大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第164回

2014年12月30日 22時53分01秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第160回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第164回



ホテルのレストランに入りランチを注文したかと思うとすぐに野瀬が

「どうです? その後何かいい情報はあります? あ、そうだ前に弥生時代の話をしてて途中で携帯を切ったんでしたよね」

「あ、そうでしたね。 よく覚えてらっしゃいましたね」

「いやぁ、僕もそのことは気になっていたんですけど なかなか納得いく物と出会えなくて」

「私もまだまだ調べられていないんですけど 弥生人のルーツはイスラエル人だって事を読んだんです」

「え!? そうなんですか?」

「まだまだちゃんと読めていないから何とも言えないんですけど」

「いや、僕は 除福が大勢の人間を日本に連れてきて それから日本中に広がったって読みましたから・・・弥生人って除福と同じで今の中国の人たちじゃないんですか?」

「私も最初はそう読みました。 それにその後にも弓月の君が大勢の人たちと来たりと。 でも現代では色々な説があって弥生人の考え方の説も色々と変わってきてるみたいですね」

「弥生人の考え方? ですか?」

「はい。 いつからを弥生人とするかです」

「ああ、そういう事ですか。 それが変わってきてるんですか?」

「大陸から渡ってきた人たちから弥生人とする説と、その大陸から渡ってきた人たちと縄文人が混血となって初めて弥生人とする説があったりするらしいです」  

「それは、大陸から渡って来た人達が日本に入ったときからが弥生人でしょう」

「私もそう思います。 でもそこが基本となるところもあったりで」

「ま・・・まぁ、そう言われればね。 基本が違うと言う事も変わってきたりしますよね」

「はい。 それで私は大陸から渡って来た人たちからを弥生人とする説で本を選んだんですけど」

「正解です」 野瀬のその言葉にクスッと笑いながら

「縄文人と弥生人の顔の骨格の本も借りて見てみたら 私の顔って完全に弥生人なんです。 私の顔だけじゃなく、アイヌの人とか沖縄の人は縄文人の顔の骨格らしいんです。 それ以外の日本人は弥生人の骨格みたいなんですね。 だから自分のルーツは今の中国の色が濃いのかなって思ったんです。 それじゃあ、その中国人はずっとそこに居たのか、何処からか来たんだろうかと思って色んな本を読んで行くとそんな風にたどり着いたんです」

「弥生人は昔の中国人、そのルーツはイスラエル人・・・うわぁ、僕はそこまで考えなかったなぁ。 でもどうしてイスラエル人っていう事になるんですか?」

「一番分かりやすいのは 日本の相撲ってあるじゃないですか」

「ああ、お相撲さんの相撲ですね」

「はい。 その相撲がイスラエルから日本に来るまでに点々と残されてきてるらしいんです」

「相撲がですか? 相撲って日本だけの・・・あ、モンゴル相撲!」

「そうなんです。 よく考えると日本だけじゃないんです。 他にはブータン王国とそれから・・・えっと・・・ちょっと忘れちゃいました」 ブータン王国だけは覚えてるね。

「でも相撲がどうしてイスラエル人と結びつくんですか?」

「旧約聖書になるんですけど、ヤコブが天使だったかな?・・・と相撲を取って勝ったらしいんです。 余談ですけどその時にヤコブが天使からイスラエルって名前をもらったみたいなんです。 それはいいんですけど そんな昔からイスラエルには相撲があったみたいなんです。 日本でも豊年を願っての一人相撲がありますよね。 相手が精霊か神様か分からないけど相撲をとるっていう・・・」 ここまで言うと野瀬が

「あ! ホントだ! 一人相撲ありますよね。 1勝2敗で人が負けるんですよね。 ヤコブの場合は天使に勝ったけど・・・ストーリー的に考えると納得いかなくもないな」

「それと『はっけよい、のこった』 と言うのも古代イスラエルのヘブライ語らしいです」

「ええ! 日本語じゃないんですか?」

「『はっけよい』 で投げつけよ、やっつけよ『のこったのこった』 は投げたぞ!やったぞ! っていう意味らしいです。 本にそう書いてありました」

「えー・・・」 頭を抱え込んでテーブルに肘を着いた時、既に運ばれてきていた料理が目に入った。

「あ、もう料理が来てたんでしたね。 冷めないうちに食べましょうか」

「はい。 ついつい話に夢中になって忘れちゃってました」

「食べながらでいいですから他に何かありましたか?」 ステーキを切りながら野瀬が聞いた。

「そうですね。 京都の八坂神社かな?」 琴音がサラダを一口食べた。

「八坂神社?」

「古代イスラエルでは神の名前を直接口にすることはなかったようで 神のことを『ヤー』 とか『ィヤ』とかって言うそうなんです。 だから八坂の『ヤ』 がそれに当たって後の『サカ』 を続けて言う『ヤサカ』 は神を讃えるとかって言う意味らしいです」

「『ヤサカ』 が八坂っていう事?」

「そんな風に書いてありました。 山鉾巡行の掛け声っていうんですか? その『エンヤラヤー』 って言うのも 古代ヘブライ語の『我こそは神を誉め讃えまつらん』 って言う意味らしいです」

「でも、言葉には偶然一致っていう事がよくありますからね」 ステーキを口に入れた。

「そうなんですよね。 だから一概には言えないんですけど。 えっと、エルサレムのシオンの丘ってご存知ですか?」

「シオンの丘?・・・知らないなぁ」

「古代イスラエルの首都エルサレムにあるシオンの丘なんですけど そこは神殿があった場所だったらしいです。 京都の祇園。 ギオンとシオン、似てると思いません?」

「まぁ、似てるとは思うけど どうかなぁ」

「シオンの丘に神殿。 祇園に八坂、神を讃える。 神を讃える場所は神殿って思えば・・・って感じになるんですけど」

「うーん、どうだろう・・・厳しいかなぁ・・・」

「他にも 『ヤマト、ミカド、スメラ』 これって日本語で使われますよね」

「『大和、帝、スメラの命』 のことですね」

「それって古代イスラエル人の部族の名前だそうですよ」

「部族の名前ですか?」

「12部族あったそうです」

「あ、失われた10士族のこと?」 野瀬の手が止まった。

「確かその10士族は北王国だったんじゃないかしら。 南王国がエルサレムを中心とした2部族だったと思います。 北と南に分裂する前は12部族としてイスラエル王国だったんです」

「弥生時代からそこまでよく行きましたねぇ」

「あ、そうでしたね 日本でしたね。 日本では・・・そうですねぇ・・・三種の神器の一つに八咫鏡(やたのかがみ)がありますよね」

「はい」

「あの後ろにはヘブライ文字が書かれているって言う噂もありますし」

「それはよく聞く話だな。 でも誰にも見られないように厳重に保管されているっていうのに いったい誰が見たっていうんだろう」

「噂ですからね、分かりませんけど。 でも京都丹後の一宮、籠神社(このじんじゃ) の奥宮、真名井神社(まないじんじゃ) には六芒星の入った碑があったって話ですよね」

「六芒星はユダヤだから・・・イスラエルか・・・」

「今は三つ巴の紋に変えられたそうですけど」

「そっかぁ・・・これは・・・僕も一から勉強をしなおしだな・・・」

「まだまだありますよ」

「よくそれだけ読みましたね」 琴音をずっと見ていた目がステーキに移りまた食べ始めた。

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みち  ~道~  第163回

2014年12月29日 23時22分31秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第163回



週末土曜日 『007』 が鳴った。

「野瀬さんだわ。 もしもし」

「お早うございます。 野瀬です」

「お早うございます」

「夕べお電話を入れようと思っていたんですけどなかなか時間がなくて、すみません当日になっちゃいました」

「ずっと暇ですから大丈夫ですよ」

「今日、一日中空いているという事ですか?」

「はい。 何の予定もありません」

「それじゃあ時間を考えなくて良いから願ったりです。 あのですね、先日更紗さんから正道さんのお話を聞かれたと思うんですけど、どうですか?」

「あ・・・すっかり忘れてました」

「くくく・・・嘘でもまだ考えがまとまっていないとかって言ってくださいよ。 もう、正直すぎますよ」

「すみません」

「あははは、謝ることじゃないですから謝らないでください。 で、今日はそのお話を聞かせていただきたかったんです。 正道さんと更紗さんとでね」

「え? 正道さんもいらっしゃるんですか?」

「ようやく、お二方の日が合ったのが今日なんですよ」

「うわぁ、どうしよう・・・何も考えていなかったから・・・」

「まだ急ぐ話じゃないそうなので とにかく正道さんに会って頂くだけなのでよろしいですか?」

「どうしましょう・・・なんてお返事をして言いかわからないから・・・」

「返事はまだいいですよ。 正道さんが、きちんとご自分からお話しをされたいという事なので お話を聞いてくださるだけでいいんですよ」

「でも・・・会社もありますからお断りすると思います。 そうなると更紗さんのお顔に泥を塗ることになっちゃうんじゃないですか?」

「その辺りの心配は無用です。 とにかく今日、会っていただけますか?」

「・・・分かりました」

「有難うございます。 2時ごろに正道さんと更紗さんがいらっしゃるので、どうです? その前に僕とランチを食べながら縄文談義をしませんか?」

「はい、久しぶりですね」

「じゃあ、 あと1時間くらいでお迎えに上がりますね」

「お願いします」 携帯は切られた。

「どうしよう・・・でもどう考えても断るしかないわよね。 私にそんな才能があるわけじゃないし、会社も2年そこらで辞めるわけにはいかないものね」


玄関チャイムが鳴った。 玄関で靴を履いて待っていた琴音がすぐにドアを開けると 少し疲れた顔の野瀬が立っていた。

「織倉さんいつもながら出てくるの早いですね」

「いつも後10分ぐらいで着くからって連絡を入れてくださるから玄関で待ってるんです。 それより疲れたお顔をされてますけど大丈夫ですか?」

「え? そうですか? そんなことないですよ。 行きましょうか」 いつもながら野瀬が車のドアを開けてくれるが、あの日からはずっと助手席だ。 野瀬も運転席に座り

「それじゃあ、出発しますよ。 今日はホテルで待ち合わせなのでそこのホテルでランチしましょう、それでいいですか?」

「はい」 野瀬の運転で車は走り出した。

「本当にお疲れじゃないんですか? それにこの車はお仕事用の車ですよね。 またどなたかを見に行かれてたんじゃないですか?」 野瀬を心配して琴音が聞いた。

「ええ、ずっと様子を見に行ってましたけど、もう大丈夫と思ったから安心してるくらいですよ。 でもそうだな。 うーん、確かに睡眠不足はあるかな? あ、だからと言って疲れている自覚はないですよ。 それに疲れていたらこうして織倉さんをお誘いしませんよ」 チラッと琴音を見た。

「それならいいんですけど いつも遅くまでお仕事をされてるんですね」 野瀬を気遣って顔をうかがっていたが前を向いた。

「いわゆる就業時間があってないような仕事ですからね」

「でも他の所ってちゃんと時間が決まってますよね」

「そうですね。 でもそれじゃあどうしてもフォロー不足になったりしますし、クライアントの時間に合わせるという形も取ってますからどうしてもこうなっちゃうんですよ」

「もう少し人数を増やすことって考えてらっしゃらないんですか?」

「それは更紗さん次第ですね。 僕より更紗さんのほうが働いていますしね。 でもあの更紗さんについていける人は早々居ないと思いますよ」

「分からなくもなかったりして」 ペロッと舌を出した。

「でしょ?」 二人で目を見合わせて笑った。

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みち  ~道~  第162回

2014年12月26日 14時47分05秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第162回




夕飯を終え先に父親が風呂に入り、そのあと続いて琴音が風呂に入ろうと洗面所へ向うとそこに母親が居た。

「あ、琴ちゃん。 新しいパジャマを買っておいたから新しい方を着てね」 母親が琴音のタオルとパジャマを用意していたのだ。 

「え? どうして? 前のってまだ十分着られるのに?」

「この間、お父さんと町に出たときに可愛いパジャマを見つけたの。 ほら、可愛いでしょ?」 そう言ってパジャマを広げて見せた。

「・・・見事なくらいのピンクね・・・」 薄いピンク地に濃いピンクの可愛い熊の模様だ。

「オレンジもよかったけど、やっぱり女の子はピンクじゃなきゃね」

「女の子って・・・お母さん私の歳、分かってる?」

「娘はいつまで経っても女の子よ。 ね、今日からこっちを着てね」

「前のはどうしたの?」

「今度のゴミの日に捨てるわ」 パジャマを畳みなおしている。

「えー、もったいない。 まだ着られるじゃない・・・あ、マンションに持って帰って着るから捨てないで置いといて」

「だってマンションに帰ってもパジャマはあるでしょ?」

「それが結構傷んできてて買いかえようと思ってたところだったから丁度いいのよ。 持って帰って向こうで着るわ」

「そうお? それじゃあそうする? もっと早く言ってくれてたら向こうで着るパジャマも一緒に買ってきてたのにねぇ」

「いいの、いいの。 誰に見せるわけじゃないんだから」

「彼が急に泊まるって言ったらどうするのよ」

「だから、そんな人いないってば」

「いつできるか分からないじゃない」

「今も、これからも居ないの! お風呂に入るからパジャマ、捨てないで置いておいてよ」

「はい、はい。 琴ちゃんの部屋の中に入れておきます」 ちょっと拗ねた母親であった。

一泊二日だけであったが いい空気を吸いゆっくりとした時間を過ごしマンションへ帰った。 



毎日の仕事をゆっくりとこなし 季節は流れ夏を迎えていた。

朝一番のコーヒーを社長に持っていくと

「織倉さんうちへ来てそろそろ1年になるのかなぁ?」

「丁度丸2年になりました」

「え? もう2年になるの?」

「はい」

「ああ、ゴメンゴメン。 どうしても森川さんのことが頭にあるからいつまで経っても織倉さんが頼りなく見えちゃって・・・あ、変な意味じゃないですよ。 なんていうのかな ちゃんと出来てるかなぁー? とかってすぐに思っちゃうんですよ」

「森川さんのようにはまだ出来ませんから、そうだと思います」

「森川さんは長かったからね。 森川さんと比べるのが間違ってたよね。 そっか2年か・・・」 社長のその言葉に笑みをこぼしながら他の社員にコーヒーを配っていった。 

自分の席に着いた琴音も

「そっか、訳が分からなく前の会社を辞めてもう2年になるのね。 あれ? そういえば色んな物が見えたり聞こえたりっていうのが、いつからかしら無くなったじゃない。 あれっていったい何だったのかしら」 そんなことも考えながら午前中の仕事を終え 昼休みに携帯をチェックすると野瀬からメールが入っていた。

「あら? 野瀬さんがメールだなんて珍しいわね」 送られてきたメールを見ると

『今週末土曜日、お時間いただけませんか? 今は時間がないので取りあえずメールにて』 というものだった。

『はい。 OKです』 と返信をした。 携帯を閉じ

「また縄文談義かな?」 クスッと笑った琴音であった。

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みち  ~道~  第161回

2014年12月23日 14時07分06秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第161回




連休に入り1日目は掃除やカーテンを洗ったりと一日が潰れた。 夜、翌日から実家へ行くための準備をしていると携帯が鳴った。

「あ、理香ちゃんだわ」

「もしもーし、先ぱーい 理香でーす」

「はいはい、分かってるわよ。 どうしたの?」 笑顔で答える琴音。

「えへへ 先輩、聞いてください。 昨日、やっと両親が彼を認めてくれたんです!」

「まぁ、そうなの!? 良かったじゃない。 ちゃんとご両親と話したのね」

「最初は渋い顔をしてたんですけど彼が粘ってくれたんです。 理香はブチ切れそうでしたけど」

「もう、理香ちゃんったら」

「それでね、5日に入籍するんです」

「え? 昨日認めてもらってもう入籍なの?」

「だって、一日でも早く彼のお嫁さんになりたいんですもん」

「ご両親にはちゃんと言ったの?」

「もう好きなようにしろって言われました」

「まぁ、ご両親がご存知ならいいけど・・・5月5日に入籍なのね。 おめでとう」

「うふ。 有難うございます。 でね、お式は二人っきりでハワイの教会でするんですね」

「ええ? もうそんなことまで決めてるの?」

「下調べ万端です! それで披露宴はしないから新居が決まったらどうしても先輩をご招待したいんですけど来てくれます?」

「あ・・・勿論だけど、ご両親はお式や披露宴のことを知ってらっしゃるの?」

「思いっきり反対されましたけど言い切っちゃいました。 理香は長い間我慢したんだからねー! これからは理香の思ったとおりにするのー! って」

「理香ちゃん・・・」 思わず頭を抱えて (また桐谷さんが説得してください。 って言いに来そうだわ) と心の中で呟いた。

「とにかく5日の入籍のことを一番最初に先輩に言いたかったから。 それと・・・先輩ありがとう」 

「え? なあに? 何が?」

「先輩が理香に言ってくれたから先走らなくて両親にちゃんと紹介することができたんだもん」

「ちゃんと認めてくださったご両親に感謝するのよ」

「はい。 じゃあ、一応ご報告まで。 今度連絡する時は新妻の手料理をお披露目しちゃいますね」

「楽しみに待ってるわね。 じゃあね」 携帯を切った。

「理香ちゃんくらい自分のしたいことに突っ走られると自由でいいんだろうなぁ。 ある意味、見習うべき所よね」 座椅子にもたれ理香の可愛らしいウエディング姿を想像していると 急にそのドレスの裾をたくし上げて走り出す理香の姿が浮かんだ。

「うふふ・・・やっぱり清楚に静かにっていう想像は出来ないわね」 開けている窓から涼しい風が入ってきた。 レースのカーテンが揺れている。 

暫く揺れているカーテンを見ていた。



翌日実家に行くと相変わらず母親が大歓迎をしてくれる。 

そうしてくれる事は嬉しい、今までは唯それだけであったが琴音が来ることだけが楽しみになっているのではないかとふと寂しさを感じた。


夕飯時。

「お母さん、何か趣味を持たないの?」 煮物に箸をのばしながら母親に問いかけた。

「え? 何なの急に。 そうねぇ、趣味って言えるかどうかは分からないけど編み物は好きよ。 どうしたのよ急に?」  

「うん、ちょっとね。 編み物はそうだけど。 そうじゃなくてもっと外に出かけて遊んだり何かしたくないの?」

「遊ぶって、この歳になって何をするって言うのよ」 母親の箸が止まった。

「だって、毎日お父さんのご飯を作って掃除、洗濯それだけでしょ? 週に1回でも何かを習いに行こうとかって思わない?」

「こんな田舎で誰が何を教えてくれるって言うのよ。 それよりいったい何なの?」

「う・・・ん。 お母さんにも何かをして楽しんで欲しいなって・・・」

「ちょっとだけど野菜を植えたり花を植えたり、それで充分楽しいわよ」 箸をのばし始めた。

それを聞いていた父親が

「方向音痴のお母さんがどこかへ出かけられるはずないだろう」

「まぁ、失礼ですね。 行こうと思えば行けますよ」 またもや箸が止まった。

「どんなもんだか。 まぁ、琴音の言うように何かしたいことがあればするといいよ。 反対はしないから好きにすればいいからな」

「お父さんに言われたくないですよ。 朝から晩まで新聞を舐めるように見てるだけじゃないですか」

「あぁ! 喧嘩しなくていいから。 私の一言で喧嘩なんてしないでよね」

「喧嘩なんてしてません」 里芋に箸をグサッと挿して口に入れた。

「そう、そう。 お母さんが勝手にカリカリしてるだけだ」

「カリカリなんてしてませんよ!」

「またぁー・・・もう今の話はなかったことでいいから仲良くご飯食べよう」 少しブルーな空気の夕飯となった。

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みち  ~道~  第160回

2014年12月19日 15時10分13秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第160回



「その日、僕が会社に忘れ物をしてるのを思い出して 夜、会社に来たんですよ。 そしたら事務所の電気が一つだけ点いてたからドロボーかと思ったんですね。 それでそっと事務所を覗いたら芹沢が設計図を沢山出してコピーしてたんです」

「でも設計図を持ち出してなんになるんですか?」

「会社に内緒で自分で商売してたんですよ」

「え!?」

「芹沢って事務職でしたけど現場の人間出身だから修理も出来るんですね。 それで休みの日に客先に出向いて現金扱いで修理したりしてたみたいなんです」

「現金でですか・・・」 

「そう。 さすがに大きな会社には手を出してなかったみたいでしたけどね。 だから会社を通さずに自分だけで商売をしていたってことですよ。 それで芹沢が現場に居たとき見てきた物じゃないものは修理しようにもどうしても設計図がないと出来ないんですよ。 それで設計図をコピーして持ち出して小遣い稼ぎをしていたんです。 ほら、ボーナスも出ないからかなりショックを受けてたでしょ?」

「でも、いくらなんでもどうしてそんなことを・・・」

「僕もビックリしましたよ。 とにかくその場では芹沢を叱り飛ばして二度とするなって言ったんですけどね。 でも・・・それにしてもあの時の芹沢の顔は普通じゃなかったな」

「・・・普通じゃない顔」 何か引っ掛かる物があった。

「あ、それで覚えてます? 武藤が来た日の事」

「あ・・・えっと・・・芹沢さんと奥の事務所に入って行ったときですか?」 引っ掛かる物が何なのかと考えていた心の踵を返し返事をした。

「そう。 武藤は芹沢のやってることを知ってたみたいなんですよ」

「え? そうだったんですか? でもどうして武藤さんがご存知だったんですか?」

「武藤も自分で商売をしてますから客先に行ったときに聞いたみたいなんですよ。 芹沢ならもっと安くやってくれるからまけろって話になったみたいです。 それでなんか二人でコソコソとして怪しいと思ってたら 武藤が芹沢に言い聞かせていたみたいなんです。 同じするなら武藤みたいにちゃんと独立してやれってね。 コソコソするんじゃないって」

「そうだったんですか・・・」

「以外と武藤も真面目なやつだったんだなって見直しましたよ」

「でもどうして今回こんな事に・・・公になったんですか?」

「芹沢のやつが武藤にも僕にも言われたのに今度は部品を流そうとしたみたいなんです」

「ええ!?」

「実は棚卸しで数が合わないのがいくらかあったんですけど 多分それも芹沢じゃないかな。 部品自体も流してただろうし、修理をするにも部品が必要ですからね。 でも今回は仕事中に不自然な動きをしていたから見つかってみんなに知られることになっちゃったんです。 それも高額な部品を袋に入れてたらしいんです。 段々と麻痺してエスカレートしていったんでしょうね」

「そんなことがあったんですか」

「まぁ、社長もボーナスを出せないし給料もカットになったままだから責めるに責められないって言うか・・・」

「お給料がカット・・・ですか?」

「そう。 僕らの給料低いでしょ?」

「あ・・・まぁ、初めに見たときはちょっとビックリしました」

「5、6年位前かな? 3割カットされたんですよ。 景気が戻ったら元に戻すって会長が言ってたのにそのままですよ。 ま、景気も戻るどころか悪くなってるから仕方ないんでしょうけどね」

「そんなことがあったら社長もショックですよね」

「でも人が良すぎるでしょ。 普通に退職の処理だったんでしょ?」

「はい、そうです」

「退職金も出たんですよね?」

「はい」

「くっそー、俺も退職金もらって辞めようかなぁー」

「そんな事いわないでくださいよ」

「ファイナルさんのことがあっただけで あとは一日に数本しか電話も鳴らないんですから暇だしなぁ」

「・・・鳴らない日もありますよね」

「潰れ待ちってとこですね。 あ、そう言えば もうそろそろ工場長も定年じゃないんですか? 」

「そう言われれば、確かそうでしたよね」 

「あーあ、工場長も退職金貰うのかぁ」 思いもよらない話を聞かされた連休前日であった。

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みち  ~道~  第159回

2014年12月16日 14時16分20秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第159回



車がマンションの前に止められ車から降りた琴音がドアを閉める前に運転席を覗き込んで

「有難うございました。 気をつけて帰ってくださいね」

「こっちこそ今日は有難う。 それじゃあね、お休みなさい」 ドアを閉め、走っていく車を見送りながら

「ヒーリングって・・・私にどんな力があるって言うのかしら」 一言呟き部屋に戻った。



会社に行けば明日から5月の連休だが今年は3日間しかない。  


始業時間が始まるなり会社の電話が鳴った。

「悠森製作所でございます。 あ、社長。 お早うございます。 ・・・はい、はい、それでは午後からですね。 皆さんに伝えておきます」
 そう言って電話を切り少し大きめな声で

「社長が風邪をひかれたみたいなので病院へ寄ってから来られるそうです。 午後くらいに来られると思います」 事務所には琴音を入れて3人しかいない。

「はーい、分かりましたー」 とそれぞれが返事をし、そして一人の社員が

「僕今から工場に降りますから工場には伝えておきます」

「有難うございます。 じゃあ、お願いします」 事務所に残ったのは琴音と 以前、芹沢が年末ボーナスを聞いてきたときに一緒に話していた社員の二人だけだ。 そして武藤が来た時に武藤と奥の事務所に入っていったのが芹沢。 その様子を見て二人の様子がおかしいと言ったのも今事務所にいるこの社員だ。

事務所のドアが閉まり社員が一階の工場に下りて行った。 それを確認してから

「織倉さん、ちょっといいですか?」 椅子に座ったまま琴音の背中に話しかけた。

「はい、何でしょう?」 振り返る。

「芹沢が辞めた時に織倉さん社長と応接室に入って行ったでしょ? あの時社長何か言ってました?」

「退職の処理は初めてだから出来るかどうかのお話でしたよ」 持っていたペンを置き、椅子を回転させ社員の方に向き直った。

「そうなんだ。 じゃあ、何も聞いていないんですね」

「特には・・・」 社長から釘を刺されたことは言わない。

「社長かなりショックを受けてたみたいだから、もしかして女性の織倉さんにポロッと話してるかと思ったんですけどね。 多分、今日の風邪って言うのもショックから体力が落ちてきてたんじゃないかな」

「え? そんな大変な話なんですか?」

「織倉さん以外は全員知ってますよ。 社長も気が良いっていうか・・・良すぎっていうか。 普通なら解雇ですよ」

「解雇って・・・」

「せっかくチャンスをあげたのにそれを棒に振って・・・ホント、馬鹿なヤツですよ」

「チャンスですか?」 何のことか分からないといった琴音の顔を見て

「奴ね・・・あ、芹沢ね。 設計図を持ち出していたんですよ」

「持ち出すですか? 断れないお客さんに何か聞かれて説明するためにでしょうか?」

「違いますよ」

「設計図は持ち出し厳禁ですからそれ相応の理由があったんじゃないんですか?」 社員にすれば琴音の言葉が的を得ない返事にしか聞こえない。

「あれはね、確か1月だったと思うんですけど・・・。 あ、あの日ですよ。 織倉さんが雨なのに窓を開けててあちこちビチョビチョになった日、あの日の前日ですよ」

「ああ、あの重かった日ですか?」 琴音が事務所に入ったときに腰が曲がるほど空気の重さを感じたあの日の前日だ。

「え? 重いって?」

「あ、何でもありません。 あの日の前日ですか?

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みち  ~道~  第158回

2014年12月12日 14時46分17秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第158回



「いいんです。 それよりどうしたらいいんですか?」

「えっとね、和尚に話したら琴音さんのことを覚えていて・・・ま、このことは後で話すけど取りあえず和尚が言うには そんな気配がしたときには毅然とした態度で『来るな、立ち去れ!』 って言う事だって。 琴音さんだったら気配が分かるだろうって」

「ええ? 気配ですか? それにそんな言葉だけでどうにかなるんですか?」

「そうらしいわよ。 話には続きがあって・・・でもねその話よりも先にする話があるの」

「なんですか?」

「うんとね・・・食後に話すわ。 とにかく今は美味しく食事をしたいから楽しい話をしない?」

「そうですね。 せっかくの美味しいお料理が台無しになっちゃいますよね」 その後は野瀬を肴に楽しい会話をしながらの食事だった。

マンゴ-プリンもペロッと食べ終え コーヒーを飲みながら更紗が切り出した。

「さっきの話の続きだけど」

「はい」

「あのね、正道さんなんだけどね」

「え? 和尚じゃなくて正道さんのお話しですか?」

「そうなの。 琴音さんが初めて正道さんに会った時 野瀬君が言っていたのを聞いてたかしら。 今までと方向を変えるって」

「うん・・・と そんなことを聞いたような気はしますけどはっきりと覚えていません」

「正道さんね、ヒーラーって言ってたじゃない? ずっと人間相手にしてきてたのよ。 それを今度は動物を相手にされるらしいの」

「動物ですか?」

「そう。 色んな切っ掛けがあったみたいなんだけどね。 それで今やっている京都はお弟子さんに任せて ほら、年末 琴音さんが実家に帰ったときに会ったでしょ? あそこの地で動物相手に新しく拠点を作るの」

「ああ、そうなんですか。 それであの時見に来られてたんですか?」

「そう。 もう土地も決めて私も見に行かせてもらってたのよ」

「空気も土も新鮮でいい所ですよ」

「都会の喧騒がなくていいところね。 琴音さん良い所で育ったのね」

「ちょっと田舎ですけど」

「あ、また話が逸れちゃったわ。 それでね、正道さんはそこを住まいにしながらヒーリングの仕事ををしていくんだけど まだこれから建物の設計図を立ててだから今すぐの話じゃないのよ。 それでね、あのね・・・琴音さん、正道さんと一緒にやらない?」

「やるって どういう事ですか?」

「正道さんとそのヒーリングの仕事をやっていかない?」

「ええ! 私がですか? 無理ですよ。 何も出来ませんもん。 それに会社もありますし」

「そうなのよね。 まだ入ったばかりの会社なのよね。 そこがネックなのよねー」

「そこがネックって、それ以前に私、そんなヒーリングの『ヒ』 の字も知らないんですから何も出来ませんよ」

「それは心配ないの。 正道さんが教えていくって」

「え? 正道さんが仰ってるんですか?」

「本当は正道さんからちゃんとお願いしたかったらしいんだけど私と正道さんの合う日がなくて。 で、正道さんと琴音さんの二人のシチュエーションより、私とのシチュエーションの方が琴音さんの素直な返事がもらえるでしょ? だから私に任せてもらったの」

「あはは、確かにそうです。 正道さんと二人っきりでお話なんて 私、カチンコチンになっちゃいます」

「でしょ? 正道さんも筋を通す人だからなかなか譲って下さらなかったんだけど 何とか説き伏せたの」

「でも私には無理ですよ。 いくら正道さんが教えてくださるって仰ってもあまりにも知識がなさすぎです。 それにヒーリングって生まれ持っての何か特別の力が無いと駄目なんじゃないんですか?」

「強い弱いの差こそはあってもみんな力は持っているのよ。 ほら、子供のお腹が痛いと母親がお腹をさすってくれるでしょ? すると不思議なことに痛みがなくなるでしょ? それって母親の掌でヒーリングが行われているのよ。 ま、子供の気のせいだとか、医学的には証明できないとかって言われているけどね。 世間の話は置いといて、だから琴音さんも生まれ持っているのよ。 それも凄いのをね」 

「私がですか?」

「正道さんと和尚の太鼓判付よ。 琴音さんが気付いてないだけなのよ。 ねぇ、やってみない?」

「でも会社もありますから」

「とにかく急ぐ話じゃないの。 考えておいてくれない?」

「じゃ、一応っていうことで」

「お願いね。 それじゃあ、和尚の話は今話すとよくなさそうだからまた今度にするわ。 とにかくそんな気配がしたら毅然として追い払うこと! いい?」

「分かりました・・・って、出来るかなぁ・・・」

「琴音さんなら大丈夫よ。 あら? もうこんな時間だわ。 琴音さん眠くない?」

「子供じゃありませんよ。 それより更紗さんの方こそいつも遅くまでお仕事をされているのに大丈夫ですか?」

「言ってるじゃない。 琴音さんといるのが私の元気の元なんだから。 今までの疲れも飛んで新しくエネルギーがチャージできたようなものよ。 さ、明日からまた頑張れるわ」

「ええ? 明日もお仕事があるんですか?」

「明日はタヌキが来るの」 二人で大笑いをした。

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みち  ~道~  第157回

2014年12月09日 14時34分29秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第157回



店に入りメニューを見た琴音が

「またメニューが変わってる」 独り言を言うと

「季節の旬のお料理だからメニューも季節で変わるのよ」 琴音の小さな声を聞き逃さなかった更紗。

「あ、そうなんですね・・・。 でもちょっとしたイラストも全部変えてあってメニューから季節感出てますね。 この前、野瀬さんと来た時は冬だったから暖かい冬を感じさせてくれるイラストでしたよ」

「今日は春っぽさを感じるでしょ?」 暖かな色使いだ。

「はい。 ほのぼのとした色使いもいいですね」

「お料理だけじゃなくてこんな所にも気を使うお店ってそうそう無いと思わない?」 

「初めてです」

「でしょ。 ホントにこのお店いいのよね。 何食べる?」

「あっと・・・それじゃあ・・・新じゃがとハーブのオーブン焼きも美味しそうだけど やっぱりお米が食べたいな。 春野菜のドリアにします。 更紗さんは?」

「私はっと、何にしようかしら・・・そうねぇ・・・アスパラと海老のパスタにしようかな」

「海老も美味しそうですね。 更紗さんってパスタが好きなんですか?」

「どうして?」

「前に来た時もパスタだったから」

「あら? そうだったかしら? 偶然よ。 特に好きって訳じゃないわ。 多分、琴音さんがライス系を頼むから 自然とパスタにしちゃってるんじゃないかしら」

「そうなんですか?」

「天邪鬼なのかしらね?」 ウインクだ。

「え? もう、更紗さんったら」 二人でクスクスと笑い

「ね、マンゴーのプリンも美味しそうじゃない?」

「えへへ 私も見てました」

「食後に食べない?」

「食べたいです。 このソラマメのスープも綺麗な色ですね」

「これも頼んじゃおうか?」 そしていつも野瀬がする通り更紗がサラダをつけて注文をした。

「ああ、やっぱり琴音さんといると落ち着くわ」

「そうですか?」

「うん、琴音さんはどう? 私といたらどんな感じ?」

「何も考えなくて自然でいられます。 楽って言うのかな? あ、そんな言い方失礼ですよね」

「そんなこと無いわよ 一緒にいてて楽って言ってもらえるのって嬉しいわよ」

「不思議なんです。 まだ数える位しか会ったことがないのに。 あ、だから気を使えてないから失礼があったら言ってくださいね」

「うふふふ そういうところも大好きよ」

「もう! 更紗さん酔ってるんですか?」

「そうかもね。 琴音さんの一滴が効いてるみたいね」

「ビタミン剤になったり一滴になったり 私忙しいですね」

「あははは そんなこと言わないでよ。 あ、それより忘れる所だったわ」 そこへ料理が運ばれてきた。 いつものように更紗の「ありがとう」 を心地よく聞いた琴音だ。

「食べましょ」

「はい。 わぁ、このサラダ美味しそう」

「でしょ、さっき海老も美味しそうって言ってたから、ねっ」 新鮮な野菜に混じって海老が入っている。

「さすがはセラピストですね。 聞き逃してないんだぁ」

「これくらいのことで褒めないでよ。 食べましょ」

「はい」 そしてサラダを一口入れ 

「わぁ、やっぱり美味しい」 次に海老も食べては 「美味しい」 という琴音に

「美味しく食べるのが一番よね」 そう言って更紗もサラダを食べながら

「あ、そうだ。 話が途中になっちゃったわね。 忘れる前に言っちゃうわね。 前に祓い方を和尚に聞いておくって言ってたの覚えてる?」

「はい」

「実はね、前に和尚の所に行った時に聞いてたのよ。 その後、琴音さんに電話ででも言えばよかったんでしょうけど今日になっちゃって」

「あれからは何もありませんから・・・あ、ありました。 でも大丈夫です。 これからの参考にしたいので聞かせてください」

「ゴメンなさい。 遅かったのね」

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みち  ~道~  第156回

2014年12月05日 15時03分58秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第156回



棚卸しも終わり1ヶ月遅れの琴音の決算業務は前回やっていた事を全てメモに取り 必要書類もコピーをとっていたのでスンナリと事が運んび慌てることなく業務を終えることが出来た。

「はぁ、やっと終わったわ。 あとは帳端がダラダラとあるだけね」 自分で肩を揉んでいる。

「ああ、肩が凝った。 明日からの週末一日中寝てようかしら」 男性社員は皆、残業だが琴音は定時に帰る。 

琴音が一緒に残っていても何の役にも立たないのだ。 それに女性社員が定時に帰るのはずっと慣わしとしてあったと森川から聞いている。 それ故、男性社員がどれだけ忙しくても定時で帰る琴音を誰も責めることはない。

マンションへ帰り着替えをしていると鞄の中で携帯が鳴った。

「更紗さんだわ」 鞄から携帯を取り出し

「もしもし」

「琴音さん? 更紗です」

「お久しぶりです」 更紗とは年末に会ったきりだったのだ。

「お久しぶりー。 もう何年も会ってないみたいだわ」

「4、5ヶ月くらいのものですよ」

「琴音さんと会えなかったから疲れが溜まっちゃってるの。 ね、明日お休みでしょ? 今日、これからいいかしら? ゆっくり出来る?」

「大丈夫です」

「良かった。 今日を外すとまた暫く会えそうに無いみたいだったから」

「お忙しそうなんですね」

「ええ すごく忙しいわ。 私のような仕事が忙しいのは良い事じゃないんだけどね。 それじゃあ、今日は野瀬君が居ないから私がお迎えに行くわね」

「あ、いいですよ。 場所を言ってくださったら私から行きます」

「ふふ、もう近くまで来てるの」

「え? そうなんですか?」

「あ、信号が変わるから 後10分ほどで着くわ。 じゃあね」 携帯が切られた。

「更紗さん、本当に疲れてるのかしら? すごく元気そうなんだけど」 そう思った自分に笑えた。

部屋着から服を着替えてすぐに階下へ降り、マンションの前で待っていると軽自動車に乗った更紗が現れた。 マンションの前に止められた車の窓から琴音が顔を覗かせると車の窓が開き

「久しぶりー! 乗ってー」 すぐに更紗がそう言った。 琴音も車に乗り込み

「お久しぶりです」 シートベルトを締めながらそう言うとアクセルを踏んだ更紗も

「本当にお久しぶり。 もう琴音さんに会えなかったから寂しくって」 

「大袈裟ですよ」

「あら、本当よ。 琴音さんは私のビタミン剤なんだから少なくても月一は会わなくっちゃ」

「もう、更紗さんったら」 車の中は明るい笑い声に包まれた。

「あ、この間行ったお店でいいかしら? 自家栽培のお店」

「はい。 私、あそことても気に入りました」

「そうなの? そう言ってくれると嬉しいわ。 私もこっちに来た時には必ずあそこに行くのよ」

「今日はどんなお野菜があるのかしら。 楽しみですね」 それを聞いた更紗が琴音をチラッと見て

「ふふふ そんな琴音さんが大好きよ」 

「え? ヤダ、恥ずかしい」 掌で顔を隠した。

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みち  ~道~  第155回

2014年12月02日 14時46分18秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第155回



月末近くなった時

「織倉さん、ちょっと」 社長が琴音を応接室に呼んだ。 中へ入っていくと 一枚のメモ書きを渡された。

「これは?」

「この1ヶ月足らずだけど、みんな残業もして頑張ってくれたからね。 それにこれからまだまだ忙しくなるから期末のボーナス。 1.5ヶ月しか出せないけどね」 紙には基本給×1.5ヶ月 と書かれていたのだ。

「全員にこれで出してあげて。 あ、念のために言っておくけど織倉さんもだからね」

「私は残業も何もしてませんから頂くわけには・・・」

「何言ってるの、社員はみんな同じなんだから。 織倉さんの入れてくれるコーヒーで疲れも取れたりするんだからね。 ちゃんと織倉さんの分も計算するんだよ」

「・・・はい。 有難うございます」 

「それにしても織倉さんには悪いことをしたね」

「はい?」

「こんな潰れそうな時に来てもらって何も美味しい目をさせてあげられないね」

「そんなことは無いです。 皆さんの優しさが嬉しくてここへ来てからとても幸せな気持ちになってるんです」

「そう言ってくれると幾らか気は楽だけどなぁ。 せめて1度くらいは海外旅行に連れて行ってあげたいなぁ」

「え? 海外ですか?」

「昔は毎年社員と社員の家族を連れて海外旅行に行ってたんだよ」

「ええ? そうなんですか?」

「独り身なんて友達を連れて来ていた位だったんだよ」

「そのお友達の旅費は?」

「勿論、会社持ちだよ」

「すごい・・・今じゃ考えられ・・・あ、すみません」

「いいよ、いいよ。 織倉さんから見たらそうだろうね。 昔は良かったんだよ。 その時に散財せずに置いておけば良かったんだろうけど 税金に持っていかれるだけだからね。 わが社のモットーは・・・じゃなくて僕のモットーはお金が入れば社員に還元だからね」

「その時にはもう社長は社長だったんですか?」

「僕はヒラの時、会長が社長の時。 だから僕が会長に直談判して行ってたんだ。 会長任せにしておくと全部税金に持っていかれてたよ。 だから織倉さんにも1度くらいはと思うけどもっと契約が連続にならないと無理だなぁ」

「お気持ちだけで嬉しいです。 コーヒーを入れてきましょうか?」

「うん。 甘目でお願いします」 甘目のコーヒーを応接室へ持って入りその後は慌ててボーナスの計算を始めた。

琴音にとってはこの会社で初めてまともなボーナスとなった。



決算の為の在庫確認と新しい契約とで皆がバタバタし始めたのを横目で見ながら

「何かお手伝いしなきゃ」 腰を上げ奥の事務所を覗くと誰も居ない。 1階に降りて行った。

1階では全員が在庫の確認をしている。 小さな部品が幾つもある所へ行きそこの前に立っていた社員に声をかけた。

「これくらいなら数えられますからお手伝いします」

「大丈夫ですよ。 こんなに小さいのは重さを量って個数を出すだけですから。 それよりこんな汚いところへ来たら服が汚れちゃいますよ」 それを聞いていた他の社員が

「織倉さん、手伝ってもらえるんなら、こっち手伝ってもらっていいですか?」

「おい、織倉さんの服も手も汚れるだろー」

「読み上げてもらうだけだよ」

「大丈夫です。 はい、お手伝いします」 声をかけられた方に行きかけた時

「断っちゃっていいんですよ」 そう言われて笑みで返した。

「うるさいなー 黙っとけよー」 琴音は笑いながらその社員の所へ行き

「何をすればいいでしょうか?」

「ここに書いてあるのを読んでいって下さい。 僕が数を数えてから言いますからその数をここに記入してもらえますか?」

「分かりました」 こんな作業は初めての琴音。 緊張するどころか社員の一員になれたようで嬉しくてたまらないようだ。

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