第1作 『僕と僕の母様』 全155回 目次ページ
彼女達 第4回
部室の前まで来ると テニス部の後輩たちが これから始まる練習に出ようとしていて 「今日は」 と声を掛けながら グラウンドへ走って行った。
「入って」 靴を脱ぎながら 志乃に向かって真紗絵がそう言った時に これから2階の部室に上がろうかとする 秋美がいた。 志乃と目があったが 特に話をすることはなかった。
初めて他の部室に入った志乃は 物珍しげに辺りを眺めていた。
「何キョロキョロしてんの?」
「うん、うちの部室と全然違うなって」
「だって 出来たばかりだもん。 綺麗でしょ」
「うん」
「前のところは酷かったんだよ、日も当たらないし最悪だったわよ」
「うちも日は当たらないよ」
「何言っても志乃の所とは 何もかもが違うよ」
「なんで? 断然こっちのほうがいいよ」
「歴史が何もかもを 違うようにさせてるのよ。 古くても志乃の所は他と違うの はい、ここに座って」 そう言って 真紗絵は志乃を座らせるために 座布団を敷いた。
まだ立った状態から 簡単に座る事の出来ない志乃であった。 何とか座ろうとしている状態を見た真紗絵が
「あ、ごめん」 そう言って 手を差し出した。
「ごめんね、支えがないと座れなくて・・・ありがとう」 真紗絵の手を借りて やっと座ることが出来た志乃であった。
「こっちこそゴメン。 全然気が付かなくて 大丈夫?」
「うん。 座ってしまえば なんともないよ」
「相当痛いんだ」
「そんなことないよ。 ただ、変わっちゃった自分の身体が まだ分かってないだけ。 それに時間が過ぎれば 以前と同じようになると思うよ」
「そうなの? ほんとに大丈夫なの?」 志乃のこの身体は 手術が必要なのだ。 医者からそう言われている。
だがそのことを誰にも言っていない。 ずっと自分ひとりでやってきた、自分のことは自分で決めてきた そういう精神があった。 だから勿論、両親にも言っていない。
「大丈夫だよ。 それより 何か楽しい話はないの?」
「あるわよ あるわよ 聞きたい?」
「聞きたいー!」 やはりクラブ員同士だ そんなに話したことはなくても 何かと共通の話題を持っている。 話は尽きることなく続いた。
ふと気がつくと もう練習を終わらせて 隣の部室には ソフトボール部が 帰ってきている声がした。
「うわ、もういい時間になってる」 真紗絵が腕時計を見た。
「あ、本当だ。 時間があっという間に 終わっちゃった」 すると真紗絵が ソフトボール部側の壁を ドンドンと叩いて
「ねぇ! うちのクラブもう終わってた?」 大きな声を出して聞いている。 すると向こうからも大きな声で
「あ、真紗絵先輩ですか? はい、コートを片付けてました」 ソフトボール部の後輩であろう声がした。
「もう少ししたら みんな帰ってくるみたいだし ガサガサするからもう出ようか」
「うん」 そして二人で駅に向かったのだが 真紗絵は地元の人間だ。 駅の向こう側に家がある。 電車に乗るのは志乃だけだ。
駅に着き二人は分かれて帰った。
こんなことを毎日繰り返していた二人だったが その間にも 何度か秋美と顔を合わせることがあった。
彼女達 第4回
部室の前まで来ると テニス部の後輩たちが これから始まる練習に出ようとしていて 「今日は」 と声を掛けながら グラウンドへ走って行った。
「入って」 靴を脱ぎながら 志乃に向かって真紗絵がそう言った時に これから2階の部室に上がろうかとする 秋美がいた。 志乃と目があったが 特に話をすることはなかった。
初めて他の部室に入った志乃は 物珍しげに辺りを眺めていた。
「何キョロキョロしてんの?」
「うん、うちの部室と全然違うなって」
「だって 出来たばかりだもん。 綺麗でしょ」
「うん」
「前のところは酷かったんだよ、日も当たらないし最悪だったわよ」
「うちも日は当たらないよ」
「何言っても志乃の所とは 何もかもが違うよ」
「なんで? 断然こっちのほうがいいよ」
「歴史が何もかもを 違うようにさせてるのよ。 古くても志乃の所は他と違うの はい、ここに座って」 そう言って 真紗絵は志乃を座らせるために 座布団を敷いた。
まだ立った状態から 簡単に座る事の出来ない志乃であった。 何とか座ろうとしている状態を見た真紗絵が
「あ、ごめん」 そう言って 手を差し出した。
「ごめんね、支えがないと座れなくて・・・ありがとう」 真紗絵の手を借りて やっと座ることが出来た志乃であった。
「こっちこそゴメン。 全然気が付かなくて 大丈夫?」
「うん。 座ってしまえば なんともないよ」
「相当痛いんだ」
「そんなことないよ。 ただ、変わっちゃった自分の身体が まだ分かってないだけ。 それに時間が過ぎれば 以前と同じようになると思うよ」
「そうなの? ほんとに大丈夫なの?」 志乃のこの身体は 手術が必要なのだ。 医者からそう言われている。
だがそのことを誰にも言っていない。 ずっと自分ひとりでやってきた、自分のことは自分で決めてきた そういう精神があった。 だから勿論、両親にも言っていない。
「大丈夫だよ。 それより 何か楽しい話はないの?」
「あるわよ あるわよ 聞きたい?」
「聞きたいー!」 やはりクラブ員同士だ そんなに話したことはなくても 何かと共通の話題を持っている。 話は尽きることなく続いた。
ふと気がつくと もう練習を終わらせて 隣の部室には ソフトボール部が 帰ってきている声がした。
「うわ、もういい時間になってる」 真紗絵が腕時計を見た。
「あ、本当だ。 時間があっという間に 終わっちゃった」 すると真紗絵が ソフトボール部側の壁を ドンドンと叩いて
「ねぇ! うちのクラブもう終わってた?」 大きな声を出して聞いている。 すると向こうからも大きな声で
「あ、真紗絵先輩ですか? はい、コートを片付けてました」 ソフトボール部の後輩であろう声がした。
「もう少ししたら みんな帰ってくるみたいだし ガサガサするからもう出ようか」
「うん」 そして二人で駅に向かったのだが 真紗絵は地元の人間だ。 駅の向こう側に家がある。 電車に乗るのは志乃だけだ。
駅に着き二人は分かれて帰った。
こんなことを毎日繰り返していた二人だったが その間にも 何度か秋美と顔を合わせることがあった。