大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

彼女達 第21最終回

2012年01月22日 23時38分50秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第21回



「私もよ、じゃあ秋美のところにかけてみるわね」 携帯のボタンを押し 耳に当てながら 

「出るかな?」 真紗絵の顔に負けず劣らずの表情だ。 それと同時に心の中は(良かったさっき舞ちゃんを叱った時の暗い感じが抜けてる) そう感じていた志乃であった。

「あそこの家は昔からの家だから そう簡単に引越ししないでしょうから 電話番号も変わってないはずよ」 真紗絵がそういった途端

「あ、もしもし」 志乃が話し出した。

「あ、そうなんですか。 ・・・お願いします」 そう言いながら 書く真似をしだした。

「あ、メモとペン」 あわてて真紗絵が鞄から メモとペンを取り出し志乃に渡した。

すぐに志乃がメモを書き

「はい、分かりました。 有難うございました」 携帯を切った志乃が続けて言った。

「秋美ちゃん結婚してるんだってー」

「え! うっそー 鉄の箱から出られたんだー!」 二人で大笑いだ。

その二人を驚いた目で見ている舞。

「あ、ごめんごめん 舞ちゃん驚いちゃうよね。 大きな声出してゴメンね」

「舞は大きな声は何ともないわよね」 真紗絵が言うと

「うん。 ママの怒る声のほうが大きい」

「なんてこと言うのよ」 今度は冗談めいて反応した真紗絵。 それに安心をして志乃がチャチャを入れる。

「あ、そうなんだー ママ恐いんだー」 また大声で笑う二人であった。 

あまりのこの空間の幸せに 昔の心が騒ぎ出し

「ねぇ、秋美ちゃんの所に電話していい?」 志乃が言い出した。

「勿論いいわよ。 してほしいくらいよ」 志乃はすぐに携帯で さっき教えてもらった電話番号にかけた。

「今日は日曜日だから 出かけてるかしら?」 また携帯を耳に当てながら 志乃が言った。

「そうねぇ、もしかしたら 家族でお出掛けかしら」 コール音が8回鳴った。

「出ないわねぇ」 するとその時

「もしもし」 と電話に出る女性の声。 

懐かしい声だ。 電話に出たのが秋美であることは すぐに分かった志乃だが 万が一違ってはと思い

「もしもし そちらに秋美さんは いらっしゃるでしょうか」 

「秋美は私ですが」 

「秋美ちゃん?」 志乃が真紗絵にOKサインを出した。

「そうですけど あの、どちら様でしょうか?」 訝しげに返事をしてきた。

「私よ! 志乃よ」 

「え・・・志乃って」

「高校の時一緒だった志乃よ」 嬉しさが志乃の心一杯に広がる。

「うそ! 志乃ちゃん、志乃ちゃんなの!」 電話の向こうで秋美の驚く声が 真紗絵にも聞こえてきた。

「そうよ、嘘じゃないわよ! 今ね偶然 真紗絵と逢って・・・」 ここまで言うと また電話の向こうで 驚いている秋美の声がした。

「ねぇ、秋美ちゃんの家って何処なの? 秋美ちゃんの実家から遠いの? ・・・え? 私の実家と同じ市なの? 信じられない。 そんなに近くにいたの?」 話を聞いていた真紗絵が 電話を代わってと催促をしだした。

「今 真紗絵に代わるわね」 携帯を真紗絵に渡すと 真紗絵の喜ぶ声と 電話の向こうの秋美の驚きの声がする。

その二人の声を聞いているだけで 幸せになってきた志乃。

暫く真紗絵が話して

「ちょっと待ってね」 そう言って今度は志乃の方に話しかけてきた。

「ねぇ、今日まだ時間ある?」

「お一人様だから 何時まででも大丈夫よ」

「今から秋美と逢わない?」

「逢いたい!」

「じゃ、決定ね」 そう言ってまた携帯で秋美と話し出した。

一通り話し終え 携帯を切った真紗絵が

「私、車で来てるんだけど 志乃は?」

「私は電車で来たの」

「じゃあ うちの車で秋美と待ち合わせ場所に行きましょう。 1時間ちょっと位で着くはずよ」

「わぁ! 楽しみ」



そうして三人、10年振り位にあったのだが話は尽きない。

秋美は無理矢理の結婚で 無表情な結婚生活を送っていた時だ。

真紗絵は離婚話を考えていた時、志乃は不倫で悩んでいた時。


よくもまぁ、こんなタイミングで逢うものだ。

こんなタイミングだからこそ良かったのか 見栄を張る必要の無い友、何も飾る必要なく話せたのか。 

この日をきっかけに ずっと続いている友達関係。


後に真紗絵は離婚をし

志乃は不倫相手と綺麗サッパリ別れ

秋美は優しい旦那様に 送り迎えをしてもらい 時々三人で会っている。


それぞれの道を歩んではいるが この空間だけは いつまでも変わらない友達付き合い。


高校の友は一生の友と言うが 卒業をするほんの少し前に 親しくなっただけの三人。 

長い時間一緒に居たから良いとは限らない。 時間に縛られて友を作るのではない。 

誰も 何処にどんなきっかけがあるのかは分からない。 そしてそれは人に限ったことではない。



ただ言えることは 彼女達の人生のページには これからも友という文字が 深く刻まれていくのであろう。

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彼女達 全21回 リンクページ

2012年01月20日 23時20分05秒 | 彼女達 リンクページ
『彼女達』


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第21最終回

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彼女達 第20回

2012年01月20日 23時06分27秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第20回



「え? またどうして? こんな小さな子がいるのに」 思いもしなかった返答だ。

「うん。 もう疲れたの。 私一人で子育てして ダンナは全く関与せずなのよ。 昔はそれで良かったかもしれないけど 今はどこも夫婦で子育てしてるじゃない? それにそれだけじゃないし。 ま、言いかえれば価値観の違いになるのかな」

「価値観って・・・。 離婚する人はよくそう言うけど 結婚して何年になるの?」

「もう9年位かな」

「9年も一緒にいたら 今更、価値観も何もないでしょう」

「ずっと我慢してきたの、でももう限界」 

「限界って何が?」 どうにか説得できないものかと 志乃が聞いた。

「ダンナは私達より一回り上なんだけど 最初はその差からの知識を尊敬できたのよ。 でも今は考え方も何もかも違う事に気付いたの。 他の家庭と違いすぎるのよ」

「他の家庭と比べるのはどうなのかしら その家にはその家の良さがあるでしょう?」

「良さなんてないわ。 表立っての男尊女卑まではいかないけど 心の中では私を馬鹿にしてるし 今時の家庭なんて あるまじきって考えてるのよ。 尊敬なんて飛んでいっちゃったわ」

「・・・そうなの」 自分は結婚をしていないのだから 自分には分からない事もあるだろうし 尊敬が無くなった人間関係は 修復が難しいのであろうと それ以上の言葉は控えた。

「ねえ、秋美と連絡取ってるの?」 真紗絵が急に言い出した。

「うううん、 卒業してからは誰とも連絡を取ってないわ。 仕事も慣れなくて忙しかったし、今はこんな状態だし」 溜息混じりだ。

「お局様の不倫ね」 からかうように 真紗絵が言った。

「なんてこと言うのよ!」 からかわれていると分かっていても 反応してしまう志乃。

「冗談よ。 ねぇ、秋美どうしてるのかしら」 組んでいた腕を テーブルに置いた。

「真紗絵は誰かと連絡とってたの?」 そう言った途端 ジュースを飲もうとした舞のコップが倒れかけたのを 慌てて支えた。

「あ、ごめん。 舞!ちゃんとコップを持たなきゃダメでしょ!」 少しヒステリックに舞を叱った。

「ごめんなさい」 ちゃんと ゴメンナサイが言える子である。

「ちゃんと持ってたよね。 コップが大きいから 持ちにくかっただけだよね」 志乃がションボリしている舞に声をかけた。

舞の姿を見て 溜息をついた真紗絵。 その姿を見た志乃が(子育てに疲れてるのね) 心の中で呟いた。

「えっと、何の話してたっけ?」 話を戻そうと 真紗絵が志乃の方を見ていった。

「真紗絵が誰かと連絡を取ってたかどうかよ」 

「あ、そうそう。 私も誰とも連絡を取ってなかったわよ。 短大の時は短大の友達とずっと遊んでたし、その後すぐ結婚したし」 

「そうなの、みんな一緒なのかなぁ。 秋美って、確か専門学校だったわよね」

「そう、そう。 未だにあのお父さんの箱に入れられてるのかしら」

「鉄の箱入り娘だもんね」 二人で大笑いをしている。

「秋美にも逢いたいわ」 真紗絵がそう言うと

「そうね、連絡してみようか?」

「今?」

「うん。 電話番号覚えてるから かけてみない?」

「え? 電話番号を覚えてるの?」

「あの時 毎日って言うくらい電話してたから 完全に覚えてるわよ。 かけていい?」 鞄から携帯を出した。

「うん、ピアノの発表会が こんな展開になるなんて思ってもみなかったわ」 真紗絵の顔が意気揚々としている。

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彼女達 第19回

2012年01月15日 01時21分03秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第19回



「ご褒美もらったの。 早く見たい」 子供が参加賞としてもらえる商品を 早く見たがっている。

「じゃ、演奏中は音を出しちゃいけないから あっちで見ようか」 待合のことである。

真紗絵が待合のほうに歩き出すと そこに志乃が立っていた。

「志乃!」

「ふふふ、影からずっと見させてもらってた。 こんにちは、お母さんのお友達の志乃ちゃんです」 子供に話しかけると子供も笑って

「こんにちは まいちゃんです」

「お利口さんね。 ちゃんとご挨拶できるのね。 ね、一緒に付いていってもいい? 同僚帰っちゃったの」

「そうなの。 1番目の子かなり緊張した演奏だったもんね。 いいわよこのまま帰らない? お茶しよう」

「お友達の演奏聞かなくていいの?」

「まぁ、付き合いはしなくちゃいけないだろうけど 志乃がもういいのなら お茶のほうに時間をかけたいわ」

「何それ? ほんとにいいの? 後でママ友の喧嘩とかにならないの?」

「いいの、いいの。 舞、どこかでジュース飲もうか?」

「まい ジュース飲みたい」

「じゃ、行こう」 真紗絵が舞の手を引いて歩き出した。

「ここの1階の喫茶室に入らない?」 真紗絵が志乃に聞いてきた。

「いいわよ」

喫茶室に入った二人 いや、舞も入れて三人。 すぐに真紗絵が話し出した。

「懐かしいわね。 志乃今は何してるの? 結婚は?」

「結婚してない。 独身」

「何? 結婚しないの?」

「したくても出来ないの」

「親に反対されてるの?」

「違う。 言ってみれば不倫。 相手には奥さんも子供もいるの」 舞を伺いながら小声で言った。

「あー、どうしてそんな人と」

「そうよね、ほんとにそう思うわ。 私って馬鹿だわ」

「それじゃあ、今も仕事してるってこと?」

「うん、ずっと同じ所で働いてるわよ。 もういいお局様よ」

「お局様ー! あははは」 参加賞の商品の包装を開けていた舞が 驚いて真紗絵を見た。

「そんなに笑うことないじゃない。 ねぇ 舞ちゃんもビックリしたわよね」

「うん。 ビックリした」 そこへ舞が注文していたジュースと コーヒー2つがテーブルに置かれた。

「何が入っているのかしらね」 舞の手元を見て志乃が言った。

包装を開け 箱から出すと グランドピアノの形をしたオルゴールであった。

「あら、素敵なオルゴールね」 志乃はオルゴールの音色が とても好きである。

「ママに貸して ここを回すでしょ そうしたら・・・」 真紗絵がネジを回して音を鳴らし始めた。

「わぁ! おもちゃのチャチャチャだ」 舞はネジを回して 何度も何度も聞きなおしていた。

「そう言えばさっき 色々あるって何の事なの?」

「それがね・・・」 真紗絵は舞をチラッと見て 小声で言った

「離婚するかもしれない」

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彼女達 第18回

2012年01月14日 01時22分30秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第18回



「何?」

「色々あって。 でもそんな話もしたいわ。 ねぇ、今日絶対にお茶しようよ」

「したい、したい。 元同僚の子供が1番だってことは 早くに演奏も終わるだろうけど すぐにバイバイって言うわけにもいかないし・・・真紗絵は子供の演奏が終わったらどうするの? すぐに帰ろうと思ってたの?」

「うううん。 知っている子も出るから 付き合いで聞いていこうかなと思ってたわ」

「それじゃあ、1時間くらい聞いてから お茶しようか?」

「そうね」 そのときにドアが開いた気配がした。 真紗絵が見ると さっき見かけた母親だ。

「志乃、あの人じゃない?」 振り返った志乃。

「あ、そうだわ。 じゃ、1時間後くらいに 待合で逢おう」

「OK」 志乃は立ち上がり 同僚のほうに歩いて行った。

すぐに放送がなり ピアノ発表会が始まった。

司会者の挨拶からはじまり 一番の元同僚の子供が紹介された。

志乃の元同僚の子供は 見るからに緊張している。 歩き方もカチコチに固まっている。

志乃の隣に座っていた元同僚が

「これは駄目だわ」 小さな声で呟いた。

演奏が始まったが あまりの緊張からミスばかりであった。 それでも何とか最後まで弾けたものの 演奏後のお辞儀の時には 半泣きの顔であった。

元同僚が客席を出て 子供を迎えに行くと言うので 志乃もついて出て行った。

舞台裏からは先生に連れられた 泣きじゃくる子供が歩いてきた。

「泣いちゃってる。 可哀想に」 つい志乃がそう言うと

「あーあ」 元同僚が溜息をつきながら言った。

子供に近寄り頭をなで

「大丈夫よ、泣かないでいいのよ」 何を言っても泣き止まない。

「志乃ちゃんゴメン。 せっかく聞きに来てくれたのに 今日はもう帰っていいかしら」

「気にしないで。 こんなに泣いてるんだもの 早く家に帰ってあげて」

「ほんとにゴメンね」 子供を抱き上げ 廊下を歩いて行った。

後姿を見送った志乃

「さて、どうしようかな。 とにかく5番目って言ってたかな? 真紗絵の子供の演奏でも聞いていこうかな」 そう言ってまた会場に入って行った。

2番3番4番と演奏が終わり 5番目の演奏だ。

「へぇー この子が真紗絵の子供なんだ。 なかなか上手いじゃない」 真紗絵の子供の演奏が終わり ドアを出ようとすると 同じように歩いてくる人影を見つけた。

真紗絵だ。

廊下に出て 志乃は真紗絵に気付かれないように 立っていた。

志乃のすぐあとに 真紗絵もドアから出てきて 子供を迎えに行くようだ。

前から真紗絵の子供が歩いてくる。 子供の前にしゃがんで

「上手に弾けたね」 真紗絵が子供の頬を両手で挟んで 話しかけている様子を志乃はずっと見ていた。

「真紗絵 優しいお母さんしてるんだ」

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彼女達 第17回

2012年01月09日 12時47分37秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第17回



卒業をして 20年を過ぎた頃、真紗絵の携帯電話が鳴った。

「もしもし・・・あ、志乃?」

「うん、今週末ヒマ?」

「空いてるわよ」

「秋美ちゃんとそっちに行っていい?」

「おいでよ、おいでよ また女三人で酒盛りしようよ」




卒業後は それぞれの道を歩んでいたが 10年を過ぎた頃、バッタリ真紗絵と志乃が 偶然にもピアノ発表会の場で逢ったのだ。

真紗絵は次女の発表会に来ていた。 志乃は元同僚の子供の発表会であった。



志乃が元同僚を探し 客席を見回していると 後ろから

「ごめんなさい 通してもらえますか?」 と後ろから声が聞こえた。

「あ、ごめんなさい」 と振り返った志乃。

「え?」 勿論、声をかけたほうも 「え?」 お互いあまりの驚きに 一瞬、時間が止まった。

「もしかして・・・志乃?」 真紗絵が先に言った。

「やっぱり真紗絵?」

「そうよ! ああ、こんな所で逢うなんて 信じられないわ」

「ほんとに真紗絵なの!」

「そうよー! ここじゃ人の邪魔になるから とにかく空いてる所に座らない?」

「あ、ごめん。 元同僚を探さなきゃいけないの。 真紗絵このあと時間あるの? お茶しようよ」

「うん。 うちの子が5番目に出るから 今ステージ裏に連れて行ったんだけど 子供の演奏が終わったら大丈夫よ。 お茶の間子供がいるから落ち着けないけど」

「そうなんだ。 真紗絵、子供がいるんだ。 私は元同僚の子供の演奏を 聞きに来たんだけど その元同僚が見つからなくて」

「なんて名前?」 プログラムを鞄から出している。

「大槻もえちゃんって言うの」 真紗絵はプログラムを 端から見ようとしたときに

「ああ、きっとさっきの・・・」 プログラムを見た。

「あ、やっぱり。 1番目の子よ。 お母さんがまだ舞台裏で ご機嫌を取ってたわよ」

「ああ、それでいないのね」

「とにかく座ろうよ」 真紗絵が志乃の手を引いた。

「そうね」 空いている席を探そうとする志乃に真紗絵が

「舞台裏から客席に入ってくるには あのドアからだから あそこの近くに座りましょう。 そしたら客席に入ってきた その元同僚さんもすぐに分かるでしょ」

「うん、そうね」 真紗絵の言った席に座り

「懐かしい。 まさかこんな所で逢えるなんてね」 すぐに真紗絵がそう言った。

「ほんとよ。 子供がいるってことはいい奥さんしてるんだ」

「う・・・ん それはね、ちょっと」

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彼女達 第16回

2012年01月08日 01時30分43秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第16回



「ちょっとお泊りって何の事?」 真紗絵が聞いてきた。

「あとで説明する。 志乃ちゃんどうだった?」 真紗絵を制して 秋美がもう一度聞いた。

「こんな分厚いのをもらった」 封筒を見せた。

「ってことは合格ね。 やったー! お泊り決定!」 合格自体を喜んでいるのか お泊り出来る事を喜んでいるのか どちらか分からないが 志乃以上に 秋美が喜んでいる。

「だから何なのよ。 教えてよ」 真紗絵が割っ入ってきた。

「真紗絵も来ない? うちにお泊り」

「わ! 行く行く」 それを聞いていた クラブ員達が

「何ー? 自分達だけお泊りって 私達も行きたい」

「歓迎よ! 賑やかがいいし クラブ員は全員OKよ」

この事をきっかけに秋美は 志乃、真紗絵 そしてクラブ員達と急速に仲良くなっていき それまで遊んでいた バトン部とは遊ばなくなっていった。 

秋美、真紗絵、志乃の周りは 全員が進路を決定している。 卒業式までは学校に行っていても 遊びに来ているようなもの。 その上、学校の休みに日にはしょっちゅう 全員で秋美の家に遊びに行く。 

秋美の両親もクラブ員達が全員ジャージを着て うるさいくらいの大声で挨拶をするものだから それまでの秋美の友達には母親は渋い顔、父親においては睨むような顔をしていたのが 母親は打って変わって満面の笑みだ。

「皆いつも元気だわね。 今フルーツを切ってくるからね。 志乃ちゃん今日も背筋が気持ちいいわね」 そう言って志乃の背中を上下にさする。

父親は無愛想ではあるが「おう、いらっしゃい」 とこんな具合だ。



志乃にとっては 中学からこの高校の練習に通いだした。 

この数年、元旦を除いて364日練習があった。 その為、今までどんな学校行事にも 参加できなかった。 その反動か皆と遊ぶことも勿論、卒業行事での スキー研修や校内の催し行事 全てが楽しくてたまらない。



そんな彼女達にも卒業の日がやって来た。

みんなが泣く中、彼女たちは泣かない。 あった事への寂しさよりも あった事への満足感だけが残っているのだ。

楽しい思い出を心に刻み

高校を卒業し それぞれの道を歩んだ。


歩みだしてからは お互い誰がどうしているのか全く知らない。

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彼女達 第15回

2012年01月04日 23時00分22秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第15回



「あ、今バカにした?」

「そんな事ないよ。 でもジャージって」 まるで思い出し笑いのように クスッと笑った。

「それが大切なんだから。 うちの親からしてみたら いつもうちに遊びに来るのはバトン部の連中でしょ、服装がね・・・気に入らないみたい」 バトン部の連中は いわばおっかけをしている連中だ。 たとえ志乃であろうと 服装も大体察しがつく。

「ああ、そう言う事。 ・・・ぷぷぷ そんな事で?」 さっきよりは 少し大きめに笑った。

「そんなことって、簡単な問題じゃないのよ。 うちにとったら大変なことなんだから」 秋美の声が大きくなった。

「笑っちゃいけないとは分かるけど 可笑しい、笑っちゃうー」 久しぶりに大声で笑った。

「何で笑うのー!」 秋美が上を仰ぐように言ったその言葉を聞いて もう一度大笑いの志乃であった。


数日後、進路指導室から 志乃に呼び出しの放送が鳴った。

「志乃、合格を告げられる日が来たわね」 真紗絵が言った。

「分かんないわよ。 ああ、行くのウザったい」 就職指導の言葉を信じていない志乃。

絶対に落ちていると思っているだけに すぐに行く気になれない。

「ついて行ってあげるわよ」 合格が決まっている真紗絵は余裕だ。

「いい、一人で行ってくる」 ダルそうに席を立った。


進路指導室

「失礼します」

「おお、お前 A会社 合格の知らせが来たからな。 ちゃんと頑張ってやっていけよ」

「え? 合格ですか?」

「お前、俺は何度言った? 信用してなかったのか?」

「はい」

「お前なぁー。 ・・・まぁいい、とにかく合格だ。 学校の顔を汚すんじゃないぞ」 会社パンフレットと 今後の説明を書かれた封筒を渡された。

「はい」 分厚く重い。

「それだけだから もういいぞ」

「はい。 失礼します」 進路指導室を出て教室に向かった。 教室に入るとすぐに秋美が

「どうだった? お泊り出来そう?」 数日前の話の事だ。

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彼女達 第14回

2012年01月03日 23時36分39秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


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彼女達 第14回



「ここにいるみんな、もう決まってるんだよね。 就職も進学も」 志乃がみんなを見渡して聞いた。

「進学は私だけよね。 後はみんな就職組みよね」 真紗絵もみんなを見渡して聞いた。

「うん、全員同じ所。 多分、流れ作業だけどね」 一人がそう言うと

「え? 事務じゃないの?」 てっきり全員が事務と思っていた志乃が聞いた。

「高卒で事務って無いんじゃない?」 志乃が受けた事務職のことは うかつに口に出来ないと思った。 

「何処の会社だっけ?」 真紗絵が他のクラブ員に聞き出したので このまま話がそちらに流れると 志乃の事は聞かれることは無いであろう。 志乃も皆の話に聞き入った。



特に何も無い日が続いた中 秋美の合格が確定した。 そしてとうとう 志乃の合否発表の日が近づいてきた。 


秋美が一人で座っている。 その秋美の前の席の椅子を回転させ 秋美を見る様に座り
 
「秋美ちゃんよかったわね。 お姉さんと一緒の学校になれて」 志乃は秋美と義姉が とても仲がいいことを知っている。

「うん、これで自由になれるー」 嬉しさが爆発という感じだ。

「自由?」 意味が分からないといった感じで 志乃が聞いた

「うん、うちの親何かとうるさいから 義姉と一緒だったら 何の文句も言わないのよ。 義姉を見張り役にしたっていうのは うちの親の大きな失敗よ」 

「箱入りだもんね」

「箱どころじゃないわよ。 入りたくも無いのに 鉄の箱に入れられてるわよ。 牢屋みたいなものよ。 だからこれからは 義姉と一緒だったら夜遅くまでも 学校の用事とかって言って 遊びに行けるのよ。 今から義姉と色々計画してるの。 もう嬉しくって耐え切れないわよ」

「あ、それでお姉さんを 見張り役に考えた親の失敗っていう事」 志乃が納得した。

「そう。 大失敗でしょ。 それより志乃ちゃんも もう結果が分かるんでしょ?」

「うん。 もうそろそろと思うけど」 他人事のように答えた。

「合格が決定したら うちに泊まりに来ない? うちの母親、志乃ちゃんだけは 完璧に許してくれてるの」 満面の笑みである。

「合格するとは限らないわよ。 ・・・え? 何? 私だけって?」 溜息をつきかけた 志乃だったが 話の筋に疑問を持った。

「全般的にクラブ員の子は 許してくれてるけど 志乃ちゃんは特別みたい」 笑みはまだ消えていない。

「どうして?」 志乃には理由が分からない。

「一度 学校でうちの親に会ったじゃない。 覚えてる?」 秋美が前のめりになって聞いてきた。

「うーん、いつかなぁ?」 全く記憶に無いようだ。

「覚えてないか、でもいいの。 その時の志乃ちゃんの挨拶の仕方が良かったって うちの親がベタ褒めなのよ」 

「挨拶って クラブ員全員するでしょう?」 納得がいかない志乃。

「背筋が伸びてたって言ってたよ」 両肘を机に置き 手のひらに顎を乗せた。

「背筋? まぁ確かに姿勢はよく褒められるけど」 それくらいの事で? そういった感じだ。

「それにその時ジャージだったのよ」 更に笑みがこぼれる。

「ってことは放課後だったのかな?」 いつのことか思い出そうとするが なかなか思い出せないようだ。

「うん。 ジャージがまた良かったらしくて」 秋美の納得をしている顔。

「ジャージって・・・」 それに反して 疑問だらけの志乃の顔だ。 

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彼女達 第13回

2012年01月02日 22時34分01秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             


『彼女達』


第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回




彼女達 第13回



国語、数学、社会、一般常識 4教科の試験だ。


解答欄に答えを書いた志乃であったが

「こんなに簡単でいいの?」 そんな感想の試験問題であった。

試験が終わって家に帰った志乃。 試験は簡単と感じていたが 来ていた人数の多さに 無理であろうと判断して「今日の試験だけで絶対落ちる」 そう父親に報告をした。

翌日、面接だ。

面接は五人同時に座って質問に答えて行く。

学校で何度か練習があった通りにしてはいたが 運悪く一番端に座って 一番に質問に答えなくてはいけない。 考える時間が無い。 

「ああ、早く帰りたい」 頭の中はこれだけだった。



翌日学校の放課後 廊下掃除をしていると 就職指導の先生に逢った。

「おう、試験どうだった?」

「先生! あんなに大きな会社って 教えてくれなかったじゃないですか!」 就職指導に噛み付いた。

「自分で大きい会社って言っておいて 何を言ってるんだ」

「大きいにも程があります。 それにあんなに沢山受けに来ていて 合格するはず無いじゃないですかー」 すると就職指導が 志乃を廊下の隅に連れて行き

「言っただろう、お前は合格なんだよ。 お前だけは って言うんじゃなくて そこに居た者全員まずは合格なんだよ。 お前、面接で変な事 言わなかっただろうな」 大きな声では言えない会話だ。

「言ってないつもりです」 はっきりと大きな声で答えた。

「大きな声で言うな! じゃ、もういいあっちへ行け。 落ちた者がまだいて こっちは忙しいんだ」

「先生が呼び止めておいて 勝手なんだから」

掃除を済ませ 教室に帰った。 教室には 他のクラスのソフト部員とテニス部員、真紗絵がいる。

「今、就職指導と話してた?」 真紗絵が聞いてきた。

「うん、噛み付いておいた」

「何それー?」 そこにいた全員で大爆笑だ。

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