大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

彼女達 第10回

2011年12月27日 23時42分38秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第10回



就職・進学とある毎日、授業なんてあってないものだ。 自習や先生が来ていても 特に授業が進められるわけでもない。

しかしお気楽な毎日と引き換えに 次は自分の番だと ドキドキする毎日でもある。

真紗絵の受験の日が近づいてきていた。 そうなると 友達の様子が気なってくる。

秋美の席へ行き

「秋美 書類選考どうなったの?」

「うん、まだだよ。 まだ出してないもん」 椅子に座っている秋美は 立ったままの真紗絵を見上げてそう言った。 

「いつ出すの?」

「そろそろよ。 もう先生から書類の合格もらってるから あとは受付の日が始まるのを待つだけ」

「いいなぁ」 真紗絵はかなり切羽詰っているようだ。

「だから専門学校がいいって言ったじゃない。 と言っても 専門学校が全部書類選考じゃないだろうけど」

「真紗絵はいつだっけ?」

「来週」

「頑張りなよ」


週が明け 真紗絵の受験の日がやって来た。

「あれ? 今日真紗絵いないの? お休み?」 予鈴が鳴ったのを聞いて 志乃が教室を見渡して言った。

「真紗絵は今日受験よ」 相変わらず 賑やかな仲間とお喋りをしていた 秋美が答えた。

「あ・・・そういえばそう言ってたっけ」 クラブ員は全員引退をしている。 真紗絵が居なくても クラブ員同士で話が弾むから 今日一日、日中は一人寂しくといったことはないが 放課後は退屈だ。 クラブ員たちはみんな後輩の指導にあたっていて 志乃の相手をするものは居ない。

放課後になり

「仕方ないな 退屈だし部活に行ってみようかな」

久しぶりに顔を出した部活だ。 顧問は無言。 同期の3年は 後輩の指導にあたっている。 志乃も同期に紛れて 後輩を指導していた時 就職担当の先生が 志乃を見て大声で叫んできた。

「おい! 志乃! ここに居たのか! お前事務で就職だからな。 A会社だからな」

まだあれから一回も 就職指導に行っていない。

「家に帰って親と相談します」 急に言われたものだから 咄嗟に志乃も大声で返事をした。

「何が親だ。 いつまでも親なんて言っててどうするんだ。 お前だけがまだ何も決まってないんだ。 もう決定だ いいな」 するとその会話を聞いていた顧問が

「A会社だったら 有名だからいいんじゃないか」 ポツリと言ったが 志乃にしてみれば 何事に対しても肯定をするどころか 否定をすることが多かった顧問だ。 不自然さを感じた。

「今日は帰ります」 顧問にそう告げて家に帰った。


家に帰ってA会社の話をすると 父親は大喜びだ。

「A会社なんて有名な所に行くって お父さんは鼻が高いぞ」 父親の喜ぶ顔だが 志乃はそんなことはどうでもよかった。 ただ、顧問の台詞と 何の腹括りも無かっただけに 不安であった。

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彼女達 第9回

2011年12月26日 20時49分31秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第9回



進路相談室

「志乃、いつになったら 大学決定してくれるの? 早くしないと もう行きたい所に行けないわよ」 進学担当の女先生だ。

「先生、就職に変えてもいいですか?」

「え? 今頃何言ってるのよ」

「だって もう大学に行きたくなくなったんです」

「家で相談してきたの?」

「自分のことは 全部自分で決めてきましたから 何の相談もしていません」

「はぁ、これ以上顧問の先生を 泣かせてどうするのよ」

「何のことですか?」

「ここに来て何年にもなるけど 志乃の顧問の涙を始めてみたわよ」

「先生がですか?」

「志乃を世界に出して 大学ともルートを作って ってかなりの計画をしてたのよ。 それなのに 志乃がこんな事になって・・・志乃も聞いたでしょ 契約金の話」

「はい。 会社にクラブを作るから 年間何千万とかでどうのこうのって そこの会社の人に逢わされました」

「そうでしょ、そんな言い話を先生は断って 志乃を大学に行かせて 今後のルートを作ろうとしてたのに ちょっとでもいいから 部活関係の大学へ行って根 回しする気は無いの?」

「そんな事言われても もう大学に行きたくなくなっちゃったから」

「まぁ、無理強いは出来ないけど ・・・でも今から就職も大変よ。 みんな決まってきてるのに 良い所は無くなっちゃってるかもしれないわよ それでもいいの?」

「はい」

「仕方ないわね、じゃあ 就職のほうに回しておくから 就職の先生とよく相談するのよ」

「はい」

進路相談室を出た志乃は 秋美と真紗絵が待っている教室へ戻っていった。

「どうだった?」

「うん。 就職に変えてもらった」

「どうしたの元気ないじゃない」 真紗絵が聞いた。

「そんなこと無いよ。 何でもないよ」 志乃はさっき聞かされた 顧問の先生の涙の話が 気になっていた。

「ねぇ、一千万って チョコレートがいくつ食べられるの?」 部活だけの生活で チョコレート意外を買うことがなかった志乃にとって 金銭感覚は チョコレートだけが量りである。

「は? それって何が聞きたいの?」 目が点になって真紗絵が聞いた。

「あ、何でもない いいのいいの」 笑って誤魔化した。

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彼女達 第8回

2011年12月18日 01時19分36秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第8回



三人とも進学希望であったが 少々内容が違っている。

志乃は4大、真紗絵は短大、秋美は専門学校だ。

ある日の休み時間。

「ねぇ、もう具体的に決まってきてる?」 志乃が聞いた。

「あ、私 書類選考だけだから 多分大丈夫だと思うわ」 秋美が答えた。

「そうなんだ」

「私は どうなるかな? 短大落ちたらどうしようかなぁ」 真紗絵がそう言うと

「勉強してるの?」 志乃が聞いた。

「してない。 だから落ちるかも」

「でしょ、だから受験っていやなのよ。 専門学校がいいわよ」 秋美は少々受験勉強が苦手なようだ。

「秋美は服飾関係だったっけ?」 真紗絵が聞いた

「服飾って言うか 和裁よ」 

「確かお母さんが 和裁関係だったわよね」 志乃が言った。

「そう、義姉もそうだから 義姉と同じ学校に行くの。 って言うか そこしか行かせてもらえないし」

「え? お姉さんもそうなの?」 真紗絵が驚いて聞いた。

「うん。 今その学校で講師をしてるのよ。 だから義姉が私の見張り役ってとこね。 でもいいの 義姉のこと好きだし 和裁も好きだし」

「そうなんだ」 二人で納得するかのように 返事をした。

「それより 志乃ちゃんはどうするの?」

「うん 行きたい大学があったんだけど もう学校に括られるっていうのが 嫌になっちゃって 就職にしようかなって」

「そうなんだ」 今度は秋美と真紗絵が 声を合わせて言った。

「志乃ちゃんの今度の進路相談って いつ?」 秋美が心配そうに志乃に聞いた。

「今日。 だから気になって みんなどうしてるのか聞いてみたの」

「志乃この時期になって まだ進路相談に行ってるの?」 真紗絵が驚いている。

「うん。 早く決めなきゃいけないよね」


授業が終わり 志乃の進路相談の時間がきた。

「じゃ、行ってくるね」 秋美と真紗絵が 一緒に残っていてくれていた。

「うん、頑張って」 二人で手を振っている。

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彼女達 第7回

2011年12月11日 01時13分50秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第7回



ある日 二人でテニス部の部室に歩いていくと 秋美が下駄箱のほうに向かって歩いているのを見かけた。

「秋美!」 真紗絵が呼んだ。

「何?」 振り向いた秋美が返事をした。

「今から帰るの?」

「うん」

「一緒に遊んでいかない?」

「遊ぶって?」 二人の方に歩いてくる。

「ダベリング」 真紗絵は誰とでも 屈託無く話す。

「いいよ。 帰ってもすることないし」 

「じゃ、行こう」 三人でテニス部の部室へ 歩いて行った。

部室に入ってからは 真紗絵が会話をリードする。 そしてもれなく付いてくるのが灰皿だ。

真紗絵が ロッカーから灰皿を出した。 それを見た秋美は 驚く様子が無い。

秋美の様子を伺っていた志乃も 鞄からタバコを出すと 秋美が驚いて

「志乃ちゃんタバコ吸うの?」 ついうっかり大きな声だ。

「しっ、なんて大きな声で言うのよ もし先生が前を歩いてたら どうするのよ」 咄嗟に真紗絵が言った。

「あ、ごめん。 あまりにもビックリしたから・・・志乃ちゃんいつからなの?」

「ほんの少し前」

「志乃ったら凄いのよ。 ふかしてんじゃなくて 完全に肺よ」

「え?」 驚いて秋美が志乃を見た。

「それってどういう意味?」 何のことか分からず 志乃が真紗絵に聞いた。

「なに? 吸い方よー。 何も分かんないで吸ってたの?」 

「ちょっと待って、待って。 志乃ちゃんどうしたのよ」 二人の間に 秋美が割って入るように聞いてきた。

「別にどうしたってことじゃないけど 吸い方って 意味わかんないんだけど」

「普通は口の中まで。 なのに志乃ったら 肺まで吸い込んでるでしょ」

「え? だって息を吸うように 吸うんでしょ?」

「うっそー 信じられない 志乃ちゃんが・・・」 秋美にとっては 真面目一本の志乃であったはずだったのだ。

「部活も辞めれば そうなるわよね、志乃。 それに可笑しいのよ 志乃ったら18歳で 煙草を吸ってもいいと 思ってたらしいの 世間知らずもいい所よね」

「はぁ? 志乃ちゃんって 真面目じゃなくて天然なの?」 

「だって、煙草もお酒も 同じと思うじゃない」

「え?」 秋美と真紗絵が 同時に志乃を見た。

「だから こんなことって どちらかが18歳までって言ったら どちらもそうだと思うじゃない」

「もしかして お酒も18歳からだと思ってるの?」 真紗絵が志乃に聞いた。

「え? 違うの?」 真紗絵と秋美は大笑いだ。

「志乃ちゃん いいわぁー」 笑いながら秋美が言い そして

「私、志乃ちゃんを見る目 変えよー」 こう付け足した。

「でしょ、志乃って結構面白いわよ」

「何よそれ! 知らないものは知らないのは 仕方の無いことでしょ」

それからは 三人でお喋りすることが多くなったが 高校三年生、いつまでも お気楽にはしていられない。 

進路がある。

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彼女達 第6回

2011年12月06日 22時13分34秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第6回



真紗絵に毎日相手をしていてもらって 何とか気を紛らわさせていた志乃だが 自分が世界を夢見ていなかったとは言え やはり言ってみれば挫折を味わったようなもの 悪いことをしたくなり始めていた。

だが残念なことに 毎日学校と家の往復だけで 外の世界を全く知らない。 

外の世界があることを 漠然と分かってはいたが 想像も出来なかった。

そんな状況の中で 考えられる悪い事というのは 高校生の中でよくある 煙草だ。

だが 悪いことをし慣れていない志乃には 規律と言うものが頭から離れない。

生徒手帳の校則を読んでみた。 煙草を吸ってはいけないとは 書いていなかった。 外の世界を知らない志乃にとって 規律とは校則であった。 

そしてここで大きな勘違いをしていた。 志乃の頭の中は

『法律は 18歳から煙草を吸ってもいい。 校則には 煙草を吸ってはいけないとは 書かれていない』 そう理解していたのだ。 <注:煙草は18歳ではなく 20歳になってからです>

ある夜、こそっと 置きっ放しにしてあった父親のタスポを持って 自動販売機で煙草を買った志乃は その日から煙草を吸い始めだした。

そして気になっては 何度も生徒手帳を読み返し 「うん、タバコのことは書いていない。 校則には触れていない」 そう納得をしていた。



その日も真紗絵と部室に入って 話をしていたが おもむろに志乃が鞄から煙草を出した。

それを見た真紗絵が

「え? 志乃、煙草吸うの?」

「うん。 この間から・・・。 なにか悪いことをしたくて」

「早く言ってよ。 じゃ、私も吸っちゃお」 そういって真紗絵も 鞄から煙草を出してきた。 そしてロッカーを開けて 灰皿を出し 志乃の前に置いた

「はい、灰皿」

「え? 真紗絵いつから?」

「最近でもないけど そんなに前じゃないわよ。 それにしても 『煙草は20歳からって』 誰も守んないわよね」

「え? 何のこと? 煙草は18歳からじゃないの?」

「何言ってんの、煙草は20歳からじゃない」

「うっそー 18歳と思って吸い始めたのに それじゃ悪いことしてることになるどころか 法を犯してることになる」

「なに真面目な事言ってんの。 そんな事言ってて 悪いことなんて出来ないわよ。 それにしても 何か悪いことをしようとしてコレ?」

「他に思い当たらないんだもの」

「ま、私も言えた方じゃないか・・・」 真紗絵も志乃と同じく 外の世界をよくは知らないが 志乃ほどではない。 

話は聞くが あえてその場に行くことがなかったのだ。 

毎日を部室で過ごし 煙草を吸ってという日が続いていた。 

決して繁華街へ出て行こうなどという会話にはならなかった。

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彼女達 第5回

2011年12月02日 11時04分56秒 | 小説
第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ


                                             





彼女達 第5回



ある日教室で 席替えがあった。 

志乃と秋美が またもや近くに座る事になったのだ。 その時に小さく声が聞こえた

「わ!また志乃ちゃんの近く」 秋美の嫌がっているような声であった。

志乃は聞こえていない振りをしたが 志乃は志乃で「また秋美ちゃん達の近くだ」 という思いがあった。

その席替えをしてから 幾度目かの授業が始まり 秋美が嫌がっていることが また表面化しかけた。

秋美は秋美の仲間たちと すぐに授業中にお喋りをしだすのだ。

志乃はそれが嫌でたまらなかったが 志乃もその理由を 大きな声で言えたものではなかった。

練習に追われていた志乃にとって 休み時間は睡眠タイムであったが 授業時間はキャプテンを勤めていた責任から クラブのことを色々と考える時間であったのだ。

志乃にとってそんな大切な時間を 秋美達のお喋りで邪魔されるのが嫌であったのだ。

お喋りが始まった秋美は ハタと気付いて

「あ、ダメダメ お喋り止めよう。 また志乃ちゃんに睨まれるよ」 仲間達は何のこと? と言った感じで 一応黙ったが そうなのだ。 

秋美のお喋りが始まると 志乃は思いっきり 『ウルサイ』 と言う無言の睨みを 秋美達に向けていたのだ。 

だがその睨みを 恐がっていたのは秋美だけで 他の仲間達はお喋りに夢中で 誰も気付いていなかったのだ。

だが今回は違った。

秋美がそっと志乃を見たが 志乃は知らんぷりをしている。

秋美は心の中で 次の休み時間か放課後に とうとうどうにかされるという不安がよぎった。

休み時間になり 秋美は先手を打つことにした。

「志乃ちゃん、さっきはうるさくしてごめん」 志乃の席に行きそう言った。

「何?」 キョトンとして志乃が答えた。

「さっきの授業の時 うるさかったでしょ」

「そう?」 志乃にしてみれば あまり話したことのない秋美が 急に話して来たものだから そちらにビックリしていた。

「え? 怒んないの?」

「私、怒ったことあるっけ?」

「え・・・怒ったことはないけど 睨む・・よね」

「ああ、気付いてた?」

「気付くよ。 この2年間ずっと恐かったんだもん」

「気付いてたのにうるさかったの?」

「あ、それはそれで・・・。 あの・・・いっつも志乃ちゃんの勉強の邪魔してごめんね」

志乃は大笑いをしながら 

「勉強なんてしてないよ。 クラブの事を考えてる時にうるさかったから ついうっかり 『静かにしろっ』 って感じで睨んじゃってたの。 もう部活に行ってないから お喋りしてても気にならないよ それよりこっちこそごめん。 気付いてるとは知らなかった」

「うそー あれだけ睨まれたら 誰でも気付くでしょー。 もう、恐かったんだから!」

「そう? そんなにきつく睨んでたかなぁ? それに他の子は気付いてないでしょ?」

「志乃ちゃんはクラブのことになると 普通の時と目つきが違ってるんだから どれだけ睨みが利いてたか。 ・・・あ、でも気付いてたのは私だけだったのかな? そう言えばみんなとこの話し、したことないな」

「でしょ、そんなにきつくなかったって」

「そこは譲れない。 凄く恐かった」

このことがきっかけで 二人は時々話をするようになったのだが 真紗絵と違って 秋美とはあまり共通の話題が無いせいか 時間を忘れて長く話すといったことはなかった。

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