今日も母様に 切符を買って貰っていたのだ。
「一人で可哀相に」 それなら切符代を くださいよ。
「そう言えば ブラスバンドが 演奏してたわね、上手じゃない」
「ああ、大分上手くなってたみたいだね」
「それだけ?」 何なの?
「それだけだよ」 他に何か?
「ふーん」 何が聞きたいんだ?
その日の夜夕飯が終わって 母様がおもむろに 袋を僕に手渡した。
「卒業おめでとう。 あ、でもこれは卒業のおめでとうじゃなくて お母さんの 大学進学の夢を 叶えてくれたから そのお礼。 でも半分ね。 今は半分の夢を 叶えてくれたんだから。 残りの半分は 四年で卒業してくれたら お母さんの 長い間待った夢を 陵也が叶えてくれた って言う事で その時に改めて ありがとうだわ。 だから今日は 半分ありがとうのお礼」 第一希望を 落としたことが 今でも心に 引っかかっているから 返事に困ってしまう。
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「うん、欲しかった」 まるで棒読みで 呆然状態に近い顔で そう答えた。
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「これくらいがよかった」 まだボーっとして 目の前に持ち上げて見ている。
「じゃ、何なの? 色がイヤなわけ?」 少し時間をおいて やっと我に返った。
「違うよ。 あんまりにも 予想をしてなかった展開だから ビックリしてただけ。 ありがとう」 お礼を言うのすら 忘れていた。
「気に入った?」 心配そうに僕を見ている。
「うん」 そう言って 何か書いてみようと 初めて持つ自分の万年筆の先を 新聞の上に置いてみた。
「あ、ダメよ そのままじゃ書けないわよ。 インクを入れなきゃ。 袋の中に 小さな包装紙が まだあるでしょ」 インク? 袋の中を見てみると 確かにまだ何かあった。
「これ?」 それを取り出して 母様に渡すと 包装紙を開けて 中からインクとやらを出して
「いい? こうやって ここを開けて このインクを差し込むの。 それからやっと書けるわけだけど すぐにインクが 出てこないから イライラして 無理に書こうとすると 先が痛むからね」 万年筆とやらは 少し時間がかかるようだ。
「はい、もう書けるわよ。 あんまり長い間使わなかったら インクが固まって また書けなくなるけど 水なんかで先を濡らすと 書けるからね」 その説明を受けながら 新聞の端に クルクルと円を 描くように 螺旋を書いていった。
「気に入った ありがとう」 もう一度そう言った。
今日一晩寝て起きると 明日から入院だ。 そして手術。
正太には 手術のことを 言ってあるが 順平には言っていない。 それに正太にも 来ないでいいからと 伝えてある。
手術跡のギブスをしたまま 四月からは大学生としての 僕が始まる。
いったいどういう風に 僕がなっていくのか 想像もつかない。
取りあえず 母様が引いた 幾つかの路線の内の一つを 自分で選んだんだから その線路の上を 歩いていくのだろう。
母様は「高校生じゃないんだから 自由にやりなさい。 毎日家に帰ってくる必要も ないわよ」 と言うが この先この母様を 僕はどう理解していくのだろうか。
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