大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

僕と僕の母様 第52回

2011年03月31日 13時43分15秒 | 小説





                       日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第52回



次の日



「陵也! 起きなさい」 

ああ、どこか遠くで 母様の声がする。

夏休みなのに 何でこんなに早く起こされなきゃ いけないんだ。 そう思いながら また記憶が遠のいていく。

「陵也!」 何度目かに やっと現実に戻ってきた。 ああそうだ、起きなきゃいけないんだ。

「は・・・い」 半分寝た声で 返事をした。 そしてまた ウトウトしていたら

「起きなさいって!」 母様の鬼の顔が 僕の目の前にある。 そのとたん頭を叩かれた。

「何がトチって みんなに迷惑をかけたら 気になるよ、遅刻した方が もっと悪いでしょう。 早く起きなさい」 また叩かれた。

やっとの思いで体を起こして ベッドを降りた。 いつもの事だが朝は辛い。 身体が重い。

いつものように 朝のトーストを食べてから ボーっとしたまま家を出る。

リビングを出る時に 「行ってきます」 と母様の顔を見て言う。

「はーい、頑張ってね 楽しんでくるのよ」 そう言いながら 玄関まで出てきた母様が 靴を履き終えた僕に向かって 突然チアガールのように 踊り出す。

「ガンバレ、ガンバレ、リョーオーヤー、ガンバレ、ガンバレ、リョーオーヤー」 両手にポンポンを 持っているつもりだろう。

このチアガールダンスは 僕が何かあるときに 母様が必ず数秒ほど玄関で踊る 不細工踊りだ。 前回は高校の受験の日だった。 そして最後に一言

「あー・・・腰イタ・・・」 これが 終わりの合図のようなものだ。

「行ってきます」 ボーットした頭も少し回復して そう言って僕は笑いながら テレながら出ていく。

いつものように自転車をこいで 電車に乗って学校に向かう。

自転車をこいでいるときは そうでもなかったが 電車に乗って少し落ち着くと まだそれほど大きいものではない 緊張が始まってきた。

学校に近づくにつれ それはだんだんと大きくなってきた。 

学校の正門の前に立って 少しの間校舎をじっと見て そして大きく深呼吸をした。

「陵也くん」 後ろから 同級生フルートの声が聞こえた。

振り向くと 少し離れた所から走ってくる。

今の緊張丸出しの深呼吸 見られちゃったかな、そうだと少し恥ずかしい。

「お早う」 そう言った同級生フルートの方にも 緊張の色がある様に見える。
 
「お早う」 そう言ったきり お互い何も話せない。

正門をくぐり 部室のある校舎に向かって歩いていく。 

二人とも無言だ。 でもイヤな空間ではない。

校舎に入り 階段を昇り 廊下を歩いていると 「今日が来ちゃったね」 同級生フルートが そう切り出した。

「うん」 僕も同級生フルートも 話をしていても ただ前を向いている。

「頑張ろうね」

「うん」

「やるっきゃない。・・・ ねっ!」 声のトーンが少し上がって そう言った。

「うん」 前を見ながら 少し顔が緩んだ。

「間違ったって良いんだよ、音楽で楽しめれば良いんだよ。 学校の名前を言われたからって 金賞を取らなきゃいけない 学校じゃないんだから ねっ、そう思わない?」 どっかで聞いた話だ。

「うん、そうだよね やるしかないんだよね」 お互い顔を見た。

だんだんと 緊張という雲がかかっていた僕の心が 晴れてきたような気がした。





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僕と僕の母様 第51回

2011年03月30日 13時44分23秒 | 小説





                       日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第51回



母様が僕のお茶碗に ご飯をよそった。 

「いただきます」 「はーい、どうぞ」 と言いながら 会話が進んでいく。

「ねぇ、何時位からの演奏になるの?」 母様が僕の正面に座りながら 聞いてきた。

「部室にプログラムが貼ってあったけど あんまり真剣に 見てなかったからなー。 確か一時か二時くらいなんじゃなかったかな」 お箸をくわえながら返事をした。

行儀が悪いという感じで また軽く頭を叩かれた。

「一時か、きついな」 肘をつき 両手で大きく顔を覆った。

「何なの?」

顔を覆っていた両手を広げ そのまま頬に付けながら

「二時なら仕事を終わってから 滑り込みセーフで間に合うけど 一時は完全に無理だし・・・」 

「無理に来なくていいよ。 どっちみち二時でも バイクぶっ飛ばしで来るんでしょ、事故られたら困る。 それに入場券がいるんだよ 来るなら学校でそれを 買わなくちゃいけなかったからね」

「ゲー、入場券? そんなのがいるの?」 驚いて 頬杖をついていた両手を テーブルに バンと 押し付けるように置いた。

「そうみたい いくらだったかな、六百円だったかな? 忘れた」

「信じられない」 真実です。

「だから来なくて良いんだよ」

「でもなー・・・」 また頬杖をついた。 今度は片手でだ。

「明日 先生に言って 買っておいても良いけど お母さんに渡せないでしょ」

「・・・うん」

「だから来なくていいよ」 あんまり言うと 参観日のことを思い出す。 言うのが辛い。

「お母さんのバイクの運転が どんなに悪いか知ってるんだから 着く前に事故っちゃうか 警察に捕まるよ、どっちになっても 会場まで着けないし 事故られたら 僕が責任を感じるじゃない」

「・・入場券か・・・諦めるしかないのかな・・・」 今の僕の話聞いてなかったみたい。

「お母さんが着く頃に 陵也が入場券を持って 入場口で待ってるとか、無理?」 やっぱり聞いてなかったんだ。

「一時かもしれないし、仮に二時としても どれだけズレてくるかわからないじゃん。 あくまでも予定なんだから」

「悔しいなー 諦めるしかないか・・・」 良かった話が終わりそうだ。

「何でもっと早くに 入場券がいるとか、明日だとか言わないの!」 終わりそうになかった。

「イヤ、何で!? 確かに入場券のことは 言ってなかったけど 明日だって事は ずっと前に言ってたよ」 何度言えばいいの。

「明日ってちゃんと聞いてたら お仕事休んだのに」 腕組みをして 大きな態度だ。

「だから言ったって」 ため息が出る。

「いつ言ったのか知らないけど 相手はお母さんなんだから 少なくとも一週間前からは 毎日ちゃんと言わなくちゃ 覚えてるわけないじゃないよ。 それ位分かんないの!? バッカじゃない」 僕が悪者になってしまいました。 おまけに僕はバカだそうです。

取り合えず これ以上相手にしないでおこう。

「明日起こしてよ」 僕がそう言うと

「ふん!」 怒っちゃいました。

いつもは 僕の食事が済むまで 一緒にテーブルについていてくれるんだけど さっさとリビングに行っちゃいました。

ご飯を食べて少ししてから シャワーを浴び、とりあえず今日はもう寝よう。

「おやすみ」 母様に声をかけてみた。

「はーい、おやすみ」 ご機嫌が直っているようだ。

ベッドに入っても 緊張して眠れないんじゃないか と思っていたのだけれど クタクタになった肉体は正直だ。

いつしか記憶をなくしていた。





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僕と僕の母様 第50回

2011年03月29日 16時54分40秒 | 小説




                       日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第50回



いつも思うのだけど 母様の表現ってきっと他人が聞くと 幼稚的であったり、人とちょっとズレていたりしているように 思われるのだろうが 僕にはそんな風に 聞こえないし、思えない。

その幼稚な言葉やズレた言葉 そして その考え方の方が的を得てるんだ。

単に僕が 母様に染まってしまったのかもしれないが でもその美味しいとか、お腹いっぱいになるとかっていう表現の意味が 今は何よりも当てはまると思う。

母様の言いたいことが その言葉によって すべて表現されているのだ。 そしてその言葉によって 僕も心の中が溢れそうになるのだ。

他の言葉では ここまで溢れそうにはならないだろう。

自分の質問も忘れて

「うん、こんな美味しいもの 初めて食べたっていう感じ」 溢れそうな心で 素直に言った。

「えっ、何? お母さんの料理は それに劣るっていうの? どういう事?」 そういうこと言ってないでしょう。

「そう言う意味じゃないじゃん」 せっかくの心が 冷めてくる。

「当たり前でしょ、誰でも分かるっていうの。 何、本気にしてるの、バカじゃない」

「・・・ハァ~・・・」 ため息しかでない。 僕もまだまだ修行が足りない。

母様のペースは難しい。

母様が僕をリラックスさせるために 言ったと思っていた言葉「充実、満喫、満腹」 本当は リラックスさせるために言ったんじゃなくて もしかしたら 母様の今までの経験から得た 心の言葉なんだろうか。 少し疑問が残った。



母様にけなされ、励まされながらも 夏休みが始まろうとして 刻一刻と コンクール予選の日は近づいてきた。



とうとう 夏休み突入。

今まで どちらかといえば優しかった先生が 切羽詰ってきたのか だんだんと怒鳴る日が増えてきた。




そして今日は最終練習の日だ。 明日はいよいよ当日となる。

この日は遅くまで全員で合わせばかりをしていた。

誰かがトチる。 曲が止まる。 先生が怒鳴る。 トチった所の少し前からやり直す。 こんな事の繰り返しだ。 明日どうなるんだろう。

そんなことを考えながらこの日は終わった。

クタクタに疲れた手と口で家に帰った。

「ただいま」 リビングに入って ソファーに座っている母様に言った。

「お帰り 遅かったわね。 おかず温めなおそうか?」 ソファーから立って キッチンに向かいながら そう言ったので

「最終練習が長引いたんだ。 あ、温めなくていいよ。」 コンロに火を点けかけた 母様の手が止まった。

「まぁ、冷たくはなっていないから いいかしら」 お鍋から お皿によそっている。

「明日コンクール予選の日だから朝起こしてね」 私服に着替え 脱いだ制服をハンガーに掛けながら僕が話した。

「えっ、明日なの?」 僕の夕ご飯をテーブルに並べながら母様が聞いてきた。

「何度も言ったじゃない」

「知らなーい、聞いてなーい」 笑ってる。 完全に忘れてたんだ。

「言ったよ」

「何時に起こせばいいの」 聞いてたことを認めない。 仕方ないか、この母様なんだから。

「学校に行ってから会場に電車で行くから・・・」 そこまで言うと

「なんで学校に行くの?」

「楽器を積まなくちゃいけないから」 そう言いながら僕はテーブルについた。

「持って帰ってきてないの?」

「明日先生たちが 車に積んで会場まで運んでくれるから 持って帰る必要ないんだ」

「ふーん、で、何時に起こすの?」

「六時半」

「ちゃんと一回で起きてよ」

「無理」 

そのいらない一言で頭を叩かれた。





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僕と僕の母様 第49回

2011年03月28日 13時44分04秒 | 小説




                      日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第49回



合わせの前に みんなそれぞれパート練習をしている。

その音を聞いていると 何だろうか 昨日思った逃げ出したいような気持ちも 勿論あるんだが なにか今まで経験したことのない気持ちが 心の中にある。 ワクワクする感じだ。

みんなの音を聞きながら 僕も音階やロングトーンをしていく。 ふと心の中で早く合わせてみたいと ほんの少し思った。

心が笑っている。

そうか、これなのか ワクワクする感じの正体はこれなのか。 これが音楽の魅力、ブラスバンドの魅力なのだろうか。

そうであったら 僕はその魅力に まんまとハマってしまったようだ。 さっきまであった 逃げ出したいと思う 心の弱い僕が 何処かへ行ったようだった。

ワクワクの正体が 分かったからなのだろう、その日から僕は 合わせたくって、合わせたくって たまらなくなった。

そして合わせたいがために パート練習も今までになく 一生懸命になった。 いや、今までも 十分一生懸命にやっていた 力が入ったという感じだ。

そんな毎日を繰り返していく内に 僕もなんとか合わせの練習に ついていけるようになった。

それどころか 何回かに一度は 一回のミスもなく 曲を終わらせることが 出来るようにもなってきた。 とは言え、十分に納得のいける音色を 出せているわけではない。

しかし ミス無く無難に吹けたという充実感は この上なく素晴らしいモノである。

これが納得のいく音色であれば それ以上の感動があるのであろう。 

それを経験してみたい。



家に帰って そんなことを母様に話した。

「いわゆる それが向上心の始まりね。 今まで陵也は 向上心の欠片もなかったから 良いことだわ。」 いつもながら 憎たらしいご意見だ。

「どういう意味? 褒めてるの、けなしてるの!」 そんな僕の言葉は 無視されたようだ。 母様はその後も言葉を続ける。

「何よりそれが音楽であることが お母さんは嬉しい。 大丈夫よ、他の人が 褒めてくれてるんだったら 少なくとも 大きなミスはしないでしょうし 例のピヒャーって言う サックスの叫び声さえなければ 分かんないわよ。 それに ピアノの発表会は 一人で舞台に立つけど 今回はみんなと一緒に 舞台に立つんでしょ、そんなに緊張もしないでしょうよ。 きっと大丈夫。 そんなに大層なクラブでもないんだから 深く考えることないわよ。 学校を背中にしょってる訳でもないんでしょ? 失敗したらしたで それも良い経験だし それまでの、その日までの練習が 何より陵也の得た 大切な経験なんだから それで良しっ と言うことよ」 

黙って聞いていたら 言いたい事を言ってくれた。

「そりゃあ、お母さんみたいに 優勝して当たり前の学校じゃないけど 自分のせいで みんなに迷惑かけたら 気になるじゃん、それに失敗するって言ってるの? しないって言ってるの? どっちなの」

「充実感ってイイでしょう? すごく美味しくて すごくお腹いっぱいになるでしょう?」

質問に答えてくれない。





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折り鶴

2011年03月27日 02時33分30秒 | 日記
上手くないのですが 折鶴を折りました。



今回の東日本での大地震、活動が低下してきたといえど まだ噴火の恐れのある新燃岳 他にも色々今の日本には問題があります。



特に今回の大地震では 今日本は一つにならなければと 言われています。

日本人の心の奥底に眠る 折鶴。


千羽鶴を折るときに 願いを込めて 折っているみんなの心が一つになります。

そんな風に皆で一つの心を持てる 切っ掛けになればと 折鶴に願いを込めて折りました。




色は 木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)様の桜色 瀬織津姫(セオリツヒメ)様の藤色 です。



木花咲耶姫様は富士山にいらっしゃり 日本のために御働きをされていると聞きます。


瀬織津姫様は水の神様。 

今回の大津波があって 水の神様って・・・と思われるかもしれませんが、困った時一番に人間が必要とするのは 水ではないでしょうか。

大昔、人が住む所は川の近く。

水なくして人間は生きていけません。



こういう気持ちを持って 二神の姫神様のお色を使わせていただきました。






折鶴を対極図のように 置きました。



対極図をこのように用いて良いのかどうか分かりません。 もしご指摘があれば どうぞご指導下さい。







 



クロアチアではデモ行進中 日本大使館の前を通った時に 火を灯し黙祷をして下さったり

今、各国から お力を戴いたり募金を戴いたり、外国にすむ日本人の方には「あなたの家族は大丈夫なの? 日本は大丈夫なの?」とお声をかけて下さったりしているようです。


諸外国の方々に感謝を申し上げます。


日本が一つも勿論、世界が一つになってきたのかもしれません。

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僕と僕の母様 第48回

2011年03月25日 14時01分51秒 | 小説
僕と僕の母様 第48回



それを見ていた他のメンバーが 言いなりになっている僕を見て 最初はクスクスと笑って見ていたけど その内に一人また一人と 僕達に合わせてついてきてくれる。

何か吹奏楽みたいになってきた。 イヤ、しっかり吹奏楽部なんだけど。

割と長い間吹いていたような気がする。 実際はそんなに吹いていないのだろうけど 僕にとっては十時間くらい ずっと吹き続けているような気がした。

もう眼界だ、あまりの緊張で 音がヘロヘロしてきだした。

ああ、でもみんなが僕に合わせてくれてるんだから 最後までやり遂げなくっちゃ、頑張らなくっちゃ と思いながらも でも出来ることなら その前に誰かヘマをしてくれ、それか「ここまで」 といってくれ、目は楽譜を追っているけど 心の中ではそんな事ばかりを叫んでいた。

しかし神様は そんなズルい事を考えている僕を 許してはくれなかったようだ。

僕の愛するサックス君が ピヒャーっと叫び声を上げた。

するとバラバラとみんなの音が止んでいく。

誰がヘマをしたわけではない 自分がヘマをしてしまった。 人のせいにしようと思った罰だ。

でもこれでやっと 究極の緊張から解き放たれた。

そのとたん半分ホッとしたのと 半分せっかくみんなノッてきてたのに 悪いことをしてしまったという 申し訳のない気持ちになった。

すると先輩達が「良く吹けたねー」 「やるじゃん」 などと口々に褒めてくれた。

ズルい事を考えていた僕は 素直に喜べないし 実際曲を止めてしまったのは僕だ。

「ごめんなさい 曲、止めちゃいました」 ズルい事を考えていたことは 告白できない。

「何言ってるの十分だよ」 クラリネット先輩が言ってくれた。

「・・・はい」 心が痛い。

「ね、十分合わせられたでしょ」 同級生フルートが言う。

「うん」

「何でもやってみなくちゃ分からないし 言ってみれば団体競技なんだから みんなの力を借りればいいのよ。 分かった?」

「うん」

「陵也君は 毎日基礎からきちんと練習して曲に入ってるんだから 十分なんだよ。 分かった?」 褒められているのだろうか、お説教を受けているのだろうか まるで母様と話しているようだ。

「うん」 だんだん痛みが薄れてきた。 僕って意外と心の薄い人間なのかな。

「じゃあ、今日をきっかけに 全員で合わせの練習もしていこうか」 部長が言う。

「そうね、ちょっとペース上げていかなくっちゃね」 先輩達が言う。

明日からこの究極の緊張を 毎日味わうのかと思うと 無断欠席したくなる。 やっぱり僕は弱い人間です。

次の日から早速先生を呼んでの 合わせの練習が始まった。

無断欠席をする勇気もなかった弱い人間の僕は しっかり部室にいる。





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僕と僕の母様 第47回

2011年03月24日 19時32分42秒 | 小説
僕と僕の母様 第47回



母様が時々「どう、ちゃんと吹けてる?」 と聞く

「イヤ、聞かないでぇ」 女言葉の僕は耳を押さえて 答えを拒否する。 僕って言う人間は 突然母様に何か言われると 時々女言葉になるようだ。

「せっかくの経験なんだから 充実、満喫、満腹するのよ」 と言う。

満腹? それは関係ないだろう。 でも母様なりのやり方で ほんの少し リラックスさせてくれているのだろう。

とは言え、本当にピアノ以外の楽器という物を触って 何ヶ月かしか経っていない僕には 曲という形で仕上げるには とてつもなく長い時間 イヤ、時間なんてモノじゃない。 それどころか長い年月が 必要だろう。

どうしていけば良いのだろう。

母様にリラックスさせてもらっても リラックスとかっていう次元じゃない。 実際あんな言葉だけで リラックス出来るわけもないし・・・。

ようは 出来るか出来ないかだ。

そして答えは一つ 出来ない。 不可能なのだ。 

こんな事を必要以上に グチグチと考えるのは 気が弱い証拠なのだろうか、それとも僕は 現実を人一倍感じることが 出来るのだろうか。

きっと母様なら こんな風に考えないだろうし、何より やらなくちゃいけない事はやっていく、やるから出来る、それだけと考えるのだろう。

こんな時 そんな風に考えられる 母様の性格が 羨ましく思える。

わがままで根性悪な性格の上に 成り立っている事なんだろうけど、良いとこ取りをして 後ろを振り返らない、横も見ない、前だけしか見ない 母様の様な性格に なってみたい。



最近部室の前で例の一年生を また見かけるようになった。 今度は何なんだろう?



コンクールの日が近づくにつれ 時々それぞれ他のパート同士で 何小節か位で合わせたりしている。

僕もそんな風に していかなくちゃいけないのだろうか。

どうして良いのか 全然分からない。

同級生フルートも 僕と同じように 高校生になって 初めてのコンクール予選だが 中学から吹奏楽に入っていただけに 僕より数段要領を得ている。

何も分からないのは 僕だけのようだ。 こんな時に旧部長が居てくれたらと 何度思うことか・・・。

仕方がない、同級生フルートに頼る以外ない。

「ネェ、僕どうしたらいいの?」

「どうしたらって?」

「みんな合わせたりしてるじゃない。 僕そこまでまだ無理なんだけど 合わせた練習も必要なのかな?」

「もう、何言ってるの 何が無理よ。 何でもやってみなくちゃ分かんないでしょ、それに十分陵也君も 合わせられるくらいに なってるじゃない。 ほら、ここから吹いてみて」 そう言って楽譜の一部を指さした。

「ヘッ、どこ?」

「ここ。 いくよ、せーのー」 話のテンポが速すぎる。

けど、言われるがままに 慌てて吹きだした僕、

必死です。





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僕と僕の母様 第46回

2011年03月23日 15時01分21秒 | 小説
僕と僕の母様 第46回



『威風堂々』


結局、部員の中では曲が決めきれず 先生の意見を仰いだのだ。

吹奏楽でよく演奏する曲だそうだ。 タイトルだけ聞いても どんな曲か分からなかったが

「この曲を知らないと思っている者、大きな勘違いだぞ」 そういって先生がCDをかけてくれた。

暫らくして ああ、確かにどこかで聞いたことがある曲だ。

この曲を知らないと思ってた部員も 僕と同じように思ったらしく どこからともなく「ああ、」 という何人かの声が聞こえた。

先生が譜面の用意もしてくれていて 僕も受け取った。

一年生と 僕と同級の新入部員にも配られたが こちらはコンクールへの出場は 無理ということだった。

早い話が サックスのパートは 僕一人が吹くということなのだ。

まあ、三年生が多いから 何とかなるかもしれないけど サックスに限らず 殆どのパートが一人だけだ。

配られた譜面をじっと見ながら 本当に僕に吹けるのだろうかと不安になってきた。 

一年サックスが 僕の隣にやってきて「先輩頑張って下さい」 と言ってくれたけど 何なら代わろうか? って言いたい気分だ。



その日家に帰って

いつも通り玄関のドアを開けて 一度目の「ただいま」 そして一度目の「お帰り」

リビングのドアを開けて 二度目の「ただいま」 そして二度目の「お帰り」

いつもの僕と母様だ。 母様はキッチンに居た。

僕は着替えもせずに キッチンに居る母様に向かって

「お母さん『威風堂々』 って知ってる?」 聞いてみた。

「何それ?」 何のこと? といった感じで キッチンから 僕を見ながら歩いてくる。

「曲、吹奏楽でよく演奏している曲なんだって。 ほらこんな曲」 そういって譜面を見せた。

母様が譜面を見ながら 足でリズムをとって口ずさむ

「音程ずれてマース」 笑いながら言った。

「うるさいわねー ソルフェージュ苦手なんだから。 ・・・でもどんな曲か分からないわ。 お母さんの知ってる曲なの?」 そう言ってピアノに向かって行った。

「弾いてみれば 分かるかもしれないよ」 ピアノで弾けば分かるだろう。

メロディーの所だけを弾いていく。

「こんな曲知らないわよ」 ピアノの手を止め 僕の方を見てそう言った。

「もう少し先まで弾いてみたら 分かるかもしれないよ」 何故かニヤニヤしてしまっている僕が居た。

こういう時間って 面白い。 

相手が分かりそうで分からない でも相手がこの事を 知っていることを僕は知っている ・・・ 何故かワクワクしてしまう。
 
これも根性が悪いのかなぁ?

サビの部分になってやっと

「ああー、この曲かぁー。 この曲が『威風堂々』 って言うんだ、今度のコンクール予選の曲?」 やっと分かったみたいだ。

僕のお楽しみの時間も これでお終いだけど 今度は純粋に 母様に質問があった。

「うん そう。 ねぇねぇ 僕に出来ると思う?」 僕の実力で出来るかどうか 母様の意見を仰ぎたかったのに あんまり僕の質問を聞いていない。 まだ譜面に見入ってる。

「ふーん、この曲をするんだ」 仕方ないか この母様だもんな。 それに とっても気に入ったようだ。 

「がんばってね」 質問の答えだろうか・・・? 

それからも母様は キッチンでの用事を忘れて 暫らくピアノを弾いていたから 僕の夕飯が少し遅くなった。



部活の方は いつものお喋りタイムを返上して みんな練習に没頭した。

週三回の練習も毎日に変わった。

このクラブもやれば出来るんじゃん なんて、客観的に見ながらも 僕も焦ったりしていた。

それぞれが 個人で練習をするのがメインで 殆ど合わせるといったことはしなかった。

まずそんなことをされたら 僕は困ってしまう。

僕だって他の新入生と同じくらいのレベルなんだ。 出来ればこの出場メンバーから 外してほしいほどなのに 先生はそんな気は毛頭ない といった感じで 僕に教えてくれている。

先生の期待に応えたいけど 絶対に無理だ。

これをプレッシャーと言うのだろうか、もしそうだったら

僕はプレッシャーに勝てない人間だ。





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僕と僕の母様 第45回

2011年03月22日 13時25分13秒 | 小説
僕と僕の母様 第45回



「どこが良いのって、どこからどう見ても カッコイイじゃない。 ははーん、自分よりカッコイイ人間は 認めたくないわけだ。 心せまー」 そのことに関しては 僕も反発した。

「友達でそういう奴がいるから 僕はそうならないぞ って思うように努力してるから そんなことはない。 じゃあ、どこがカッコイイんだよ」 あんな奴と一緒にされたくない。 一層声が大きくなった。

「全部、顔も声も立ち方も座り方も、何もかも全部」 開き直った。

いつもは「うーん、どこだろう」 とかって考えるのに。 でも一つだけ触れていない所がある。 そこを突いてやろう。

「ああ、身長は低いもんね さすがに身長とは言わないんだ」 少し落ち着いて言った。

このボーカルは170センチあるかないかなので いつも母様は「これで身長さえあればなー」 と、よく言っているのだ。 

「陵也みたいなおチビよりずっと高いです。 羨ましいでしょ」 確かに僕よりかは高いけど もう少し大人の話し方が出来ないのか。

「ふん、僕だってあの年齢になると 少しは伸びてる。 いや、ずっと伸びて抜かしてる」 そう言ってやった。 すると

「ふん、不可能」 そう言って僕を斬った。

確かにこの時点において 156センチの母様を ほんの少し抜いたくらいだ。

この先に伸びたとしても 170センチ以上は無理だろう。

そんな事はどうでもいい。 危うく母様の低次元な 会話につられる所だった。 

そう言う事じゃなくて 僕の感情は 斬られたことにも腹が立つ。 身長のことを そのボーカルと比べたことにも腹が立つ。

こうやってこのボーカルを 好きだ好きだという母様にも 腹が立ってムカムカしてくるけど 母様を好きにさせている このボーカルにはもっとムカムカする。

大体、僕の母様だろ。

なんで話したことも無ければ 会ったこともない、相手は母様の存在さえ知らない訳だ。 そんな人間相手に どうして母様は世の中で一番好きというのだ。 馬鹿じゃないかと思ってしまう。

「相手はお母さんのことを 知らないんだからね、いくら好きでも会えないよ」 イヤミを込めて言った。

「ふん!」 ふくれてそっぽを向いてしまった。

勝った! 斬られてばかりじゃいられない。

でもそれからも 母様のそのバンドへの集中、そのボーカルへの想いは 全く変わらなかった。

本当に人の気持ちの中を 考えるということが出来ないんだ。 少しは大人になれって言うんだ。

でもこういう気持ちを あからさまに言葉に出来ないのは、こう思ってしまうことが 人には言いにくい事、言うならば クラスの連中が言ってた マザコンのような気がするのだ。

でも誰だってきっと口には出さないけど 母親のことをこんな風に思っているに違いないと僕は思う。
 



こんな風に 僕の心の中で色んな想いが渦巻いたり、母様との小さなバトルをやっている内に 部活の方は淡々と コンクール予選に向かって走って行った。

曲が決まったのだ。





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僕と僕の母様 第44回

2011年03月21日 01時49分45秒 | 小説
僕と僕の母様 第44回



この時が初めての ムカムカだった。

それまでも 母様の口から出てくる 色々なアルバイト君の話で アルバイト君が母様のことを「お母様」 と呼んでいると言うことを聞いて あまりいい気はしなかったが こんなにムカムカすることもなかったし 何よりも 嬉しそうにアルバイト君のことを話す 母様の話を聞いてあげなくちゃ と言う思いが先にあった。

「・・・」 何も話したくない、挨拶なんてとんでもない。 でも仕方なくそっぽを向いて 軽くお辞儀だけした。

「こんにちは」 アルバイト君は 何の余裕があるのか知らないが 微笑みを十分に出して そう言ってきた。

「先に駐輪場に行ってる」 そう言って僕は出て行った。 しばらくアルバイト君と母様は 話をしていたようだった。 

後から母様が出てきて第一声が「きちんと挨拶くらいしなさいよ」 半分怒ってバイクのエンジンをかけだした。

母様も怒っているが 僕もムカムカだ。

どうしてこんな風に ムカムカしてしまうのか その時にはどれだけ考えても 分からなかった。

母様が ふー、っと大きく深呼吸して「今日、どこ行こうか」 怒りを抑えて聞いてきた。

「友達の所に行く約束があるから 先に帰ってて」 目を合わせないで 自転車をまたいだ。 約束なんてあるはずない。

「そう、じゃ、先に帰る」 やっぱりちょっと不機嫌だ。

ご挨拶が大切な母様にとっては 大変な怒りの根元になったのだろうと思うけど 考えるだけで また一層ムカムカしてくる。 そのうちに腹も立って イライラしてきた。

それからは母様が アルバイト君の話をしても あんまり乗り気で聞くという態度が 出来なくなった。

母様がそれを感じているのか いないのかは分からないが そんなことも無視しているかのように 相変わらずほとんど毎日 アルバイト君の話が出ていた。

母様のいけないところだ。 相手の心を思いやるっていう事が出来ない。



もう一人は、俗に言う芸能人だ。 


この芸能人というのは 音楽をやっていてバンドを組んでいる。 まあまあメジャーなバンドだ。

母様はそのバンドの ボーカルが大好きなのだ。

僕が小学校六年生の時に ファンになってから ずっとライブにも出かけていて CDも勿論予約までして買っている。

ボーカルも大好きだけど バンド自身の音楽性も気に入っているらしく その中でもアレンジが特に好きらしい。

これもまた 僕が高校一年生の終り頃までは 同じように「この曲良いね」 なんて言っていたのだが 自分でも気づかない内に いや、もしかして あのアルバイト君のことが あってからなのかもしれない。

母様がそのボーカルの話をしても「どこが良いの」 とか「もうこの曲聞き飽きたから」 とか「らしくない曲だね」 とかって 冷たい返事をし出していた。

母様は 日頃からそのボーカルの どこが好きなのか 自分自身よく分からない と言っているのに 僕のあまりの冷たさに 突っ掛ってくることもあった。

それなのに相も変らず

「ネェネェ、今度の新曲良いと思わない?」 そう言って買ってきたばかりの CDをセットし始めた。

どうしてそんなことが出来るんだ 人の気持ちを 思いやれって言ってるのは 母様だろう! 

「この曲良いねとかってしつこいよ。 別にお母さんが言わなくても 僕が自分でそう思えば お母さんにそう話しかけるよ。 大体、このボーカルの どこが良いって言うんだよ」

イラつくように いつもより大きな声で言った。





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