大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第172回

2015年01月30日 14時42分54秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第170回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第172回



地元とは言え行ったことのない方角。 

前日に地図を頭にしっかりと入れておいたが ナビにも誘導してもらいながら着くことができた。

「ここかしら?」 山のふもとに広い更地が広がっている。 

その一角で基礎工事が行われていた。 近くまで車を走らせると正道が見えた。

「あ、正道さんだわ」 近くまで行き車を停め正道の方へ歩き出した。 正道が琴音に気付き

「おお、琴音さん。 有難うございます。 お早いですな」

「お早うございます。 ここがそうなんですか?」

「はい、出来上がるにはまだまだ先のようですがな」 

「この広い更地全部ですか?」

「はい。 後ろの山もですよ。 更紗さんに感謝です」

「更紗さんですか?」

「はい。 私が土地を探している時に更紗さんの所に来られている方のお知り合いが 売りたい土地があると仰っていたそうで すぐに更紗さんが私のことを思い出して下さって紹介してくださったんです。 そしてそのままトントン拍子に決まりましてな」

「そんな偶然ってあるんですね」

「こんな広い土地にこの山も一緒にですから これからの私のやりたいことにピッタリでしてな有難いお話です」

「後ろの山、どうにかされるんですか? 木を切って何かを建てるとか・・・」

「山に関しては出来ればこのままでと思っています。 自然が一番ですからな」

「良かった」 小さな声で言った。

「良かったとは?」 正道に質問されて心の中で「あ・・・」 と思ってしまったが勇気を振り絞って声にした。

「あ、いえ、木の伐採というのはあまり好きではないので・・・。 木も生きてるのにっていつも思っちゃうんです」 他の人間にこんなことを言うといつも笑われてきたが為、口をつぐんでいたのだが正道には心のままを言う事が出来た。

「伐採が必要な時もありますがな。 でもそう言って下さるのは嬉しいことです。 きっと今の琴音さんの言葉を聞いて木々が喜んでいますよ」 琴音は心が温かくなるのを感じた。

「この更地を全部使われるんですか?」

「全部を使うかどうかはわかりませんがその時に応じて必要な建物を作っていこうかと思っているんです」

「その時に応じてですか?」

「はい。 まぁ、最低必要と思う建物だけをこうして今は建ててるんですがな。 まだまだどんなやり方やどんな方向でやっていくかが具体的に決まっていませんから やって行くうちに必要な建物が出てくると思うんです。 その時に慌てることが無いように土地だけは確保したんです」

「そうなんですか。 でもある程度の方向性は決まってらっしゃるんですよね?」

「希望はありますが簡単に進めていけるかどうか分かりませんな。 いいマネージメントをしてくださる方が見つかるといいんですがなかなか見つかりませんでな」

「マネージメントですか?」

「はい。 個人的に連れてこられる方にはマネージメントなんて要りませんが、お逢いした時に管理センターのことを言ってましたでしょう。 その道のことをよく知ってくださっている方が居て下さればそちらの犬猫の手助けも出来ると思うんですが でもまた、その知識があるだけではいけませんし難しいですな。 まぁ、見切り発車をしたようなものですからな焦らず気長にいこうと思っています」

「正道さんが見切り発車ですか? 信じられません」

「わはは、そうですか?」

「はい。 ちゃんと計画をされて 根回しもされてからっていう感じです」

「うーん・・・そうですなぁ。 そういう所もありますが 今回は完全に見切り発車ですな。 思ったときがやり時と思いましてな。 こうして土地のご縁を頂きましたしな。 ・・・良いタイミングに事を起こせば全てが用意されていますな。 それより暑いですからあそこに行きましょう」 指差された場所にはプレハブハウスが建っていた。 

中に入ってみるとエアコンが付いていて涼しい。 そして部屋の隅にはケージが置かれていてその中に1匹の仔犬が居て目をまん丸にして琴音を見ている。

「きゃ、可愛いワンちゃん」 ケージに近寄りしゃがんで仔犬を見ている。

「その仔は捨てられていたらしいんです」

「え? 捨て犬ですか?」

「この暑い中、ダンボールに入れられて公園に置かれていたらしいんです。 偶然、工事をしてくださってる方が見つけられて ここまで連れて来られたんですが、団地で飼えないと仰るんでね。 これも何かのご縁と思ってここにこうしているんですがね 夜は一人で寂しいだろうと思うんですけど 私もあちらこちらへ行きますから家につれて帰るわけにも行かずにね・・・おお、よししょし」 ケージから仔犬を出して抱き上げた。

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みち  ~道~  第171回

2015年01月27日 15時11分17秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第171回



翌週土曜日 

早朝家を出発し先に実家へ向かった。
 
実家へ着き車を停めていると母親が覗き込んできた。

「琴ちゃん! どうしたの!?」 そうなのだ。 電話連絡をせず実家へやってきたのだ。

車から降りた琴音は 

「連絡するとご飯の用意しちゃうでしょ。 1時間くらいでまた出るから」

「いったい何なの? どこかへ行くの?」

「うん。 説明するから家に入りましょう」 家に入ると父親が新聞を広げていた。

「お父さん、お早う」 琴音の声に驚いて新聞から目を離し

「わ、何だ! 琴音!」

「お化けが出たような言い方しないでよ」 笑いながら父親の前に座った。

「どうしたんだ? 今日来るって言ってたのか?」

「うううん、何も言ってない。 それにあと1時間くらいでまた出るわ」

「なんだ、どこかへ行く前に寄ったっだけか?」

「うん・・・ちゃんと話すね。 お母さんも座って」 台所でお茶を入れていた母親を呼んだ。

「まぁ、お茶でも飲みながらでいいでしょ」 お盆にお茶を乗せてやってきた。

「運転してきたんだから喉が渇いたでしょう。 はい」 そう言って琴音の前にお茶を置いた。

「ありがとう」 お茶を一口のみ

「あのね、突然なんだけど まだいつからかは分からないけど こっちの方で週に一度お手伝いをしに来ることになったの」

「お手伝いって・・・何の?」 キョトンとした顔で母親が尋ねると

「こっちの方に新しく動物のヒーリングをするところが出来るのね。 そこのお手伝いをさせてもらうことになったの」

「ヒーリングってなあに?」

「癒すって言葉でいいかしら?」

「癒す?」 母親は的を得ない。

「うーん、分かりやすく言うと・・・あくまでも極端な言い方になるけど苦しいところがあれば取ってあげる・・・みたいな感じかな?」

「そんな魔法みたいなことがあるの?」 

「魔法じゃないんだけど私もこれから勉強していく段階だから上手く言えないの」

「どっからそんな話になったんだ?」 二人の話を聞いていた父親が口を開いた。

「とてもいい人達と出会ったの。 その人たちのお知り合いがこれからされるの」

「母さんじゃないけどそんな魔法みたいな話があるわけないじゃないか。 騙されてるんじゃないか?」

「それは無いわ」 訝しげに琴音を見ていた父親がお茶を飲んだ。

「琴ちゃん、それじゃあこれから週に一度は帰ってくるの?」

「いつからになるかは分からないし、毎回こっちに寄られるかも分からないけど 出来るだけ寄るようにしたいと思ってるの」

「まぁ、お父さん 琴ちゃんが毎週帰ってきてくれるのよ」 それを聞いた琴音が慌てて

「お母さん、毎回寄られるかどうかは分からないのよ」

「お父さんは賛成しがたいな」 また新聞を読み始めた。

「お父さん、とてもいい人達なんだってば」

「まぁ、琴音ももう子供じゃないんだから、お父さんがどう思おうと自分のやりたい様にやればいいけど お父さんが賛成してないっていう事は覚えておきなさい」

「お父さんったら石頭なんだから。 琴ちゃんが帰ってきてくれるんだからそれでいいじゃない。 ねぇ」 父親を怪訝な顔で見た後に琴音にそう話しかけた。

「お母さん、何度も言うけど毎回寄られるかどうかは分からないのよ。 だから今日みたいに連絡を入れないで突然来ることになるからね」

「家の鍵はちゃんと持ってるのか?」

「うん。 だから用事があれば留守にしていてもいいからね。 鍵を開けて勝手に入ってるからね」

「どうしてよ、ちゃんと連絡をくれたら家で待ってるわよ」

「その時になってみないと寄られるかどうかが分からないから連絡は入れないわ」

「でも、家を出る前に連絡をしてくれたら待ってるから」

「待たなくていいから・・・」

「ご飯の仕度もあるから連絡頂戴よ」

「ご飯もいらないから。 ・・・いる時には連絡するから。 それにこれからどうやっていくかも分からないんだからまだ落ち着くまでは勝手に来て勝手に帰るわよ」 琴音の冷めた言葉にとうとう母親が

「もう! 琴ちゃんの意地悪!」 少し声を荒げた。 

「お母さん・・・」 大きく溜息をついた琴音。 

だが母親の我侭も可愛いものだ。

その後は母親と他愛のない話をして家を出る時間になった。

「もう時間だから 出るわね」

「もう出るの?・・・気をつけてね。 帰りには寄るんでしょ?」

「分からないわ」 そう言いながら琴音が立ち上がると母親も見送ろうと立ち上がったのを見て

「お母さんいいわよ。 外は暑いから家にいて」 琴音がそう言ってもそれを聞く母親ではない。 

結局母親は琴音について来た。

車のドアを開けると車内の温度は上がっていた。 車内を冷やしてから乗り込みたかったが、母親が一緒に家から出てきたこともあり車に乗り込みエンジンをかけるとすぐにエアコンを点け発進をした。 

そして母親は車を見送ると家に入った。

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みち  ~道~  第170回

2015年01月23日 14時36分28秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第170回



時間というものはすぐに過ぎていく。

「あら? もうこんな時間だわ。 正道さんまだ大丈夫ですか?」

「ああ、もうこんな時間になっていましたか。 いや、琴音さん 今日はいいお返事をもらえると思っていなかったので嬉しい限りです。 有難うございました」

「いえ、こちらこそ。 1週間に1度だなんて我が侭を言って・・・」

「それで充分です。 ・・・それでは琴音さん早速なんですがいつからなら来てもらえますかな?」

「会社がお休みであればいつからでも大丈夫ですが でもまだ建物が出来上がっていないんですよね?」

「やっと設計相談が終わって少しずつ進んではいるんですがまだまだですからなぁ。 ですが一度場所を見に来られませんか? 来週は時間をもらえますかな?」

「あ・・・時間はありますが・・・」

「何か不都合でもありますかな?」

「いえ、あまりにお話が早くて実感がついていけないみたいです」

「あははは、それはそうですな。 無理なお願いをして早速と言われれば気持ちがついてはきませんですな」

「琴音さん時間があるのなら一度見ておけば? 長い時間を取るものじゃないし、ご実家にも寄って帰ったらどうかしら?」

「そうですね。 連休に実家にも帰っていませんでしたからちょっと顔を見るだけでも寄って帰ろうかしら」

「正道さん、土曜日が宜しいかと思いますわ。 次の日が運転で疲れてしまうでしょうし」

「そうですな。 それでは来週の土曜日にお願いできますか?」

「はい」

「場所は私から説明しておきますわ」

「ありがたい。 お願いします」 野瀬が

「正道さん、これからまたどこかへ行かれるんですか?」

「貧乏暇なしでしてな」 それを聞いた野瀬が更紗を見て

「それでは更紗さんは琴音さんとこのまま居て僕がお送りしましょうか?」

「そうね。 このまま場所の説明をすればいいから・・・じゃあ、私の車でお送りして」 鞄から車のキーを出しそれを野瀬が受け取り、野瀬も車のキーを更紗に渡した。

「それでは正道さん行きましょうか」

「いつもすみませんですな。 それでは更紗さん琴音さんお先に失礼致します」

「お気をつけて」 更紗が立ち上がりそう言った後ろで琴音も会釈をした。

更紗と琴音が正道を見送った後、地図を書きながら場所を教えてもらいその日は更紗に送ってもらった。


車の中は涼しい空気だったが車から降りるとムンとした空気だ。

「有難うございました」

「それじゃあね。 琴音さん・・・やれば出来るからね。 自信を持つのよ」

(あ、また・・・) 更紗の言葉が心に響く。

「なに? 琴音さんどうしたの?」

「あ、いえ。 何でもありません」

「そう? 大丈夫?」

「はい」

「ならいいけど。 それから無理はしないこと。 いい? いつでも相談してよ」

「はい。 それじゃあ、有難うございました。 お休みなさい」 更紗の車を見送りマンションに入った。 

部屋に入ると外以上にムンとした空気だ。 すぐにエアコンのスイッチを入れ和室の机に両腕を置いて

「来週の土曜日かぁ・・・本当に出来るのかしら・・・いったいどうなるのかしら」 両腕の上に額を乗せた。

何度何を考えても事は進んでいるんだよ。 素直に受け止めて波に乗らなきゃいけないよ。

「え!?」 ビックリするじゃないか急に何だい?

「ちょっと待ってよ!」 立ち上がりエアコンに手をかざすと

「やっぱりー・・・。 動いてないー」 エアコンが壊れたようだ。

身体を冷やす事はよくないけど 今の日本はコンクリートジャングルだからね。 早く新しいエアコンを買うといいよ

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みち  ~道~  第169回

2015年01月20日 15時09分22秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第169回



「嬉しいわ。 これで決まりね」 更紗のその言葉を聞いて

「いや、本当に嬉しいですな。 これも更紗さんと野瀬君のお陰です」

「まぁ、私どもは何もしておりませんわよ」

「琴音さんと知り合えたのは更紗さんと野瀬君がいて下さったお陰ですよ」

「今回はそうだったかもしれませんけど 多分、私達が居なくてもどこかで知り合えたと思いますわ」

「どうでしょうかな。 ま、もしも話は分かりませんからな」

「そうですわね。 ・・・でも良かったわ・・・琴音さんがやる気になってくれて」 正道を見ていた目を琴音に移した。 その目は優しく包むような目だ。

そしてそれまでずっと黙っていた野瀬がボソッと

「織倉さんがそんな風に考えていたなんて全然知りませんでしたよ」 琴音を見ていた更紗が野瀬を横目で見た。

「だって、野瀬君と琴音さんって縄文時代の話しかしてないんでしょ?」

「それはそうですけど・・・そう言えば織倉さんが何を考えているかとかって話したことなかったなぁ」

「私自身もずっと忘れていましたから。 今、正道さんのお話を聞かせて頂いて思い出したくらいです。 それに野瀬さんと居る時はいつも私が読んだ本の話ばかり喋ってましたから」

「ほぅー、琴音さんは読書が趣味なんですか?」

「趣味というほどではありませんが何か気になる事があればすぐ本を読んでしまっています」

「そうですか。 縄文時代という事は野瀬君も琴音さんも歴史が好きなんですか?」

「そうなんですのよ。 二人揃って縄文時代の話をよくしているらしいんですの」

「縄文時代ですか・・・」

「あら、正道さんまで縄文時代のお話をなさらないで下さいね」

「イヤイヤ、私には何の知識もありませんから話したくても話せませんよ。 ただ、ご先祖様を知ろうとするのは宜しいことですな」

「え? ご先祖様ですか?」 思いもよらない言葉に琴音が反応した。

「ずっとずっと遡っていくとそこにはご先祖様がいらっしゃる。 ご先祖様を知ってどうにかなるものではありませんが 人に知ってもらうという事は誰もが嬉しいことですからな」 それを聞いた琴音が

「更紗さん、確か和尚もそんなお話をされていましたよね。 『人間誰しも人に見て欲しいんです』 って。 それと同じことですよね」

「そういえばそう仰っていたわね。 そうよね。 肉体があってもなくても人に知ってもらうのは嬉しいことなのかもしれないわね」 

「和尚がそんなことを言われておりましたか」 正道の言葉に琴音が

「え? 正道さんと和尚はお知り合いなんですか?」

「何度かお会いしたことがありますよ。 毎回更紗さんも一緒でしたな」

「そうでしたわね。 でももう長く会ってらっしゃいませんよね」

「そうですな。 久しぶりにお逢いしたいもんですな」

「あ、そうだわ。 和尚で思い出したわ。 忘れる所だったわ」 全員が更紗を見た。

「あのね、琴音さん。 この前会った時に和尚から聞いていた話をまた今度するって言ってたじゃない? 覚えてる?」

「はい」

「和尚に琴音さんのことを話すと覚えてらっしゃって 最初は祓い方を教える必要は無いんだけどって仰ったのよ」

「どういうことですか?」

「でしょ? 私もそれを聞いたのよ。 するとなんて仰ったと思う?」

「うーん、分かりません」

「琴音さんには近く師がつくからその方が教えてくださるでしょうって仰ったのよ。 ただ、その師を選ぶかどうかは琴音さん次第だけどって」

「え!?」 目を丸くした琴音。

「ふふふ。 正道さんのことよ」

「あら、私ですか?」 話を聞いていた正道が驚いて聞いた。

「そうですわよ。 琴音さんのことをお願いいたしますわよ」

「こりゃ、大役ですな」

「そう言えば・・・和尚の所に行った時 『その時がきたらきちんとした師に付きなさい』 って言われていました」

「まぁ、さすがは和尚だわ」

「和尚は何もかもお見通しだったというわけですな。 こりゃ、参りましたなぁ」

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みち  ~道~  第168回

2015年01月16日 14時53分13秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第168回




「管理センターには色んな仔が居ます。 放棄された仔、迷仔。 管理センターから引き取り手が見つかって救われる命もあります。 だがしかし・・・引き取って愛してくれればいいのですが、虐待を目的に引き取る人間もいるそうで・・・同じ人間として悲しいことですな」 正道が琴音の目に話しかける。

「私が野生動物と決めたのは 家畜は・・・牛や馬は牧場で人に守られていて犬や猫はペットとして人に可愛がられているけど 野生動物に人は害しか与えていない・・・だからどうしても人から動物を守りたいと思ったんです」

「ほぅ、子供のときにそんなことを考えてられていたとは・・・犬猫がそうであれば何よりなんですがなぁ・・・」 正道も悲しい目をしている。

「でもそんな虐待をするような人がペットを連れて正道さんのところに来ることはありませんよね」

「ああ、そうでしたな。 話が中途半端になってしまいました。 実はですな、今私は京都に住んでおりますが田舎育ちなんです。 幼少の頃から動物と触れ合って育ってきました。 それで今回の動物のセラピーは人様の、飼い主さんのお役に立ちたいというところから考え始めたのは勿論なんですが それとともに飼い主のいない動物を見ていきたいという思いもあるんです。 まぁ、牧場のように充分な広さがある所でもありませんし 沢山の動物を見るのは容易なことでないことも分かっております。 中途半端なことは出来ません。 全ての動物を救うことはできませんが 少しでも何かのご縁で私の元へ来た仔達は何とか救っていきたいと思っているのです。 最近は犬猫のレスキューを行っている方達や団体があるようで 動物管理センターから引き取って里親探しをされて居られるようなんですな。 その方たちのお手伝いも出来ないかと思っているのです」

「引き取るという事ですか?」

「可能であればそれも視野に入れておりますがそれは・・・難しいでしょうな。 まずは体の痛みをとることから始めたいと思っております」

「ああ・・・」 思わず琴音の口から納得する声が漏れた。

「そして少しでも動物達を癒せる会話が出来ればと思っているのですが それは無理ですかな? ははは」 少し恥ずかしげに笑ったがそれを聞いて琴音はまた思い出したことがあった。 

正道が続けて

「さっき言いましたように 幼少の頃は動物と触れ合って育ってきましたので 動物達に心を癒してもらったり一緒にいるだけで心が休まったりしたものなんです。 そのご恩返しもしたいとも思っているんです」 正道の目をじっと見ていた琴音が更紗の方に目を移し

「更紗さん・・・私に出来るでしょうか?・・・」 ずっと黙って琴音を見守っていた更紗が

「琴音さんなら出来るわよ」 温かい声である。 

そして今度は正道の方を見て

「週に1回でも宜しいんですか?」

「はい。 ずっとそれを続けていただいても宜しいですし まぁ、出来れば将来的には毎日と言いたいのですが1日だけでも嬉しいですよ。 それにスタートするまでは私もバタバタしておりますから」 琴音がまた更紗を見て

「私・・・やってみようかしら」 それを聞いた更紗が嬉しそうに

「うん、やりましょう! やってみましょうよ! やってみなきゃ何も分からないんだもの。 それでもし無理だったらそれはその時よ その時には正道さんにちゃんと言うといいわ。 無理なはずはないけどその気持ちでいると気が楽でしょ? ね、正道さんそれでよろしいですわよね?」 更紗のその言葉にどこか懐かしさを感じた琴音であるが、琴音にはその言葉の記憶がない。

「勿論です。 お仕事をしながらですから身体も疲れるかもしれません。 無理がある時にはすぐに言ってもらえれば宜しいです。 琴音さんの身体が第一ですからな」

「有難うございます。 それじゃあ・・・週に1回だけですけど宜しくお願いします」 琴音が頭を下げると

「いやいや、こちらこそ有難うございます。 宜しくお願い致します」 そう言って正道も頭を下げた。

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みち  ~道~  第167回

2015年01月13日 15時00分06秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第167回



「仰ることはよく分かります。 ・・・週休2日制ですか?」

「はい」

「琴音さん、動物はお好きですか?」

「嫌いではないです。 でも今まで一度も犬も猫も飼った事はありません・・・あ・・・」

「どうしました?」

「あ、いえ 何でもありません」 そうだ。 一瞬にして子供の頃を思い出したのだ。

「嫌いではないという事は可能性がなくはないんですな。 まだまだ急ぐ話ではありません。 具体的な方向性も決めていませんし、何より建物もまだ出来ていない状態ですから もし無理でなければ徐々に始めてはもらえないでしょうか?」

「徐々に・・・ですか?」

「はい。 週休二日制でしたら1週間の内の1日をこちらに来てもらうことは出来ませんか?」

「・・・」 正道を見ていた目が下に落ち、頭の中は子供の頃の夢と今の生活で渦が巻いた。

「どうしました?」

「私・・・すっかり忘れていました」

「はい」 正道が優しい目をして相槌を打つ。

「子供の頃、野生動物保護官になりたかったんです」 下を向いていた琴音の目が正道の目をまっすぐに見た。

「はい」 琴音のまっすぐな目を優しく包む正道の目がそこにある。

「動物に関する色んな本を読みました。 生態も骨格も筋肉も・・・もうすっかり忘れていますけど・・・でもあの時、小学生の時 どうしても人の手によって幸せを踏みにじられていく野生動物を助けたくて・・・いつか大人になって何かの切っ掛けがあったときには すぐに野生動物を助けることができるようにって少しでも勉強しておこうと思って 色んな本を読んでいたんです。 そんな私の大事な思いを今まですっかり忘れていたなんて・・・」 正道を見ていた目が頭を垂れた事によってその視線の先はテーブルに移った。 

正道が大きく頷き琴音の様子を見て

「野生動物保護官ですか素晴らしいですな。 それも子供のときからそんなことを考えておられたなんてこちらの頭が下がります」

「でもそんな思いをすっかり忘れていました」

「人には日々の生活がありますからそれに追われて夢を忘れてしまうこともあります。 琴音さん?」 琴音が頭を上げ正道を見た。

「野生動物を救いたいという思いは素晴らしいです。 ですが、犬や猫も救ってはいただけないでしょうか? 勿論、さっきも言いましたように人に可愛がられている犬猫もいます。 でも何かが原因で走ることも出来なくなったりすることもあります。 その子達にも幸せになってもらいたい。 まだ若い犬猫が走ることも出来なくなるのは悲しいことです。 それにペットが可愛がられているだけじゃないんです。 人の手によってその人生を・・・あ、人生ではないですな。 犬生とか猫生とでも言うんでしょうかな。 それを悲しく終わらせられる犬猫も沢山います。 虐待も然り。 今の時代、ペット商品として扱われるが為に生まれてから一度も外に出たこともなく、仔を産むだけの物としてだけ扱われている雌も沢山居ります。 雄も同じです。 生きている間はずっと狭い囲いに入れられて 尻尾も磨り減り、足の筋肉も出来ていませんから立つこともままならない。 声帯も切られていたり歯も折られていることもあるそうなんです。 そして産めなくなってきたらそのまま動物管理センターに連れて行かれて命が終わるのです。 今の時代やっと管理センターも持込を簡単に受け取らなくしているみたいですが、悲しいかな人は簡単に嘘をつきます。 繁殖犬でしたとは言いません。 それに・・・闇のルートもあるようですしな。 生まれた命も同じ扱いをされる事もあります。 見た目に不都合・・・こんな言い方はしたくないですがな・・・。 まぁ、話が分かりやすいように言うとそういう言い方になるのですがな・・・どの仔も同じ命なのに」 琴音の胸は張り裂けそうになっている。

「不都合がないとそのまま売られます。 でも、親犬は何度も産まされて充分な身体ではないんです。 その親犬が産んだ仔は見た目に不都合がある子は売る事が出来ませんからさっき言いましたように行く先は見えています。 見た目に不都合がなくても内臓疾患を持って生まれてくる仔もいます」

「・・・そんな事が・・・」 話に耐え切れず目から一筋の涙が流れた。

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みち  ~道~  第166回

2015年01月09日 14時46分00秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第166回



「あ、更紗さん。 珍しく早いじゃないですか」 そして更紗の後ろに立っている正道にお辞儀をし

「正道さん、お疲れになっていませんか?」

「いや、いや 何ともないですよ。 ご心配なく」 そして野瀬と一緒に立ち上がった琴音を見て

「琴音さん、今日は無理を言ってすみませんでしたなぁ」 そう言って深くお辞儀をした。

「いえ、とんでもないです」 慌てて琴音も深く頭を垂れた。

「挨拶はこのくらいにして正道さん座りませんこと?」 更紗が正道に促すと

「そうですな。 立ってても話が出来ませんな」 4人が椅子に腰掛けた。 更紗の前には野瀬、隣には琴音が座っている。

「あら? どうしたの? 野瀬君、顔色がいいじゃない」

「え? そうですか?」

「そうよ、ここ3,4日ずっと顔色が悪かったのにすごくいい顔色よ」

「きっと織倉さんパワーですね」

「そんなことないです。 さっきステーキを食べたからじゃないですか?」

「え?何? ステーキって?」

「今まで野瀬さんにランチをご馳走になってたんです」

「ははーん、それで野瀬君の顔色が良くなったってことね。 やっぱり琴音さんパワーね」

「久しぶりに楽しいランチでした」 満足気に答える野瀬であった。

「それじゃあ顔色も良くなるわけよね。 抜け駆けってヤツよね」 横目で野瀬を見た。

「イヤだなぁー、人聞きの悪い言い方しないで下さいよ」

「ま、そのことはいいとして」 隣に座る琴音のほうに向きをかえ

「琴音さん、どうしても正道さんがご自分の口から琴音さんにお願いしたいって仰るの。 お話だけでも聞いてもらえないかしら?」

「お話だけなら・・・でも以前にも言ったようにいいお返事はできないと思うんです」 申し訳なさそうに琴音が言うと正道が

「いや、いや お話だけでも聞いてくださると仰っていただいて嬉しいですよ」

「すみません」 琴音がそう言うと

「お謝りになんてならないで下さい。 話しにくくなります」

「あ・・・すみません」 口を押さえてもう一度謝った。

「もう、琴音さんったら。 また謝ってる」 そんな琴音を愛おしそうに見る更紗だ。

「私ったら下手に喋っちゃいけませんね。 どうぞ正道さんお話してください。 ちゃんと聞いてます」 正道の目をまっすぐに見た。 肝が据わったようだ。

「おお、良い目をしてらっしゃる。 それでは・・・」 そう言って少し座りなおし話を続けた。

「もう更紗さんから聞いていらっしゃるとは思いますから話が重なりますが、私は今まで京都で人にヒーリングをしてきました。 決してそれが嫌になったわけじゃないんです。 ヒーリングに来てくださる方が飼っているペットのことをよく話されるんですね」

「ペットですか?」 思わず琴音が言った。

「そうです。 動物というものは意思疎通を図るのがとても難しい。 たまにペットの様子を見てアレコレ分かられる方もいらっしゃるようですが殆どの方がそうではありません」

「言葉が通じませんもんね」 考え込むように琴音が言った。

「そうなんです。 何処が痛いのか、何が悲しいのか、何を訴えているのか その思いが深くなればなるほど人に理解することが困難になってくるんです」 琴音が大きく頷いた。

「そんな悩みを抱えてお話をされる方を見ていると私も何かの形でお力になれないかと思い始めましてな。 それで考えたのが 私には有難くも弟子がおりますから人様のことは弟子に任せて 私がペットというか、動物の方を見ていこうかと思ったのが始まりなんです。 
泣きながら話される方もいらっしゃるんですよ。 
先日も今までとても温厚だった飼い犬がある日を境に急に凶暴になったらしいんです。 思い当たる節は無いそうなんですが、可哀想だけどずっとケージに入れられているそうなんです。 散歩にも勿論連れて行けず、糞尿もまともに取らせてくれない。 今までずっと家の中で一緒に生活をしてとても可愛がっておられただけにその方はとても心を痛めておられて・・・。 その方にヒーリングをしてさしあげても原因は飼い犬との関係にありますから 何度ヒーリングをしても元の木阿弥なんです。 
ペットが交通事故にあったり、病気になったり、犬や猫として不自由な生活になりそれを悲しんでおられる方も多く居られます。 その方たちのお力になりたいのです。 そして動物達にも少しでも良くなって欲しいのです。 その手助けを琴音さんにお願いしたいのです。 どうか私と一緒にやっていって貰えるよう考えては頂けませんでしょうか?」 ずっと琴音を見ていた目を閉じ頭を下げた。

「あ、正道さん頭を上げてください」 慌てた琴音は思わず席を立ってしまった。 そして頭を上げた正道を見て椅子に座りなおし

「正道さんの仰ることはとてもよく分かります。 ですが私にはその様なお手伝いは出来ませんし 何より今勤めている会社があります。 まだ入って2年です。 今まで皆さんにご迷惑をかけながら仕事をしてきてやっと慣れてきたところなんです。 何のご恩返しも出来ないまま辞めるなんてことは出来ませんし、それに2年前この年齢の私を雇ってくださった会社にも感謝しているので・・・」 断るという事を本人に、ましてやその場でなどという事は今までの琴音では考えられないことである。

だが、正道の空気がそうさせるのか心の思いを話す事が出来た。

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みち  ~道~  第165回

2015年01月06日 14時10分54秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第160回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第165回



「読み出したら止まらなくて」 サラダを口に入れた。

「僕も負けていられないな。 色んな本を買い込まなくっちゃ織倉さんにおいていかれるな」

「私は本を買う余裕がありませんから全部図書館なのでここを知りたいと思ってもなかなか思う本が置いていなくて」

「本も1冊ならいいけど沢山買うと結構財布にきますからね」

「そうなんです。 だから覚えていることも中途半端になっちゃっうんです。 本当は大事な所をアンダーラインにして置いておきたいんですけどそれも出来なくて。 それに期限までに返すとなると覚えるのも中途半端になっちゃって」

「失礼ですけど織倉さんお給料は・・・ちょっと厳しいの?」

「ちょっとどころじゃじゃないです」

「確か、転職されたんですよね」

「はい。 前のところがまぁまぁ良かったので貯金はあるんですけど、今のところは少ないので本を買うどころか貯金にまでもなかなかいけないんです」

「普通は少しでもお給料が高いからって転職をするのに、どうしてお給料が下がるところにいったんですか?」

「私にも分からないんです。 何故だか今のところに行っちゃったんです」

「そうなんですか・・・あの・・・」 野瀬が言い難そうにしている。

「はい?」

「例の話、今がいくら貰っているかは僕の知る所じゃありませんけど、正道さんのところに行くと少しでも給料が上がると思いますよ」

「う・・・ん。 確かにお給料が上がるのは嬉しいんですけど それだけじゃないって言うんでしょうか。 職を探していた時は少しでもマンションから近い所を探してましたし、何よりも会社の人たちがとても温かくて・・・」

「そうですか・・・僕も無理強いは出来ませんからね」 

「それに私には無理です」

「そのことについては織倉さん自身より正道さんを信用された方がいいと思いますよ。 あ、別に織倉さんを疑えって言ってるんじゃないですよ。 正道さんの目を信じてみたらどうですか?」

「正道さんは信じています。 あんなに微細で暖かい空気を持っていらっしゃるんですから間違ったことを言う方じゃないとは思っています。 ・・・でも・・・どう考えても私には無理です」

「織倉さんもっと自分に自信を持たなくちゃ」

「自身なんて・・・何処をどう探しても何の取り柄もないんですよ。 自信を持つ材料も何もありません」

「少なくとも更紗さんも僕も織倉さんに癒されてますよ。 人を癒せるって大切なことですよ」

「そう言っていただくと嬉しいんですけど自覚がないというか・・・」

「私は人を癒せるんですー! って大声で言ってる人は本当に癒せてる人じゃないですよ」 そう言って何気なく時計を見た。

「わっ! ヤバ! もうこんな時間になってたんだ。 織倉さんちょっと急いで食べましょうか」

「まぁ、私が喋りすぎました。 ごめんなさい。 早く食べますね」 その言葉を聞いて

「もう、織倉さんって・・・」 琴音を見ながら一言そういった。



野瀬に連れられ待ち合わせの店に入った。 時計を見た野瀬が

「5分前。 ギリギリセーフでしたね」

「間に合って良かった。 あの話になると止まらなくて」

「あはは、大丈夫ですよ 更紗さんって 僕との約束の時にはなかなか時間の守れない人ですから 5分前って言っても後5分経っても来ない人だから。 本当はまだ余裕はあるんですけどね」 店のボーイが野瀬を見て予約の席に案内をした。

席に着くなり

「更紗さんが来るまでにさっきの続きで色んな話を聞かせてもらえます?」

「イスラエルの話ですか?」

「うん、そう。 縄文時代もいいけど織倉さんの話を聞いてるとなんだか僕もすごくワクワクしてきましたよ」

「縄文時代は本が少ないですけど、こちらの方は色んな本が出ているみたいですから読み甲斐がありますよ」 

「うわ、楽しみだなぁ・・・って、買う前から何言ってんだろう。 どの本から始めようかなぁ」

「少なくとも骨格はいらないですよね」 二人で大笑いだ。 そこへ

「あーら、二人で盛り上がっちゃってるわね」 更紗の声だ。

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