大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第128回

2014年08月29日 18時30分00秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第128回



更紗の言葉に続いて野瀬が

「こちらに来る途中、偶然正道さんにお逢いしたんですよ。 それで少し話しこんでしまって。 帰られる前に更紗さんに逢っていただこうと思ってお連れしたんです」

(この人・・・) 琴音が温かい何かを感じた。

「いや、更紗さんすみませんな。 長々と野瀬君をお借りしてしまって」

「あら、いやだわ。 野瀬君もっと早く言ってよ」 更紗の言葉に口もとを少し上げ、琴音を紹介しだした。

「正道さん、こちらは織倉琴音さんと仰って 今、更紗さんが夢中になっている方です」

「ほぅ、そうですか。 織倉琴音さん。 初めまして正道と申します」

「初めまして」 お辞儀をした琴音を見た正道が

「ほほぅー。 そうですか。 更紗さんが夢中になるのも分かりますな」 更紗が優しい笑みで琴音を見た。

「正道さんもそう思われますか?」 野瀬が言うと正道が頷き

「織倉琴音さん。 ご縁がありましたら又お逢いしたいですな。 ・・・きっとお逢いできますね」

「え?」 目を丸くしている琴音を見て

「そんなにすぐ帰る様な事を仰らないで ご一緒に少しお話しませんか?」

「いや、残念ながら今日はすぐに京都に帰らないといけないもので、更紗さんのお元気そうなお顔を見られただけで充分です」

「そうなんですか? 残念ですわ」

「今度こちらに来る時には必ず連絡を入れますからその時にゆっくりお話しませんか?」

「是非ともお待ちしておりますわ」

「それじゃあ、今日の所はこれで」 軽く会釈をした。

「お気をつけて」 見送る更紗。 

「正道さん。 駅までお送りします」  

「ああ、いいです。 タクシーで行きますから。 じゃ、あの話お願いします」 正道はサッサと歩いて行った。

正道を見送ったあと

「野瀬君 あの話って何のことなの?」

「マネージメントをしてくれる人を探されているようなんです」

「正道さんが?」

「はい。 もしいい人がいたら紹介して欲しいといわれまして」 ウエイターにウーロン茶を頼んだ。

「またどうしてマネージメントなんか必要になったのかしら?」

「今までと方向を変えられるようなんです」 二人の会話を聞いていていいのかどうか分からず 辺りをキョロキョロしていた琴音だったが 

「ねぇ、琴音さん今の・・・正道さんね、どう思う?」

「え? どうと聞かれましても」

「何か感じたはずよね」

「柔らかい細かなものを感じました。 それがすごく温かくて、でもそれ以外は・・・」

「ふふふ、正道さんと波長が合うみたいね」

「え? それは分かりません」

「正道さんも仰ってたでしょ。 また逢いましょう、きっと逢えますね って」

「織倉さん、正道さんは社交辞令でそこまで言う人じゃないですよ」 運ばれてきたウーロン茶を一口飲んだ。

「あの方はいったい・・・」 そこまで言いかけて聞いていいものかどうか迷って口をつぐんだ。

「正道さんはね そうね、言ってみればヒーラーなのよ」

「ヒーラーですか?」

「そう」

「確か和尚の時にもそう仰ってましたよね」

「ええ。 和尚も正道さんもヒーラー。 でも根源は違うみたいなんだけどそこのところの詳しい事は私には分からないの」 そして野瀬の方を見て

「ねぇ、ねぇ 野瀬君聞いてよ。 琴音さんって鍛えれば結構いけるみたいなのよ」

「え? 織倉さん、腹筋でも割れてるんですか?」 野瀬の冗談だ。

「ヤダ、何言ってるのよ」 話は琴音のことで花が咲き この日は琴音にとって珍しい話の一日となった

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みち  ~道~  第127回

2014年08月26日 14時09分31秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第127回



それを見た更紗が少し間をおいて

「結構自由に出来てるみたいだけど、もしかして結婚は?」

「してないです。 したくないんです」

「どうして? 嫌な事でもあったの?」

「いろいろあって・・・」

「あ、ごめんなさい私とした事が・・・琴音さんといると職業を忘れちゃうわ」

「え? カウンセリングですか?」

「ええ。 カウンセリングではこんなにストレートに聞かないもの。 これが仕事中なら完全に失格ね」

「お仕事の顔を捨ててくださる方が私としては嬉しいです」

「まぁ、ありがとう。 そう言ってもらえると私も嬉しいわ」 間をおいたかと思うと続けて 

「そう、結婚をしたくないのね」

「あ、お話が戻るんですね」

「あら、ごめんなさい。 でもそれってもしかしたら結婚をしないことが必要なのかもしれないわよ」

「しないことが必要?」

「そう、これからすることに少なくとも今は結婚が必要ないって言うの? 時間的制限を考えたら結婚をするって時間の自由がないじゃない? ま、あとにどう変わるかは分からないけど。 だけど・・・」

「はい?」

「・・・その色々な理由を聞くわけじゃないけどもしかしたらそれが第四チャクラを・・・あ、第四はハートチャクラとも言ってね、ハートって言うくらいだから想像付くでしょ?」

「はい」

「他に比べて 第四と第五のチャクラがあまり・・・そうね、結婚まで考えなくても人を愛さないと・・・ね?」 それを聞いてすかさず

「急には難しいですね」

「少しずつでいいわよ。 それに恋愛じゃなくてもいいのよ」

「あ、それもちょっと急には難しいです。 あはは」 照れ隠しに笑ってみせている。

「え? なに? ・・・もしかして 人間不信?」

「あ・・・」

「ええ? そうなの? 確かにそういう感じはするけど。 でも今、私と話している限りではそんな風に思えないんだけどなぁ」

「はい、そうなんです。 私も不思議なんです。 私人見知りって言うかあまり人と話せないんです。 それが更紗さんとはそんな事がなくて・・・」

「まぁ、嬉しいわ!」 更紗が目を見開いてそう言ったかと思うとその途端、更紗の横で声がした。

「それって 織倉さんが更紗さんに強引に引っ張られてるだけじゃないですか?」 

「あ、いつの間に!」 更紗が横を向くとそこには野瀬が立っていた。

「なんてこと言うのよ。 そんなわけないじゃない。 それに野瀬君、遅すぎない?」

「珍しいですね。 更紗さんが話に夢中で正道(せいどう)さんに気付かないなんて」

「え?」 野瀬から目を外すと隣に正道が立っていた。

60歳代くらいであろうか、背が高く特に太くも細くもなく着物を着ている男性だ。

「まぁ、どうしましょう。 失礼致しました」 すぐに椅子から立ち上がった更紗。

それを見て琴音もすぐに立ったが、さっきのホテルでの更紗の雰囲気とはまた違うものを感じた。

「お久しぶりですな。 相変わらずお元気そうで」

「はい。 毎日楽しくやっております。 正道さんもお元気そうで」

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みち  ~道~  第126回

2014年08月19日 13時50分19秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第126回



「なに? 何か思い当たる事があったの?」

「ご縁かどうかは分かりませんけど、2度とも同じ山に登ったんです。 それで2度目に行った時なんですけど 切っ掛けは何故だか急に滝に行きたいと思って・・・結局、山登りになっちゃったんですね。 それで下山してから滝には行けたんですけど・・・あ、その滝っていうのはその山の中にあるんですね。 それで・・・滝に行くまでの道で訳もなく涙が溢れてきたんです。  それと・・・」 温かい存在の話をした。

「そうなの、そんな事があったの。 ね、覚えてるかしら? あの時、和尚も言ってたでしょ? 魂に触れると意味がなく涙が出るって」

「あ、そう言えば・・・」

「ね? その場所に来て琴音さんの魂が喜んだのよ」

「・・・」

「その着物みたいな服を着てらっしゃったのは もしかしたら琴音さんの守護霊様かもしれないわね。 琴音さんがそこへ行ってくれて守護霊様も喜んでいらしたのかもしれないわね」

「はぁー・・・」 更紗の話に溜息が漏れた。 そして

「あ!」

「え? なに? どうしたの?」

「あ、ごめんなさい急に大きな声を出して」

「いいわよ、それよりどうしたの?」

「涙で思い出したんです」

「なに?」

「これも訳が分からないんですけど・・・山に行く前になるんですけどお寺に行ったんですね」

「お寺?」

「はい。 初めて行ったお寺なんですけど 何て言っていいのかしら・・・懐かしいって言うか、押し潰されるって言うか自分でもよく分からないんですけど 知らない間に涙が出てきたんです。 でもその時の感覚は滝の時とはまた全然違っていたんですけど」

「お寺にはよく行くの?」

「いえ、社寺仏閣は好きじゃなかったんですけど急にそこへ行きたくなって」

「きっとそこもご縁のあったお寺だったんじゃない? 守護霊様が今までご縁のあった所に導いてくださっているのかもしれないわよ」

「でも なんて言うのかしら。 どちらかといえば苦しいって言うのかしら。 それに・・・」 本堂の前で手を合わせたときのこと、目の前が真っ赤になったことを話した。

「凄い体験ね」

「なにが何だか分からないんですけど」

「私は霊能者とかっていうのじゃないからよく分からないんだけど そこも導かれた場所で滝の時のようではなくて どちらかといえば過去の清算に行ったのかもしれないわよ」

「過去の清算って?」

「その瞼に広がった赤い血のような色は本当に血だったのかもしれないわね。 琴音さんの記憶の中にある血の色」

「私の記憶?」

「そう、遠い遠い記憶。 琴音さんの魂の記憶の一つ、悲しみの記憶。 それを浄化しに行ったのかもしれないわ」

「浄化・・・ですか?」

「昔、きっとそこに居たんじゃないかしら。 それで懐かしさはあるけど悲しい事が起きたために押し潰されるような感覚になったんじゃない
かしら。 その悲しい事があまりにも大きすぎていつまでも魂が悲しんでいたのを守護霊様は知ってらしてそこへ導いてくれたのかもしれないわよ。 そこへ今生行く事で・・・涙を流して悲しみが浄化されたのかもしれないわ」

「そんな事ってあるんですか・・・?」 今まで想像もしてこなかった事だけに少し表情が暗くなってきた。

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みち  ~道~  第125回

2014年08月12日 15時06分00秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第125回



「それと・・・土いじりをしてる? お花か何か育ててるのかしら?・・・第1,2チャクラが結構いいんだけど・・・何か心当たりある?」

「心当たりって・・・土は苦手ですし、お花も育ててませんし・・・それにそのチャクラって言うのがもう一つ、何か分からないから・・・」

「あ、そうだったわね。 うーん、なんて言おうかしら お花には縁がないのね?」

「はい 全く」

「地に足が付いてるって言うの? 第四チャクラを境に第一から第三チャクラは肉体のチャクラとも言われてるのね。 そうねぇ具体的には・・・アウトドア派?」

「いえ・・・インドア派です」

「そうなの?・・・じゃあ、なんだろうかなぁ・・・」

「あ、アウトドアっていうんじゃありませんけど ここ最近2回ほど山に登りに行きました」

「山登り?」

「はい。 どうして登ったのか自分で訳が分かりません」 思い出して溜息をついた。

「訳が分からなくて登ったって、どういうこと?」

「はい。 1度目は 何だか急に山に行こうと思ったんです。 山登りなんてしたことがないんですよ、それなのに・・・」

「2度目は?」

「大きな勘違いから始まったんですけど 最初から山に登る気なんてなかったから途中で下りようと思ったんです。 そしたら『登りなさい』 って言う声が聞こえたような気がして・・・結局登っちゃったんです」

「ええ! うそ! あ、嘘って疑ってないわよ。 えー! そんな事があったの?」 更紗さん、少し声が大きいですよ。

「後の筋肉痛が酷くって」

「あ・・・あははは! 琴音さん最高ね!」 もうちょっと静かにしていただけませんか?

「それこそさっき言ったインスピレーションよ。 それに確かあの時言ったわよね。 閃きって」

「・・・はい」 あの日の事を思い出しながら返事をした。

「山に登るようにってお陰様が琴音さんに仰ってたのよ。 それを琴音さんがちゃんとキャッチしたのよ。 だから琴音さんにとっての理由がないから訳が分からないのよ。 それにキチンと『登りなさい』 って声を聞いたじゃない?」

「聞いたって言っても 頭に聞こえたって言うか・・・響いたって言うか・・・」

「それがそうなのよ。 あの時も言ったでしょ? 会話でもないけどって、耳で聞いて口で答えるわけじゃないのよ」

「あ、そういう事ですか」

「きっとお陰様がチャクラの調整をしようとして下さったのかもしれないわよ。 山っていうのはとても良いのよ。 でもたった2回でねぇ・・・。 ずっとインドアなんでしょ?」

「はい」

「植物や土に触れたりっていう事はなかったんでしょ?」

「はい。 ずっと会社と家の往復だけで園芸もしてませんし、ついでに言うとペットも飼ってませんし、遊びに行く事も殆どなかったです。 たまに遊びに行ってもお店の中です」

「そうなの。 働き者ね」 更紗は温かい眼差しで琴音を見た。

「そんなんじゃないです。 趣味がないだけです」 そんな事を言われたことがない琴音は更紗の眼差しもあり照れながら言ったが更紗の頭はまたすぐに本題に戻った。

「うーん、でもそれだけじゃないと思うのね。 単に山に登るだけじゃなくて登ること自体にも何かあって・・・そして何よりもその山に理由があると思うの」

「登る事に何かがあったんですか? それに山に理由?」

「登った時の状況が私には分からないから何とも言えないんだけど、でもその山は何かご縁のある山だったかもしれないわね。 そこまでは私には分からないわ」

「ご縁・・・もしかしたら」

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みち  ~道~  第124回

2014年08月08日 14時27分00秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第124回



「やっぱり和尚って凄いわね」 更紗が急に和尚の話をしだした。

「和尚ですか?」

「和尚に言われたでしょ?」

「何か訳が分からない事を言われました。 それに肩凝り症だってすぐに分かったみたいだったし」

「え? 肩凝り症なの?」

「はい。 少しの事ですぐに」

「ふふふ、こんな話のときに肩凝りの話を持ってくるって琴音さんっていいわね」

「え? それって褒められたんですか?」

「褒めちゃったわよ。 知らないっていいわね」

「はい?」

「チラッと聞こえたの。 『肉眼で見えないものが見えるでしょ』 って言われたでしょ? 和尚にあんな事を言われたら下手に知ってると変に食い付いちゃうものよ。 琴音さんには下手に知ってるっていうのがないからちゃんと和尚のいう事が受け取れるはずよ。 琴音さん私が見ても・・・第六チャクラが異常に活性化してない?」

「あの、それってなんですか? そのチャクラって」

「無意識なわけね。 そうね。 ・・・少しだけなら知っておいた方がいいかもしれないわね」

「・・・」 キョトンとした顔で更紗の次の言葉を待った。

「まずチャクラって言うのは円とか回転とかって言う意味なのよ。 人間には第一から第七までのチャクラがあるのね。 勿論他にもあるんだけど大きく言うとってことね。 そこはエネルギーセンターや、エネルギーの出入り口って言われてるの。 それで琴音さんの話の第六のチャクラの位置は、よく額の真ん中や、眉間の間くらいって言われてるのね。 第三の目って聞いたことが無いかしら?」

「どこかでは聞いた事があるような・・・」

「それの事なのね。 そこが活性化するとインスピレーションが多くなったり、洞察力があったり、見えないものが見えたりするの」

「活性化ですか? 確かあの時和尚は開いてるって仰ってたような気がするんですけど」

「今はみんな開いてるって言い方をするからそれに合わせただけじゃないかしら?」

「え!? みんな知ってる話なんですか?」

「みんなって言ってもこういう系統を知ってるみんなっていう事よ。 そのみんなは第三の目を開けたがってるのよ」

「どうしてですか?」

「透視が出来たり、言ってみれば人に見えないものが見えるってやってみたい事じゃない?」

「そうですか? うかつに目も瞑れないだけなのに」

「そうやって考えられるからいいのよ。 変に興味を持って憑かれちゃったりしたら後が大変なのよ」

「つかれるって何ですか?」

「よく怖~いテレビでやってるでしょ。 霊が憑くってやつよ。 いい霊なら良いんだけどね、自縛霊とかだったらやっかいよ」

「ええ? そんな話になっちゃうんですか? ・・・あ、でも」

「なに?」

「私もそうかもしれません」

「どういうこと?」 琴音は伯母の見舞いにいったときのことを話した。

「そうなの・・・ちょっと気をつけておいたほうがいいかもしれないわよ。 憑依されやすい体質になっちゃってるかもしれないわよ」

「ええ? されやすいって・・・」

「祓う事を覚えた方がいいかもしれないわね。 でも私もそんな事は知らないし・・・何かの時に和尚に聞いておくわね。 でもとりあえず、怖がらないでいる事が大事よ。 霊といっても元は人間だったんだから。 そこに肉体があるか無いかの違いだからね」

「ええ? ・・・いざとなってそんな風に考えられるかしら・・・」 考え込んでいる琴音をよそに更紗の話は続く。

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みち  ~道~  第123回

2014年08月05日 14時51分52秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第123回



「今からは想像がつきませんね」

「そうでしょ。 真面目すぎて『正直者が馬鹿を見る』 をやってのけてたくらいの人だったのよ。 事業を起こそうとしてたんだけど、その時に色んな人に騙されてお金も何もスッテンテンにやられちゃったの。 そんな時に私のところへやってきて色々話を聞いてたんだけど・・・それがね、ずっと、何日もお話を聞いていているうちに風向きが急に変わった感じがしたのね。 だから思い切ってもう一度起業したらどうでしょうか? って言ったの。 そしたらそれが大当たりしたのね。 それで借金も返せて最初は一緒に喜んでいたんだけどね、見る見るうちにあんなタヌキになっちゃって」

「そうなんですか」

「でも 恩を忘れないって言うか あ、別に私は恩を売ってるわけじゃないのよ。 ただ、昔の恩を感じてくれていつまでもこうして連絡をくれるのね」

「はい・・・あの、でもスッテンテンにやられたのに更紗さんのところへ来て・・・その・・・」 

「なに?」

「お支払いって言うかそれは・・・」 会社でなけなしの当座から支払い業務をしている琴音には支払いに敏感になる。

「あ、私のことお金の亡者だと思ってる?」

「いえ、そんな事はないですけど でも、何をするにしてもお支払いが発生してきますよね」

「当時、お金は頂かなかったのよ」

「え? そうなんですか?」

「こういう商売って安すぎても疑われるし、高すぎると敬遠されるじゃない? だから一般的な額にはしてるのよ。 表向きはね。 でもお話をして金銭的に大変だろうなって思った方からは殆ど頂いてないの。 お安くするかタヌキの時ように頂かないかどちらかにしてるの」

「そうなんですか」

「そうよ。 亡者じゃないわよ」 更紗がおどける様に言った。

「それは思ってませんよ」 慌てて琴音も言った。

「タヌキはそれを知ってるわけじゃない? お金のない苦労を、精神的に痛手を追う心を。だから事業が当たった今は、今日もそうなんだけどあんな話だけでお支払いをしてくれるの。 それもスペシャルによ。 最初は頂いてたんだけど、もう十分以前のカウンセリング代が返ってきたときにお断りしたのね。 そうしたら 「僕と同じ境遇の方を救ってあげてください。 その足しにしてください」 って言ってくださってね、お金で苦労した分そういう所の人の痛みが分かるのよね」

「はぁー、そうなんですか。 タヌキさん見直しました」

「まっ、自慢したいのが大半でしょうけど。 それでも言ってみれば他の人に自慢すれば済むことでしょ? それをわざわざ私の都合に合わせてまでも足を運んできてくれるのには私も感謝しなくちゃいけないんだけどね・・・あんな話でしょ? 聞いているうちにこっちはキツネになっちゃうって訳」

「あ・・・それはもう言わないでください」 その言葉を聞いて更紗が笑いだした。

「あの・・・タヌキさん、この辺りの方じゃないんですか?」

「今は九州なの」

「え? 九州? 九州からここまで更紗さんに会いにですか?」

「そうなの。 忙しそうだったでしょ? あのあとまたすぐに九州にとんぼ返りなのよ。だから感謝しなきゃいけないんだけどね・・・ついでに言っておくとタヌキだけじゃなくてね、苦労していた時の恩返しだからってスペシャルに支払って帰ってくださる方が結構いるのよ。 だからうちもやっていけてるんだけどね。 あ、じゃなかったそんな話じゃなかったんだわ」 そう言って暫く考えたかと思うと

「やっぱりね」 更紗が独り言を呟くが琴音には何のことかは分からない。

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みち  ~道~  第122回

2014年08月01日 14時30分43秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第122回



「あの人ね・・・あ、やっぱり何もいわないで先に聞くわ。 とにかくどうだった? 感じたことを話してくれない?」

「感じたことですか? 特にありませんでしたよ。 海外にあっちこっち行ったりって、とにかく聞いた事のないような会話だったし・・・」

「うん、うん」 更紗が身を乗り出して聞こうとしたときワインを持ったウエイターがやって来た。

ウエイターが軽くお辞儀をし「失礼致します」 と言った言葉に「ありがとう」 と更紗が答えたがそれを聞いた琴音はウエイターに「ありがとう」 と言える更紗に共感を持てた。

ウエイターがワインの説明をしようとしたとき

「ごめんなさい。 今日は・・・」 琴音との話に一分一秒も惜しかったようだ。

ウエイターもすぐに察し「失礼致します」 とお辞儀をしその場を去った。

「ね、乾杯しましょうよ」

「はい」 

「それじゃあ、やっと琴音さんに逢えたこの日に乾杯」 

「え? 私にですか?」

「ええ、この日がどれだけ待ち遠しかったことか」

「私と会う事がですか?」

「ええそうよ。 あの時、もう一度会えることは分かっていたの。 あの時、「またね」 って言ったでしょ? でもね、その日がいつ来るかわからなくって・・・それに名前も聞いてなかったじゃない? だからちょっと不安になってたの」 その言葉を聞いて真っ赤な車の窓から手を振り、スピードを上げていった光景を思い出した。

「あ・・・あの時の「またね」 って、今日のこと・・・」

「ふふふ、そうよ。 やっと逢えたのよ。 ね、乾杯」 そう言ってグラスを持ち上げ琴音のグラスに合わせた。

更紗のことを不思議に思いながらもそれを言葉には出来ない。

一方、更紗は乾杯をし、一口飲むとすぐに

「それから? どう?」

「あ・・・吐いちゃったら 絨毯のクリーニング代はどうなるのかとか」 更紗の押しに不思議な思いも忘れ、完全に更紗のペースにはまってしまったようだ。

「吐いちゃったら?」

「はい。 なんて言っていいのしら・・・最初お部屋に入った時はイヤ~な感じって言うのかな・・・そうだわドアを入った途端、空気が重くて。 でもそれって雰囲気が重いとかって言うんじゃなくて・・・なんて言うのかな・・・ズシっとくるって言うのかしら・・・あ、更紗さんのお客さんにそんな事を言っちゃって、ゴメンなさい」

「いいの、いいの。 そんな事考えないで感じたまま言ってみて。 私だってあの時タヌキって言ったじゃない?」

「あ、うふふ、そうでした。 じゃ、率直に。 物理的にズシっときた感じがしたんです。 それで色んな話を聞いているうちに粘っこいって言うんでしょうか、そんな物が私の体に巻きついてきたような感じがしてその内に息もしにくくなって吐いちゃったらどうしようって思ったんです」

「はぁー・・・」 溜息交じりの声を出し、背もたれにもたれ空を見た更紗が少し考えて

「他には?」

「特には・・・ちょっと・・・」

「なに? なんでもいいのよ言ってみて」

「・・・更紗さんが・・・」

「うん、いいわよ言って」

「キツネに・・・見えてきました」

「キツネー? あっははは」 ついさっき空を見ていた更紗と別人の様に笑った。

「ごめんなさい。 その・・・例えた言い方であって・・・本当にそう見えたんじゃないんですけど」

「いいのよ、いいのよ。 大当たりよ。 他には?」

「特には・・・ないです」

「そう。 ・・・琴音さんの言うとおりなのよ」 ニコリと笑ってワインを一気に飲み干した。

「わ、そんな一気に飲んじゃ・・・」 

グラスをテーブルに置き今度はチーズを口にほり込んだ。 それを見ていたウエイターがワインを注ぎに来た。

「ありがとう」 そう言う更紗の言葉にまた琴音が反応した。

「クライアントのことを話すのはルール違反だけどあのタヌキ、昔はあんな風じゃなかったのよ」

「え?」

「昔はね、真摯で何もかもに精一杯向き合ってた人だったの」

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