大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第198回

2015年04月30日 15時15分24秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第198回




正道が言っていた 『少しでも動物達を癒せる会話が出来ればと思っているのですが』 それを聞いた時に思い出したのがこの事だったのだ。

「なんて書いてたの?」

「動物と話がしたいって・・・」 それを聞いて呆気にとられたような顔をした暦が

「実家に帰ってさっき言ってた仕事しなさい。 それ以外にないわよ。 自信がないとかって言う問題じゃないじゃない」

「問題じゃないって?」

「あのときのことを思い出してよ」

「えっと・・・考える時間もなくて慌てて・・・他に何かあった?」

「そこよ。 考える時間もなくて書いたっていう事はどうでもいいことを書いたか、心の内を書いたかのどっちかだと思わない?」

「どうでもいいことじゃないのは分かってるけど」

「でしょ? 琴音の心の内を書いたのよ。 そのチャンスが来たのよ。 あの時の司会者が言ってたじゃない、書いた事によってその望みに向かって歩いていますって。 その望みが叶うチャンスが来たのよ。 自信がないなんて問題外よ」

「暦・・・」

「何?」

「説得力あるー」

「茶化してるんじゃないの」 そしてチラッと時計を見て

「さ、それじゃあそろそろ帰るわ」 残っていたお茶を飲み干し琴音の目をじっと見ると

「いい、その仕事をするのよ。 ・・・駄目だったらいつでも私が居るから」

「暦・・・」 胸にジンときた。

「あ、そうだ。 忘れる所だったわ。 これ、洗剤も雑巾も良かったでしょ?」

「暦・・・今の言葉の有難さが薄れるんだけど」

「それはそれ、これはこれ。 ね、良かったでしょ?」

「う・・ん」

「これ琴音の分」

「え? くれるの?」

「有難い言葉を聞かせてあげた私からのWプレゼント。 せいぜい掃除して使ってよ」

「有難う。 暦からもらった物だもの大事にしまっておくわ」

「しまってどうするのよ。 ちゃんと使うのよ」

「はーい」

「またそんな返事をする。 じゃ、今度こそ帰るわね」

「有難う。 助かったわ」 二人で廊下を歩き玄関に向かった。

「こちらこそ。 いい暇つぶしになったわ。 実家に帰った時に会える時間があるといいわね」

「あるといいんだろうけど、うちのお母さんが離さないだろうな」

「そうね、花嫁姿を見せない分おばさん孝行しなきゃね。 それじゃね」

「いらない事言わなくてもいいの! 気をつけて帰ってね。 今日はホントに有難う」



暦が帰った後、正道から渡された本をパラパラとめくりながら

「本当にいいのかしら・・・私で」 いらない事を考えてる間には電話をする所があるだろう?

「実家に帰って、あの土地で・・・実家? あ、電話しなきゃ!」 慌てて実家に電話を入れた。

「もしもし、お父さん? どうしたの? お父さんが最初に電話に出るなんて珍しいわね」

「うーん、まぁな。 それよりどうした?」

「年末に帰る日を言ってなかったなと思って」

「あ、そうか。 そう言えばまだ聞いてなかったな。 いつ帰ってくるんだ?」

「今日大掃除を済ませたからもういつでもいいんだけど、明日にでも帰ろうかしら?」

「あ、ああ・・明日か・・・」 返事がおかしい。

「なに? 出かけるの?」

「いや、そうじゃないんだけど・・・実はこの2週間ほどお母さんが熱を出しててな」

「え? そうなの? どうして電話してくれなかったの」

「お母さんが内緒にしておけって」

「あー、この間家に寄ればよかったわ」

「言うとそうやって家に来るだろうから連絡をするなって言われてたんだよ」

「どうしてよ」 少し怒ったように言い返した。

「お父さんはそんな事はどうでもいいだろうっていってるんだけどな、琴音がこっちへ何か分からん仕事をしに来てるだろう?」

「分からんって・・・説明したじゃない」

「ああ、それはいいんだ。 お母さんにしたら今琴音に熱をうつすとその話がオジャンになって これからも来てもらえなくなると思ってるんだよ」

「もう、お母さんったら、いらない事を考えて・・・。 熱は高いの?」

「いや、もう大分落ち着いて微熱を行ったり来たりだよ」

「お医者さんは?」

「行ったよ。 特に風邪でも何でもないみたいらしいけど薬をもらってる。 まぁ、歳だからそんなにすぐには改善しないだろうって言われたよ」

「風邪でもなくて大きな病気でもないのね」

「ああ、そうらしいから安心していいぞ」

「分かったわ。 時間はまだハッキリといえないけど、とにかく明日帰るから」

「ああ、気をつけてな」 電話を切った。

「お母さんったら・・・」 置いた受話器をじっと見ているといつも横に置いてあるメモとペンがない。

「あ、そう言えばテーブルの上で書いててそのままだったんだわ」 テーブルを見るとメモとペンが置かれたままだ。 

テーブルまで行きメモを見た。

「暦の書いた五芒星・・・」 メモの一枚目に書かれたままである。 そのメモをじっと見ていると

「あ? え? もしかしたら・・・えっと、方角的にどうなるのかしら」 ビリっと破って手に取ると紙をクルクル回しだした。

「やだ、だからこんな時に方向音痴は困るのよね」 方向音痴が地図を見るときには、自分を中心として考えなくては分からない。

今の自分の状態、地図をクルクル回す様子のことを言っているのだ。 そしてやっと方向が決まったようだ。

今度は人差し指を使って

「今の私のマンションを出て会社の玄関がこっちの方向でしょ・・・階段を上がって事務所の窓が・・・あれ? どっちになるのかしら」 すると今度は紙を持ったまま自分が回りだし

「えっと・・・この方向ね。 こっちに玄関でしょ、階段をこう上がっていって・・・だから事務所のドアがこっちだから窓が・・・」 そしてようやく

「嘘でしょ。 ・・・でも間違ってないわよね」 もう一度クルクル回って確認をする。

「やっぱり?・・・信じられない」 信じてごらんよ。

「・・・会社から見えるあの山が五芒星の真ん中の五角形の中にある」 気付くのが遅いよ。 見てるこっちの目が回るかと思ったよ。

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みち  ~道~  第197回

2015年04月28日 14時34分32秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第197回




「面白いでしょ? ね、だから最後には実家の土地に帰るのよ」 そう言いながら最後の線を最初の点に結んだ。 ペンを置き

「って、いい加減な私の閃きだけどね。 でもうちのお婆さんのいう事は結構当たってるからね。 ・・・ねぇ、琴音聞いてるの?」 琴音がボォッとしている。

「琴音?」 すると今書かれた五芒星を触りながら

「・・・この五芒星」

「ごぼうせい? それって何?」 

「え? あ、うん」 やっと暦の声に気付き我に返ったように続けた。

「この星の形の事。 5つ角があるでしょ?」

「へぇー、五芒星って言うんだ」

「そう。 この五芒星。 ・・・この小さな三角の中に悠森製作所があるわ」 今の琴音の住んでいるマンションの点を頂点としたちいさな三角の事だ。

「え? 今の会社?」

「うん」

「あ、そうなんだ。 今の会社は年数が浅いから気にもならなかったわ」

「こんな事ってあるのかしら・・・」

「そうそう無いんじゃない?」

「あ、確かにそういう意味でもあるんだけど」

「なに?」

「五芒星っていうのは 安倍清明のマークでもあるのよ。 安倍清明って言ったら陰陽師なんだけど、うちのお爺さんが陰陽師の呪文を書いた掛け軸を持ってたみたいなの」

「ふーん、そんな事はよく知らないけど なに? これって琴音にとったらいい発見になったの?」

「考えさせられるって言った方がいいかな・・・」 そこまで言うとある事に気付いて

「あ、そうか。 ここにヒントがあったんだわ。 あの 雨の小屋根の絵のように・・・私の先を知ってるヒントが実家にあったんだわ・・・え? もしかして 私が陰陽関係の本を読んでいたのも関係があったの? 五芒星に気付けって言う事?」

「何ブツブツ言ってんの?」 独り言をいう琴音の顔を不思議そうに覗きながら続けて言った。

「ま、考えたかったら考えて。 とにかく琴音は実家の土地に帰る方が良いんじゃないの?」

「どうしよう。 私の先を教えてくれているとしてもまだその時期じゃないかもしれないし・・・」

「だーかーらー、何ブツブツ言ってんのよ」

「うん。 やっぱりまだ自信がないもの」

「ブツブツの次は なにグジグジ言ってるのよ。 どうせ今の会社を辞めたらまた仕事を探さなくちゃいけないんでしょ?」

「うん・・・」

「それなら試してみなさいよ。 それで駄目だったら仕事を探すか生活をみてくれる旦那さんを探しなさいよ」

「それは無いって言ってるでしょ」

「強情なんだから。 でも生活はしなくちゃいけないんだから それならやりたい事をやっていけた方がいいじゃない」

「分かってるんだけどね」

「ま、うちのお婆さんを信じてみれば?」

「もうちょっと考えてみる」

「そうね、まだ時間があるものね。 沢山悩みなさい、それも一つよ。 さっ、キッチンの掃除始めようか?」

「うん。 ご馳走様」 二人で重箱を片付けキッチンの掃除を始めた。



夕方。 雑巾を絞った暦が

「さ、これで片付いたわね」

「うん。 有難う。 例年に無く隅々まで出来たわ」

「どういたしまして。 じゃあ、今日の琴音の夕飯をお皿に移すわね」 重箱を開けた。

「一緒に食べていかないの?」

「一応、主婦だからね。 って、帰っても誰も居ないんだけど。 何かあるといけないから帰るわ」

「ホントに出来た嫁だわね。 でもまだ少しくらい良いでしょ? お茶くらい飲んでいくでしょ?」

「うーん。 そうね、頂こうかな。 言っとくけど出来た嫁じゃなくて文句を言われたくないだけよ。 じゃ、おかずは温めるものとそうでないものとに分けて入れるわね」 淡々と話す暦を見て

「うん」 そう返事をしながら(無駄がないなぁ・・・暦には迷いなんて無いよね。 自分はまだまだだ・・・) そんな風に思った。

「おにぎりはレンジで温めるのよ」

「はーい」

「何? その返事、おちょくってる?」

「全然。 はい、暦のお茶」

「ありがとう。 あ、お味噌汁作っておこうか?」

「それくらい自分で出来る」

「そうお? じゃあ、これでいい?」

「うん。 暦はいつから帰るの?」 聞かれた暦は皿に移したおかずやおにぎりにラップをかけている。

「31日に帰って2日の夜に帰ってくる予定」 ラップをかけ終え、割烹着を脱ぎ始めた。 

「そっかー。 ご主人の方は?」

「今年は義父母が明日から3日まで義姉の家に遊びに行くらしいのよ。 だから私の実家から帰って主人の実家に行くの」 脱いだ割烹着を袋に入れやっと椅子に座った。

「はぁ、いいお嫁さんしてくるんだろうなぁ」

「いつもは年末からは主人の方なんだけどね、今年は逆になったわ」 お茶を一口飲み

「はぁー。 お昼の時もそうだったけど 人に入れてもらうお茶って美味しいわ」 両手で湯呑みを持ちもう一口飲んだ。

「それって言えてるわよね。 朝、暦の入れてくれたお茶が美味しかったもの」

「そお?」

「うん。 美味しかったわよ。 ねぇ、もしかしたらいつも年末に旦那さんの実家に行ってお節の準備とかしてたの?」

「そう。 うちのお重箱も持って行ってお姑さんとね」

「うわー。 私には無理だわ」

「何言ってるのよ。 なるようになるわよ。 それにそれが結婚よ。 あ、でも私はお姑さんに恵まれたからそう言えるのかもね」

「嫁姑戦争はないの?」

「そんなものはないわよ。 とっても優しい姑よ。 うん・・・でもね、多分旦那が居てくれてるからかしら」

「旦那さんが?」

「そう、前に言ってたでしょ。 平凡な幸せって。 覚えてない?」

「覚えてるわ。 でもそれがどうして?」

「旦那がね、お姑さんの前になるとそれとなく私を守ってくれてるの。 何気なくいつもそうしてくれてるのは分かってたんだけど・・・守らなくちゃいけないキツイお姑さんじゃないのにね。 それでね旦那と子供がテレビを見ながら笑ってる姿を見てる時に旦那に感謝ができたの。 感謝ができるって幸せな事じゃない? 姑だけの事じゃなくて子供と笑ってる一つをとってもね。 そしたら姑にも感謝できるようになったのよ。 それに優しい姑だし、だから戦争なんてないわよ」

「へぇー、まだラブラブなんだー」

「バカね! そんな筈ないじゃない。 今日だって飲みに行ってるのよ。 好き勝手やってるわよ」

「あ、置いてきぼりにされたから怒ってるんだ」

「違うわよ。 今日は忘年会。 あ、今日は!じゃなくて今日も! いくら平凡な幸せを感じてても それが24時間365日じゃないって事。 腹の立つ日もあるわよ」

「ふーん、そんなものなんだー」

「あ、こんな話をしたら余計に結婚がイヤになるわよね?」

「そんな話を聞いても聞かなくても結婚はしないから大丈夫」

「決心が固いわね。 あ、そう言えば 琴音はあの時なんて書いたのか思い出したの?」

「うん」 

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みち  ~道~  第196回

2015年04月24日 14時15分31秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第196回



おにぎりを二つ食べお茶を飲み干し、琴音も和室の掃除を始めた。 

その後二人でキッチンを残してベランダや玄関、寝室の掃除をし終えた時にはお昼を過ぎていた。 キリよく片付いた時に暦が

「ねぇ、そろそろお昼にしようか?」

「うん。 お腹すいた」 暦が重箱を開けている間に琴音がお茶を入れた。

「暦ったら話しながらすると楽しいでしょ? って言ってたのに完全に無言で掃除をしてたわよね」 二人分の湯呑みをテーブルに置いた。

「あ・・・そう言えば。 駄目なのよねー、掃除をすると夢中になっちゃって。 琴音となら話しながら掃除できると思ったのに。 家でもよく言われるの。 はい、琴音のお箸と受け皿」

「有難う。 なんて?」

「お母さんは掃除をしてる時に話しかけたら返事もしないって。 さ、食べよ」

「うん。 もう集中してますって顔でやってるものね」

「え? 私、そんな顔してるの?」

「何も寄せ付けませんって感じ?」

「うそー!」

「いいじゃない。 それだけ掃除が出来てるってことなんだから。 それにこの料理・・・溜息が出ちゃうわよ。 何時に起きたの?」

「4時」 琴音の喉が詰まりそうになった。

「ぐ・・・ゴホン、ゴホン」

「なにやってるのよ 大丈夫? ほらお茶飲みなさいよ」 差し出されたお茶を飲んで

「はぁー、死ぬかと思った」 

「大袈裟ねー」

「ゴホン・・・なにやってるのじゃないわよ。 暦こそそんなに朝早くからなにやってるのよ」

「この料理じゃない」

「そんな事言ってないわよ。 友達の掃除を手伝いにくるだけでも普通嫌がるのに そんなに朝早くから起きてお昼ご飯を作ってくるなんて、それもお重箱に詰めてって」

「そお? 別に掃除は嫌じゃないし、いつもより1時間早く起きただけだし・・・何てことないわよ。 あ、別にお重箱じゃなくてタッパでも良かったんだけど 年末にタッパって寂しいじゃない? だからお重箱にしたの。 それに今年は年末年始が実家だからお重箱の出番も無いからね」

「あ、なに? 年末年始 実家に帰るの?」

「うん。 琴音も帰るんでしょ?」

「うん。 でもまだ連絡してないの」

「あら、おばさん寂しがってるわよ。 連絡してあげなきゃ」

「うん。 そうなんだけどね・・・色々考えてたら連絡するの忘れちゃってて」

「色々って?」

「実はね、今行ってる会社が3月で閉鎖になるの」

「ええ!? どうするのよ就職したばっかりなのに!」

「実務は5月か6月くらいまでなんだけどね」

「いや、その2、3ヶ月でどうこうって話じゃないじゃない」

「うん。 でも、あのね・・・」 そう言って正道との事を話し出した。

「へぇ、それいいじゃない。 面白そう」 ニンマリとした暦が背もたれにもたれた。

「面白そうって・・・」

「琴音はどうなの? やりたいの?」

「とってもやりたいと思ってるわ。 でもね・・・自信がないの」

「自信?」

「こんなに携わりたいと思ってるのに 自信が伴ってこないの」

「何言ってるのよ、自信なんて後で付いてくるわよ。 それに琴音は実家に帰るようになってるんじゃない? 実家って言うよりあの土地かな?」

「なに? どうして?」

「この間、うちのお婆さんが言ってた事を考えてたのね。 あ、前にうちのお婆さんと電話をしてたら琴音の話になってね、琴音はいつこっちに帰ってくるの? って聞くから どうしてそんな事を言うのか理由を聞くと 琴音にはこの土地が良いって言ってたのよ」

「おばさんが?」

「うん。 あの不思議お婆さんが。 それでね、私なりに考えたわけよ。 ね、何か書くものある?」

「うん」 電話の横に置いていたメモとペンを出してきた。

「ね、見て。 いい? ここが琴音の実家。 そしてここが琴音の最初のマンション」 そう言って1つ目を上に、2つ目を斜め下に2つの点を書いた。

「次に最初の就職先。 方角的に見たらこうなるでしょ?」 また点を書いた。 そして

「今のマンションと次の就職先がここ。 琴音の前の職場ね」 次々と点を書いていく。

「大体、方角も距離も合ってるでしょ?」

「うん。 そんな感じね」

「この点を今の順番に線で結んでいったら・・・」 ゆっくりと点を線で結びだした。

「うそ!?」 そこには少し歪ではあるが五芒星が書かれようとしていた。

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みち  ~道~  第195回

2015年04月21日 14時20分50秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第195回



会社での最後の大掃除は午前中で終わった。 

忘年会もなければ何もない。 寒いだけだ。 何処にも寄らず琴音はそのままマンションへ帰った。

「寒ーい」 すぐにエアコンのスイッチを入れ、お湯を沸かした。 お湯が沸くのを見ながら

「年明け3ヶ月で閉鎖。 帳端が2ヶ月かかるのがあるから、少なくともあと5ヶ月で悠森製作所とさよならなのよね」 やかんのお湯が湧きお茶を入れた。 湯呑みを持って和室に座ると

「私、どうしよう・・・」 年末の部屋の掃除の事かい?

「どうすればいいのかしら・・・私に出来るのかしら・・・」 掃除くらい出来るだろう?

「みんなの痛みや悲しみを取ってあげられるのかしら・・・」 掃除じゃないようだね。
時が迫ってきたが故、段々と自信がなくなってきたんだね。 でもね、そのことは考える必要は無いんだよ。 今考えなきゃいけないのは掃除だよ。

「あ、実家に電話を入れてないわ。 あら? そう言えばどうしてお母さんからのいつ帰ってくるのかの催促の電話がないのかしら?」 お茶を一口飲み

「とりあえず・・・明日一日、部屋の大掃除をしなきゃね」 今日からでもいいんだよ。

お茶を飲みながらテレビを見ていると電話が鳴った。

「あら? お母さんかしら? まだいつ帰るか決めてないのに」 持っていた湯呑みを置き電話に出た。

「もしもし?」

「やっほー 琴音ー?」

「なんだ、暦?」

「なんだって何よ」

「ゴメン、ゴメン。 お母さんだと思って電話に出たから」

「あら、それはそれは。 おばさんじゃなくて御免なさい」

「イヤミ言わないでよ。 それより主婦がこの時期に電話なんてどうしたの? 大掃除の真っ最中じゃないの?」

「大掃除は終わっちゃった」

「え? もう終わったの?」

「そう。 今年は早目に始めたからね。 琴音は?」

「去年は大掃除出来なかったのよ。 それに今日まで仕事だったから、明日一日かけてじっくりしようかと思ってる」

「あ、じゃあ 私手伝いに行くわ」

「え?」

「早く終わりすぎて明日暇なんだもん」

「暇って・・・暇で掃除の手伝いをしてくれるの?」

「明日、遊びに行こうと思って電話をしたから丁度いいわ。 でもね明日だけよ。 それ以外の日は予定があるからね」

「旦那さんや子供たちは?」

「どっちも留守。 みんな勝手にやってるわ」

「でも色んな役とかで毎日忙しいんでしょ? それにそんなに予定が入ってるなら一日くらいゆっくりすれば?」

「なに? 手伝いに来て欲しくないの?」

「そうじゃなくて、暇の時間つぶしに掃除を手伝ってもらうのって、やっぱり気が引けるじゃない」

「あー、そんな事? 別にいいのよ。 掃除も話しながらすると楽しいでしょ? それにほら、私って掃除だけは苦じゃないし」

「そうね、暦ってどっちかって言えばいっつも掃除してるもんね」

「綺麗になると気持ちいいじゃない」

「はぁ、日本の母ね。 いいお母さんだわ」

「それって褒めてるの? けなしてるの?」

「褒めてるの。 じゃ、お願いしちゃおうかな?」

「OK。 それじゃあ・・・こっちから掃除道具はある程度持っていくね」

「あ、いいわよ。 こっちにある洗剤や雑巾を使ってくれるといいから」

「うん。 そっちのも使うけど、いい洗剤と雑巾を見つけたのよ。 琴音の分も持っていくからね」

「はぁー、さすがね。 じゃあ、お願い。」



玄関のベルが鳴った。

「はーい」 琴音の返事を聞く前にもうドアが開き

「お早う」 両手に荷物いっぱいの暦が入ってきた。

「お早う・・・って、なにその大荷物?」

「こっち持って」 片方の荷物を差し出した。 琴音がそれを持つと

「わ、何が入ってるの? 重ーい」

「そっちはお重箱。 ほら早く歩いて」

「はい、はい。 え? お重箱?」 キッチンに向かって歩き出した。

「お昼ご飯におにぎりとおかずを作ってきたの。 あ、勿論 琴音の夕飯の分も入ってるわよ」

「ええ? 朝から作ってきたの?」

「そう。 あー重かった」 持っていた荷物をキッチンに下ろした。

「そっちは?」 琴音がお重を出しながら聞くと

「こっちは洗剤類。 この洗剤凄くいいわよ。 マルチに使える上に地球に優しいの。 あ、それとこの雑巾も最高よ」 次々と袋から出し

「あ、琴音 朝ご飯食べた?」

「う・・・ん。 お茶を飲んだ」

「なにそれ? 朝はしっかりと食べなさいよ」 琴音が出していたお重箱を一つ開け

「ほら、座っておにぎり食べなさい」

「えー・・・お昼に一緒に食べようよー」

「お昼も食べるわよ。 多めに作ってきたんだから充分足りるわよ。 ほら、食べる食べる」 そう言って琴音のお茶を入れだした。

「暦も一緒にお茶飲もうよ」 おにぎりを一つ手に取りそう言うと

「私は掃除を始める。 琴音はゆっくり噛んで食べるのよ。 はい、お茶」 琴音の前にお茶を置き掃除用具を入れた袋の中から割烹着を出し袖を通して

「もうどこか掃除したの?」 後ろの紐を括り始めた。

「トイレだけ済ませた」 おにぎりを頬張りながら返事をした。

「そうねぇ。 じゃあ、洗面場とお風呂場をしてくるわね」

「水回りは私がするからいいわよ」

「他の場所って言っても、琴音が食べてる時に埃を立てられないでしょ?」 おにぎりを咥えた琴音が止まった。 それを見た暦が

「なに?」

「暦ってホントに気がつくのよねー」

「なに言ってるのよ。 常識じゃない。 それじゃあゆっくり食べるのよ。 雑巾と洗剤ここに置いておくから勝手に使うといいわよ」 そう言い残して水回り用の洗剤と雑巾を持って洗面所へ向かった。 

残された琴音は他の重箱を覗きながら

「朝からこれだけの料理をしてくるなんて。 それに色んな味のおにぎり・・・私ならおにぎりだけでテンテコ舞だわ。 ああ・・・あんなお嫁さんがほしい」 分かったから早く食べなさい。

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みち  ~道~  第194回

2015年04月17日 14時25分25秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第194回




風呂に入っていると 瞑った目の前にビジョンが見えた。

(あら? 久しぶりに見えるわ) これは何かと暫く見ていると

(あ、井戸の水を汲み上げるポンプかしら?) するとそのポンプの先から水がジャーと出てきたかと思うと

(あ! お水が漏れてるわ) そのポンプの途中から水がジャージャーと漏れ出したのだ。

(これって私のエネルギーが漏れてるっていうことなの?) 何故かそんな風に思った。 少し考えて

(そんなことあるはず無いわよね。 バカみたい、どうしてそんなことを考えちゃったのかしら。 私の想像力も大した物だわ) だが水はまだ漏れている。

(でも待って。 考えもしなかったことが閃いたっていう事は何かがあるのかしら。 自分を信じてみようかしら・・・) そして思い切って

(私のエネルギーが漏れているという事ですか? それは何処から漏れているのですか?) 誰に向かって、どこかに向って言うでもなくそう聞いてみると目の前からポンプがなくなり黄色がかった黄緑の色が目の前に広がった。

(黄色? 黄緑? どっちなのかしら?) 暫く見ていたがどちらとも分からない。

(黄緑ですか?) さっきと同じように聞いてみた。 すると今度ははっきりとした黄色が見えた。

(黄色だわ。 さっきの色と違う。 という事はさっき見えたのはきっと黄緑よね) そうこう考えていると今度は違う物が見えてきた。

(壁?) あまりに至近距離なのでそれが壁なのかどうかも分からない。

(多分、セメントで出来てるのよね) はっきりとは分からないが質感がセメントに感じる。

(何なのかしら? あ、でもこれ どこかで見たことがあるわ。 何処だったかしら・・・あー、思い出せないわ) すると目の前が真暗になった。 

瞑っていた目を開けて

「どういうことなの? 意味が分からないわ。 誰かと会話が成り立ってたっていうの? ・・・いや、待って。 会話っていったいどういう事よ。 私が心の中で思っただけなのに・・・それに・・・もし会話だったとしてもいったい誰と?」 

風呂から上がり洗面所で髪を拭きながら風呂で見たビジョンを思い返していると

「あ! そうか、そうなのね。 分かったわ!」 気付いたかい?

「第3チャクラは黄色。 第4チャクラがピンク、緑、黄緑だったわ。 きっとここから私のエネルギーが漏れてるっていうことなのね」 ご名答。

「でも、そんなこと考えられるかしら。 それに誰が教えてくれたって言うわけ?」 鏡に写る自分の顔をじっと見た。



とうとう年末。 勿論、年末のボーナスは無い。

「あーあ、年始の親戚の集まりに参加したくないなー」 一人が言うと

「年玉か?」 

「ああ。 どんだけ絞っても一銭も出ないよ」 それを聞いていたもう一人が

「年玉くらいでブツブツ言うなよ。 俺んとこなんて姪の結婚だぜ」

「姪の結婚って、姪ってそんな歳か?」 驚いて二人が同時に聞くと。

「ハモるなよ。 ・・・18」

「18-? 18歳で結婚するのか!? 相手は?」

「学校の先生」

「えー! なんだよそれ」 するともう一人が

「もしかしたら姪っ子の高校の担任とか?」 嬉しそうに聞く。

「ご名答」 ブスッとして答える社員に構わず二人が大笑いをしだした。

「こっちは笑い事じゃないんだよ。 まだまだ先と思ってたのが急に結婚するって言うもんだから・・・それに・・・なぁ・・・」

「もしかしたら出来ちゃった結婚か?」

「そー。 結婚祝いと出産祝い、連ちゃんだよ」 嘆く社員をまた二人が笑った。 その笑いを無視して

「ねー 織倉さーん。 結婚祝い会社から出してもらえませんかー?」

「それはちょっと・・ね」 聞き耳を立てずとも嫌がおうにも聞こえてくる会話。 笑いながら答えると

「お前だけ何言ってんだよ。 織倉さーんうちの年玉もお願いしますよー」 すると全員の後ろから

「なに馬鹿なことを言ってるんだ」 呆れた顔で社長が立っていた。

「うわ! いつからいたんですか?」

「お前が結婚祝いを織倉さんにせびってる時からだよ」 社長の席に歩き出した。

「せびるだなんて。 盗み聞きだなんて社長、性格悪いですよ」

「ここは会社だ。 そんな話をしているほうが悪いだろ」 半分笑っている。 そして

「まぁな、ボーナスが無かったからなぁ。 悪いなぁ。 会長も年末くらい出してやってもいいのに頑として譲らなかったからなぁ」 椅子に座りながら言うと

「退職金大丈夫なんですか?」

「それは任せてくれ。 それより明日は大掃除だけど仕事は片付いてるのか?」

「片付ける仕事がありませんよ」 そう言った社員と社長の目があって

「お前・・・もっと俺を労わってくれよ。 他に優しい言い方があるだろうよ。 あー胃が痛い。 織倉さーん」 ずっと笑いながら聞いていた琴音。

「はい」

「コーヒー下さーい」

「え? 胃が痛い時は止められた方が・・・お薬出しましょうか?」 救急箱があるほうに歩いていこうとすると社長がまた

「薬はいいです。 甘めのコーヒー下さーい」 それを聞いていた一人が

「織倉さん、砂糖抜きで入れてあげてください」 そしてもう一人も

「織倉さん、ミルクも無し。 ブラックで入れてあげるといいんですよ」 後一人は笑い転げている。

「お前ら・・・優しさって言うものが無いのか? 織倉さん、こいつらには毒を盛ったコーヒーを入れて僕には甘めのコーヒーお願いします」 笑いながら「はい」 と返事をすると

「はいって、どういうことですか」 三人が琴音を見た。

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みち  ~道~  第193回

2015年04月14日 14時37分45秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第193回




会社での退屈な毎日が続いていたが仕事がない分、他の社員との会話は増える。

一人の社員がPCを触っていたと思ったら急に伸びをしながら

「あー、退屈だなぁ」 それを聞いたほかの社員が

「なんだよ、ビックリするじゃないかよ。 見積書作ってたんじゃないのか?」

「何処から見積り依頼なんて来てるんだよ。 見積書の画面を空けて弄ってただけだよ」

「なんだよ、やっぱりそうか。 おかしいと思ってたんだよなー」

「お前は何してるんだよ」 そう言ってその社員のPCを覗くと 

「お前何やってんだよ」 画面にはアイドルの写真が映っていた。

「この子かわいいだろ」

「今は仕事中だぞ。 織倉さーん、コイツ仕事中に水着の女の子見てますよー」

「なんだよ、告げ口しなくてもいいだろ」 その会話に落書きをしていた手が止まり二人を見ながら微笑んでいる。 

その琴音を見ても会話は続く。

「社長に見つかったら何が何でもどやされるぞ」

「さすがに社長の居る時に見るわけないだろ」 そう言いながらPCのページを繰っていると

「あれ? そのニャンコその子のペットなのか?」 アイドルが抱いている猫のことだ。

「え? 知らないよ。 あ、でもホントだ。 どの写真にもこの猫が映ってるなぁ」

「ニャンコか・・・そういえば森川さんの所のワンコどうなったかなぁ」

「えっ!?」 思いもよらない話に琴音が反応した。

「森川さん、ワンコ飼ってたでしょ?」 驚いた顔をしている琴音に問いかけた。

「ワンちゃんですか?・・・」

「あれ? ワンコの話聞いてません?」 顔だけ琴音に向けて話していたが、改めて椅子を回して身体ごと琴音のほうを向いた。

「あ・・・そう言えばブーケをお渡しした時にそんなことを・・・」 森川の最後の日を思い出した。

「ブーケ?」 

「あ、何でもないです。 たしか・・・もう歳だって仰ってたと・・・」

「森川さんの所のワンコって、工場長の所のワンコと同い年だったはずなんですよね。 いくつだったっけかなぁー」 目だけが上を向く。 

「えっ? 工場長の所も飼われてるんですか?」 初耳だ。

「それがね、ちょっと前に死んじゃったんです」

「えっ?」

「工場長のところはボケが続いて大変だったみたいですよ。 だから森川さんの所のワンコはどうなのかなぁって 今ふと思っちゃって。 」

「ボケって・・・人間と同じボケですか?」

「そうだったみたいですよ。 昼夜反対になって、夜になると吠えが始まって家中を徘徊してたらしいですよ」

「そんなことになるんですか!?」 初めて聞いた話に目をむいて驚いた。

「工場長、ここ最近疲れた顔してたでしょ? あ、織倉さんはあんまり知らないか」

「ここの所あまり工場の方に行きませんでしたし、この間の事務所での話の時には気付きませんでした。 ワンちゃん苦しんだりはしなかったんでしょうか・・・」

「最後は苦しんだみたいですけど、工場長はワンコに毎晩付き合って最後までちゃんと看取ったみたいですよ」

「そうなんですか」 心が寂しくなる。

「森川さんの所のワンコの・・・万犬の話し聞いてないんですか?」

「まんけん?・・・あ、万犬。 そう言えばそんなことを仰ってましたけどワンちゃんのお話は全然聞かなかったです。 でもそんなにお金がかかるものなんですか?」

「まぁ、そんなにない話だとは思いますけど、森川さんの所のワンコは病弱だったからずっと病院通いだったんですよ。 病院に行く度に一万円札が飛んでいくってよく言ってましたよ」

「病弱ってどこが悪かったんでしょうか?」

「さぁ、よくは知らないんですけど」

琴音は一つ考えさされた。 いや、考える切っ掛けをもらった。

(病弱って・・・どこかに無理があるのよね) そして

「森川さんの所のワンちゃんは何処からか貰って来られたワンちゃんですか?」

「違いますよ。 ペットショップに行って一目惚れだったらしいですよ」

「あ・・・」 思わず声が漏れた。 

以前、正道から聞かされた話を思い出したのだ。 無理に産まされた仔。 内臓疾患のある仔。

「どうしました?」

「あ、何でもないです」

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みち  ~道~  第192回

2015年04月10日 14時23分01秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第192回



週末。

「今年は今日で最後にしましょうか」

「え?」

「いつ雪が降るかも分かりませんし、年末の帰省での道路状況もありますからな。 今までの様に簡単に来られないかもしれませんでしょ」

「あ、そうですね。 もう雪が降る季節なんですよね」

「早い物ですな。 さっ、それでは今日は何を致しましょうかなー」 正道が椅子に座りながら言うと琴音も同じように座り

「あの・・・言いにくいんですけど」  

「どうしました?」

「跳ね返る物がまた最近感じなくなってきて・・・」

「大丈夫、大丈夫。 山もあれば谷もあります。 時間はまだまだありますから焦らなくていいんですよ」 優しい眼差しだ。

「はい・・・」

「それでは・・・そうですなぁ、グラウディングを致しましょうか」 今の琴音にはそれが必要と踏んだ。

「グラウディング・・・って?」

「地に足をつけると言うことです。 フワフワしていては何も出来ませんからな」

「はい」

「今から私の言う言葉をそのまま受け取って琴音さんの想像でいいんです。 その想像でイメージしていって下さい」

「はい」

「では、背筋を伸ばして足を床にきちんとつけて目を瞑って下さい」 言われるままに琴音は背筋を伸ばし目を瞑った。

「まずは深い呼吸を数分行ってください。 腹式呼吸ですよ」 これまでに気を落ち着かせるため、腹式呼吸で深く息を吐いては吸うという事を教えられていた。 そして5分経ったころ

「はい、そろそろ普通の息に戻していいですよ。 さて、それでは琴音さんの座っている姿勢。 第1チャクラから根が生えているとイメージして下さい。 その根をずっと下の方に、この床を通り、土の中に入り、地中深く這わして下さい。 ずっとずっと下です」 ゆっくりとそして琴音の心に響くように話す。

第1チャクラと言うのは大きく言えば尾骶骨の辺りだ。 

そして少し間を置いて

「地球の中心まで這わせるようにイメージをして下さい」 琴音は意味が分からず言われるままだがイメージは広がっている。 また間を置いて

「地球の中心に届いたらそこで根をしっかりと張って 地球と繋がって下さい。 間違いなんてありませんよ。 琴音さんのイメージが全てなんですよ。 暫くそのままで居てください」 この時、琴音は初めての経験をした。 

数分が経ち

「琴音さんのタイミングで宜しいですよ。 ゆっくりと戻ってきてください」 言われるがままに琴音は自分のタイミングで戻ってきた。 目を開けると正道が微笑んでいる。

「ゆっくりと身体を動かして下さい。 伸びをしてもいいですよ」 琴音の身体はジンジンと痺れている。 両腕を伸ばし、足も伸ばした。 その様子を見て

「どうでした?」 正道が聞いた。

「なんて言ったらいいのかしら・・・ビックリしました」 まだ身体の痺れが残っている感じがする。

「はい」 正道が相槌を打つ。

「身体って言うか・・・私の中心って言うか・・・それがずーっと広がって・・・凄く満たされているんです。 潤っているんです。 何かが流れ込んできたって言うのかしら・・・身体がジンジンしてるって言うか・・・ああ、上手く言えないです」 少し興奮気味に話す琴音を落ち着かすかのように正道がゆっくりと話す。

「いいんですよ。 琴音さんが感じたことが大切なんです。 嫌な気持ちはありませんでしたか?」

「嫌なんてことはありません」

「そうですか」 にっこり笑った正道が続けて

「別に言葉に出来なくても問題はありませんよ。 地球は私たちの母です。 しっかりと繋がっておく事が大切ですからな。 休みの間も時々時間を作って行うといいですよ」

「はい」

「それと・・・この数ヶ月間になにかありましたかな?」

「はい?」 何のことか見当がつかない。

「あ、いえね・・・ちょっと気になる事がありまして」

「なんでしょうか?」

「うーん。 私から言うより琴音さん自身が気付く事が必要ですかな・・・」

「え? 私自身がですか?」

「そうです。 琴音さんの身体ですからいずれ琴音さん自身が気付くでしょう。 ご自分で解決できなければ相談してくださると宜しいですよ」

「私、どこか悪いんですか?」

「あ・・・あははは、そういう事ではありません。 安心してください」

「じゃあ、いったい何なのかしら?」

「少しずつ、少しずつ 気付きが現れると思いますよ。 さ、次は何をしましょうかな」

正道の授業は続いた。



この日は実家に寄らずそのまま高速に乗りマンションに帰る予定だ。 帰りの車の中で今日のことを思い返していた。

「地球・・・そう言えば和尚も言ってたわよね。 それに私自身も地球の素晴らしさを感じていたのに忘れちゃってたわ・・・。 あ、でも待って・・・。 そんな地球がどうして有害な物を作ってるの? だって、私たちの母でしょ? それなのに毒のある花だったり食べたら死んじゃうキノコだったり 母なのに子供に有害な物を作ってるってどういう事?」 その時

<そなたに有害であっても・・・>

「あ、そうか。 人間にとって有害であっても他の動植物や地球には必要な物なのよね。 ・・・エッ!? 今、<そなた> って聞こえた?」 うん。聞こえたね。 

「そなたって・・・。 ・・・どなたよ」 どなたってどなただよ。

「私のこと?」 それ以外のどなただよ。

「えっと・・・」 考えてごらん。

「・・・運転に集中しよっと・・・」 えっ?  ・・・琴音らしいと言えばそうだけど・・・でもそうだね。 運転は慎重にしなくちゃね。 事故を起こしてからじゃいけないからね。 まっ、事故は起きないけどね。

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みち  ~道~  第191回

2015年04月07日 15時35分04秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第191回



「ふうろう・・・どこで聞いたのかしら」 湯船に浸かりながら考えていると久しぶりに喋りすぎた疲れからかウトウトとし始めた。



   ~~~~~


(え? ここは?) 辺りをキョロキョロとした。

(愛宕山? ・・・そっか、夢を見ているのね) 愛宕山の頂上から空也滝へ向かう7キロルートを下山している何度も見てきた風景だ。

キョロキョロし終わった後・・・と言っても夢の中の琴音はキョロキョロなどしていない。
いつもの様にただ息を上げ黙々と下山している。
が、心の中にはキョロキョロとしたもう一人の客観的な琴音が居る。

(えー・・・私ったらいつもこんなに息を上げて山を降りてたの? 情けないー。 何度登ってもやっぱりまだまだ体力がつかないのね) 自分自身に呆れながらふと考えた。

(でも、どうしてこんな夢を見るのかしら・・・私って今、お風呂に浸かってるのよね。 だったら桂川を渡った時の夢とか・・・あ、あの時は川の水が冷たくて気持ちよかったから、お風呂のお湯に浸かってちゃ感覚は違うわよね。 でも少なくとも普通水関係の夢を見ない? ・・・ここの所、愛宕山に行ってないからかしら) そんな心の中の琴音とは裏腹に夢の中の琴音は息を上げながらずっと歩いている。 

そこに後ろから少年の声が聞こえた。

「オイ! 待てよー。 勢いつけすぎだぞー」

「これくらい何でもないさ。 早く来いよ!」 その声と共に走っている足音も聞こえだした。

(え? これって・・・あの時と同じシチュエーションじゃない・・・) そう、これと同じシチュエーションを以前目の前で現実に見ていたのだ。

(先に走ってた男の子の勢いがつきすぎて山道を曲がりきれずに滑って1メートルほど落ちたんだったわ。 確か木の根っこに引っ掛かって下まで落ちなかったはずだけど・・・) 

山の道はクネクネと曲がりその曲がり方は90度より鋭角だ。 下り坂の傾斜も穏やかなところとは違い勢いをつけて走っているとそれに拍車がかかり、片側が山肌に沿った道もあるがここは数メートルの間、両側が崖になっている。 
それに晴れ間が続いたために山の土も滑りやすい砂となっていた。

「おい! 危ないって! スピードを緩めろよ!」

「ビビッてんじゃないよ!」 

(セリフも同じだわ・・・) 後ろから近づいてくる少年達の走る足音が間近に近づいてきた時、夢であると分かっていても現実を見てその危険性を分かっている。

心の中の琴音が危ないからと注意を促そうとした時、夢の中の琴音が振り返った。

そうなのだ。 あの時も危険性こそ分かってはいなかったが、あまりに大きな走る音が近づいてきた為振り返ったのだ。

だが、あの時には走ってくる少年達の姿を目にし端に避けたが、今は振り返って先に走ってくる少年の姿を見ようとしたときにはアッという間に琴音を抜き去った少年が走った後の砂埃しか目に入らなかった。

夢の中の琴音はまだ後ろを振り返っているが、心の中の琴音はすぐに抜き去った少年の後ろ姿を追った。

(え? どうしてこんなに早く走ってるの?) 実際に見たときよりも勢いが増している。

(あの時はこんなにスピードが出ていなかったわよ。 そうよ、だから落ちかけたときに身をかわせてちょっと滑り落ちたくらいで済んだのに、こんなにスピードが出ていたら身もかわせないじゃない!) あまりのスピードに驚いた。

(ダメ! このままじゃ完全に落ちてしまう! 誰か止めて!!)

そう思ったときには少年は曲がろうとするどころか身をかわす事もできず、山道を蹴り上げ崖をダイブしかけていた。 

(誰か!!) そして少年の身体が宙に浮いた姿を見て咄嗟に叫んだ。

「風狼(ふうろう)!!」 



   ~~~~~



湯船の中の琴音が大きな声で叫び、その叫びと共にもたれていた湯船から飛び起きた。

「え・・・私・・・今、風狼って・・・あの時そんな言葉を叫んでないわよ。 どうして? ・・・それに夢って分かってたのに・・・助けなんて要らないのに・・・」 頭の中がジンジンしている。 こめかみに手をあて

「風狼って?」 

名前を思い出してくれたね。 嬉しいよ、風来(ふうらい)。

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みち  ~道~  第190回

2015年04月03日 15時10分52秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第190回



「そっ、封蝋。 私もこの言葉を知らなかったんだけどね。 何て言ったらいいのかしら? ほら、ヨーロッパのテレビや映画なんかで手紙の封に立体的に封印をするのってあるじゃない?」

「あ・・・ああ、何となく分かるかしら・・・」

「そう、きっとそれ」 

「でもこれをどうやって使うの?」 封蝋を一本手に取った。

「そのカラフルな封蝋が土台となる蝋なの。 簡単に言っちゃうと、その蝋を溶かして手紙の封をする上に落とすでしょ、それから蝋の形を整えてからその木製のスタンプを押すと出来上がるってわけ」

「へぇー、そんな風にするのね。 始めて見たわ」 封蝋を箱に戻す。

「私もよ」

「こんなのどうしたの? それにこのスタンプ何て書いてあるの?」

「ふふ・・・うちのチームマークなの」 スタンプをまじまじと見ていた視線を外し驚いたように文香を見た。

「チームマーク? なに? 草野球でも始めたの?」

「なに馬鹿な事言ってるのよ。 仕事でクタクタって言ってたでしょ。 野球なんてする暇・・・って、何で野球なのよ。 仕事よ」

「確か営業長って言ってたわよね。 営業チームってこと?」

「それがね・・・その上」

「どういうこと?」

「プロジェクト全体で新しくチームを作って、そのチームがプロジェクトの中のトップ扱いになったのね。 それでそこのチーム長をやってるの」

「え? 営業長だったのにその上ってことは昇進?」

「そんな大した物じゃないわ。 チームって言ってもプロジェクトの中の部署長の集まりよ。 それに営業長もまだ兼任してるの」

「わぁ・・・同期がそんなお偉いさんになったって信じられないわ。 仕事上手くいってるのね。 そっか、それでこれなのね」

「そうなのよ。 全てにおいて上手く話が進んでるからこれからのことを考えてチームマークをデザインしてこれを貰ったの。 それに良く見て、端っこに“F”って入ってるでしょ?」 そう言われて目を凝らして見てみると

「あ、ホントだ。 文香の“F”?」 文香が頷くと 

「すごいじゃない。 文香がその手紙を出したって証明ね。 このチームデザインって文香がデザインしたの?」

「そんな才能あると思ってるの?」

「ないよね」 スタンプを見ていた目を上目ずかいに文香を見た。

「あるわけないじゃない。 デザイナーに頼んだらしいわ」

「そうなんだ」 スタンプを右に左にと回しながら見ている。

「でもどうして? 今の時代に手紙なんか使わないじゃない。 電話だったりメールだったり・・・あ、丸秘書類の封にするの?」

「あ、それもいいわね。 うん、それ良い考えだわ」

「それもって・・・本来は何に使うの?」

「ほら、前も言ったけど、あんまり詳しくは話せないんだけどね。 会社同士ならそれでいいのよ、電話とかメールでね。 あ、ほら、あの時言ってたじゃない、超お金持ちさんの話。 覚えてる?」

「うん。 夢みたいな話よね」

「そう。 その超お金持ちのお客様にはそういうわけにいかないのよ。 だからこれを使ってお手渡しするの」

「手渡し?」 スタンプを箱に返しもう一度封蝋を手に取って見だした。

「そう。 お客様のご自宅に伺ってお手渡し。 パーティーの招待状とかね」

「え? 仕事の書類じゃないの?」 

「別に決まってないけど 対、お客様用に使えるでしょって渡されたわ。 今までは単純に封をしてお渡ししてたんだけどね」

「へぇ、そうなんだ」 封蝋から目が離せない。

(ふうろう・・・なんだろう・・・どこかで聞いた覚えが・・・)

「琴音? どうしたの?」

「えっ!? あ、何でもないわ。 はい、有難う」 封蝋を戻し蓋を閉めて文香に返した。

「琴音の会社はどうなのよ? 相変わらず暇潰しに勤しんでるの?」 

「あ、そこ言う?」

「それ以外何を聞いたらいいわけ? それとも忙しい? って聞こうか?」

「それは聞かなくていい・・・。 実は、今期で閉鎖に決まったのよ」

「え? どういう事?」

「もう、儲けも何もないから閉鎖決定」

「決定って、琴音これからどうするのよ!」

「う・・・ん。 それがねぇ」

「まさか実家に帰るとか?」

「当たらずも遠からじかな?」 

「うそー!? そうなの? なに、なにー!? 嫁入り修行!?」

「だーかーらー 結婚はしないって言ってるじゃない」

「じゃあ、実家に帰ってどうするのよ。 ご両親の年金でも食いつぶそうって訳?」

「叩くわよ!」

「出来るものならどうぞ」

「もう!」

「でも、待ってよ。 本気で実家に帰ろうと思ってるの?」

「まだよく分からないんだけど・・・もしかしたら・・・あ、でもまだ分からないからちゃんと決まったら報告するわ。 今はまだなんとも言えないの」

「そうなの? じゃ、深くは聞かないけど決まったら絶対に教えてよ」

「うん。 ちゃんと報告する」

「それより、文香の話をもっと聞かせてよ。 例の超お金持ちの話、色々聞きたいわ」

「そう? あ、でも琴音は明日仕事でしょ?」

「いいの、いいの。 疲れもしないんだから」

「それでは 超お金持ちの世界を教えて進ぜよう」 文香との話が盛り上がり琴音は翌日も仕事だと言うのに夜遅くまで話に花が咲いた。 

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