日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように
僕と僕の母様 第58回
その拍手の波にもまれるように 僕達はステージ横につく。
少しして演奏が聞こえだした。
何を演奏していただろう さっきの演奏は耳に入ってきたが さすがに次は僕達の番だと思うと 何も耳に入らない。 ただ、時間がたったのは分かる そして大きな拍手が 聞こえたのもわかる。
えっ、拍手? と言うことは 演奏が終わったんだ。 次、僕達?
「行ってこい」 先生の声が聞こえた。
「よし、行くぞ」 部長が言う。 あ、やっぱり行くんだ。 僕達の番なんだ・・・。
ステージ横から パイプ椅子を持ち入って みんな席に着く 僕も席に着く。
他の学校はこの席に着くまでに 時間がかかったが 僕達の学校はこの人数だ 早い。
客席を見ると そこそこ埋まっている。
同級生出場しない組も 後輩も 女の先生も確認できた。
ピアノの発表会では 正面を見てお辞儀をしたときに 客席を見る余裕なんてなかったのに 何故だろう、フワットした気持ちで 客席を見た。
それから遅れて 先生がステージ中央まで歩いて来る。
客席に一礼して 指揮者の台の上に上がり 僕達の方を見た。 先生がみんなを見渡す。 僕とも目があった。
それから 僕達以外の誰にも 聞こえないように小さな声で イヤ、ほとんど口パクの状態でゆっくりと
「やるぞ」 といって微笑んでる。
そして 僕達の上がった肩の力を 落とすようにと 先生が自分の肩をトントンと 落とす仕草をした。
この時には みんな楽器を手にして いつでも吹ける状態だったが 誰が言ったわけでもないのに ここでみんな 大きく深呼吸をした。 僕も目をつむって 深呼吸した。 不思議と静かな気持ちになった。
先生の手が上がった。 始まる。 息を吸い込む。 両目を閉じて サックス君の音を体で感じよう。 それが僕の最初の音。
始まった。
一斉にみんなの音がする。 さっき感じた静かな気持ちが どこかに行ってしまった。
みんなの音にのまれないように とにかく吹かなきゃ、何とかこなさなきゃ、ソロまでは間違えるわけにはいかない そう考えて吹き始めていた。
ここまでは記憶にある。
本当はこのまま延々と 演奏の様子を書きたかったのだが 残念なことに この後の僕の頭の中は真っ白で 何も覚えていない。
強いていうなら 間違った音は 出していなかったはずだ。
音そのものの質も 最初の音がわりと良かったから 悪くはなかったはずだ。 そして他のメンバーの 大きなミスも無かったと思う。
いくら必死だったとはいえ 自分や他のメンバーが 大きなミスった音を出していると 気づくはずだ。
ソロも多分吹いたと思う。 ああ、何て情けない 自分が吹いたかどうかも 覚えていないなんて。
そしていつの間にか終わった。
僕の記憶が鮮明になったのは 大きな拍手を聞いたときだ。 先生の顔を見た。
始めたときと同じように 微笑んでいる。 きっと演奏中も ずっと一人一人を見ながら 微笑んでいたのだろう。
僕はというと 自分がどう吹いたのかも 記憶が無いくせに 顔と身体が 昂揚している ことだけは分かった。
僕は僕の知らないうちに 何をしていたんだろうか・・・感じたことの無いこの昂揚感に だんだん不安になってきた。
先生の合図で起立をして ステージを降りた。
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