大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第53回

2011年04月01日 13時55分34秒 | 小説





                       日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第53回



部室に入ると 地元の先輩達や、同級生、後輩達が集まっていた。 やっぱり地元は 電車の都合がない分、早いな。

既に楽器を練習している先輩もいた。 この風景を見た途端に また僕の心に 緊張の雲がかかってきた。

みんなに緊張の色はなさそうだ。

先輩達はもう慣れているのだろうし 新入部員の同級生にしろ 後輩にしろ 今回は出場しないので 緊張の必要もないのだろう。

早い話が 僕と同級生フルートだけが 緊張しているだけで、それに もしかして同級生フルートは 僕の勘違いで 緊張なんかしていないかもしれないのだ。

そうなると 緊張は僕一人になる。

僕の緊張が 愛するサックス君にまで 伝染してサックス君が 叫び声を上げてしまったらどうしよう。

ああ、また暗くなってきた。 そんなことを考えていると 先生がやってきて

「おーい、全員集まったか?」

「まだです」 部長が言った。

「集合時間は・・・まだか」 先生が時計を見て 独り言のように言った。 そして続けて

「あと少し待ってから 通しの練習をしていくから そのつもりでいろよ」

「分かりました」 部長が返事をした。

その返事を聞くと 先生は忙しそうに 部室を出ていった。

「集合時間までには まだ時間があるから それまで各自良く練習をしておこう」 部長が部長らしく言う。

「はーい」 全員で返事をした。 イヤ、正確には 僕以外の全員だ。

僕はまだ悪い方へ、悪い方へばかり考えていて 返事をする余裕がなかった。

みんなそれぞれに 自分の楽器を出して練習をし始めた。

僕も愛するサックス君と 練習を始めた。 基礎をしながら「お願い、今日は最後まで 僕につき合って、僕をカバーして、お願いだよ」 と心の中で何度もお願いをした。



以前母様から聞いたことがある。

母様は必ず大きい大会に出たときは その会場自体から 自分の触る全ての器具にまで 心で話をしていたそうだ。

「今日一日よろしくお願いします」 と、心からお願いしていたそうだ。

特にどうしても 気が合わない器具や 雰囲気の馴染めない会場の時には 目をつむって「お願い私に馴染んで」 と何度も時間の許す限り 馴染めるように お願いしていたそうだ。

そして大会が終わると どんな成績であろうと ・・・どんな成績って言うのは 僕の考え方とは違っていて 母様は、一位以外は皆同じ という考え方だ。 早い話、悪い成績と言うのは 二位以下のことなのだ。

その どんな成績で終わったとしても 可能な限り器具を触って そして会場に向かっても 「今日はありがとうございました」 とその日のお礼と 感謝の気持ちを これもまた心で言っていたそうだ。

初めてその話を聞いた時には 馴染むとか馴染まないとか、気が合う合わないとかって 意味も分からなかったし、それに物にお願いして 何がどう変わるっていうの? そんな風に思っていたけれど 今は違う。

僕は母様ほどは お願いしないだろうけど お願いしたくなる気持ちが 少し分かったような気がする。 

それに 物にお願いして と思っていたことに対しては 前言を撤回する。 

物じゃないんだ。 体の一部であったり ・・・イヤ、そんなんじゃない。 生きてるんだ。 生きて意識を持っているんだ。 コッチの気持ちが 良くも悪くも 通じるんだ。

何も考えず、気付かないうちに 僕もサックス君に お願いをしていた。 それは サックス君が生きていることを いつの間にか 僕は知っていたからなんだ。 

母様の言う 気が合う、合わない と言う言葉の意味が 今になって良く分かった。

 


二〇分程たった。 集合時間だ。 基礎も何にもあまり出来なかった。 

その間に ほとんどのメンバーが揃ったが クラリネット先輩と、チューバ先輩がまだのようだ。

「あと五分待とう」 またまた部長が 部長らしく言った。 先生もまだ来ない。

少しして クラリネット先輩がやってきた。

「アレー? みんなもう来てたんだ。 早いねー」 先輩が遅刻なんです。

朝、母様に起こされた時のことを思い出した。 「遅刻をする方がみんなに悪いでしょ」 と言われたことが 頭をかすめた。 遅刻しなくて良かったと、小さく思った。

先輩もクラリネットを出して 音を出し始めた。

「もう限界かな、仕方ないか、全員できっちりと チューニングを始めよう」 部長がそう言った。

みんなで音を合わせていく。 そしてチューバ抜きの練習が始まった。

曲の半分くらいになったとき「ごめーん」 と言ってチューバ先輩が入ってきた。 タイミング良く そのすぐ後に先生もやってきた。

「おお、ちょうど全員揃ったんだな」 そして「早く音を合わせろ」 そう言ってチューバ先輩を見た。

チューバ先輩が 慌てて楽器を出して合わせている。






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