『---映ゆ---』 目次
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「トデナミ」 子供たちを遊んでやっている後ろから呼ばれ、振向くとまだ20の歳にならないカンジャンが立っていた。
「どうしたの? 村に行ってないの?」
今日は男も女も全員村に出ている。 そしてタム婆もザワミドも村に出ている。 森に残っているのは、長とその看病にトデナミが残っているだけだ。 が、トデナミの周りでは子供達が遊んでいる。 今日の子守はトデナミだ。 と言うか、今日のトデナミのお付きは子供達である。
「ザワミドに、薬草を入れる袋を取ってきてくれって言われたんだけど、わかる? えっと、一番大きいのと小さいのって言ってたけど」
「ええ、分かるわよ。 あ、今日は薬草小屋を建てるからって、ザワミドさんが行ったんだものね」
「うん。 それで高さを決めるのにそれが必要みたい」
「でも、もうこんなに遅い時に?」
「うん・・・俺は何がどうなってるかわからないから、言われるままだけど。 とにかく進むのが遅いんじゃないかな。 それでもザワミドに言われたから・・・」
「あ、ごめんなさい。 そうよね、時が遅くても次へ進まないといけないものね。 じゃ、薬草小屋に行きましょ」
「俺ここで子供達みてるから取ってきてくれる? 薬草小屋って苦手なんだ」
「あら、どうして?」
「苦そうな臭いがするだろ?」
「まぁ、カンジャンったら、まだ苦いのが苦手なの?」
「多分、ずっと苦手だと思う」 はにかんで言うカンジャンに、子供達がまとわり付きだした。
「子供達は薬草小屋へ連れて行くわ。 待ってて、すぐに取って来るから」 言うと子供達を見て声をかけた。
「みんな、薬草小屋に行こうか? カンジャンはここに居るって」 シノハから言われた事を肝に銘じている。 絶対に一人で歩かない。
子供達を連れて薬草小屋に入ると、吊るされていた一番大きな手織物の袋と、一番小さな手織物の袋を外し、中に入っていた薬草を別の袋に入れると、大小の手織物の袋を持ってカンジャンの元に戻った。
薬草小屋に行くまでは、トデナミの周りをクルクルと回って遊んでいた子供達だが、いざ薬草小屋に入ると初めて入った薬草小屋に目を丸くして、トデナミの衣にしがみつきながら大人しくしていた。
「はい、これをザワミドさんに渡して」 カンジャンに2つの手織物の袋を渡す。
「ありがとう・・・」 袋を受け取ると不思議そうな顔をトデナミに向けた。
「なに?」
「顔色悪いよ。 大丈夫?」
「え? そう? そんなことないわよ」
「ならいいけど」 言って歩を出した時
「あ、そう言えば、俺の聞き間違いかもしれないけど、今日はみんなが村に行ってるってはずなのに、トデナミがどこにも居ないってシノハさんが探してた。 って聞いたけど?」
「え? シノハさんが?」
「ちょっと聞きかじっただけだから、話の筋が分からないけどね」
「今、シノハさんはタイリンとジャンムと川に行ってるはずだけど・・・」
「あ、だからハッキリ聞いたわけじゃないから」
「誰が言ってたか分かる?」
「えっと・・・ジョンジュとカラジノ」
(ジョンジュもカラジノも今話しているカンジャンもドンダダ側じゃない。 それに今は三人ともシノハさんに教えてもらっている。 嘘じゃないはず。 シノハさんが探している? 私ったら、また何か心配事をかけたのかしら・・・) 少し頭がクラクラする。
「トデナミ?」 下を向くトデナミに問いかけたが返事がない。 再度問いかける。
「どうしたの?」
「あ・・・何でもないわ」
「それじゃ、村に帰るけど・・・」 気遣わしげな顔で言う。
「ええ、袋をお願いね」 トデナミが明るい声を返すのに、心配をし過ぎかとそのまま村に向った。
(どうしよう・・・この子達を連れて村に行こうかしら・・・でも、もうこんな時になってる・・・この子達の足じゃ、みんなが帰ってくるのとぶつかるかもしれない時になるわ。 それだったらここで待っている方がいいだろうし。 でも、シノハさんが探してたって・・・ああ、きっとカンジャンがここに居るって言ってくれるわよね・・・でも・・・)
「ねぇ、トデナミどうしたの?」 まとわりついていたトマムが心配げな顔で聞いてきた。
「うん・・・」 トデナミの返事にトマムが首を傾げて、トデナミをずっと見ている。
そのトマムの様子に気付かないトデナミ。 少しして決心したかのように子供達に言う。
「ね・・・トマムもみんなも村まで歩ける?」 村長への用は終わっていた。
「わぁーい、村に行くー!」「行く行くー」「ちゃんと歩くー」「泣かないー」「抱っこしてって言わないー」 それぞれが一気に喋る。
「みんなすごいわね。 じゃ、村まで行こうか」 みんなで手を繋ぎ、横一列になって歩き出した。
森の中を散歩するように歩く。
(やっぱり早くは歩けないわね・・・分かっていたことだものね) 心の中で自分に言い聞かせていると突然トマムの声が響いた。
「ナイジャ、駄目!」 トマムの声にハッとした。
「あ! ナイジャ、ちゃんとトマムとお手手を繋いでて」 ナイジャが一人で走り出そうとしていた。
「ちぇー、ナイジャ早く村に行きたいのに」 女子(にょご)が口を尖らせる。
トマムより大きいから、トマムと手を繋いで端に歩かせていたが、まさかトマムの手を解いて走り出そうとするとは思わなかった。
「ナイジャ、森の中で迷子になったらどうするの? 一人ぼっちになってしまうのよ」
「ちゃんと道があるから分かるもん」 確かに、1本道が森の外まで続いている。
「私はあなたたちを預かっているんだから、道が分かっているって言っても、離れて歩かせられないの。 離れてしまうって言うのなら村には行けない。 ここで帰るわ」
決して叱ったり、咎めたりした言い方ではない。 諭すように言う。 大切な子供たち、目を離すわけにはいかないのだから。
それに村に行こうと言い出したのは己だ。 体よい言い方をして子供たちを引き込んでしまったのだから。
「やだ! 村に行く」
「それならお手手を繋いでて」
「・・・わかった」 いやいやトマムと手を繋いだ。
「トマム、私ボォっとしてたわ。 お手手が離れた事を教えてくれて有難うね」 右手に繋ぐトマムに言う。
トマムが幼い顔に笑みを浮かべ「うん!」 と元気良く答えた。
暫く歩くと馬たちが繋がれているところに出た。
「あ・・・」 ナイジャが声を漏らした。
「どうしたの?」
「ナイジャは馬が恐いんだ」 ナイジャと同じ年のサンノイが言う。
「ナイジャ、大丈夫よ。 お馬はみんな繋がれているからね。 みんなとお手手を繋いでいれば恐くないわよ」 言うとトマムがトデナミの手を離した。
「トマム、離しちゃ・・・」 トマムがすぐに今までトデナミと繋いでいた手でナイジャの反対の手を取り、今まで繋いでいたナイジャの手をトデナミの手に渡した。
「トマム・・・」 トデナミが驚いた目をしている。
「だって、トマムとトデナミがお手手を繋いであげたらナイジャも恐くないでしょ?」 幼い口から思いもしない優しい言葉を聞いた。 思わず顔がほころぶ。
「そうね。 トマムは大丈夫?」
「トマム、男だもん」 その言葉に笑みを返すと、気のせいか幾分トマムが胸を張ったように見える。
「ナイジャ、トマムが守ってくれるわ。 大丈夫よ」 トデナミを見たナイジャが次にトマムを見てコクリと頷いた。
トマムが「まかしとけ」 とたくましい言葉をナイジャに返す。
ゆっくりゆっくりと歩く。
(そう言えば前にシノハさんが言ってた。 タイリンやジャンムの年になっていたらどこの村でも馬に乗ってるって・・・。 もしかして、この子達も日頃から馬になれていたら馬を見て恐がる事なんてないのかもしれない。 長が目指している村作り、こんな所も変われるのかしら。
シノハさんはどうして私を探してたのかしら・・・。 私、特に何もしてないわよね。 シノハさんに言われた事を守ってるつもりだし・・・婆様はお元気だし・・・オロンガへ帰る話? あ、それだったら婆様にお話しするだろうし・・・何かしら・・・あ、駄目、頭がクラクラする・・・)
「・・・ねぇ、トデナミったらー」
どこかで声がする。
「あ? え?」 左右を見る。
「もう、こっち!」 トデナミの左手に繋いでいる一番端のサンノイが、トデナミを見ている。
「あ、ああ。 ごめんなさい。 なに?」
「ずーっと、馬が居なくなったね、って言ってたのにっ!」 言われ辺りを見た。
「あ、あら本当。 いつの間に・・・」
「トデナミずっとボォっとしてるよ。 大丈夫?」 トデナミとサンノイの間の子供達2人もトデナミをじっと見ている。
「うん、ごめんね。 大丈夫よ。 ・・・かなり歩いてきたわね。 もう少しで森を抜けられるからね」
「うん。 もう見えてるね」 森の出口が見えていた。
「あと少し頑張って歩こうね」 子供たちを見ながら話していると、急に横から男の声がした。
「おや、これはこれはトデナミじゃないか」
「ファブア・・・」 声の主に視線をやると、目を見開き驚く。
「そんなに驚かなくていいだろ? なんだ? 子供たちを連れて散歩か?」 トマムがナイジャの手を払ってトデナミにしがみついた。
「トデナミ・・・恐い」 ファブアに叩かれた事が未だに記憶に残っているようだ。
トデナミが子供達を自分の周りに集めかがみ込むと、トマムの周りに抱き寄せた。
「まだ村に居るはずなのに、何をしているの」
「ああ、あんまり進まないから気晴らしに森を歩いてた」 少しずつトデナミに近づいてくる。
ふと気付くと後ろからも足音が聞こえた。 振り返ると男が2人、ファブアと同じように近づいてきていた。
「あなたたち、何をしているの! 早く村へ帰りなさい!」
「かぁー、気が強えーなー」 トデナミの真正面に来てしゃがむと、その目でトデナミを舐めるように見る。
「でも、怒った顔も綺麗だねぇー」 そういうと今度は声を低め、顔を近づけ続けて言った。
「ドンダダが惚れるわけだ」
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- 映ゆ - ~Shinoha~ 第54回
「トデナミ」 子供たちを遊んでやっている後ろから呼ばれ、振向くとまだ20の歳にならないカンジャンが立っていた。
「どうしたの? 村に行ってないの?」
今日は男も女も全員村に出ている。 そしてタム婆もザワミドも村に出ている。 森に残っているのは、長とその看病にトデナミが残っているだけだ。 が、トデナミの周りでは子供達が遊んでいる。 今日の子守はトデナミだ。 と言うか、今日のトデナミのお付きは子供達である。
「ザワミドに、薬草を入れる袋を取ってきてくれって言われたんだけど、わかる? えっと、一番大きいのと小さいのって言ってたけど」
「ええ、分かるわよ。 あ、今日は薬草小屋を建てるからって、ザワミドさんが行ったんだものね」
「うん。 それで高さを決めるのにそれが必要みたい」
「でも、もうこんなに遅い時に?」
「うん・・・俺は何がどうなってるかわからないから、言われるままだけど。 とにかく進むのが遅いんじゃないかな。 それでもザワミドに言われたから・・・」
「あ、ごめんなさい。 そうよね、時が遅くても次へ進まないといけないものね。 じゃ、薬草小屋に行きましょ」
「俺ここで子供達みてるから取ってきてくれる? 薬草小屋って苦手なんだ」
「あら、どうして?」
「苦そうな臭いがするだろ?」
「まぁ、カンジャンったら、まだ苦いのが苦手なの?」
「多分、ずっと苦手だと思う」 はにかんで言うカンジャンに、子供達がまとわり付きだした。
「子供達は薬草小屋へ連れて行くわ。 待ってて、すぐに取って来るから」 言うと子供達を見て声をかけた。
「みんな、薬草小屋に行こうか? カンジャンはここに居るって」 シノハから言われた事を肝に銘じている。 絶対に一人で歩かない。
子供達を連れて薬草小屋に入ると、吊るされていた一番大きな手織物の袋と、一番小さな手織物の袋を外し、中に入っていた薬草を別の袋に入れると、大小の手織物の袋を持ってカンジャンの元に戻った。
薬草小屋に行くまでは、トデナミの周りをクルクルと回って遊んでいた子供達だが、いざ薬草小屋に入ると初めて入った薬草小屋に目を丸くして、トデナミの衣にしがみつきながら大人しくしていた。
「はい、これをザワミドさんに渡して」 カンジャンに2つの手織物の袋を渡す。
「ありがとう・・・」 袋を受け取ると不思議そうな顔をトデナミに向けた。
「なに?」
「顔色悪いよ。 大丈夫?」
「え? そう? そんなことないわよ」
「ならいいけど」 言って歩を出した時
「あ、そう言えば、俺の聞き間違いかもしれないけど、今日はみんなが村に行ってるってはずなのに、トデナミがどこにも居ないってシノハさんが探してた。 って聞いたけど?」
「え? シノハさんが?」
「ちょっと聞きかじっただけだから、話の筋が分からないけどね」
「今、シノハさんはタイリンとジャンムと川に行ってるはずだけど・・・」
「あ、だからハッキリ聞いたわけじゃないから」
「誰が言ってたか分かる?」
「えっと・・・ジョンジュとカラジノ」
(ジョンジュもカラジノも今話しているカンジャンもドンダダ側じゃない。 それに今は三人ともシノハさんに教えてもらっている。 嘘じゃないはず。 シノハさんが探している? 私ったら、また何か心配事をかけたのかしら・・・) 少し頭がクラクラする。
「トデナミ?」 下を向くトデナミに問いかけたが返事がない。 再度問いかける。
「どうしたの?」
「あ・・・何でもないわ」
「それじゃ、村に帰るけど・・・」 気遣わしげな顔で言う。
「ええ、袋をお願いね」 トデナミが明るい声を返すのに、心配をし過ぎかとそのまま村に向った。
(どうしよう・・・この子達を連れて村に行こうかしら・・・でも、もうこんな時になってる・・・この子達の足じゃ、みんなが帰ってくるのとぶつかるかもしれない時になるわ。 それだったらここで待っている方がいいだろうし。 でも、シノハさんが探してたって・・・ああ、きっとカンジャンがここに居るって言ってくれるわよね・・・でも・・・)
「ねぇ、トデナミどうしたの?」 まとわりついていたトマムが心配げな顔で聞いてきた。
「うん・・・」 トデナミの返事にトマムが首を傾げて、トデナミをずっと見ている。
そのトマムの様子に気付かないトデナミ。 少しして決心したかのように子供達に言う。
「ね・・・トマムもみんなも村まで歩ける?」 村長への用は終わっていた。
「わぁーい、村に行くー!」「行く行くー」「ちゃんと歩くー」「泣かないー」「抱っこしてって言わないー」 それぞれが一気に喋る。
「みんなすごいわね。 じゃ、村まで行こうか」 みんなで手を繋ぎ、横一列になって歩き出した。
森の中を散歩するように歩く。
(やっぱり早くは歩けないわね・・・分かっていたことだものね) 心の中で自分に言い聞かせていると突然トマムの声が響いた。
「ナイジャ、駄目!」 トマムの声にハッとした。
「あ! ナイジャ、ちゃんとトマムとお手手を繋いでて」 ナイジャが一人で走り出そうとしていた。
「ちぇー、ナイジャ早く村に行きたいのに」 女子(にょご)が口を尖らせる。
トマムより大きいから、トマムと手を繋いで端に歩かせていたが、まさかトマムの手を解いて走り出そうとするとは思わなかった。
「ナイジャ、森の中で迷子になったらどうするの? 一人ぼっちになってしまうのよ」
「ちゃんと道があるから分かるもん」 確かに、1本道が森の外まで続いている。
「私はあなたたちを預かっているんだから、道が分かっているって言っても、離れて歩かせられないの。 離れてしまうって言うのなら村には行けない。 ここで帰るわ」
決して叱ったり、咎めたりした言い方ではない。 諭すように言う。 大切な子供たち、目を離すわけにはいかないのだから。
それに村に行こうと言い出したのは己だ。 体よい言い方をして子供たちを引き込んでしまったのだから。
「やだ! 村に行く」
「それならお手手を繋いでて」
「・・・わかった」 いやいやトマムと手を繋いだ。
「トマム、私ボォっとしてたわ。 お手手が離れた事を教えてくれて有難うね」 右手に繋ぐトマムに言う。
トマムが幼い顔に笑みを浮かべ「うん!」 と元気良く答えた。
暫く歩くと馬たちが繋がれているところに出た。
「あ・・・」 ナイジャが声を漏らした。
「どうしたの?」
「ナイジャは馬が恐いんだ」 ナイジャと同じ年のサンノイが言う。
「ナイジャ、大丈夫よ。 お馬はみんな繋がれているからね。 みんなとお手手を繋いでいれば恐くないわよ」 言うとトマムがトデナミの手を離した。
「トマム、離しちゃ・・・」 トマムがすぐに今までトデナミと繋いでいた手でナイジャの反対の手を取り、今まで繋いでいたナイジャの手をトデナミの手に渡した。
「トマム・・・」 トデナミが驚いた目をしている。
「だって、トマムとトデナミがお手手を繋いであげたらナイジャも恐くないでしょ?」 幼い口から思いもしない優しい言葉を聞いた。 思わず顔がほころぶ。
「そうね。 トマムは大丈夫?」
「トマム、男だもん」 その言葉に笑みを返すと、気のせいか幾分トマムが胸を張ったように見える。
「ナイジャ、トマムが守ってくれるわ。 大丈夫よ」 トデナミを見たナイジャが次にトマムを見てコクリと頷いた。
トマムが「まかしとけ」 とたくましい言葉をナイジャに返す。
ゆっくりゆっくりと歩く。
(そう言えば前にシノハさんが言ってた。 タイリンやジャンムの年になっていたらどこの村でも馬に乗ってるって・・・。 もしかして、この子達も日頃から馬になれていたら馬を見て恐がる事なんてないのかもしれない。 長が目指している村作り、こんな所も変われるのかしら。
シノハさんはどうして私を探してたのかしら・・・。 私、特に何もしてないわよね。 シノハさんに言われた事を守ってるつもりだし・・・婆様はお元気だし・・・オロンガへ帰る話? あ、それだったら婆様にお話しするだろうし・・・何かしら・・・あ、駄目、頭がクラクラする・・・)
「・・・ねぇ、トデナミったらー」
どこかで声がする。
「あ? え?」 左右を見る。
「もう、こっち!」 トデナミの左手に繋いでいる一番端のサンノイが、トデナミを見ている。
「あ、ああ。 ごめんなさい。 なに?」
「ずーっと、馬が居なくなったね、って言ってたのにっ!」 言われ辺りを見た。
「あ、あら本当。 いつの間に・・・」
「トデナミずっとボォっとしてるよ。 大丈夫?」 トデナミとサンノイの間の子供達2人もトデナミをじっと見ている。
「うん、ごめんね。 大丈夫よ。 ・・・かなり歩いてきたわね。 もう少しで森を抜けられるからね」
「うん。 もう見えてるね」 森の出口が見えていた。
「あと少し頑張って歩こうね」 子供たちを見ながら話していると、急に横から男の声がした。
「おや、これはこれはトデナミじゃないか」
「ファブア・・・」 声の主に視線をやると、目を見開き驚く。
「そんなに驚かなくていいだろ? なんだ? 子供たちを連れて散歩か?」 トマムがナイジャの手を払ってトデナミにしがみついた。
「トデナミ・・・恐い」 ファブアに叩かれた事が未だに記憶に残っているようだ。
トデナミが子供達を自分の周りに集めかがみ込むと、トマムの周りに抱き寄せた。
「まだ村に居るはずなのに、何をしているの」
「ああ、あんまり進まないから気晴らしに森を歩いてた」 少しずつトデナミに近づいてくる。
ふと気付くと後ろからも足音が聞こえた。 振り返ると男が2人、ファブアと同じように近づいてきていた。
「あなたたち、何をしているの! 早く村へ帰りなさい!」
「かぁー、気が強えーなー」 トデナミの真正面に来てしゃがむと、その目でトデナミを舐めるように見る。
「でも、怒った顔も綺麗だねぇー」 そういうと今度は声を低め、顔を近づけ続けて言った。
「ドンダダが惚れるわけだ」