大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第137回

2014年09月30日 15時01分37秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第130回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第137回



夕飯を作ろうと キッチンに立ったとき

「え? 何!」 琴音は目を開けている。 目の前のキッチンも目に入っているがそれと別の物が見えたのだ。 
正確には目で見ているわけではないが琴音は目で見えている感覚だ。

「いったいこれは何なの?」 考え込むが見えているものが次々と変わる。

「あ・・・これって確か お礼状を作ろうと思ったときに見ていたイラストじゃない」 そうなのだ。 あの時に見ていたイラストが1秒に満たない間隔でフラッシュカードのように次々と出てくるのだ。

「不思議だわ。 これだけ早くイラストが出てくるのに何のイラストか全部理解できるわ」 100枚以上のイラストが見えたであろう。 そしてスッと何も見えなくなった。

「これっていったい何なのかしら。 それにあのイラストを見てからはソコソコの日が経っているのにどうして今更なのかしら。 私の頭、またどうにかしちゃったのかしら・・・」 溜息をつきながら米を洗っていると

「あ!」 何かいいことを思いついたようだ。

「もっと早くからこんな事ができていたらテスト勉強なんて必要なかったじゃない」 



仕事をしているとき琴音の知らない人物が慣れた様子で「こんにちは」 と言いながら事務所に入ってきた。

事務所に居た社員が

「おー、久しぶりじゃないか。 どうしてたんだよ」 仕事片手に声をかけた。 琴音もすぐに挨拶をしたがその人物が琴音を見て

「あれ? あなたが新しい人?」

「はい」

「あれ? 武藤、織倉さんと初めて会ったのか?」

「おお、今まで来ても事務所に上がってこなかったからな」 そして琴音のほうに向き直って

「僕、武藤といいます」

「あ、何度かお電話を頂いている・・・」

「そう。 僕ここの元社員だったんですよ」

「え? そうだったんですか」

「お見知りおきを! これからもよろしくお願いしますね」 

「こちらこそよろしくお願いいたします」 

「・・・と、今日社長は居ないの?」 事務所を見渡した。

「2時間ほど前だったかな? 出て行ったきりまだ帰ってきてないよ。 何処に行ってるかは知らないんだけど最近ちょくちょく出て行くんだよ。 織倉さん何か聞いてます?」

「いえ、何も聞いてません」 すると武藤が

「そうなの。 ま、社長が居たら挨拶しようと思ってただけだからいいよ」 と言いながら すぐに他の社員の所に行きその社員と奥の事務所に入っていった。 

その姿を目で追っている琴音を見ていた今話していた社員が

「奴ね、ここを独立して今は自分ひとりでやってるんですよ」

「そうなんですか。 ここの会社と同じことをされてるんですか?」

「そう。 まぁ、まるっきり一緒って訳でもないけどね。 でもかなり奴にお客さんを持っていかれちゃったんですよ。 えっとー、織倉さんの来る2年位前かな?」

「私の来る2年位前っていう事は売上がかなり落ち始めた時ですよね。 じゃあそのこともあってこの厳しさなんですか?」

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みち  ~道~  第136回

2014年09月27日 22時45分58秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第136回



「わぉ、そうなんですか!」 今度は野瀬の目が輝いた。

「と言っても 奈良時代はあんまり得意ではないんですけど空海で最後って言う感じなんです。 だから秦の時代から唐の時代までも結構本を読みました」

「わお! 一緒だー!」 思わず声が大きくなる。

「ちょっと、野瀬君! 声が大きいわよ」 珍しく野瀬が更紗に注意を受けた。

「あ、失礼。 思いっきり嬉しくなっちゃって」 少し照れるように行った野瀬を見て

「こんな野瀬君そうそう見ないわね。 歴史ってそんなに面白いのかしら・・・あ、また墓穴を掘りそうだわ。 その話は二人だけのときにしてね」

「はい、はい。 じゃあ織倉さん、今度この話で花を咲かせましょうね」 嬉しさをかみ締めるように言った。

「はい。 でもそのときまで勉強してなきゃ野瀬さんについて行けそうにないですね」

「いえ、大丈夫ですよ。 僕もあまり知りませんから」 すると空気を切るように更紗が

「ああ! ワイン飲みたいなぁー」 

「車の運転があるから駄目ですよ。 僕も我慢してるんですから」 いつもの野瀬に戻ったようだ。

「分かってるわよ。 ああ、どうせなら 私も野瀬君に迎えに来てもらえばよかったわ」

「今日はお二人バラバラだったんですか?」

「そう。 野瀬君にはちょっと見張りに行ってもらってたの」

「見張り?」 更紗を見ている琴音に野瀬が

「車の中で説明したアレですよ」 そう言うとすぐに悟った琴音が

「あ、心配な方がいらっしゃるんですね」

「そうなの。 どこも大変よね。 琴音さんの会社は上手くいってるの?」

「全然駄目です。 大変です」

「そうなの。 でも潰れたりはしないんでしょ?」

「社長の性格から言って潰れるという事はないでしょうけどいずれ閉じるという事は有り得ます。 それにそんなに遠い話でもないかと」

「そうなの? でもそうなると社員が大変よね。 勿論、琴音さんも」

「そうなった時は実家に帰るかもしれません。 いい切っ掛けかもしれないなって思ってるんです」

「そうなの・・・。 実家に帰ることがいけないことだとは言わないし、親孝行の一つでもあるけど でも人生って思ってもいない方に転がるかもしれないわよ」

「あはは 私には有り得なさそうです。 平凡すぎるくらい平凡ですから」

「人の可能性なんてみんな同じよ。 誰も特別じゃないし、一人ひとりが特別なのよ」

「わぁ、それっていい言葉ですね。 同じ事がそうでなくてそうである。 正反対のことが成り立つんですね」

「そう、誰も特別じゃなくて誰もが特別。 そんな事って日頃の生活の中でも探してみるとわりとあるのよ」

「うーんと・・・何があるでしょうか?」 少し考え込んでいる琴音に更紗が

「そうねぇ・・・簡単に言うと例えば、ちょっと外れちゃうかもしれないけど 今の琴音さんが居るじゃない。 私の目の前にね」

「はい」 何を言われるのだろうと目をまん丸にしている。

「その琴音さんは会社の中の琴音でさんであって、会社の中の琴音さんじゃないわけじゃない?」

「うーん・・・分かりません」

「私と一緒に居る時の琴音さんは会社の顔を持った琴音さんじゃないじゃない。 でもどちらも織倉琴音さんには違いないわけよね」

「あ、そう言う意味ですか」

「ちょっと外れちゃうけどね」 ペロッと舌を出した更紗だ。

会話は色んな方向へ向きながらもお腹もいっぱいになりこの日は楽しい夕飯となった。


そして部屋に帰った琴音が一番にしたのは

「野瀬さんの着メロ何かにしとかなきゃ」 そうなのだ。 更紗の着メロは気に入った音楽にしていたのだが野瀬の着メロは指定していなかったのだ。

「野瀬さん、野瀬さん・・・うーん どんなイメージかしら・・・」 暫く考えて

「あ! あれだわ」 琴音が野瀬のイメージで決めたのは 『007』 であった。

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みち  ~道~  第135回

2014年09月23日 15時05分47秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第135回



「お米って昔から伝わる日本の食じゃない。 本来、一番日本人の身体にあったものなのよ。 それにお米っていう漢字を考えて」 サラダを口に入れた。

「漢字ですか?」

「そう、四方八方に出てるでしょ?」

「出てるって?」

「米って 十っていう漢字にチョンチョンと斜めに4つあるじゃない。 十は上下左右に向いてるでしょ?」

「あ、分かりました。 八方向に線が向いてるんですね」

「そう。 その線っていうのが光の事なの。 光が八方向に向いてるのよ。 そんなエネルギーを持ってるのよ。 って、これは和尚から聞いた話なんだけどね」

「漢字をそんな風に考えるんですか?」

「きっと琴音さんの身体が日本人としてのエネルギーを欲しているのよ。 ピラフみたいに色んな物が混ざるより本来のお米をね」

「そう言われればお味噌もそうですよね。 日本人が長く食してきてますよね」 それを聞いて肉を頬張っていた野瀬が話しに入ってきた。

「縄文時代から製塩は行われていたらしいけど、確か味噌は奈良時代の文献に残っていたはずだなぁ」 

「あら? そうなの? 野瀬君、意外な事を知ってるじゃない」

「縄文人って言えばお酒が好きだったらしいですね」 琴音が以前読んだ本の知識を話すと

「へぇー、そうなの?」 思いもしない話に更紗が驚いているようだ。

「織倉さんそんなことをよく知ってますね」 

「色んな本を読んでるんですけど・・・その・・・縄文時代が結構好きで」 いいにくそうに言うと

「おお! そうなんですか? うわ、嬉しいなぁ 話せる相手が見つかった!」

「え? 野瀬さんも縄文時代が好きなんですか?」 思いもしない野瀬の言葉だった。

「ええ、大好きなんですよ。 これからは縄文談義をしませんか?」 慌てて思わず更紗が口を挿んだ。

「ちょっと待ってよ、私がついていけないじゃない」 それを聞いて、縄文仲間が見つかったと気が大きくなった琴音が

「更紗さんは縄文時代に全然興味がないんですか?」

「興味って言われると答えにくいけどそう聞かれると無いわけじゃないわよ。 でも今は何の知識もないわ」

「じゃあ丁度いいじゃないですか僕と織倉さんで教えて差し上げますよ」

「今は結構よ」 パスタをクルクルとフォークに巻く。

「素直じゃないなぁ」

「そんなんじゃないわよ。 でも最近、歴女ってよく聞くけどもっと違う時代なんじゃないの? それに男性も歴史が好きって言っても武将時代でしょ?」

「あ、別に私 歴女じゃないですよ」

「そうですね歴女って最近聞きますけどいつの時代なんでしょうね。 でも少なくとも縄文時代じゃないでしょうね。 だから織倉さんは今流行の歴女とはいえないでしょうね」 

「歴女どころか縄文時代の話なんて誰も聞いてくれませんもん」

「確かに、男友達と話しても織田信長とか豊臣だとかですよ。 縄文時代の話をするやつなんて居ませんね。 でも僕は武将時代には興味ありませんね」

「二人とも何なの? そんなに縄文時代っていいの?」

「いいですよー。 だから二人で教えますって」

「ああ、要らない要らない。 今はそんな話が入る隙がないわよ」

「お仕事お忙しいんですか?」

「まあね。 でもだからこそこうやって息抜きをしたいの。 琴音さんには付き合わせちゃってるけど」

「そんな事ないですよ。 誘ってくださって嬉しいですし、まさか縄文時代のお話が出来るなんて思ってもいませんでしたから」

「二人とも縄文時代意外に好きな時代とかってないの?」

「そうだなぁ、僕は主に縄文時代で流れとしてはそのまま遡って平安時代までかな」

「え!? そうなんですか?」 ピラフを口に入れようとしていた琴音が目を輝かせて聞いた。

「それって、どう判断していい反応ですか?」

「私もなんです」

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みち  ~道~  第134回

2014年09月19日 19時46分56秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第134回



「でしょ? それと・・・うーんと、そうねぇ。 他に何か食が変わった事はない? アレルギー以外に何か心当たりとか」

「それが、今まで白いご飯ってあまり食べなかったんですけど 最近、白いご飯が美味しくって、それとお味噌汁も苦手だったのにお味噌汁も美味しくって・・・あ、ずっとパン食が多かったんですけど、そう言えば段々とパン食が減ってきました」

「じゃあ、もしかして今頼んだのもご飯だったから?」

「いいえそう言う訳では、ピラフとかドリアっていうのは元々好きだったんです。 でも何ていったら良いのかなぁ・・・ピラフみたいに色んな物が混ざっていない 食べるなら純粋な白いご飯が食べたくなってきたんです」 それを聞いた更紗が満足そうに笑った。

「私、何かおかしいこと言いましたか?」 琴音が慌てて聞くと

「違うの、違うの、ごめんなさい。 つい・・・」 そう言いながらも大笑いをする更紗。するとずっと静観していた野瀬が

「更紗さん!」 叱咤するように言った。

「だってー」

「だってじゃないです。 これがクライアントだったらどうするんですか!」

「クライアントにはこんな風に笑わないわよ。 琴音さんだから気が緩んじゃってるのよ」 キョトンとして見ている琴音に

「織倉さん、すみません。 更紗さんはこんな人だと分かってくださいね」 溜息混じりに言った。

「イエ、特に何とも思っていません。 だってね・・・・ですもんね」 野瀬の目をみて言った。

それを受けて野瀬がクスッと笑う。

「やだ、二人で何なの?」 野瀬を見て言うと

「イエ、何でもありませんよ。 織倉さんに説明を続けてあげてください」 クックックと笑いを抑えている。

「もう! ね、琴音さん何のこと?」 今度は琴音に質問だ。

「来る時に野瀬さんと更紗さんの話をしてたんです。 更紗さんってとっても可愛い人だって野瀬さんが仰ってたんです」 琴音に笑みがこぼれた。

「えー! 本当? 野瀬君がそんなこと言うのー?」 野瀬を横目で見ると

「更紗さんの前では言いませんけどね」 白々しく野瀬が答えた。

そこへ料理が運ばれてきた。

「ありがとう」 更紗の言葉だ。 それをまた聞き逃さなかった琴音。 

料理が並べられると

「更紗さん、いつもありがとうって仰いますよね」

「え? そう?」

「はい。 超有名なのにちゃんとありがとうって仰るから偉いなぁって聞いてたんです」

「あははは! だから言ってるじゃない、超有名なんかじゃないのよ。 当たり前のことを当たり前に言ってるだけよ」

「織倉さん、以外なんですけどね 更紗さんってこういう事は普通の人なんですよ」

「以外とか普通ってどういう事よ。 野瀬君なんかほっといて琴音さん食べましょ」 更紗が両手を合わせ小さな声でいただきますと言い、食べ始めた。

「はい、いただきます。 わぁ、サラダも美味しそう」 

「でしょ、美味しいわよ」 琴音がサラダを口に入れ

「わぁ、いつも食べてるレタスと全然違う味だわ」

「うふふ、その言葉を聞いてレタスも喜んでるわよ」 

「お野菜が喜ぶですか・・・」 咄嗟に暦の言葉が浮かんだ。

「そう。 美味しく食べてもらう事がお野菜の喜びなのよ」 隣では野瀬が肉を頬張っている。

「野瀬君、美味しい?」 呆れたような顔で更紗が聞いた。

「勿論ですよ」

「さっきの話を聞いててもこれだものねぇ」 琴音のほうを向いて言った。

「放っておいて下さい。 それより話が途中じゃないんですか」

「あ、そうだ途中になっちゃってたわね。 お米の話だったわね」

「はい」

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みち  ~道~  第133回

2014年09月16日 15時13分44秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第133回



野瀬が注文をしている間に 更紗と琴音の会話は始まっていた。

「更紗さんはお肉食べないんですか?」

「ええ、昔から食べないわ。 琴音さんは食べるの?」

「それが最近食べられなくなってきたんです」

「どうして?」

「食べたくなくなったって言うのも多少あるんですけど、そう思って食べてなかったんですね。 でもそれからは少しでも食べると急にアレルギーが出るようになってきて」 そうなのだ。 

暦とのバイキング以降、注意をして様子を見ていると少しでも肉を食べた時には必ずブツブツが出るようになったのだ。 だから安易にレトルトのカレーなんて食べられない。 いや、一度食べた。 その結果は悲惨な物であった。

「え? 琴音さんってアレルギー持ちなの?」

「今まで食べ物ではそんな事なかったんですけど、急になんです」

「食べ物ではって、他には何があるの?」

「アレルギーって言うほどではないんですけど お化粧品とかはちょっと選んじゃいます・・・う・・ん 皮膚は弱いかもしれません。 服でも時々駄目な生地とかがありますから」

「そうなの・・・そうねぇ、ちょっと見つめ直すほうが良いかもしれないわね」

「何をですか?」

「自分の身体」

「自分の身体ですか?」

「そう。 身体って正直なのよ。 何を求めていて何を拒絶しているか、すぐに教えてくれるのよ。 お化粧品に含まれているものや生地だってそうよ、合繊とか色々あるでしょ? 人の身体には麻が一番いいらしいわよ。 それに多分、今の琴音さんの身体はお肉を受け付けたくないと思うの」

「受け付けたくないですか・・・」

「よく考えてみて、お肉にされるときの牛や豚や鳥のこと」

「お肉にされるときって?」

「牛が一番わかり易いかしら。 それまでは農場で育てられていたのよ。 それがある日突然トラックに乗せられて・・・でしょ?」

「はい」

「嘘か本当かは分からないけどトラックに乗せられるとき 既に牛は何をされるか分かって暴れまくるそうじゃない」

「そういう話、聞いたことあります」

「誰も牛の気持ちを聞いたわけじゃないからそれが真実なのかは分からないけど、もしそれが真実だとして私が思うのはその時の、それ以降の牛の感情を考えるの」

「牛の感情ですか?」

「そう。 どんなに恐怖に戦きかえっていたかよ。 自分において考えたらそう思わない?」

「確かにそうですよね」

「えも言われぬ恐怖よ。 琴音さんならそんな時、肉体はどうなってる?」

「そこまでの恐怖の経験はありませんから何とも言えないですけど・・・でも・・・」 金縛りにあったときの事を思い出した。 あの時の恐怖を思い出した。 

「でも?」 琴音の言葉に期待をするように更紗が目を輝かせた。

「心だけじゃなくて身体中に恐怖が走ります。 それもそんな簡単な恐怖じゃないです。 身体中の細胞一つ一つまでが心を持ったみたいに・・・何て言っていいのかなぁ・・・とにかく心だけじゃないです。 身体の隅々まで恐怖でいっぱいになります」 

「でしょ?」 期待していた言葉が返ってきたようで更紗は満面の笑みだ。 そして続けて。

「それがその肉体の最後なのよ。 肉体中が恐怖に戦いた。 そこで止まっている肉体なのよ。 そのお肉を食べるのってどうなのかしら?」

「そのお肉を私の身体が食べたがっていないっていう事ですか?」

「多分ね。 こういう事を琴音さんが知らなくても、琴音さんの身体は知っているのよ」

「はぁ・・・でももっと違うサインを出してくれればいいのにアレルギーって・・・」

「どんなアレルギーなの?」

「赤いブツブツが 胸から太腿まで出るんです。 見えないんですけど多分背中にも出てると思います」

「痒いの?」

「イエ、痒みも何もなくて ただブツブツが出るだけなんですけど」

「それじゃあ、いいじゃない。 痒くもないし、人の目に付く所にも出ないんだったら、顔にも出ないんでしょ?」

「はい」

「それに さっき言った事をよく思い出してみて。 ブツブツが出る前に食べたくないって思ってたんでしょ? ちゃんと順序だてて教えてくれてるじゃない。 琴音さんの身体、ちゃんと考えてくれてるのよ。 感謝しなくちゃ」

「そう言われればそうですね」

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みち  ~道~  第132回

2014年09月12日 14時49分22秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第132回



車を走らせながら

「この車ね・・・以前更紗さんが言ってたでしょ。 織倉さん覚えてるかなぁ? どこも不況でそんな相談が多いって」 ルームミラー越しに琴音を見た。

「はい、覚えてます」 その琴音は野瀬の後頭部に返事をする。

「更紗さんの凄い所なんですけどね。 そんな相談を受けてちょっと様子がおかしいと思ったら、その方の家の周辺へ様子を見に行くんですよ」

「様子をですか?」

「ええ。 殆ど僕が行くんですけど、たまには更紗さんも行くんですね。 で、その時にこの車が出動するんです」

「ああ、そうなんですか。 外車じゃ目立ちますもんね」

「その通り。 その方は僕の顔を見ているのでその方にバレても困る。 勿論、誰にも知られたくない相談をされてくるんですから 他の人に分かってしまっても困るわけですよね」

「でも何を見に行かれるんですか?」

「その方が変な気を起こしていないかを見に行ってるんです」

「え? 変な気って・・・」

「窮地に追い込まれていると何をするか分かりませんからね」

「それって・・・自殺とかっていう事ですか?」

「そういう話がよくありますからね。 そういう事を少しでも阻止できるようにね」

「そんな事までされているんですか?」

「多分どこもあまりされていないと思いますよ。 更紗さんならではだと思います」

「更紗さんってどういう方なんでしょう?」

「一言で言うと ハチャメチャ・・・かな?」 クスクスと野瀬が笑う。

「ハチャメチャ? ・・・分からなくもないですけど・・・でもそれって野瀬さんと一緒に居らっしゃるからじゃないんですか?」

「えー! 更紗さんのハチャメチャは僕のせいですか?」

「あ! そう言う訳じゃありません。 野瀬さんと居る時に更紗さんがすごくリラックスされてる気がして」

「あははは! それは嬉しい事を言ってくださる。 そう言われればそうかもしれませんね」 琴音が野瀬を待っている間に思っていた車の中での二人の空間は想像とははるかに違った空間であった。

「着きましたよ。 ここです。 もう更紗さん来てるんじゃないかな?」 琴音を正面で降ろし野瀬はそのまま車を駐車場に止め、すぐにやって来た。

「すみませんお待たせしました。 入りましょうか」 ドアを開け琴音を先に入れたかと思うとすぐに野瀬が周りを見渡して

「あ、居た居た。 こっちです」 野瀬が琴音を誘導する。 すると一番奥に更紗が座っていた。

「織倉さんをお連れしましたよ」 更紗が振り向く。

「琴音さん! お久しぶりー」 更紗の笑顔があった。

「更紗さん、普通は先に着いた者が分かりやすいように入り口の方を向いて座っているもんでしょ。 どうして後ろを向いてるかなぁ」 野瀬が更紗に言った。

「あら? でもすぐに分かったでしょ?」

「まぁ、分かったことは分かりましたけど」

「じゃあ いいじゃない」

「織倉さん、僕の言ったこと分かってもらえます?」 琴音はクスクスと笑っているだけだ。

「まぁ、何を言ってたのかしら? ね、それより琴音さん座って」 更紗が自分の横の椅子に手をやった。

「夕飯まだよね?」

「はい」

「お茶って言ってたけど何か食べましょうよ。 いい?」

「はい」

「ここのサラダは美味しいのよ。 全部じゃないけど自家栽培の野菜なのよ。 琴音さん何食べる?」 メニューを琴音に見せた。

「お野菜が美味しいんでしたら・・・うーんと・・・この『季節の野菜たっぷりピラフ』にしようかな」

「あ、それも美味しそうね。 じゃあ、私は同じ物のパスタバージョンにしよう。 野瀬君は?」

「僕は肉です」

「まだお肉食べるの?」

「食べ盛りですから」

「どこがよ! ねー」 更紗がしかめっ面をして琴音に言った。

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みち  ~道~  第131回

2014年09月09日 14時09分03秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第131回



会社では歳暮の依頼の季節となってきた。 最近は早く申し込むと割引があるので琴音もそれを利用して早めに申し込む段取りをつけた。 何社かに歳暮を出すが反対に送られてくることもある。

「あ、そういえばお礼状」 前任の森川は手書きで礼状を書いていた。 琴音も森川が辞めてからはそれに習って中元の礼状を手書きで書いていたが、どうもしっくりこなかったのだ。

「森川さんのように達筆ならいいけど 私の字で真っ白のハガキに文字だけなんて面白くも何ともないわ」 そう言ってPCで画像を探し始めた。

「夏はそれなりにイラストがあるけど冬らしいのってそんなにないわねぇ」 色んなイラストを見るが思うものがないようだ。 あちこちを見て最終的に二枚のイラストを組み合わせ礼状の背景にすることを決めた。

「こんなものでいいわね。 この方がもらったら絶対に嬉しいわよね」 PCが役に立っているようだ。 いろんな面でね。

定時になりいざ帰ろうとロッカーに入ると丁度携帯が鳴った。 着メロを聞き

「あ、更紗さんだわ」 鞄の中から携帯を出した。

「もしもし」

「琴音さん? 更紗です。 お仕事終わった?」

「はい。 今丁度終わってロッカーに入ったところです」

「ね、今日あいてる?」

「はい。 何の予定もありません」

「じゃあ、ちょっとお茶しない?」

「いいですね。 更紗さんは時間大丈夫なんですか?」

「うん、キャンセルが出て時間が空いちゃったの。 じゃあ、野瀬君が迎えに行くからお家で待ってて」

「はい、・・・でも あの、くれぐれも」

「分かってるわよ。 軽で迎えに行くわよ」 前回家まで送ってもらった時、あまりにもベンツを横付けしてもらうには抵抗があった琴音はマンションから少し離れた所で降ろしてもらったのだ。

「それじゃあ そうね、1時間くらいで迎えにいけると思うわ」

「はい分かりました」 携帯を切りすぐに自転車でマンションに帰り着替えを始めた。

「野瀬さんが迎えに来てくれるって・・・更紗さんも一緒じゃないのかしら? 野瀬さんと二人っきりの空間? 嫌だなぁー」 人見知りはまだ治っていない様だ。

コーヒーを飲んでいると携帯が鳴った。

「あら? 誰かしら?」 携帯を見ると野瀬からであった。

「もしもし」

「織倉さんですか? 野瀬です。 後10分くらいでお迎えに上がりますが宜しいでしょうか?」

「はい。 あ、この間降ろしてもらったところに行っていればいいでしょうか?」

「場所はこの間お聞きして分かっていますからそのままお部屋でお待ちください。 それじゃあ」 そう言われて携帯を切った琴音だが

「あんな説明で分かるのかしら?」 そうだね、琴音自身が方向音痴だから説明もまともに出来ないからね。 でも大丈夫だよ。 聞いた相手がしっかりしているんだから。

時計を気にして見ていた琴音。

「そろそろ10分になるわね。 せめて下に降りておこうっと」 バッグを持って玄関で靴を履きドアを開けると そこには今正にチャイムを鳴らそうとしていた野瀬が立っていた。

「わ、野瀬さん!」

「え? そんなに驚かないでくださいよ」

「ごめんなさい。 今、下に降りておこうと思ってたから」

「え? 部屋でじっとしててくださいよ。 ちゃんとお迎えに上がると言ったでしょ?」

「はい、そうですけど・・・」

「織倉さんは貧乏性だなぁ」 少し笑って

「更紗さんと偉い違いだ。 行きましょうか?」 二人で階段を降りて行くとそこには軽自動車がおいてあった。

「かわいい。 こういう車の方がほっとします」 

「そうですか? どうぞ」 野瀬が後部座席のドアを開けた。 琴音が乗ると野瀬も車に乗り込みエンジンをかけた。

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みち  ~道~  第130回

2014年09月05日 14時46分35秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第120回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第130回



マンションに帰り夕飯を済ませ座椅子にもたれながら本を読んでいると 窓から気持ちのいい風が入ってくる。 すると本を読みながらウトウトしだした。

意識が遠のきかけた時、玄関でガサガサという音がした。 コンビニ袋をこすり合わせているような音だ。

(え? 誰?) 誰かが部屋に入ってきたと思い慌てて目を開け身体を起こそうとしたが身体が動かない。 金縛りだ。

(ヤダ また金縛り!) どれだけ身体を動かそうとしても全く動かない。 

(いったい誰が入ってきたの!) 玄関には誰もいない。

(手だけでも・・・目だけでも・・・首だけでも) あちこちに力を入れて動かそうとするが全く動かない。

そんな時にまたコンビニ袋をこすり合わせるような音がした。 玄関から段々とこちらに歩いてくるような気配だ。 

(違う・・・人じゃない・・・) そうなってくると恐怖が襲ってくる。 正体の分からない恐怖だ。 琴音の頭の中は恐怖でいっぱいになる。

僅かに足を動かせるような気がした。 

(足が動くかもしれない) 思いっきり力を入れて足を動かしてみた。 僅かに右足が動いた。 その時に足元に掛けていた薄手の膝掛けが右足から滑って落ちる感覚があった。 だがそれ以上は動かせない。 そしてまた少しも動かせなくなってしまった。

その音が段々と近づいてくる。 琴音の恐怖は身体中に広がった。 とうとう琴音の頭の近くまで来た時に

(もう止めてー!) その自分の心の声に瞼を開くことができた。 そして目は見えたものの眼球は動かせない。 

(しっかりしなきゃ、このチャンスを逃すとまた金縛りにあうだけ) 眼球を少しずつ動かした。 すると後から身体の各部分が解けていくのを感じる。 身体はクタクタに疲れている。 脱力状態だ。 重い首を動かしキッチンの方を見るが誰がいるわけでもない。

(そうよね。 誰も居るはずないわよね) そして足元を見ると膝掛けはそのままきれいに足に掛かっているままだ。

(どうして? 絶対に足から落ちたはずよ) 足元を見ながらも疲れた身体がまたウトウトとしてくる。 だがそうなるとまた金縛りにあってしまう。 琴音の金縛りは何度も何度も繰り返してやってくるのだ。

(ダメ、これで寝ちゃったらまた金縛りになっちゃう) 重くなっている身体を無理矢理起こして一度立ち上がった。 そうすることでもう金縛りにはあわない。 それに身体の重みも徐々になくなっていき、頭の中の朦朧としたものもなくなりすっきり覚醒できるのだ。 

身体も軽くなり手足も簡単に動かすことが出来るのを確認してから キッチンの椅子に座った。 このときには恐怖感は完全になくなっている。

「絶対にひざ掛けがズレ落ちたはずなのにどうして足に掛かったままだったの?」

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みち  ~道~  第129回

2014年09月02日 14時53分30秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第120回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第129回



週明け会社に出勤だ。

何かの発送があるとすぐにワードで発送案内を打ち、遡った数字などを聞かれればエクセルを使いすぐに答えることが出来る。 
税理士に提出する書類に挨拶文を付ける為ワードを打っている時、それを見ていた社員が

「織倉さんなかなかやりますねぇ。 それにブラインドタッチですか?」

「完全ではありませんけど・・・」

「いや、それって完全でしょ」

「時々手元を見てますよ」

「そんなの見てるうちに入らないですよ。 それに打つの早くないですか?」

「そうですか?」

「そうですよ、早いですよ。 だから・・・この書類打ってもらえませんか?」 申し訳なさ気にA4にびっしりと書かれた仕様書を出してきた。
それを受け取りさらっと読んでみると

「取り説ですか?」 5枚ほどだ。

「取り説ではないんですけど専門の会社の仕様書みたいな物かな。 それをちょっと利用したくって。 手の空いた時でいいんでお願いできますか?」

「いいですよ。 ・・・でも聞いたことのない言葉ばっかりですね。 ちょっと時間がかかってしまうかもしれません」

「いつでもいいんでお願いします。 あ、打ち終わったらデータで欲しいので共有に入れておいて下さい」

「はい」 それから自分の仕事の区切りをつけ すぐに渡された仕様書の打ち込みを始めた。 そして見直しを済ませ

「今、共有に入れましたからいつでも吸い取ってください」 そう言いながら仕様書を返した。

「え!? さっきのですか?」

「はい。 でも間違ってたらすみません」

「えー! 嘘だろー!」 すぐに共有を開け中を確認した社員が

「なんでー! 織倉さんさっき自分の仕事してましたよね」

「はい。 区切りがついたのでその後にしました」

「僕だったら何時間かかると思ってるんですかー」

「あ、でもほんとに初めて聞いた言葉が多かったので間違ってるかもしれません。 確認してください」

「そんな問題じゃないですよー」 それからは時々頼まれて打ち込みをしていた琴音だが こういう仕事が好きで何の苦もなかった。 それどころか経理といういつまで経っても慣れることの出来ない仕事の合間の息抜きにさえなっていた。


ある日社長が社員に

「今から言う事をちょっと聞いてくれよ・・・」 と打ち合わせを始めた。

「それでいいんじゃないですか? アチラさんもその方がいいでしょう?」

「じゃあ、そんな文言で書類とまでいかなくていいから誰か後に残るように手紙を出しておいてくれ」 それを聞いてた社員が

「そんなことは織倉さんが打ってくれますから 社長がちゃんと社長の言葉で下書きを書いてくださいよ」

「え? 織倉さんが打つの?」 社長は琴音の打ち込むところを意識して見たことがなかったのだ。 社員が琴音のほうを見て

「織倉さん打ってくれますか?」 仕事をしながらも話を聞いていた琴音が

「はい」 と返事をすると

「ま、まぁ それじゃあ下書きをするから頼むね」 そう言って下書きを書き始め書き終えたものを琴音に渡した。 すぐに打ち始めた琴音を見て

「織倉さん、どっち見て打ってんの!」 下書きと画面を交互に見ながらキーを打っている姿に驚いたようだ。

「社長、あれがブラインドタッチってやつですよ」 笑いながらさっきの社員が答えた。

「あんなのでほんとに打てているのか?」 琴音の隣に来て画面を見ると

「・・・織倉さん。 ・・・何考えながら打ってるの・・・」

「え? 何も考えてません」 目は下書きを追って指はキーを打っている。

「打ちながら喋られるの?」 

「少しの会話くらいでしたら」

「間違って打ってない?」 画面を覗き込む。

「後で見直しをします」 その言葉を聞いて社長が席に着くと琴音はもう見直しをしだした。 そしてアウトプットをして社長に渡しに行くと

「嘘だろ? もう出来たの?」

「多分合ってると思いますが社長の確認もお願いします」

「5分? そんなに経ってないですよね・・・それくらいで打ったの?」 

「社長、だからこんな事は織倉さんに頼むのが一番ですよ。 僕だったら2、30分はかかりますよ」 琴音の苦手な経理ばかりしていても疲れるだけだからね。 PCを切っ掛けに琴音の好きなことが出来てよかったね。

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