大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第54回

2011年04月04日 15時30分53秒 | 小説





                       日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように






僕と僕の母様 第54回



「いいかいくぞ、コンクールの舞台のつもりで 大切に演奏していくように」

そうやって僕等は 学校を出る予定の時間ギリギリまで 何度も通しの練習をした。

これまでも コンクールが近づくにつれ 結構ハードな練習をしてきたが 今日ほど時間を無駄なく 練習したのは始めてのような気がする。

「良し、じゃあ最後にもう一度合わせてから 楽器を積んでいくぞ」

「エー、まだやるの? 先生もう時間ないんじゃないの」 コンクールに出ない同級生が言う。

「まだいける」

「俺達ちょっと退屈」 またさっきの同級生が 今度は小さい声で言っていた。

そうして 最後の通しを終わってから 僕達は急いで楽器を車に積み込んでいった。

先生達は そのまま車で会場まで向かうが 僕たちは電車で移動だ。

僕はその会場を知らない。 それどころか 電車の乗り継ぎも分からない。 みんなからはぐれないようにしなくては。

電車に乗って 僕が毎日乗っている駅で電車を降りる。 ここまでは分かる。 と言うか ここまで来て「ああ、僕の家を挟んで 学校の反対側に行くのか」 と知ったんだ。

ここから乗り換えるらしい。 この先は全く分からない。

学校と反対側なんて遠足の時と それ以外には 何度か母様に連れられては行ったけど 母様について行くだけで 何も考えていなかったから 記憶にもない。

それに遠足で乗ったホームと 母様と乗ったホームとは また違うホームに向かって歩いていく。

そう言えばこのホームは 多分何ヶ月も前に 旧三年フルート先輩に連れられて テディベアを見に行った時に この駅の改札口で待ち合わせて この今まで乗ったことのないホームまで 歩いて行ったような気がするが、どうもみんなは その時と同じホームに向かって 歩いているようだ。

同じ所に行く筈はないだろうけど 同じ駅なんかで降りたら大笑いだ。

僕はこの駅を知ってるぞ って威張りたくなる。 みんなはそれ以上に 知ってるっていうのに・・・。 僕ってつくづく 行動範囲の狭い人間だ。

電車に乗って みんな口々に色んな話をしている。

女子の先輩と同級生フルートなんかに至っては 遠足のようなノリだ。

黙っているのは僕と部長だけだ。 外の流れる景色をボーっと眺めていると

「次、降りる駅だからねー」 とみんなに呼びかける 先輩の声がした。

次の駅? なんて言う駅だ? そう思っていると 車内アナウンスで「次は~」 と駅の名前を言っている。 この駅の名前 聞いたことがあるような気がする。

駅に着いた。 電車を降りて みんなの後ろを歩いていく。 確かに見覚えのある駅だ。 

改札を出てあそこを曲がった所に たしか階段があったはずだ。 あった。 やっぱりあの駅だ。

先輩とテディベアを見に行ったときの駅だ。

嬉しくなる。 笑いたい思いを押さえようとするけど 無理だ。 ニンマリしてくる。

みんなについていきながら ニヤニヤしている僕はきっと 不気味だろう。

そして駅を出てから 割と長い時間歩いたような気がする。 この道は テディベアを見に行った道とは違う。 やっぱり場所は違うんだな。 

その時に「見えたー」 女子先輩達が言う。

「あの正面に見える建物が 会場だからねー」 後ろに歩いている僕や 同級生を見ながら フルート先輩がそう言った。

大きな会場だ。  さっきまでニヤニヤしていた僕が 何処かへ行ってしまった様だ。

顔が強ばる。






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