大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第180回

2015年02月27日 14時59分50秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第180回




(誰?!) 身体を動かそうとすると動かない。 金縛りだ。

(くっ! 動かない・・・) 恐怖が襲って来そうになったとき

(そうだわ! 気をしっかりと持つのよ。 毅然とした態度よ!・・・えっと・・・何て言うんだったっけ・・・思い出せない・・・) その気配はずっと琴音の横に立ったままだ。 

琴音が毅然としているからであろう。
それ以上の動きもなければ琴音自身にも襲ってこられるという恐怖感も無い。 そしてその時に思い出した。

(そうよ、前の金縛りの時絶対足を動かしたわよ。 ひざ掛けがズレ落ちていなかったのは肉体の足が動いていなかったからよ。 肉体の足や手じゃないもう一つの手を動かせるはずよ) 琴音は正道から聞いた念で自分の手を作ろうとしたのだ。

琴音が考えている間に隙を見たかのように気配が琴音の真横に近寄ってきた。

(来ないで! あっちへ行って!) 咄嗟に出た言葉、『来るな、立ち去れ』 程の言い切った言葉ではないが気配が一瞬止まった。

(手・・・そうよ私の思いで手を作るわ) 琴音は自分の肉体の腕を感じその腕を動かす想像をした。

(手には刀よ) その腕に刀を持たせた。

(あ、ダメ。 刀なんて持ったらこの気配さんが怪我をしちゃうわ) いや・・・それはどうだろう・・・。

(短い・・・木刀の短刀版よ) 隙を見つけた気配が今にも琴音に覆いかぶさろうとしてきた。

(来ないでよ!) まるで手刀のような短い木刀を自分の手に持たせ、その木刀の手刀で覆いかぶさろうとしていた気配を押すと、ボワンと撥ね返す感触があった。

(なに? この感触) 一度木刀の手刀を引いたが

(あ、引いちゃ駄目) もう一度木刀の手刀で押した。 
また同じように撥ね返すような感触があったが、それでもずっと押し続けると気配が段々と琴音に押され琴音の頭側へずれていった。

(これ以上は押せない、もう手が届かなくなっちゃう) そう思ったときフッと撥ね返す感触が消えそれと共に気配が消えた。 
そしてそれと同時に琴音の肉体の身体が動いた。

「何処かへ行った・・・?」 いつもある金縛りの身体の重さがない。 恐怖も無ければ疲れも無い。

「いったい誰よ・・・来ないでよ」 身体を起こしテーブルにうつ伏せると

「あ・・・身体が疲れてないわ」 気付いたかい?

「重くも無い」 そうだろ。

「毅然としたことが良かったのかしら・・・」 そうだよ。 恐怖一色になると相手の思う壺となって身体を乗っ取られるかもしれないよ。



2週間が経ち 正道の元へ車を走らせた。 


今回は実家に寄らず直接工事現場へ向かう。 道路から現場を見ると

「あら? 2週間も経つとこんなに進むのね」 前回来た時よりかなり工事が進んでいた。

車をプレハブハウスの横に止めた。 約束の時間より随分早目に着いた為、正道はまだ来ていないようだ。

琴音が早目に来たのは仔犬と触れ合おうと思っていたからなのだが いざ、その時となると勝手にプレハブへ入って良いものかと戸惑った。 
だからと言って車のエンジンを切って外に出て正道を待っているのも暑い。

「どうしよう・・・勝手に入っていいかしら・・・やっぱり実家で時間を潰そうかしら」 戸惑っているとコンコンと窓を叩く音がした。 琴音が窓を見るとそこには工事の人間らしき人物の顔があった。 

すぐに窓を開けると

「この前来てた人ですよね?」 琴音のことを覚えていたようだ。

「はい」

「暑いですからプレハブの中で待っているといいですよ」

「はい、有難うございます」 助け舟であった。

「工事の方が言って下さったんだもの遠慮なく入っていいわよね」 すぐにエンジンを切りプレハブのドアを開けた。

ドアを開けると相変わらず可愛い目で琴音を見る仔犬がいた。

「仔犬ちゃん久しぶり。 少し見ない間に大きくなった?」 すぐにケージから仔犬を抱き上げた。

「あら? 重くなったんじゃない?」 仔犬は嬉しそうに琴音の手をペロペロと舐め始めた。

「くすぐったいわ」 それもまた嬉しい。 

まるで赤子でもあやすかのように仔犬を抱いたまま部屋の中を歩いていると、ポンと何かが靴に当たった。 琴音が足元を見ると可愛らしいクマの形をしたおもちゃがあった。

「あら? これって仔犬ちゃんのおもちゃなの?」 仔犬を足元に下ろしておもちゃを見せると嬉しそうに飛びついてきた。

「うふふ、仔犬ちゃんのなのね」 おもちゃを仔犬の前に置くと仔犬は琴音を見ているだけでおもちゃで遊ぼうとしない。

「遊ばないの?」 琴音がおもちゃを持つとまたおもちゃに飛びついてくる。

「あ、そっか。 一緒に遊びたいのね」 琴音がおもちゃを持って左右に振ると嬉しそうにおもちゃに飛びつこうとしている。

「こんな遊びが嬉しいのね。 まるで猫ちゃんみたいね」 そう行った時「アン!」 と仔犬が琴音のほうをみて言った。

「あ、ゴメン、ゴメン。 ゴメンね。 立派なワンちゃんよ」 するとまるでその琴音の言葉に納得したかのようにまたおもちゃに飛びつき始めた。

「仔犬ちゃんは私の言葉を分かってくれているの? 私も早く仔犬ちゃんの考えていることが分かるようになりたいわ」 暫くそうして遊んでいるとドアがガラガラと開いた。

琴音がドアの方を見ると正道が入ってきた。

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みち  ~道~  第179回

2015年02月24日 14時26分36秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第179回




会社では日増しに暇な時間が長くなってきた。

「売上もないから仕入れも無い、入金もない・・・処理することが何もないわ。 暇だなぁ・・・こっそり本でも読みたい気分だわ」 さすがにそれは出来ないね。

仕方なくいつものようにメモを出し落書きを書き出したがいつもの落書きとはちょっと違う。 
正道から渡された本をすぐに読んでいたのだ。 そこに書かれていたことを復習するかのように覚えていることを書き出していたのだ。 

ずっと下を向いて事務所の様子に気がつかなかったのだが 「お早うございます」 と言う社員の声で顔を上げると会長が席に着いていた。

「あ、お早うございます」 慌てて会長の茶を入れに席を立った。 会長の机に茶を置くと

「社長は何処に行きましたか?」

「工場にいらっしゃいます」

「え? 車がなかったけど?」 驚いたように言った。

「今日は車検に出していらっしゃいます」

「そうですか。 ・・・当座の残りはどうなってますか」

「はい、すぐに持ってきます」 他の社員が次々と事務所を出て行く姿を横目に見ながら、机に戻り引き出しの中にあった帳簿を出して会長に渡した。

「どんどん減ってきてますね」

「はい」 

「もうそろそろ何かを考えなくちゃいけませんね。 社長は雇われ社長だから何も考えないだろうし僕が考えなくちゃいけませんからね」

「・・・」 琴音は何の返事もできない。 「はい」 と言うと社長を否定しているように思えたからだ。

「はい、いいですよ」 帳簿を琴音に返し茶を一口飲み

「織倉さんから見て社員はどうですか?」

「皆さん頑張っていらっしゃいますけど、この不況ですから難しいようで・・・」 下手なことを言ってその矛先が社員にいっては困ると言葉を濁した。

「頑張っているといっても無駄な時間を過ごしているだけでしょう。 いったいやる気があるのかどうか」 そう言いながらもう一口茶を飲んだかと思うと席を立ち事務所を出て行った。 

その姿を見送り何事もなく終わったことにホッと胸を撫で下ろした。

暫くすると内線が鳴った。 一階の工場に降りていた社員からで会長はもう居ないかという電話であった。 
琴音が会長はもう帰ったことを告げると社員が次々と事務所に上がってきた。

「早く帰ったんですね。 会長なんて言ってましたか?」

「いえ、特には・・・当座を聞かれた位です」 そこへ社長も事務所に入ってきた。

「織倉さん、会長が来てたらしいですね」

「はい」

「何か言ってました?」

「あ・・・当座を聞かれて帳簿をお見せしました」

「わざわざ織倉さんに聞かなくても、ちゃんと毎月試算表を見ていたらそんなことも把握できてるのにね」 社長には珍しく嫌味のこもった言葉だ。

「あの会長が見るわけないじゃないですか。 ってか、見方も知らないんじゃないですかー?」 さっき琴音に聞いてきた社員が突っ込んで言った。
そう言った社員を横目で見ながら

「他には何か言ってませんでしたか?」 

「えっと・・・そろそろ何かを考えなくちゃって仰っていました」 社長が黙って聞いていると他の社員が

「またそれを言ったんですか! 何年も前からそれ言ってるんですよ。 そのクセ何もしたことないんですよ。 どうせ僕たちの悪口も言ってたんでしょ」

「え・・・・」 琴音が困った顔をすると

「こら! 織倉さんを困らせてどうするんだ。 会長とこっちのサンドイッチで織倉さんが困るじゃないか。 織倉さん悪いねぇ」

「いえ、そんなことありません」

「でも確かに何とかしないといけないなぁ。 一度会長と話をしなくちゃいけないなぁ」

「社長、一発かましたらどうですか?」

「喧嘩してどうするんだよ。 ああ、でも話したくないなぁ・・・」 社長からそんな言葉がでるとは思っていなかった琴音が思わず聞いた。

「え? 社長が会長とお話をしたくないんですか?」

「そりゃ、嫌ですよ。 お金のことになると何を言っても話にならないんですから。 この間のボーナス交渉も大変だったんですよ」

「そうなんですか。 会長って幼い時にご両親が亡くなってご苦労されてるみたいですからどうしてもお金に執着してしまうんでしょうね」 そうなのだ。 毎月会長の判子をもらいに自宅を訪れた時に、幼い頃の苦労話も金銭に対する考え方も聞いていた。

「一円も僕らのために出す気はありませんよ。 社長、こんな状況で僕ら退職金もらえるんですか?」

「お前達のことはちゃんと考えてるよ・・・つもりだよ」

「つもりですかー?!」 事務所は笑いに包まれ、さっきまでの重い空気が一転したが 琴音はパッとしない。



その日マンションに帰った琴音はドアの前に立ち大きく溜息をついてから部屋の鍵を開けた。

部屋に入るとすぐにキッチンのテーブルに鞄を置きエアコンのスイッチを入れ、和室にある座椅子に座り込んだ。

「着替えなきゃ・・・」 そう思いながらも身体はそのまま座っている。

「最近の会社の中、とっても疲れるわ・・・」 そうだね、嫌な念が時々渦巻いているよね。 琴音にはちょっときついかもしれない。

「暑い・・・エアコンがなかなか効いてこないわ」 新しく買い換えたエアコン。 
リモコンを持ち温度を1度下げ風量を強くした。 そして次に座椅子の角度を大きくしてまるで寝転ぶかのようにした。

「どうしたらみんなで嫌なことを考えなくてすむのかしら・・・とってもいい会社なのに、一人ひとりはみんな良い人なのに・・・」 暑い中を自転車をこいで帰ってきた身体が段々とエアコンで冷やされてきた。

「気持ちいい・・・」 そのままウトウトとし始めたとき、誰かが少し離れた横に立っている気配で目が覚めた。 いや、意識が覚めた。

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みち  ~道~  第178回

2015年02月20日 14時58分19秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第178回



「おっともうこんな時間になっていますな。 今日はご実家に泊まられるんですか?」

「いえ、下手に泊まると母が喜ぶのでやめておきます」

「あらあら、冷たいことを」

「これからこちらに来る度に泊まって帰ると期待されても困るので。 夜遅くまでは話し相手をして夜中に帰ります」

「その方が道も空いていますな。 それでは今日はこれくらいにして・・・どうですかな、これからこうして時々ここで勉強をして行きませんか?」

「はい、やっていきたいです。 あ、でも正道さんのお時間は大丈夫なんですか?」

「私の日程に合わせてもらう形にはなると思うのですが、それでも宜しいですかな?」

「はい。 そのほうが私の気が楽です」

「そう言ってもらえると私も気が楽です。 さしずめ研修みたいなものですな。 えっと、来週は私に予定が入っていますので再来週は宜しいですかな?」

「はい」

「では再来週の今日と同じ時間くらいという事でお願い出来ますか?」

「はい」

「それでは 再来週でお願いいたします。 えっと・・・私は失礼して先に出させていただきますが、琴音さんが仔犬と一緒にいたいのでしたら いつまでも居て下さって結構ですよ」

「じゃあ、あと少しだけ・・・ねっ、ワンちゃん」

「仔犬は今とても幸せですな」

「あの、このワンちゃんの名前は付けていないんですか?」

「ははは、みんな仔犬と呼んでいるんです。 そう言われれば仔犬っていうのが名前になっちゃっていますね」

「仔犬ちゃんですね・・・クスッ、何だか呼びにくいですね」

「あ、そうでした。 それとこれを」 鞄の中から差し出されたのは2枚のカードだ。

「車にETCは付いていますかな?」

「はい」

「それは良かった。 こちらがガソリンスタンドのカードです。 それとこちらがETCのカードです。 これからはこれを使ってください」

「え? そんな、これは受け取れません」

「何を仰ってるんですか。 普通、交通費を出しますでしょ?」

「でもまだ教えていただいているだけですから」

「研修期間にも企業は交通費を出しますよ。 まぁ、企業の様に大きくはありませんがな。 さ、受け取ってください」

「でも・・・」

「これを受け取ってくださらないと簡単に呼び出しにくいじゃありませんか、ねっ」

「・・・はい。 それでは遠慮なく」

「有難うございます。 いいですか、ガソリンカードも遠慮なく使ってくださいよ。 私用も何も区別することはありませんからな。 ガソリンを入れるときはこのカードで入れるように」

「はい」 声が少し小さい。

「それでは私はお先に失礼させていただきますな」

「はい、有難うございました。 お気をつけて」 仔犬を抱っこしたまま正道を見送り、また椅子に座った琴音。

「ねぇ、仔犬ちゃん 私やっていけるかしら? 仔犬ちゃんやみんなの声が聞けるかしら? みんなの痛みを取ってあげることができるかしら?」 仔犬の頭を撫でながら独り言のように言うと ウツラウツラとしていた仔犬が目を開け、琴音の目をじっと見てそして可愛い声でアン! と一声上げてまたウツラウツラとし始めた。

「可愛い。 まだワンって言えないのね。 お返事してくれたの? 私にも出来るって言ってくれたの?」 思わず頬ずりをした。

暫くの間仔犬を抱いていたが、後ろ髪を引かれながらも仔犬をケージへ戻し

「また来るからね。 毎日みんなに可愛がってもらうのよ。 みんな仔犬ちゃんのことが好きなんだからね。 みんなに愛されているんだからね」 そう言い残し実家へ向かった。

実家では待ってましたとばかりに母親が待ち構えていた。

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みち  ~道~  第177回

2015年02月17日 14時55分40秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第177回



「そのうち琴音さんにも伝わるようになりますよ。 分かるようになると言った方が宜しいでしょうかな。 人間のするような会話とまではいきませんが、そうやって意思疎通を図ることができるんです」 

「私に? ・・・そんなことが出来るようになるんですか?」

「訓練が必要ですがな。 動物を愛していれば出来ますよ。 私が琴音さんにお願いしたのは琴音さんからとても動物を愛している気持ちが見えたからなんですよ」

「動物のお話なんて全然していなかったのに・・・。 改めて正道さんって凄いんですね」

「褒めてもらえて光栄ですな。 琴音さんなら人より早く習得できますよ」

「わぁ、ワクワクします」 不安よりもワクワクの方が先に立ったようだ。

「最初がこの仔でよかったですな。 本当にこの仔は大人しいですからな」

「最初に噛まれたりするとトラウマになりそうですね」

「ははは、そういう方も多くいらっしゃいますからな」

「正道さんがさっき仰ったサンス・・・えっと、梵語なんですけど その文字・・・梵字はどんな形だったんでしょうか?」

「サンスクリット文字とも言います」

「そうでした。 サンスクリットでした」

「それにしても梵語という言葉を一度で覚えられたのには驚きますなぁ。 それに梵字とすぐに出てきたのは?」

「空海の本をよく読んでいたので そこで梵字という言葉をよく見かけていました」

「そうでしたか」

「いったいどんな文字だったんでしょうか?」

「ああ、それは私にも書けませんなぁ。 ですがシンボル文字として墓や位牌に書かれていることが多いですかな」

「お墓やお位牌ですか?」

「全てに書かれているわけではありませんが・・・他にどこで見かけますかなぁ・・・ちょっと見当がつきませんが・・・梵字がどうかしましたか?」

「さっき正道さんとお話していて思い出していたんです」

「はい」

「さっき言っていましたあの見えていた変な文字・・・あれはなんだったんだろうって 全然調べなかったなって・・・何度かメモろうと頑張ったんですけど上手くいかなくて・・・それで覚えてもいなかったので もしかしたらその梵字なのかなって・・・見たら思い出すかもしれないかと思ったんですけど お位牌やお墓にかかれるような文字ではなかったと思いますからきっと違いますね」

「そうですか。 ですが追求する必要があったらその時にきっと調べていますよ。 その必要がなかったのでしょうから考え過ぎなくても宜しいんじゃないですか? それに必要があればこれから何かがありますよ」

「そうでしたね。 さっきそう仰っていただきましたね」 手はずっと仔犬の頭を撫でている 。

「あら寝ちゃったのね」

「琴音さん、ちょっと遊んでみましょうか」

「はい?」

「オーラという言葉を聞いたことはありますか?」

「はい」

「誰にでも見えるのは白く・・・輝いたりして見えるんですが・・・」

「え!?」

「どうかしましたか?」

「あ、すみません。 白って、それってもしかして人の周りに見えるんですか?」

「はいそうです」

「違うかもしれませんが悠森製作所に入って、あっ、今の会社に入社してすぐ人の周りにそれが見えたんです」 それだけじゃあないだろ? 山にも木にも見えているだろう?

「あら? そうですか。 じゃあ、色もご覧になったんですか?」

「色は見えませんでした」

「そうですか。 人に限らず動物にも木にも花にも全てに見えますよ。 今、琴音さんはいい色を出していますよ」

「何色ですか?」

「ご自分で見てごらんなさい。 掌を前に出して掌の向こうを見るようにして、掌はボォッと見る感じで凝視をしない・・・」 言われるままに掌を目の前に出し、掌の向こうを見た。

「どうです? 何か見えませんか?」

「特に何も・・・」

「指先からがよく見えると思いますよ」 そういわれて視線を指先の向こうに移した。

「あ・・・なんでしょうか・・・緑?」 そう言いながら今度は掌を上にして床と水平にしたと思ったら

「あ・・・エメラルドグリーンです。 すごい、掌の上でエメラルドグリーンの炎が揺らめいているように見えます」 そう言ったかと思うと

「キャー!」 思わず掌の炎を払い落とすように手を払った。 その振動で仔犬が目を覚ました。

「あ、ゴメンねゴメンね」 さっきまでエメラルドグリーンの炎があった手で仔犬の頭を撫でるとまた仔犬は寝に入った。

「どうしました?」

「エメラルドグリーンの炎のような物が急に1メートルくらい上にあがったように見えて・・・」

「はははは・・・そうですか。 初めて見てそこまで見られましたか」

「つい、手が焼けるかと思いました」

「はははは、とても綺麗なグリーンだったでしょう?」

「はい」

「グリーンは調和を表します。 他にもまだありますが、例えば癒しの色」

「癒しの色ですか?」

「はい。 ヒーラーとしてはとてもいい色です」

「何だか恥ずかしいです」

「仔犬をそうやって触る前までは、そのグリーンに青がかかっていたんです。 ブルーグリーンとでも言えばいいんでしょうかな?」

「え? オーラってそんな短時間で変わる物なんですか?」

「その人のその時を正直に表してくれます。 今は仔犬との調和が取れて、ただひたすら仔犬の頭を撫でている琴音さんの優しさが癒しとなってグリーン一色になったんです。 だからといって青が悪いわけではありませんよ。 青は冷静、思慮深さ。 私の話を真摯に聞いてくださっていたから青がかかっていたんですな」

「オーラの色でそんなことまで分かるんですね」

「今はお遊びですからな。 これからはもっと深く勉強していかなくてはなりませんよ」

「わぁ・・・覚えることが多そうですね・・・私本当に大丈夫でしょうか?」

「頭で覚える必要はありません。 経験で覚えていきましょう」

「・・・はい」

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みち  ~道~  第176回

2015年02月13日 15時07分24秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第176回



「まず最初、琴音さんはご自分から発せられる気を動物にかざして気の流れを良くしてあげる事を目標にしていきましょう」

「はい」

「それが出来ればまた違う段階に行きますが、今はまだ動物達に良い気が行くように琴音さん自身の気をいつも光るものにしておいて下さい」

「・・・光る。 ・・・はい、努力します」

「それとですね、琴音さんの第3、4、5・・・第6チャクラ・・・ちょっと気になりますな」

「え? 確か和尚にも更紗さんにも言われましたが 第3チャクラというのは初めて聞きました」

「第3チャクラは・・・肉体ですな。 消化不良や神経系・・・アレルギー・・・」 ここまで言うと琴音が

「あ、アレルギーがあります」

「そうですか。 それだけとは限りませんがちょっと内臓に気をつけておいて下さい」

「はい」

「それにしてもあまりにもバランスが悪すぎますな。 第6チャクラが開きすぎているのは先程のお話で分かりましたが・・・ちょっと調整を致しましょうか」

「あ・・・はい」 正道が椅子から立ったのを見て琴音も立ち上がろうとすると

「琴音さんはリラックスしたまま座っていてください」

「あ、はい」 椅子に座りなおすと

「すわり心地が悪くなってきたら動いてもかまいませんし、咳が出そうになったら咳でも何でもして宜しいですからな」

「はい」

「それでは始めますよ」

「お願いします」 琴音は目を瞑ったが正道の手の動きの気配は感じる。 正道の気配を感じながら30分ほど経つと

「はい、宜しいですよ」 という声が聞こえた。

琴音が目を開けると目の前には正道がいた。

「何か感じますか?」

「いえ、何も変わってないようですが・・・」

「こういう事も段々と分かってくるでしょう。 今調整したからと言ってそれがずっと続くわけではありませんからな。 普段の生活に左右される事ですから日頃の生活に注意しておくように。 
それから第6チャクラですが、ここは触らないでおきました。 通り掛かりの方が色んな事をされたり、何か私の知らない所での理由があるかもしれませんので」

「はい」

「特に何もなければまたいつでも調整すればいいことですからな」

「はい」

「チャクラやエネルギーのことの本は買っておりませんで、私が言葉で話していくつもりですが・・・えっと・・・ネット環境などはありますか?」

「はい、家にはありませんけど会社のお昼休みには会社のPCで何を見ても何も言われません」

「そうですか。 そうですな・・・あまりこのことに関して見すぎても宜しくないとは思うのですが、サラッとでしたらチャクラの色くらいは見ておいても差し支えありません」

「チャクラに色があるんですか?」

「はい。 そのエネルギーの色とでも言いましょうか、それは何処を見ても同じでしょうけど、あまり深く見すぎると書かれているすべての所が正しいとは言いがたいですし、書かれているところによってバラバラでしたら頭の中が混乱するでしょう」

「はい、わかりました」

「それでは今日はこれくらいにしてあとはもう少し犬に馴れてもらいましょうか」

「はい」 今までより一際大きな声で返事をし仔犬の方へ歩いて行き

「ワンちゃんおいで」 仔犬に声をかけた。

「ケージから出してあげてください」 正道が冷蔵庫から冷えたお茶を出しながら言った。

「はい」 まだ慣れない手で仔犬を抱き上げ

「ゴメンねまだ上手く抱っこできなくて」 仔犬に話しかけている。

「琴音さんお茶でも飲みませんか? 仔犬は下において自由にさせていると宜しいですよ」 正道が机にお茶を置いた。

「はい。 遊んでいるといいわよ」 そう言って仔犬を下に置きお茶の置かれたテーブルに向かうと仔犬が後を着いて来た。

「あらま、琴音さんのことが気に入ったのでしょうかな?」 琴音がパイプ椅子に座ると仔犬は琴音の足元に座り琴音の目をじっと見ている。

「なあに? どうしたの? 遊ばないの?」 

「琴音さんに抱っこをして欲しいみたいですな」 それを聞いた琴音が仔犬の前にかがみ手を出すと仔犬がその手に抱っこをせがんできた。

「抱っこなの?」 琴音が抱き上げ椅子に座って膝の上に座らせると仔犬はそのまま寝入るような素振りを見せた。

「眠たいの?」 その様子をずっと見ている正道。

「まだこんなに小さいんだもの眠たいわよね。 寝ていいわよ」 仔犬の頭を撫でている。

「最初と全然違いますな。 硬さがなくなりましたな」

「そうですか? こんなに触れるなんて生まれて初めてです」 嬉しそうにまだ仔犬の頭を撫でている。

「どうして抱っこをして欲しいって分かったんですか?」

「仔犬からイメージが伝わってきたんです」

「イメージ?」

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みち  ~道~  第175回

2015年02月10日 14時49分40秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第170回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第175回



「そうですな、怒りや悲しみ、憎しみ、寂しさ いわゆるマイナスエネルギーという物です。 最近はネガティブとも言うようですな」 

「そんな目に見えない物で心身の不調が起きるんですか?」

「思念・・・想い それは大切な物なのですよ。 極端に言うとそれが全てを動かしている、創っているといっても過言ではないのです。 
目に見えるから信じる目に見えないから信じない。 そういう人も多いですがな。 
ちょっと思い出してみてください。 琴音さんならあらゆる所でご経験があるはずですよ。 そうですな・・・例えば・・・とても嫌な話を聞かされたときどんな気持ちになりますか?」

「嫌な話は聞きたくないという思いが先にきますが、それでも聞かされると・・・相手からとても嫌な物を感じます」

「その嫌な物という一つに気があるんです。 気といっても一括りには出来ないのでこれも追々ですかな。 
琴音さんは嫌な話をされている方が発している気に気付いているのですよ。 ついでに言いますと、その話に同調するという事は聞いている方も同じ気を持っているという事です。 まぁ、そんな話になりますと今度は波長という言葉が出てくるんですがな」 もう一つ納得がいかないという顔をしている琴音を見て

「納得いきませんかな?」

「ピンとこないといいますか・・・」

「そうですな、これは追々分かってきますから、今すぐにわかる必要はないのですが・・・丑三つ時の藁人形・・・でいきましょうか?」

「なんだか恐いですね」

「はははは・・・でも分かりやすいですよ。 あれは丑三つ時という時間もありますが、藁人形に釘をさしたくらいでどうしてお相手様の身体に不調が出ると思いますか?」

「・・・どうしてかしら・・・」 考えてみるが分からない。

「釘を打っている方の念が飛ぶんですよ」

「念?」

「そうですその方の思いが詰まった念です。 思念です。 憎しみのエネルギーと化して飛ぶんです」

「そんなことって本当にあるんでしょうか・・・」

「相当な思いが詰まっているとありますな」

「でもそう言われれば・・・陰陽師の本を沢山読んでいたんですけど 確かにそういう事が書かれていました・・・でもそれって空想って言うか、誇張して書いてるって言うか・・・その時代の流行だと思って読んでいました」

「その時代の流行・・・それもありますかな。 丑三つ時というのは幽世(かくりよ)との境の時間であると考えられていましたからな。 
でも琴音さんなら身の周りに何かを感じ取ったことがあるはずですよ。 単純に言うと刺すような空気や重たい空気、不気味といったこと・・・特別な誰かを見たときに何かを感じる」 それを聞いて思い出した。

「あ・・・」 そうだよ。 

琴音が腰が曲がるほど感じた重い空気。 あれは前日から残されていた芹沢のネガティブな気であり、二人が言いあった時の邪気だったんだよ。 
滞るとはそういう事なんだよ。 琴音が窓を開けてネガティブな気も邪気も外に流れて行き 雨に洗われた朝の清清しい空気が入ってきただろう。 あの時は会社の建物の流れが滞りを起こしていたんだよ。 
もし琴音があの事に気付かず窓も開けず、一日中あの中にいたら全員がどこか不調を訴えたかもしれないね。 身体に出なくとも精神的にイライラしたりしたかもしれないよ。 
それに完全に忘れているようだけど 悠森製作所に入ってすぐに感じた斜め前のビルの視線。 オーナーが亡くなってからの視線という念だったんだよ。 
あの時も雨が降っていただろう。 そして窓が開けられ何もかもが変わったのを思い出さないかい?

「何か思い当たることがありましたかな?」

「ありました。 重い空気・・・私が朝会社に行ったときなんですけど事務所に入るととても重いものを感じて・・・前夜にとんでもないことがあったらしくて・・・その時にきっと何か嫌な気がエネルギーとして残っていたんですね」

「そうですな。 その時はどうされたんですかな?」

「すぐに窓を開けました。 そしたら息がしやすくなって・・・あ、雨が降ってたんだわ。 それで窓もすぐに閉めちゃったんですけど」

「おお、雨が降っておりましたか。 それは良かったですな」

「どうしてですか?」

「水というものは全てを流して下さるんです。 窓から出て行った重いエネルギーも浄化されたことでしょう」

「お水が浄化・・・」 

「お風呂に入ったりシャワーを浴びるということは単に汗や汚れを落としているだけではないんですよ。 その日、身体についていた邪気を洗い流し、浄化をされてとても良い事なんですよ。 どうですか? 思念や想いということを少しは納得して下さいましたかな?」

「はい」

「それでは 話を元に戻しますな。 いくら経絡に詰まりをおこしていなくてもチャクラが閉じていては新しい気が入ってきませんから これも身体のバランスを崩すことになります。 まぁ、チャクラが閉じている時点で気が滞って詰まりも生じていますがな。 チャクラが閉じるという事はとても良くありません。 大地に足をつけ、木々や花の中に居させて頂く、大地に寝転んでも宜しい。 それだけでもチャクラが活性化します。 そして人やこの地球上の物すべてを愛する、感謝する。 自分も含めてですよ。 そうするととてもバランスよくチャクラが活性化します」

「難しいですね」

「そうですなぁ。 全てを愛するという事はとても難しいです。 それに今はストレス社会ですからな」

「はい」

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みち  ~道~  第174回

2015年02月06日 14時49分56秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第170回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第174回



「ほぅー。 ・・・ちょっと失礼して見させていただいても宜しいかな?」 そう言われて何を見るのかと座っていた姿勢を正しながら

「はい」 と答えた。 正道が少し琴音のほうを見て

「どなた様が何故そのようなことをされたのかは分かりませんが・・・通りがかり・・・いや、ご縁のある方のようですな・・・んん・・・理由は分かりませんな・・・」

「ご縁のある方って?」

「琴音さんの守護霊様ではない御霊(みたま)の方ですな」

「あ、あのそれって更紗さんがよく言われていたスイッチですか?」 掌でも見られるのかと思っていた琴音だが、想像もしないところを見られていたようだった。

「失礼しましたな。 何故かがちょっと気になりましてな。 不快なことはありましたか?」

「いえ、そのことに関しては何もありません。 不快どころかあまりの綺麗さや壮大さに涙が出たこともありました」

「ほぅ。 粋なことをされる方ですな。 不快なことであったらちょっと心配ですがそうでないのなら有難く見させていただくと宜しいですよ」

「そういえば文字みたいな物も最初は恐かったんですけど、その内にとっても可愛らしく思えたりしました」

「そうですか。 それにしても会社に入ってからと言う事は・・・あ、更紗さんから琴音さんの今の会社の事は聞いていますが、会社に何かあるのかもしれませんな。 何かのラインの上か・・・う・・・ん・・・会社のその土地に何か・・・」

「ラインですか?」

「エネルギーのラインというものがあるんですが・・・。 そうですか、会社に入られてから色んな現象が出てきたんですな・・・うむ・・・琴音さんは分かっていなくても魂が充分に知っているから調べようとしなかったんでしょうな。 いや、失礼しましたな。 最初の一瞬だけでしたので他の事は何も見ておりませんよ。 それに普段は全くこういう事をしませんので安心してください」

「はい」 ニコリと微笑んだ。

「え・・・っと、話が逸れましたな。 気でしたな。 琴音さんがさっき仰ってたピリピリという物が琴音さんの気です。 掌や足の裏から出ている気を感じたんですな」 そういわれて琴音は自分の両掌をじっと見た。

「気というのはこの世の自然界に存在するエネルギーです。 生命エネルギーです。 大きく言いますとこの地球は宇宙の中の一つであります。 ですから宇宙エネルギーでもあります。 その気に私達肉体は生かしていただいているんです。 
気という漢字を考えてみてください。 『元気、病気』 他にもありますな。 気が元の正常に戻ったで『元気』 気が病に冒されたで『病気』 気のあり様で陰気になったり陽気になったり、まだまだありますな」 正道の話を一つも聞き漏らすまいと正道の声と目に集中をしている。

「私達の肉体も物質も全て小さな点のようなもので出来ているんですよ」 思わぬ話に

「え?」 と言ってしまった。

「私達の肉体は分子で出来ています。 その分子は原子で出来ていて原子は原子核と電子から、電子は素粒子から出来ています。 中国の医学や武道などはこの素粒子のエネルギーを気として捕らえて4千年も前から生活に取り入れていました。 ヨガなどではこの気のことを『プラーナ』 と呼んでいます」 呆気に取られている琴音を見て

「雰囲気を掴んでくだされば宜しいですよ。 聞き流すだけでも充分です」

「あ・・・良かったです。 とてもじゃなく覚えられないと思いました」

「気負わなくていいんですよ。 まだまだ先は長いです。 やっていくうちに何もかも分かりますから。 あっと、それと今日も勿論ですが これからもメモは必要ありませんからな。 経験で覚えていきましょう」 微笑んで言葉を続けた。

「人間には大きく分けて7つのチャクラという物があります。 チャクラというのはですね、サンスクリット語というものがありまして昔使われていた言葉なのですが 梵語とも言いましてなインドやその周辺、東南アジアもそうだったかな、そこで使われていた言葉で 車輪や回転と言った意味なんです」 更紗から聞いた話を思い出していた。

「この7つのチャクラ、そうですな今は背骨に沿ってあると考えていてください。 正しい位置は追々・・・。 このチャクラを出入り口として外と体内のエネルギーを交換しているんです。 そのエネルギーというのが『気』 であったり『プラーナ』 であったりと呼ばれているんですね。 
7つのチャクラから外れますが掌からも出ているのですよ。 それがさっきのピリピリです。 東洋の鍼灸で『ツボ』 と言う言葉をよく聞きますでしょう」

「はい」

「今は広い意味でチャクラもツボも同じと考えておいて下さい。 ですがこれも追々詳しくお話します。 鍼灸ではツボを刺激して気の流れをよくしているんですな。 気の流れがよくなると元の流れの気になる」

「あ・・・元気」

「そうです。 気の流れが悪いと滞って病気になるんです。 ですから西洋医学と違って東洋医学は自分の力で治すんですな。 ですがせっかく良い気を取り入れて経絡も詰まらせずにしていても その後、宜しくない気に包まれてはその気を身体に取り入れてしまうことになり、気の流れが悪くなり心身の不調が起こってきます」

「宜しくない気というのは?」

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みち  ~道~  第173回

2015年02月03日 14時51分11秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第173回




「お昼はこうしてエアコンをかけてこの中で過ごしているんですか?」

「はい。 朝一番の涼しい時には工事の方のどなたかが外へつれて出て下さっているみたいなんですけど昼間は暑いですからな。 夜は何かあるといけませんので工事の方がエアコンを切って窓を開け放して帰るんです。 何も取られて困るような物はありませんからな」 プレハブハウスの中はテーブルと椅子そして冷蔵庫と湯飲みがあるくらいだ。

「皆さんここで休憩されてるんですか?」

「はい、暑いですからな。 時々ここで身体を休めてもらおうと思いましてな。 どうですか琴音さん抱っこしてみますか?」

「本は沢山読んだんですけど犬には触ったことがなくて・・・あ、猫も小動物もです」

「そうですか。 恐くありませんよ。 最初は頭ではなくて喉の辺りを触ってあげてください」 恐る恐る手を伸ばし喉を触った。 

「わぁ・・・」

「どうですか?」 両手で顔の横を撫で始めた。

「可愛い・・」

「この仔は大人しいみたいですから大丈夫ですよ。 抱っこしてみませんか?」

「はい。 してみます」 正道が琴音のほうに仔犬を差し出し

「お尻を持って・・・そう、そう」

「なんて小さいのかしら」

「小さくても大きくても 同じ大切な命なんですよ」

「はい」 愛おし気にずっと仔犬を見ている。

「この仔・・・これからどうなるんですか?」

「どなたか工事の方が引き取りたいと仰ればお預けするつもりでいます。 何処も怪我なども無いようですし」

「そうですか」 そう言って仔犬の方を見て

「誰かいい人にもらわれるんですよ」 優しく語りかけた。 

琴音の姿を優しい目で見ていた正道が大きな鞄の中をゴソゴソと探し紙袋を出してきた。

「これは動物の筋肉や骨格の本です。 痛みを取るにはそれなりに筋肉や骨のつき方も覚えておきませんとな」 そう言ってテーブルの上に置き

「子供の頃に色んな本を読まれていたようですが もう一度復習の意味もこめて読んでおいていただけますか?」

「はい」 仔犬をケージに戻し紙袋の中を見てみると

「まぁ、こんなに沢山」

「少しずつで宜しいですよ」

「もう記憶力も悪くなってきたから覚えられるかしら・・・?」

「大丈夫ですよ」 正道が微笑んだ。

「それと・・・立ったままもなんですから座りましょうか」 置かれていたパイプ椅子に座るよう促し、向かい合って正道も座った。

「琴音さん、私の掌に琴音さんの掌を近づけてください」 右手の掌を上にむけて琴音の方に差し出した。 

言われるままに出された正道の手に琴音の手を近づけた。

「あ・・・暖かくて・・・何かピリピリします」

「分かりましたか? これが気です」

「き?」

「そうです。 気功って聞いたことはありませんか? その気です」

「このピリピリが気ですか・・・あ・・・」

「どうしました?」 正道の掌から手を外し

「いつからだったかしら・・・」

「はい」 正道も手を自分の足の上に置いた。

「時々なんですけど 朝方、目が覚めたときにボーっとしていると 掌や足の裏が今、正道さんの掌の時ようにピリピリとすることがあります」 あの日からずっと続いているのはこれだけだ。

「ほほぅー」 頭を軽く上下に振りそして続けて言った。 

「それが気です。 琴音さんがそういうご経験をされているのは驚くことではないんですが、今のお話を聞いてちょっと気になっていることがあるのですが・・・」

「はい、何でしょうか?」

「答え辛かったら答えなくて宜しいですよ」 そう前置きをして

「琴音さんの力は分かっているつもりなのですが どうも琴音さんはあまり色んなことをご存知ないようで・・・」

「はい、全く何も知りません」

「知らないことが悪いといっているわけではないんですよ。 ただ、以前に聞きましたが疑問があると色んな本を読んでいらっしゃると・・・それではこの掌のピリピリは何なのだろうかと 本は読まれなかったんですか?」

「あら、本当だわ。 どうしてでしょう。 何でも知りたいことは本を読んで解決してきたつもりなのに ヘンな文字や分からない風景が見えてもそのままにしていました。 どうしてだったのかしら」

「ヘンな文字や風景ですか?」

「そうなんです。 えっと・・・これもいつだったかしら・・・」 暫く考え込むと

「あ、そうだわ。 何もかもだわ・・・」

「何もかも?」

「はい。 他にも綺麗な模様が見えたり 聞こえるはずのない音が聞こえたり・・・全部、今の会社に入ってからだわ。 どうしてなのかしら・・・」

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