大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第27回

2013年08月31日 22時23分53秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第27回



「天河神社よ」

「今さっき 大きく天河って書いてあったと思うけど 神社って書いてなかったわよ」

「え? うそ!」 慌てて文香がブレーキを踏み 車をバックさせた。

「ストップ! ここよ、これなんて読むの?」 琴音が聞いた。

するとそこには 『天河大辨財天社』 と書かれていた。

「あ、ここよ! えー! 私こんなに大きなのを見落としてたの? 情けない。 えっと、何て言ってたかしら・・・そうだ 『てんかわだいべんざいてんしゃ』 って読むのよ。 凄い! 迷わないで来られた。 ご縁があったのよ!」 文香が喜びながら車を進める。

「ご縁?」

「そう、ご縁が無い人にはここへ来ることは出来ないそうなのよ」

「そうなの? でもそんなに難しい道じゃなかったじゃない。 ご縁なんか無くても着けるんじゃない?」

「そういう意味じゃなくて 用事があって来られないとか、予定していても熱が出ちゃって来られなくなるらしいのよ。 わぁー、嬉しい 私は此処にご縁があるんだわ」

「へー、そうなんだ。 私達が此処にどんなご縁があるのかしらね?」 舞い上がる文香と相反して 淡々と答える琴音であったが 心の中は
(ご縁か・・・悠森製作所と私のご縁って どんなご縁なのかしら。 それに課長とのご縁ってなんだったのかしら・・・。 あ、ダメダメ! 少なくとも今は考えないでいなくちゃ) そんなことを考えていた。

進んでいくと駐車場があったので そこへ車を停めた。 するとすぐに大型バスが入ってきた。

「何? 観光ルートにでも入ってるのかしら?」 琴音が言ったすぐ後に バスから人が降りてきた。

「え? あれって テレビで見る・・・文香!見て あれって何の装束なのかしら?」

「うわ、何?」

「テレビで時々見ない? 何のテレビだったかしら」

「知らない」

「あー、思い出せないなぁ」 思い出そうとする琴音だが 当分思い出せないであろう。 

「あの人達も来るのかしら?」 運転席から出てきた文香が バスのほうを見ながら言った。

「そうなんじゃない? 急いで行きましょう あんなに沢山の人が来ると落ち着けないわ」 神社で落ち着けない? 神社で落ち着きたいのかい? 琴音、今までの自分と違うことに気付かないかい?

「そうね」 

そう言って歩き出したのだが 何処をどう歩いていいのか分からず思うまま歩いて行き、鳥居をくぐった。 歩いていると文香が琴音に聞いてきた。

「何か感じる?」

「何かって?」

「何でもいいから何かよ」

「そんなの分からないし、何も感じないわよ」 琴音は殆ど相手にしていない。

「そうなんだ」

「何なの?」

「分かる人はここの気を感じるんだって」

「気? そんなの分かるはずないじゃない」

「琴音なら感じるかと思ったんだけどな」 先に石段が見えた。

「あの石段を登っていこうか」 琴音が言った。

「そうね」

石段を登っていくと拝殿に着いた。 大きな太鼓が置いてある。 椅子も沢山並べられてあった。 上を見ると五十鈴だ。

「わぁー 立派な鈴ね。 太鼓もあるわ」 

琴音がそう言って賽銭箱に小銭を入れ 五十鈴を鳴らし手を合わせた。 同じように文香も小銭を入れ 五十鈴を鳴らして手を合わせようとしたのだが 後が分からない様だ。

「琴音、どうやったの?」 

「私も分からなかったから パンパンと2回手を叩いただけなの」

「じゃ、私もそうする」 40歳前後という女達が 神社での挨拶すら知らないわけだ。

そこへ巫女が慌しくやって来て

「人数が増えました」 と追加の椅子を用意しだした。 拝殿の奥に誰かいるらしく

「分かりました。 急いでください」 と返事をする声が聞こえた。

「椅子も沢山並べられてあるし 何かあるのかしら?」 琴音が言うと

「もしかしたらさっきの人達?」 文香が言った。

「そうかもね。 邪魔になるみたいだから 此処はもう終わろうか」

「賛成」 そう言って何処をどう歩いていいのか分からないままに歩きだした。

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みち  ~未知~  第26回

2013年08月27日 14時29分34秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第26回



女の会話はくだらないことでも 尽きることなく出てくるようだ。 くだらないから尽きないのだろうか? これが政治の突っ込んだ話になると 多分無言に近くなるのではないだろうか。
だが このくだらない会話のお陰で 琴音の自分を責める時間が消えていた。

高速を降りて かなり山の中へ走ってきた 天気に恵まれたお陰で 車の窓を開け山の空気を吸い込む

「ああ、気持ちいいわ」 琴音がそう一言いうと

「うん 本当ね 山の空気は贅沢よね」 文香がそう返してきた。

ナビの通りに走っては来ているがナビが少々古いため不安である。 その上、いざ山の中に入ると方向音痴の二人だ 全く分からなくなってしまった。

文香に比べてまだ方向音痴がましな琴音が ナビを見ながら地図を片手に持って見ている。

「自信がないけど 多分あっていると思うわよ。 あら? あの建物何かしら?」

「何?」

「左に見えるでしょ」

「ああ、大きな建物ね」

「あそこで聞いてみない? 文香が」

「はいはい。 琴音は聞きに行かないのね」 建物の前に車を停め 文香が玄関口で

「すみません 天河神社に行きたいんですけど この道であってますか?」 地図を見せながら聞いた。

その間 琴音は車から降りて 身体を伸ばしながら建物を見て

「ここって役場かしら?」 キョロキョロとしだしたときに 文香が帰ってきた。

「大体分かったわ。 この道で合ってるみたいよ、行こう」 また車に乗り込み暫く走ると段々と道が細くなってきた上に先を見ると

「工事してるみたいね」 琴音が言った。 

道幅が大型車一台分くらいだ。 それなのに道の半分弱が工事されていた。 それでも進むしか道は無い。

「えー、誰も誘導してくれてないじゃない。 対向車が来たらお終いよー」

「あ、文香見て 工事のおじさんが居るわ あの人に聞いてみる?」

「どこ? あ、居た。 ってしっかり私が聞くのね」

「当たり前じゃない。 私に聞けって言うの?」

「はいはい、分かりました。 普通は助手席でナビをしてくれる人が聞くと思うけど 運転手の私が聞きます」

「なによ その言い方。 私が人と話さないの知ってるでしょ」

「だから分かったって」 

端に車を停めようにも 殆ど車幅しかない道だ。 道をふさぐように車を停め前後から車が来ないか気にしながらも 車を降りて

「すみません 天河神社に行きたいんですけど この道であってますか?」 さっきと同じように地図を見せながら文香が聞くと それを見た工事の人間は

「ああ、合ってるよ。 今はこの辺りだから この先の橋を渡ってすぐ左に見えるよ」 と返事をした。

「有難うございます」 文香がそう言うと 車の中で琴音も会釈をした。

再び車に乗り込んだ文香は

「合ってるって。 この先に橋があるからそれを渡ってすぐ左に見えるんだって」

「じゃあ もうすぐに着くのね」 車を発車させて 10分ほどで橋が見えた。

「あれって おじさんの言ってた橋じゃない?」

「あ、そうよ。 あれを渡って左に見えるのね」

「おじさんに聞かなくても すぐに着けたのね」

「そうみたいね」 橋を渡った所で琴音が文香に言った。

「ちょっとゆっくり走って。 見落とさないように見るから」

「うん分かった」 文香がそう返事をして いくらも走らないうちに琴音が

「あら?」 そう言いながら 後ろを見ている。

「何?どうしたの?」 文香がアクセルから足を離した。

「私達ってどこに行くの?」 車は惰性で走っている。

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みち  ~未知~  第25回

2013年08月23日 14時51分33秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第25回



「まだ彼氏作らないの? っていうか、文香もう結婚しないの?」

「したくても出来ない・・・じゃないな。 結婚はもういい、ただ男は欲しい」

「え? えらくストレートね」

「だって、何かあったときにギュってして欲しいじゃない」

「何かって?」

「落ち込んだ時とか、寂しくなった時とか」

「そう?」

「琴音は強いから 一人で居られるのよ」

「強いとか何とかじゃなくて 二人って煩わしいじゃないの」

「でも時には 抱きしめて欲しい時もあるじゃない」

「あのね、そんなに都合のいいことばかり無いじゃない。 二人で居るっていう事は 自分にとって都合の悪いこともいっぱい出てくるのよ。 文香も離婚したんだから分かるでしょ?」

「うーん。 例えば?」

「例えばねー、・・・うん、そうだわ。 彼氏だったとするじゃない。 結婚しようとかって言われたらどうするの? 文香には結婚するつもりが無いわけじゃない」

「うーん、その時に考えるかな。 結婚しても良さそうだったら それも一つかなって」

「本気?」

「どうだろ?」

「文香の苦手な家の用事をまたするの?」

「ああ・・・無理かもしれない」

「でしょ? したくもないことを当たり前にやらなくちゃいけないのよ。 そう思っただけでそんな会話は煩わしいじゃない」

「話が飛躍しすぎよ。 結婚を無しで話してみてよ」

「じゃあ、彼氏と付き合ってて外食するわよね そうするとそのうち手料理が食べたいとかって言ってくるのよ。 文香 料理苦手じゃない、そうなったらどうするの?」

「絶対料理なんて作らない」

「自分で頓珍漢な事言ってるって分かってる?」

「それでもなんでも ギュってして欲しいの」

「じゃあ、これはどう? 文香は 一人の寂しさと二人の煩わしさ どっちを取る?」

「何それ?」

「いいから考えて」

「一人の・・・? なんだっけ? もう一度言って」

「一人の寂しさと二人の煩わしさ どっちを取る?」

「ああ そう言う事か。 勿論二人よ」

「これだけ言ってもそうなのね。 お料理作ったり したくも無い会話をしたりする方を選ぶんだ」

「なに? 剣があるわね。 じゃあ、琴音は?」

「勿論、一人の寂しさよ 二人の煩わしさなんて嫌よ」

「琴音って ホントに人が嫌いよね。 って言うか、人間不信すぎない?」

「人間不信って・・・別に誰も彼もを疑ってるわけじゃないわよ。 それに嫌いじゃなくて苦手って言ってくれる? あ・・・嫌いもあるかな」

「でしょ、人見知りも凄いし」

「この歳になったんだから 上面の会話くらい出来るわよ」

「上面でしょ。 その後も連絡をしようなんて言われたら ドン引きでしょ?」

「当たり前じゃない。 何のために連絡しなきゃいけないのよ。 用事があるのならその場で終わらせるわよ」

「あーあ、色気も何もあったもんじゃないわね」

「色気なんて要らないわよ。 それにもう40よ」

「言っとくけど 私はまだ39歳だから」

「学年で括るのよ 文香ももう40仲間!」

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みち  ~未知~  第24回

2013年08月20日 12時50分55秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第24回



琴音が鞄の中をゴソゴソとし始めた。

「何してるの?」

「うん、二人分のお茶をペットボトルに凍らせてきたの。 冷たいの欲しいでしょ。 凍っているから いつでも冷たいままで飲めるわよ」 そう言って凍ったペットボトルを2本ホルダーに置いた。 

そしてようやく出発となったのだが 大通りに出ると文香が

「ねぇ、コンビニがあるようだったら事前に教えて」

「ああ、朝食べてないんだ」 3食どころかそれ以上食べる文香である。

「それじゃあ もうちょっと行った先にあるから そこで買うといいわ」

「もう、お腹すいて死にそう」

「あの、その言葉は暫く禁句にしてもらえない?」 平気な顔をしていても 心の中にはいつも課長のことがある。

「あ、そうでした。 ゴメンゴメン」

「あ、ほらあそこ。 分かる?」 

「ああ、見えたわ ゴメンここで朝のパンを買って行く」 駐車場に車を停め

「琴音は? コーヒーでも買わない?」

「待ってる間にコーヒー飲みすぎたわよ お腹ダボダボ」

「えへへ、ごめん。 じゃ、買ってくるね」 そうしてやっと文香は朝食の買い物にありつけた。

文香が買い物をしている間に 琴音は助手席を降り運転席に座った。 エンジンはかけっ放しだ。 琴音がバックミラーを見ていると 買い物が終わった文香が出てきた。

「文香、 助手席に座って」 窓を開け、顔を出し 琴音が言った。

助手席のドアを開け 文香が助手席に座りながら

「何? 私が運転するわよ」

「止めてよ 食べながらなんて 事故ったらどうするのよ。 それにこの辺りは 文香より私のほうがよく知っているから 文香よりスムーズに運転できるわよ。 行くわよ」 琴音の運転が始まった。

文香はお喋りをしながら さっき買ってきたサンドイッチと菓子パンを食べている。 
そんなに混んでいない道をずっと走り、高速に乗ったのだが 一向に文香の食事が終わらない。

「文香、いつまで食べてるのよ 早く食べちゃってよ」 文香は琴音の運転にお任せ状態になってしまっていて 自分が運転をするのを忘れていたようだ。

「あれ? 琴音が運転してくれるんじゃないの?」

「何言ってるのよ、文香が運転するから付き合ってって言ったんじゃない」

「あ、そうだったわ。 つい、いつも自分が運転してるから 助手席に乗って楽を感じちゃったみたい」 そう言いながらもまだ サンドイッチを手に持っている。

「早く食べちゃってよ」 琴音のお願いするような声が出た。

やっと文香が食べ終わって 次のサービスエリアに入り 運転を代わった。 助手席に乗りかわった琴音から苦情が出た。

「大体 文香は食事が遅いのよ。 サンドイッチと菓子パンだったら 普通急いだら 10分もかからないでしょ それが1時間近くだなんて 信じられない」 愚痴も出るだろう。

「ごめーん 久しぶりの助手席で 気持ちが楽になっててさ」 それは琴音も同じである。

今、助手席に座っていて さっきと大違いの楽を感じているから その気持ちが分からなくもない。

「お互い一人暮らしだもんね。 自分で運転する以外車なんて乗らないし・・・あ、そうよね? 違ったりなんかしてるの?」 琴音が文香に聞いた。

「当たり前じゃない。 行きたいところがあれば自分で運転よ。 誰も運転してくれないわよ」

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みち  ~未知~  第23回

2013年08月16日 16時17分20秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第23回



白いものが見えなくなったことに対してイライラは無くなったのだが まだふとした時に感じるビルからの視線、そして課長のことで自分を責める毎日だ。

そんなある日の夜、久しぶりに文香から電話がかかってきた。

「もしもし? 琴音?」

「うんそうよ。 どうしたの?」

「どうしたのって、なに? 元気無さそうじゃない」

「え? そんなこと無いわよ。 ただ、前に務めていたところの課長が先日亡くなっちゃって ちょっとショックなの」

「あら? 琴音がよく言ってた課長?」

「そうなの 脳溢血だったらしいんだけど 私がストレスを与えたのかなって気になって」

「どうして辞めた琴音がそんなことを考えなくちゃいけないわけ?」

「辞めたからよ。 私が辞めなかったら 課長に仕事のストレスが溜まらなかったんじゃないかなって・・・」

「は!? どうしてそんな風に考えなくちゃいけないの?」

「どうしてって・・・あまりにもそんなタイミングだから・・・後輩からも課長がてんてこ舞いになってるって聞いてたから・・・」

「琴音らしいわね 何を言っても無駄なんでしょうね」

「うん・・・何言われてもそう考えちゃう。 考えたからって生き返ってくるわけじゃないのにね」

「ネ、気晴らしに出かけない?」

「気晴らしかぁ・・・そうね・・・」

「うん、本当はねコレが目的で電話したのよ」

「なあに?」

「今日、会社で奈良県の天河神社の話題で盛り上がったのよ。 それでどうしても行きたくなっちゃって、気晴らしがてら付き合ってくれない?」

「神社なの?」

「分かってる、分かってる。 琴音が神社嫌いなのは知ってるわよ。 私が運転するからさ、車の窓開けて 山の中を走るみたいだから 山の空気でも吸って そのネガティブな考え吹っ飛ばそうよ」

「ネガティブって・・・」

「そうじゃない。 薬盛ったわけじゃないんでしょ?」

「何てこと言うのよ」

「行こうよ」

「うん・・・そうね、行ってみようかな」

「よし、決まり! 絶対よ」



週末土曜日 約束の時間を過ぎても 文香が来ない。

「ま、お寝坊でもしたのね 気長に待ってよう」 そう思っていると文香から電話があった。

「ごめーん、今から家出る」 そう言ってすぐに切られたのだが まさか待ち合わせの時間に起きたとは琴音も考えていなかった。

「今から家を出るってどういう事? でも仕方ないわね さて、何をして時間を潰そうかしら・・・取りあえずコーヒーでも飲んでましょうか」 するとそれから40分ほどして文香から電話が入った。

「もうちょっとで着くから 道路に出てて」 結局予定より1時間遅れの出発となった。

琴音が車に乗り込むとすぐに地図を手渡され 文香はゆっくりと発進しだした。 

「そこの赤丸が 天河神社なの。 この週末に行くって言ったら 情報をくれた子が地図をコピーしてきてくれたの。 その子自身は運転が出来ないから 詳しい事は聞けなかったんだけどね」 そう言いながら まだゆっくりと走っている。

「どうしたの?」

「うん、ちょっと 車を停めたいんだけど どこかにないかしら」

「ああ、そこを曲がると幅広の行き止まりでUターンも出来るわ。 ちょっとなら停めてても何も言われないわよ」

「ここね」 文香は車を停め カーナビを触り始めた。

「ゴメン、早く起きてナビを設定しようと思ってったんだけど 実は待ち合わせの時間に起きたの。 だからお化粧だけして出てきて 何も設定できていないの」 住所からでは設定できない。 地図があったおかげで その地図と照らし合わせながらの設定だ。 1時間遅れどころかそれ以上遅れだ。

「この地図が無かったら 行けなかったわね」 琴音が言うと

「うん、あの子に感謝だわ」

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みち  ~未知~  第22回

2013年08月13日 14時15分55秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第22回



琴音はそのまま誰とも話をせず帰ったのだが 家に帰る道中もあの言葉が気になって仕方が無い。

玄関の前で塩を振り、着替えて化粧を落とし一息つくためのコーヒーを入れた。

課長が亡くなったのを 自分が会社を辞めたせいだと 責める心もまだあるが そんな所とは考える、思うとは違った場所で 

「志半ばって、どういう意味? 言っちゃうと悪いけど あの課長に志があったの?」 単にこういうときに使う言葉だという事は 重々分かってはいるがどうも腑に落ちない。

「その志があったとしてその途中で・・・私のせいで 亡くなったの?」 頭の中が混乱しだしたようだ。

「課長は何をしたかったの? 何をしようとして生まれてきたの?」 自分に対してそんなことを考えることが多かった為だろうか 他人である課長にまでも考え出していた。

「いやだ、何を考えてるのかしら。 課長には課長のやりたい事があったはずじゃない。 他人の私がそれを考えてどうするのよ。 それに考えても もうどうにもならないじゃない」 考えないようにと考えると それは考えていることになる。

「あーダメダメ お風呂に入って流そう」 心の中や頭の中はそう簡単には流れないと思うけどね。 でも自分を責めることは流す方が良い。

冷めたコーヒーを一気に飲み 風呂の準備をし、湯に浸り目を閉じた。

琴音は物心ついたころから 目をつぶると瞼の裏に 動く模様のようなものが黒っぽい中に薄く白く見えていた。

その動く模様を見ながら 心を落ち着かせていた。 眠るとき、退屈になった時なども このやり方は小さいころからの癖でもあった。

一晩寝なかった上に暖まった身体は眠気を誘う その日は早々に床についた。


翌日も森川から仕事を教えてもらっていたが 毎日の業務は完璧だ。 ただ、月に1回という締め業務は まだ1回しか経験していない。 琴音はそれが不安でたまらない。

「森川さん、私に締め業務 出切るでしょうか?」 森川に聞いてみた。

「大丈夫よ、事細かにメモを取ってたじゃない」 たしかに要らない事までメモをしていた。 だが 琴音にすれば どれが要る事でどれが要らない事かすら分からない状態だ。

「今度の締めはそのメモを見ながら 織倉さんが一人でやってみて。 横でずっと見てるから」 

「はい。 あの、注意深く見ていて下さいね。 私何するか分かりませんから」 1円でも間違えられない。 

「ふふふ、大丈夫よ 自信を持ちましょう」 琴音はまた笑窪に魅せられた。

ずっと年齢の高い森川が経理をしていたせいか いわゆるソロバン経理なのだ。 伝票も帳簿も何もかも全部手書きである。 PCに打ち込むであろうと思っていた琴音には 大きな計算違いであった。

会社ではまだ白いものがみんなに見える。 それに毎日感じる斜め前のビルからの視線。 仕事への不安、課長への自責の念もあり 日頃そんなに起伏が激しく無いほうなのに イライラしたり落ち込んだりと 精神的に疲れてきていた。

そしてつい ある日の朝、会社の掃除をするために窓を開けたとき いつも見ている山に向かって 

「山のバカ!」 と叫んでしまったのだ。

するとその時から白いものは全く見えなくなってしまった。

「え? 今日一日誰にも白いものが見えなかったわ」 だがその日だけではない その日を境にずっと見えなくなったのだ。

悠森製作所で初めて窓を開けたときに 言った台詞を思い出してごらん 「まるで山の空気が入ってくるみたい」 そう言ったじゃないか。 

悠森製作所に来た意味が無くなるじゃないか。 今の琴音にとって山がどれだけ大切か分かっていないようだ。 二度とそんな言葉を言っては駄目だ。 山への感謝を忘れないようにしなければ。

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みち  ~未知~  第21回

2013年08月09日 14時14分34秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第21回



「お通夜はいつなのかしら? えっとカレンダーに書いてあったかしら・・・」 大安、友引が引っかかると通夜、葬儀がずれるであろうと思いカレンダーを見ようとすると。

「あ、明日です。 明日がお通夜で明後日が葬儀です。 先輩どうします?」

「うん。 明日は会社がお休みだから お通夜だけ行かせてもらって 葬儀は止めておくわ」

「そうですか えっと、お通夜は6時からだそうで お仏前って言うんですか? よく分からないけど お金はお断りのようです。 場所なんですけど 課長の家って会社の近くだったから 会社の近くに葬儀場があったじゃないですか」

「あの大通りから入って角の所の?」

「そうです、そうです そこです。 私、明日 休日出勤になっちゃってて先輩と一緒に行けないけど 葬儀場で逢えると思います」

「うん、私のことは気にしないで 行ってお線香をあげたらすぐ帰るわ」

「そうなんですか? 帰りにちょっと食べて帰りません? 久しぶりなんだもん 面白い話もあるんですよ」 喪服で楽しく食事? それにさっきの慌て様は何処へ行ったのやら。 

「ごめんね、帰るわ。 また違う時にでも一緒しましょ」

「そうなんですかぁ? 絶対約束ですよ」

「今日は連絡してくれて有難う」 そう言って携帯を切った琴音であった。

「あんなに元気だったのに どうしてなの!? 私のせい!? 私が辞めて課長にストレスがいって・・・」 琴音は理香と話しているときから このことが気になって理香の誘いを断ったのだ。

それからは何も手につかない。 風呂にもまだ入っていない。 入る気が起こらない。 

頭を抱えて座り込みずっと自分を責めていた。 長い時間が過ぎ 新聞がポストに入れられた音に気付いた。

「あ・・・朝・・・」 結局、眠れなかった。

コーヒーを入れるためにキッチンへ向かい ゆっくりとコーヒーを入れた。

「どうして・・・」 涙がこぼれた。

「私が辞めていなかったら こんなことにならなかったのかもしれない。 ごめんなさい ごめんなさい」 唯、ただ その言葉しか出てこない。

コーヒーを入れても飲むことも出来ない。

「課長はもう飲みたくても コーヒーが飲めない・・・」 課長はコーヒーが飲めなかった。 琴音がコーヒーを飲むのをよく見かけて

「僕もコーヒーを飲んでみようかな。 そうしたら織倉さんのように仕事が出来るかな?」 そんな言葉を思い出していた。 

そして寝ることなく 準備をしなければならない時間になった。

軽くシャワーを浴び 薄化粧をして喪服を着、数珠を持ち バスに乗り、電車に乗った。

葬儀場へ着いた時には沢山の人で溢れかえっていた。

現役が亡くなったのだ 職場から、取引先から沢山の人間が来ている。

和尚の念仏が始まり「それではお焼香を」 と言う進行役の言葉で次々と焼香を済ませる中に琴音がいた。

後輩達も居たが こんな所で「久しぶり」 などと声をかけるわけも無く 皆、知らない顔をして焼香を済ましている。

琴音が焼香を済ませ帰ろうとした時、以前の上司が焼香を終わらせ歩いているのに気付いた。 するとその時、親族の一人が席を立ち上司に近づいていった。 親族が小さな声で上司を呼び止めると 上司が振り向き慌ててお辞儀をした。 その様子を見ていた琴音の立っている隅の方に二人で歩いてきた。

「本日はわざわざ有難うございます」 親族の言葉だ。

「ご愁傷様でございました。 彼も志半ばにして残念だったと思います」

「いえ、そんなことより 会社の方へのご迷惑を考えると」 親族は会社のことをかなり気にしている様子だった。

「彼が部下をちゃんと育ててくれましたから そんなことは気にしないで下さい。 それより奥さんは無理をせず身体を労わって下さい」 課長の奥様のようだ。

「有難うございます。 また後日ご挨拶に伺いますが どうぞ皆様に宜しくお伝えください」 残された者は大変である。

そんな会話が琴音の耳に入ってきた。

「志半ば・・・」 この言葉に引っかかったようだ。

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みち  ~未知~  第20回

2013年08月06日 14時34分06秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回


                                             



『みち』 ~未知~  第20回



その時 以前から疑問に思っていたことを ふと思い出し聞いたみた。

「あの、会長と社長って 親子ですか?」 すると森川が

「違うわよ。 会長は創業者で社長は元社員で、えっと・・・社長になって5年くらいになるかしら。 その前は会長が社長だったの。 今の社長は会長が起業した時からの社員だったのよ」 

「あ、そうだったんですか。 親子にしては歳が合わないなと思ってたんです」

「普通なら息子が継ぐんでしょうけど 会長は離婚しているから子供が手元にいないからね。 何度も断る社長を説き伏せて やっと社長になってもらったのよ。 年齢的に仕事をするのに疲れてきたらしくて社長に任せて、言ってみれば隠居状態を選んだのよ。 まっ、私が入社して25年くらいになるかしら。 会長がまともに仕事をしているところなんて見たことないけどね」

「え?」

「殆どの事を昔から社長がしていたのよ」

「どういう意味ですか?」

「当時は平社員だから 普通の仕事は勿論してるんだけど・・・何て言えばいいのかしら。 責任者の仕事って言えばいいのかしら。 何かトラブルがあったりしたら全責任を持って戦ったり謝りに行ったり。 一度裁判沙汰になったこともあったんだけど その時も一から十まで社長がやってたわ。 弁護士との話も、相手との示談の話も。 会長には出来ない事でね、性格的にも知識的にも。 それに裁判沙汰になったのは 会長が相手を怒らせたのが大きな理由なの。 ま、そんなだから会長は社長に頭が上がらないっていう所もあるんだけどね」

「ああ、やっぱり社長って頭がいいんですね」

話は逸れたまま終わってしまったのだが 琴音の中で ヤレナイ という文字は薄れていった様だ。 それに

(あ、今ずっと白いものは見えなかったわ) 見えなかったことに気付いた。


それからは森川を見ると10センチから15センチくらいの幅で白いものが見えたり見えなかったりという日が続いていたのだが ある日、森川だけに納まらず他の社員にまでも見え出した。

「ああ、どうしよう まともに会話が出来ない」 森川に見えるほどはっきりと見えるわけでも無く眩しくも無いのだが 見えること自体に気持ち悪さを覚え始めた。


そんなある日の土曜日、部屋で本を読みながらくつろいでいると 携帯の着メロが鳴った。

「あら? これは後輩の誰かね」 前の職場の後輩達を一まとめにして 皆同じ着メロにしている。 

キッチンのテーブルに置きっぱなしにしていた携帯を見ると

「理香ちゃんだわ」 以前、可愛いメールを送ってきた後輩だ。

「もしもし 理香ちゃん?」

「あ、先輩! 大変なんです!」

「何? どうしたの?」

「課長が亡くなったんです」

「え、何? 何? どういう事?」

「課長が 今日、亡くなっちゃったんです」

「亡くなったって、ちょっと待って落ち着いて」

「・・・はい」

「深呼吸して」

「はい」 素直な理香だ。 携帯の向こうからは 言われたとおり大きく深呼吸をしている息が聞こえる。

「いい? 落ち着いた?」

「はい、ふぅー。 先輩には私が連絡するって言ったら 先輩が気を使うだけだから しない方がいいって言う人も居たりで迷ったんですけど」

「教えてくれて有難う。 知らなかったほうが寂しいわ」

「良かった。 大きなお世話だったらどうしようかと思って」

「そんなことは無いわよ。 それより亡くなったってどうしてなの?」

「朝、奥さんが起こしに行ったら 亡くなっていたらしいんです」

「それって寝ている間にっていう事?」

「そうらしいです。 たしか脳溢血? 違ったかな? みんながそう言ってたと思います」

「じゃあ、闘病があったりとかっていうんじゃないのね」

「それは無かったです。 昨日も来てましたから」

「そうなの・・・。 今、家のほうは大変でしょうね」

「そうだと思います」

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みち  ~未知~  第19回

2013年08月02日 14時37分36秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回


                                             



『みち』 ~未知~  第19回



「社長は知らないんだけどね そのとき既に会長の知り合いの話があったのよ」

「辞めたって言う人のですか?」

「そう。 会長にしてみればハローワークからの紹介で断る理由が無いじゃない。 どうやって断る理由をつけようか考えていたみたいなのよ。 だから私のあの言葉が会長にしてみれば 助け舟になったようなものなの」

「はぁー そうだったんですか。 でもその人、気の毒ですね あ、ここの話だけじゃなくて 生活してても色んな所で言われたりするんじゃないかしら」

「多分言われていると思うわよ」

「人間の運命って怖いですね。 そんなことで変わっちゃうんですね」

「そう思うと 織倉さんはナイスタイミングよ もし織倉さんが一人目の人のタイミングだったら 織倉さんも会長に難癖付けられて 断られていたかもしれないわよ」

「そうですか・・・」

「そうよ 会長にしてみれば 知り合いにいい顔をしたかったから 何としてでも誰が来ても難癖つけて断るつもりでいたのよ」

「それじゃあ、ハローワークの方に ストップをかければよかったんじゃないんですか?」

「それがね、難しい所なのよ。 会長は社長にあまり頭が上がらないのね。 それが社長の決断でハローワークに申し込んだものから 会長としては 自分が人を連れて来るって露骨に言えないのよ」

「へぇーそうなんですか。 社長は会長を立ててる感じがするんですけど」

「勿論よ。 でもあまり会長は社長のすることに反対出来ないみたい。 多分社長って頭が切れるから 何かを言っても負けちゃうみたいに思ってるのかしらね」

「頭良さそうですよね」

「織倉さんはタイミングが良かったわよ。 ハローワークの人を断って 1週間で会長ご推薦の前の人が辞めて それからなかなかハローワークから連絡が来なかったのよ。 だから社長が焦りだして ハローワークにどうなっているのか問い合わせるように言われたのね。 その問い合わせの後すぐに織倉さんが来たんだから 断る理由も無いわけ」

「問い合わせのあとですか?」 

「そうよ、本当にキチンと急ぎの募集をかけていてくれるのか聞いたら すぐに貼り紙を出しますって言って貼り紙を出してくれたみたいなのよ」

(ああ、あのタイミング・・・) ハローワークでのことを思い出した。 

だがそれだけではないよ。 もし早くから悠森製作所に面接を受けていても 会長に難癖をつけられて 琴音は断られていたんだから 琴音が断ったあの会社、あの会社の面接の時が 前に辞めた人が悠森製作所に来ていたんだよ。 あの会社に行って 暫く日を置いたことが 今日に繋がっているんだよ。 でもそれは琴音の知るところではないな。 

「私、その貼り紙を見て来たんです」

「あら! そうなの? 言ってみるものね」 そう言って微笑む森川の笑窪がとても可愛く思えた。

「そうだ思い出したわ。 織倉さん急に社長から電話があったでしょ。 採用って」

「はい。 1週間後って聞いてたんですけど 面接の日に電話がありました」

「それね、私が社長に言ったの」

「森川さんがですか?」

「そうなのよ。 織倉さんが帰ってから 社長と会長が採用しようって話をしてたのね これで織倉さんは採用決定なわけでしょ?」

「はい」

「だから会長が事務所を出て行ってから 社長に聞いたの。 いつ採用の返事するんですか? って」

「はい」

「そしたら1週間後って言うもんだから 1週間も連絡をしなかったら他の所へ行っちゃいますよ って言ったのよ」

「待ってるつもりではいましたが どうなっていたかは分かりませんよね」

「そうでしょ? そしたら社長がそれは困る。 って言ったから じゃあ、今すぐ連絡をしたらどうですか? って言ったのね そしたら何て言ったと思う?」

「うーん、何でしょうか?」

「すぐに電話をするのはこっちが恥ずかしいじゃないか3時ごろに電話をします。 だって。 何が恥ずかしいんでしょうね ふふふ」 また可愛い笑窪を見せて笑った。

琴音がここに来るには 森川のサポートがあってのことだが 琴音は全く気付いていない。 勿論森川もだ。

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